Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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こんばんは、お待たせしました。
13話完成しましたので投稿させていただきます。


Art13:愉悦の神父

 私は現在、第1層の『はじまりの街』に来ている。事の発端は私がタランの町に戻った後、ひとしきり絞られてから。

 アルゴさんが忘れていたと話してくれた内容が切欠。いわく、『はじまりの街』にある教会で、サーヴァントを連れたプレイヤーを探しているNPCが居たとか。神父風の男で、何処となく声を聞いているだけで重苦しい気分になってくるような男だったとか。

 出発の直前、キリト君に声をかけて少し出かけることを伝えた際、セイバーはセイバーで自分の趣味じゃないとか言って何か投擲系のアイテムを預けてたみたいだけど……何だったんだろう、アレ。

 ブツブツと頭の中を色んな考えが駆け回ってます。

 

「やっぱり、言峰神父のことかな……セイバー?」

「うむ、そうとしか考えられぬ。2人のランサーに加え、まずそなたと余がここに居るのだ。上位NPCであった言峰が居ても不思議ではない」

 

 やだなぁ……行きたくないな、なんて言ってられないわけで、目下移動中。そうそう、何でも町と町を繋ぐ小さな転移門があって、そこから主要都市までなら跳べるらしく、ばひゅっと跳んできました。

 前回の私の苦労って何だったんだろうね、何だか笑えてきた。

 

「ここかな。よし……おじゃましまーす」

 

 ぎいいぃぃ。なんて如何にも重々しい効果音で協会の扉が開かれた。その奥には多分、この世界の神様と……やっぱりいた。いろいろ嫌な思い出が多くて出来れば顔を見たくないヒトが。

 

「ようこそ、岸波白野。それに……ふむ、セイバーか。なるほど、こうやってイベントを起こした甲斐があったと言うものだ」

「どうも、言峰神父。月の聖杯戦争以来ですね」

 

 どこか楽しそうに話しかけてくる神父に、出来るだけ言葉に棘を込めて伝えてみるけれども、思っていた反応は返ってこずふと一度腕組みをして私を見つめてきた。

 

「月の……ああ、その時の私の記憶は既に消されてしまっている。今の私はいち協会の神父役のNPC。そうカーディナルに役割(ロール)を与えられているだけに過ぎない」

 

 なんて白々しく言ってくれる。さっき人の本名言い当てたのはどこのどいつだ、こんにゃろー。

 

「なら、サーヴァントを連れたプレイヤーを探すのは何故? 単なるお願い事?」

「いいや。本来サーヴァントなる存在……それも、英霊などと呼ばれる存在がこの世界に居るはずが無い。居ないはずのものが存在する、その論理的矛盾を解決するためにはどうすれば良いか。この世界を管理するカーディナルシステムが演算の末に導き出した答えは『初めから居なかったこと』にするか『初めから想定されていたもの』とするかの二つだ」

 

 正直、何が言いたいのか分からない。つまりなに、私たちは本来居ちゃいけないから消しちゃうか、無理やり辻褄を合わせてしまえってことかな。

 

「その演算の最中、今やこのゲームの全てを支配しているマスター、茅場明彦は後者を選択した。それ故に、サーヴァントを持つものに神託を与えると言う役割を持った私が生み出されたのだ」

 

 そう言ったきり、神父は黙り込んでしまった。なるほど、こっちから会話を返さないと続きの話は聞けないってことかな。

 こういうフラグを拾っていくようなクエストの開始はいつもアスナがやってくれていたため、ちょっと楽しい。

 

「……神託って?」

「喜べ、岸波白野。キミの願いはようやく叶う。戦争など起きない平和な世界、それはこのように万人に対して共通の脅威が存在するとき、成立するのだ」

 

 ぐらり、と。頭の奥で何かが煮え立つような感触を感じた。この男は今、何と言った。こんな世界が私の望みだと言ったか。

 

「生き物とは所詮、争わなければ生きてはいけぬ。それが人間ならば尚更だ。だが、この世界はどうだ。少々の小競り合いはあろうと、ある者は最終ボスを目指して進み、またある者はこの世界に順応し、生計を立てる。そして順応できないものは死を選んだ。だが、『戦争』で命を落とした者は一人も居ないだろう? キミが聖杯に望んだ結果だ、岸波白野」

 

 なんて、とんでもなく愉しそうに言い放つこの男、心底性根が腐っているとしか思えない。こんなものが。こんなものが、私の望んだもの?

