Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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こんばんは、お待たせしました。第十四話です!


Art14:偵察任務

 翌日、第2層のボス攻略準備を行っていた私たちに、衝撃が走った。

 偵察に行っていたリンドさんの部隊があわや壊滅かというような打撃を受けて撤退してきたと言うのだ。なんでも、元々のボスと言うのはトーラス系……所謂牛の獣人と言うか、言うなればミノタウロスって表現がぴったりと合う種族がボスなのだが、それはあくまで種族としての話だった。けれども。

 

「確かに……確かに見たんだ! オレ、あのボスの名前表示“Berserker‐Minotauros”って!」

 

 帰ってきた人たちのうちの一人が、そう叫んだことで状況は一変した。

 

「ほう。第二ステージにして、すでにミノスの雄牛を投入してくるか」

 

 なんて、言峰神父は愉しそう……なんで居るのって言うかNPCですよね、あなた!?

 

「バーサーカーか……余は好かぬ。あやつらには優雅さと言うものが欠如しておる。うむ、全くもって余は好かぬ」

 

 なんて、セイバーはセイバーでぶつぶつ言っているし。確かに、バーサーカーと言えば力任せにこちらをなぎ払うような攻撃をしてくる印象の強い存在だが、それでも月の聖杯戦争、その終盤で戦ったバーサーカーはとんでもない器用さを見せ付けていった。

 

「本当に、“バーサーカー”なのかな?」

「戦ってみねば分からぬが……その神父も言っていたではないか。サーヴァントと言う存在を認める方向に世界が変容したと。もしそうであるならば、呼び出してくるのではないか」

 

 うへぇ、なんて思わず言葉が漏れる。それにしても、ミノタウロスか。伝説ではミノス王がポセイドンの怒りを買って、奥さんが牛に惚れる呪いを受けたとか。で、そのなんやかんやして生まれた息子がミノタウロスで、人肉食嗜好をもつ凶暴な怪物だとか何とか。

 所謂、その悪行によって後世に名前を残し英雄の誕生を担ったもの……反英雄と呼ばれる存在ではあるし、その伝説からバーサーカーのクラスに違和感はない。まあ、狂戦士と言うより凶悪な怪物ってイメージだけど。

 

「もしそれが、セイバーさんのようなサーヴァントって呼ばれる部類のモンスターなら、厄介だな。この間のランサーって奴にも、殆ど手も足も出なかった」

「だが、ガードを固めれば防ぎきれない攻撃じゃなかった。攻略の目処はあるんじゃないか」

 

 リンドさんとエギルさんが攻略方法をああでもない、こうでもないと話し合っているが、なかなか方針が決まらない。なにせ、攻略本がアテにできないのだ。偵察戦を行なおうにも、リスクが高すぎる。

 

「一度の偵察じゃ、方針が組めないな。もう一度偵察戦を行ってくれる人を募りたいんだが。キバオウさん、今度はそちらからメンバーを選出してくれないか?」

「何言うとんのやジブン、急に仕切りくさりおって。おどれが行くのが筋ちゃうんかい!」

 

 キバオウさんが怒る理由も分からなくは無い。今回リンドさんの部隊が偵察を行ったのは殆ど独断と言っても良いようなものだし、危険だと分かれば他所から出して来いなんて、一個の部隊の戦術家としては上策かもしれないけれど、レイドメンバーを纏める指揮官としてはその選択肢は上手くない。

 

「こちらは一度壊滅的な打撃を受けている。無傷のそちらの部隊が行うのが良策だと思うのだけど?」

「ジブンらが壊滅しかけたのはジブンらのせいやないか!」

 

 埒が開かない。きっと、こうなってしまっては一晩中散々罵り合った挙句大して建設的な意見も出ないまま全員で特攻、何て事態になりかねない。

 

「ハクノンさん?」

 

 ゆっくり立ち上がった私に怪訝そうに視線を向けるキリト君。アスナも同じように不思議そうに見つめてくる中、ちょっと悪戯っぽく笑うとオブジェクト化してあるボス部屋までのマップデータに手を伸ばす。

 

「待ってくれ、それをどうするつもりだ?」

「偵察戦、すれば良いんでしょ。ああ、それと……偵察するのは良いけど、別にボスを倒してしまっても構わないよね?」

「奏者よ、それは所謂死亡フラグと言うものだ」

「セイバー、このボス戦が終わったら田舎に帰って結婚しよう」

「更に立てるなと言うのだ!」

 

 がーっと怒るセイバーの頭を撫でて宥めてみる。一度言ってみたかったんだもん。いけない、いけない。にやけそうになる顔を必死に押しとどめ、いたって無表情。イメージするのは出会ったころのアスナ。

 

「女の子一人で行かせちゃぁ、男として立つ瀬がねえな。俺も付き合うぜ!」

 

