Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
第11話、お送りします。
――ポキン――
そんな簡素な音とともに、アスナの愛用のウインドフルーレは光の粒子になって消えてしまった。
強化を担当したネズハという鍛冶職人は頭を地面に擦り付ける勢いで土下座すると、代金の返済に加えて消滅した武器の代わりに自分の店の商品を無償で譲ると申し出てきた。
「いや、待ってくれ! 武器強化の失敗は最悪でも強化度の減少までだったはずだ。武器が壊れるなんて聞いたことが無い……説明してくれ!」
「せ、正式サービス開始に伴って、新しく実装されたペナルティだと思います。以前にも一度同じことが……多分、確立は物凄く低いんでしょうけど。本当に申し訳ありません!」
キリト君がネズハさんに詰め寄って説明を求めてるけれど、そうだよね。ゲームシステムに関してただのプレイヤーが詳しく知っているなんてわけが無い。でも、強化に失敗したら武器がロストする可能性がある中で、これから武器強化なんてする人が居るんだろうか。
今の低層なら、探せば代わりの武器も用意できるだろうけど……これがもし20、30と階層をまして、所謂レアアイテムになったら。
私だったら、少しでもそんな可能性があるなら強化しないと思う。
「取り敢えず、宿に行こう。主武装が無くなった状態で出歩くのは危険だ」
「うむ、余も賛成だ。それにアスナにショックが大きい……今は休む方が良い」
キリト君の提案で、取り敢えず宿に向かうことにしたんだけど、その間アスナは一言も口を聞かなかった。多分、ショックが大きいのかな。ずっとボーっとしている感じだし。
「じゃあ、俺は少し用事があるから出てくる。ハクノンさんもゆっくり休んで。それと……アスナ、これは自惚れかも知れないけど、置いていったりしないから」
「……うん」
キリト君のかけた声に、多分涙を浮かべてアスナは部屋に入っていった。キリト君は怖い顔してどこかに行っちゃったし、どうしたものか。
取り敢えず、アスナに代わりの武器を用意しないといけない。けれど攻略本を見てもウインドフルーレの代替品として機能しそうな武器の情報は載っていない。
手詰まり、というやつだろうか。
「……奏者よ、何を考えておるのか分からんでもないが。武器は店で買う、モンスターが落とす以外にも入手する方法があるではないか」
「セイバー?」
必死に攻略本のページを捲っていると、セイバーがそんな風に声をかけてきた。
「うむ。そうだ。人から譲ってもらえば良い。大人数を率いている人間ならば、予備の武器の一つや二つ、あって然るべきとは思わぬか?」
そんな悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべたセイバーが言いたいことの内容に、ピンと来た。
そうだ、キバオウさん! 困ったことがあれば言って来いと言ってくれた彼なら、交渉次第で剣の一本なら譲ってくれるかもしれない。
でも、困ったことに私は彼の連絡先を知らない。多分、マロメの村か、タランまでのどこかの安全地帯で野営をしているかだと思うけど。
「さて、どうする?
「決まってる、行こう。きっとマロメに向かえばどこかで鉢合うはずだし」
本当に、いつもこの人は私を導いてくれている。普段は我侭だったり自分の楽しみだったりを優先するくせに、本当に私が困ったときにはいつも的確にアドバイスをくれるんだから。
「では、行こう奏者よ。そなたの足なら今夜中には戻ってこられるだろう」
扉越しにアスナにお休みを伝えると、私達は駆け出した。今は一縷の望みに希望を託して、マロメに向かうのだった。
「情けないところ、見せちゃったな」
わたしは暫く宿のベッドの上でぼんやりと過ごしてから、武装と衣服を解除して改めてベッドにもぐりこんだ。
人前で泣くなんていつ振りだろう……。思い出しただけでまた涙が流れそうになる。
いけない、切り替えなきゃ。悲しい出来事で萎えた心は、次の不幸を呼び寄せる。そう、早く立て直さなきゃいけない。そう思ってる矢先だった、急に部屋の扉が荒々しく開かれたのは。
暗くてよく分からないけど、息が荒い乱入者。どうしよう、怖い。
「持ってる……アイテム……全部出せ!」
荒い息の合間に告げられた言葉は、強盗。何とか追い払わなきゃといつも剣を置いている枕元に手を伸ばして絶望がわたしの体を襲った。
そうだ、剣……折れちゃったんだ。何か言ってるのが聞こえるけど、よく分からない。
「早くするんだ、アスナ!」
そこに居たのは、キリト君だった。物凄く鬼気迫る様子で、メニューウィンドウを開くように言った彼の指示に従って、よく分からない操作を繰り返すと最後に出てきたウィンドウ。表示されるYES or NOの表示。
「何か出てきた! イエスオア……」
「もちろん、イエーッス!!」
言い終わる前に叫ぶキリト君の勢いに気圧されて、そのままイエスのボタンを押してしまったのだけれど、ふと何の操作をしたのか項目を見ると表示されていたのは『コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ』なる表示だった。
「オールアイテム? オールってどこまで……」
ふと、疑問に思ったときには頭上が光りだして、わたしの持っていたポーションやブーツ、これまで裁縫スキルで作った色んな服が空中に出現し始めた。
「そりゃあ、コンプリートリィに全部。あらゆる、あまねく、なにもかも」
「あ、ああ……あああ……はわぁ!」
何て言っているキリト君の頭上には、その何と言うか。下着なんかも出てくるわけで。失礼とか言って人のアイテムを漁り始めたキリト君に殺意が沸くのも当然の話。
「ね、ねえ、キミ……もしかして死にたいの? 殺されたい人なの……?」
そんな風に自分なりに殺気と言うものを纏わせて聞いてみたものの、全くそんなこと気にしていないようにアイテムの中から一つ取り出してわたしに見せてきた。
その手には、ほんの一時間前唐突に別れることになったわたしの相棒、ウインドフルーレが握られていた。
「嘘……どうして、何なのよ、もう」
もう、戻ることが無いと思っていた相棒が唐突に帰還してまた涙が出てきた。でも……良かった。おかえりなさい。
「キー坊、アーちゃん! ハーちゃんはいるカ!?」
ウインドフルーレが帰ってきたことにホッとしているのも束の間、慌しく宿に来たのはアルゴさん。そう言えば、さっきの騒ぎの中でもハクノンさん、起きてこなかったな。
「アルゴ? いや、ハクノンならいないけど……どうした?」
「マズいナ。どうもハーちゃん、1人で町を出たみたいダ。いや、セイバーがいるから2人カ? どっちでも良いヤ。とにかく、単独で町を出てマロメに向かったらしイ。やばいぞ、もう『ブルバス・バウ』がリポップしている時間じゃないカ?」
その言葉を聴いた瞬間、わたしとキリト君は同時に駆け出した。何でそんな無茶を……!
「うそ、うそ、うそぉーっ!」
「っく、流石に余一人では手に余る。どうする、奏者!」
現在、私はマロメに向かっている道中、なのだが。
なんてこったい、フィールドボスってリポップするの!? 聞いてない、そんな話聞いてない!
現在全力で牛さんと鬼ごっこ継続中。ちくしょー、私の明日はどっちだー!
いつの間にか評価いただいているー!?
ありがとうございます、今後とも楽しんでいただけるよう精進します。
そしてお気に入りも80人もの方に登録していただき、嬉しい限りです。
それでは、また次回。