Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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アインクラッド編
Art1:訪れた新しい世界・新たな戦い


 それで全てが終わるはずだった。月の聖杯戦争を勝ち抜いた私は、ゆっくりと目を閉じて最期の時を待つ。ああ、でも心残りといえば……常に一緒に駆け抜けてくれた。こんな私に惜しみなく愛情を向けてくれた、赤い暴君。

 彼女の笑顔を、もっと見ていたかった。――そう、考えたのが全ての間違いの始まりだったのかもしれない。

 

「何してるんだ、避けろハクノンっ!」

 

 そんな言葉で目を開くと、そこに入るのは巨大な刀を構えたこれまた巨大な犬。犬!?ちょっと待って、あれ犬じゃない。

 ってかここどこ!?

 

「だらああぁぁ!」

 

 呆然としている私とBig One Chance の間に割り込んだのは、巨大な斧を持った肌が黒めの男の人。

 何なんだここは、何、このありきたりな中世風味の鎧とか武器とか、ゲームチックな生き物!?

 

「ボス戦でボーっとするなんて、余裕ね」

 

 茫然自失って言葉がよく似合う私に声をかけてくれたのは、何て言うんだろう。フーデッド・ケープとでも言うのかな。そんな感じの物を深くかぶってはいるけど、凛とした響きの声。何だか凛を思い出す……って、駄洒落じゃないよ!?

 

「ハクノン、ここは俺が受け持つから下がれ!すぐにデカいスキルが来るぞ!」

 

 次に声をかけてきたのは黒い髪が印象的な男の子、まだ15歳くらいかな……すごく若く見える。なんて言っている暇もなく、大きなワンちゃんの刀が振り下ろされる。今までの戦いで多少培ったといっても、やっぱり私に咄嗟に動くことなんてできなくて、その一撃を受けてしまう。

 痛みはない。ただ、視界の端にあった緑色の【HP】と書かれたバーがぐっと黒くなるのが見えた。

 ああ、やっぱり此処はゲームの世界なのか。

 

「早く下がって、本当に死んじゃうわよ!」

 

 響く声。例えゲームの中だとしても、目の前に迫る死に体が竦む。

 いや、違う。この感覚は知っている。本当に死ぬんだ、【HP】がゼロになった時。

 とっさに私は、腰の剣を抜くと迫ってくる刀を受け止めようと身構える。けれどもそれは何の意味もなく、手の中にあった剣をへし折って切っ先が体に届く。

 幸か不幸か、ぎりぎりで持ちこたえてくれた私のライフは、風前の灯といっていい。

 

「それ、でも」

 

 立って、逃げる。距離を開く。すぐに他の人たちがかばう様に間に入ってくれた。

 情けない。月の聖杯戦争を戦い抜いたと言っても、所詮は【彼女】の力があってこそ。本当はあの時。最初の試練の間で死んでいて不思議ではなかった。

 色んな偶然と、色んな人に助けてもらって偶々生き延びただけの自分に、戦う力なんてない。

 

「誰か、ハクノンに武器を!予備を持ってるやつはいないか!?」

 

 怒号が響く。ああ、あの子はこんな状態でも必死に誰かのために動いている。

 それは、なんて眩しい。駆け寄ってきた金髪をツンツンと立たせた男の人が、予備の剣を貸してくれる。

 

「ジブン、いつまでボーっとしてんねん。戦う気が無いんやったら、はよ逃げんかい!」

 

 逃げる。そうだ、逃げないと。でも、どこに?

 そもそも、自分はここで逃げて良いのか。自分の命はもう残り少ない。でも、何故自分がここにいるのか。ここで逃げるだけなら、あそこで消えるはずだった私がいるのは何のために。歯を食いしばって戦い抜いた日々は何のために。私が奪った命は、何のために。

 そうだ、逃げるわけには行かない。剣を握る右手に力がこもる。

 

「逃げないよ。私も戦う」

 

 だって、私はこの場所で何もしていない。

 今だって、目の前の人たちは恐いのを必死に押し殺して戦っている。なら、ただ守られるお姫様でいて良い訳が無い。

 怖くてもいい、それでも力をこめて。人をこの手で殺したことがある自分だからこそ、守れる命は守りたい。今度こそ戦うんだ……例え、もう彼女の力を借りられなくても!

 

「――やっと繋がった。うむ、それでこそ余の奏者! 良くぞ言った、それでこそ我が剣を振るうに相応しい」

 

 瞬間、目の前に輝いた強い光と飛び出てきた文字。

【Hakunon は Servent Saberを召還しました】

 そして何より聞きたかった、懐かしい声。その声を聞いたとき、思わず視界が滲む。

 

「何を泣いておる。涙は勝利の歓喜まで取っておけ! 今一度そなたにこの言葉を送ろう。さあ、拳を握れ、顔を上げよ! 命運は尽きぬ! 何故なら、そなたの運命は今始まるのだから!」

 

 ああ、本当に。

 この日この瞬間から、私の新しい戦いの日々。そしてこのゲーム【ソードアート・オンライン】で出会った大切な人たちとの2年間は、始まる。

 以前と変わらず、赤いドレスを翻してふてぶてしく笑う、最愛の王と共に。

 




初めまして、蒼の涼風と申します。
セイバーとはくのんの組み合わせ、そしてこの二人がアインクラッドでキリト君達と一緒に過ごしているの誰かみたい!誰か書いて!な勢いと情熱と、言いだしっぺの法則やら何やらで書き始めました。
拙い部分は多々あるかと思いますが、生暖かく見守っていただければと思います。

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