 ふと、宿屋を出て行こうとする私に声をかけたのは、バンダナを額に巻いた何と言うか……野武士、みたいな印象を受ける男性だった。

 発言とか表情は一見軽い感じを装ってるけど、むむむ……何となく面倒見がよさそうな感じ。

 

「クライン!?」

 

 ふと、横に居るキリト君が驚きの声を上げる。おや、お知り合いだったんだ。

 

「キリトくんの知り合い?」

 

 アスナも同じことを考えたようで、軽く首をかしげている。一方のキリト君はどこと無く気まずそうな感じで視線をそらしている。

 

「最初の日、あのふざけたチュートリアルがある前にはじまりの街で声をかけられて、少しだけ一緒に行動したんだ。ただ、俺は……クラインを見捨てて街を出た」

「見捨てただぁ!? 違うだろうが。キリトはきちんと一緒に行こうって誘ってくれたじゃねえか。ただ、俺はダチを置いて行けねえってんで別行動になっただけだろ」

 

 ふむふむ。クラインさんから簡単に話しを聞いて見たんだけど、このゲームサービス開始日に出会って意気投合したものの、デスゲームが始まりそれぞれの事情で別行動を余儀なくされた、と。

 で、キリト君はそれを後悔してたと。その後、クラインさんは知り合いの人を引き連れて地道にレベルを上げ、1層ボス戦には間に合わなかったけど2層のボス戦の会議に顔を出す程度には成長してるらしい。やるじゃん。

 

「つーかキリの字よぅ。こんな可愛いお嬢さん方と知り合いなら、紹介ぐらいしても罰はあたらねえって」

「いや、そう言ったって……こっちは、アスナ。1層のボス攻略時からちょくちょくパーティを組んでるんだ。で、そっちがハクノン……知ってるだろ、エクストラスキル【従者使役】を手に入れた最初の一人」

 

 あ、クラインさんとそのお友達が一斉にこっち見た。残念ながら女の子は居ないみたい。ちぇ。

 

「おま……攻略組の【姫】とサーヴァント使いだと!? 何だよその豪華な面子!」

「姫だって、アスナ」

「嬉しくないわ……何だか守られてるイメージじゃない」

 

 なんて2人でやり取りしながらも、他に偵察戦に行こうって人も居ないみたいだし、ぞろぞろ連れて行ったら偵察戦の意味が無くなる。あくまで少数精鋭、必ず生きて帰れるメンバーのみで行うべきだし。そんな訳で、メンバーには私とセイバー、アスナ、キリト君、クラインさんの5人で行うことになった。……ダメージディーラー4人&役立たず1人かぁ。もう一人フリーランスに動ける人かタンクしてくれるような人が居れば良かったんだけど、無いもの強請りしてもしょうがないよね。それに、クラインさんは一緒に戦ったことが無いから実力って言うのは分からないけど、曲刀ってクセが強かった記憶があるし、それをメイン武器にしてるって凄いと思う。あと、キリト君の知り合いでボス戦に顔を出せるなら、頼りにして良いだろう。

 

「じゃあ、行きましょう。もし、ボスが本当にセイバーさんと同じような【サーヴァント】なら、それに向けた対策もしなきゃいけないし」

 

 アスナの号令で私達は迷宮区へと向かうことになったのだが、タランの町を出る直前になってふと。見覚えのあるモスグリーンのフードマントを被った人物が佇んでいた。

 アルゴさんだ……どうしたんだろう。

 

「よう、ボスの偵察戦に行くんだっテ?」

 

 フードで顔を隠したまま、どこか普段より硬い声で聞いてくる。

 

「ああ、結局は誰かがやらないといけないし。それに、明らかにベータの時と違うボスと一番に戦えるなんて願っても無いことだしな」

 

 そうキリト君が答えたのを聞いて、暫く悩んでいるような様子を見せていたアルゴさんがため息をついた。むむ?

 

「そーかイ。なら、オイラも一緒に行くヨ」

 

 なんて、言い出したのだ。え、アルゴさんって戦闘用にビルドしてないんじゃないの?

 本当に大丈夫なんだろうか。そんなことを考えていると、アルゴさんが私のほうを見てはにかんだ様な照れ笑いのような顔をして言葉を続ける。

 

「情報屋が傍にいれば便利だろ……って、建前だけどサ。この間のこともあってハーちゃんが危なっかしいって言うか心配って言うか……あーもう、とにかく行くゾ!」

 

 何て言葉を残して、ずんずんと迷宮区の方角へと歩いていってしまった。隣で何かセイバーが呆れたような拗ねたような顔で

 

()()、奏者だな。一級建築士(EX)のスキルは伊達ではないな」

 

 なんて言って来る。あれ、何か本気で睨んでます? アスナさん、貴方まで何で睨むんですか。

 ……解せぬ。

 




流石だなはくのん!
こほん。
あれ、もっと大事なことがあったような気がするんですが。
はて?(笑)

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