 確かに、戦争がなくなれば良いと思った。世界中の誰もが幸せに暮らせる世界が欲しいと、思った……そこに、セイバーも居れば言うことは無いだろうと。

 けれども、願いではあっても。こんな形で成立して良いはずのものじゃない。

 

「もうひとつ、聞きたい」

「良いとも、何でも聞きたまえ」

 

 沸騰しかけた頭を冷やすように、大きく息を吸い込んで長く吐き出す。

 

「ここに居るプレイヤー。キリト君やアスナには、現実に帰る体はあるんだよね?」

「無論だ。あくまで彼らはゲームを遊ぶつもりで、この世界に踏み込んだに他ならない」

 

 それを聞いて決意は固まった。もとより、聞くまでも無いことだったのかもしれない。ただ、ほんの一抹の不安を取り除きたかった。

 彼らが、私と同じサイバーゴーストなのか否か、という話を。良かった、彼らは死んでない。

 

「ありがとう、参考になった」

「待ちたまえ」

 

 そう告げて、私は神父に背中を向けた。なのだが、バグ? それともイベントの一環なのか……言峰神父はこちらに声をかけてきた。

 

「まだ何か?」

「これから、どこへ行くつもりかな」

 

 なんだ、そんな事。思わず口元に笑みが漏れる。

 

「100層。最終ボスを倒しに行ってくる」

「最終ボスを倒せば、この世界はサーバーごとデリートされるようにプログラムされている。現実に肉体を持つ他の者ならまだしも、キミは月の聖杯戦争と同様の結末を迎えることになるぞ。言うなれば、キミという存在を保存する最後の楽園がこの世界であると言うのにか」

 

 なんだ、あるじゃない。月での記憶。ほんとにバグったんじゃないの。ちょっと運営、知らない人が聞いたら意味が分からないイベントじゃない?

 

「その程度。こんな楽園、私はいらない。なら、現実に戻るために頑張っている友達のために、前に進むだけよ」

 

 どこかおかしいのか、笑い声まで聞こえてきた。隣のセイバーはさっきから黙っているけれど、私の返事を聞いて凄く満足そう。また、付き合わせることになりそうだよ。

 

「ふむ、キミの前進する姿勢は健在、か。この後、幾たびの困難・苦難が待ち構えているだろう。その屈強な魂がいつまで保っていられるか、この協会でひっそりと愉しませてもらうとしよう」

「……いつまで保っていらるか? そんなの、決まってるじゃない……無論、消える(死ぬ)までよ」

 

 その言葉を最後に、私は協会を出て現在の最前線、タランに戻ることにした。

 

「うむ。うむ。奏者よ、良くぞ吐いた。あれだけ啖呵を切れるのであれば上出来というもの、余はそなたに惚れ直した!」

 

 帰り道。嬉しそうにはしゃぐセイバーと手を繋いで、タランで借りている宿屋へと向かっている。どうにも、このセイバーの直接的な告白に弱い。

 どうにも背中がむず痒くなってくる。でも、嫌じゃないので止めるように言ったりしない。むしろセイバーのこんな言葉、もっと言って欲しいとさえ思えてきている。

 

「ただいま。アスナ、キリトく」

『ハクノン(さん)!』

 

 おおう。帰って早々にお2人から熱いお出迎え。

 

「なあ、ハクノンさん。あいつ知っているのか?」

「さっきから同じものばかり食べて……『セイバーのマスターに伝え忘れたことがある』なんて言っているの」

 

 おおう。なんだかとっても嫌な予感。

 ふと、2人に促されて宿屋の奥に行くと、そこに居たのは真っ黒い神父服に身を包んで、一心不乱に食事をしている言峰神父!?

 その手元にあったのはラー油と唐辛子を百年間くらい煮込んで合体事故の挙句オレ外道マーボー今後トモヨロシクとでも言いそうなぐらいのとんでもない料理。

 ふと、神父の視線がこちらを向く。

 

「食うか――?」

「食うかぁぁ!」

 

 何この神父マジフリーダム。

 




あの一言を言わせたいがためだけの回……じゃないですよ!?

現状確認、伏線回収。その他もろもろ……強化詐欺事件の傍らで、はくのんがごちゃごちゃしているお話でした。
それでは、また次回。

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