Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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お待たせしました、16話です。


Art16:ミノタウロスの脅威

 ボス戦との本戦は苛烈を極めていた。何せ、相手は伝説上の化け物、ミノタウロスなのだから。ミノタウロス――もしくはミーノータウロス。その真名は、アステリオス。ギリシャ神話の英雄テーセウスによって討たれた怪物。

 

「くるぞ、スキルだ!」

「任せろ、防ぎきってやる!」

 

 キリト君の声が飛び、エギルさん達の部隊が前に出てガードを固める。

 【虐殺するは7の雄】と表示されるボス専用のソードスキルが振るわれる。偵察戦じゃ手も足も出なかった技だけれど、今回はきちんと受ける人を選んでダメージを散らす。

 

「■■■■■■――!」

 

 2本目のHPバーを削りきった時、これまで防戦一方だったバーサーカーが突然吼えて地面に手に持っていた斧を叩き付けた。

 その雰囲気が爆発的に大きくなる。

 

――絶対不可侵迷宮(ミーノータウロス・ラビュリンス)――

 

 そう表示されたのは、アステリオスが生涯閉じ込められていたと言われる地下迷宮の名前。一度発動するとレイドメンバー全員が迷宮区入り口まで押し戻され、マップデータが白紙に戻るというえげつないモノだ。しかも、一度発動準備に入ると、とんでもない風圧でボスに近づけない状態になるというおまけつき。

 一度かっくらってえらい目にあった。まさか迷宮区の攻略からやり直さないといけないとか思っていなかった。けれども、ばっちり対策済み。

 

「任せてください……!」

 

 飛び出したのは、数日前知り合った鍛冶職人のNezhaさん。ネズハ、と読むだと思っていたのだけれど、本当はNezha(ナーザ)と読むとセイバーから聞いたのは、ボス攻略開始前夜にキリト君が連れてきたときだった。ナーザ……一般的には哪吒(ナタク)もしくは哪吒大使(ナタタイシ)

 西遊記や封神演義で活躍する戦いの神。それは、紛れも無く歴史に名を残す伝説の勇者(レジェンド・ブレイブ)

 

「■■■■■■――!」

 

 ナーザが投げた投擲武器のチャクラムがバーサーカーの角を捕らえて、悲鳴を上げる。偵察戦で見つけた、唯一ボスが怯む弱点。なんであんな高いところに設定してあるのかとあの時は思ったけれど、分かってみると簡単だった。

 

「怯んだっ。お願い、セイバー!」

「うむ、余はそろそろ空腹だ。今宵は盛大にステーキパーティーと行こうではないか!」

 

 先陣を切る赤いドレスと、その後に続く黒と臙脂色の二本の直線。キリト君とアスナの2人が続く。その後にキバオウさんが、リンドさんが、エギルさんが、クラインさんが。それぞれの撃てる最高のスキルを放つ。

 私も、その後に続いて思い切りメイスを振りかぶる。ソードスキルは使えないけれどもそれでも。無いよりはマシだと思いたい。

 

「セイバー、行くよ!」

「任せておけ、行くぞ……花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

 

 セイバーの一撃が止めになって、ボスのHPが消し飛んでガラスの欠片のような結晶が周囲に散りばめられた。

 倒した、第2層のフロアボスを。これで次に進める……本当に、これで。

 何だろう、ラストアタック・ボーナスって書いてある。そう言えば、ボスに止めの一撃を入れたプレイヤーは、結構ステータスの高い武器や防具がもらえるってキリト君が言っていたっけ。

 うげ、何これ。要求ステータス高すぎじゃない。えーっと、1レベル上がるごとに振り分けられるステータス値が3だから……うわ、かなり後になりそう。

 

「お疲れ様、ハクノン。これで第3層に行けるわね」

「お疲れ様、アスナ。うん、次もよろしくね」

 

 ボスを線の疲れからへたり込んでいた私に手を差し伸べてくれたアスナの手を握り返して、ゆっくりと立ち上がる。

 さて、これで一つ問題は解決。残るのは……昨夜聞いた、もう一つの問題。そっちも、もう解決しそうな感じだけど。

 

「ネズオ……ネズハは俺たちの仲間です。こいつに強化詐欺をさせていたのは俺たちだ。本当に、申し訳ありませんでした」

 

 そうやって、土下座してレイドメンバーに頭を下げているのはレジェンド・ブレイブスの面々。なんでも、クイックチェンジというスキルを使って武器を入れ替えて詐欺をしていたと言う。

 何だか、私にはよく分からない単語が飛び交っていたものの、かいつまんで話を纏めるとそんな感じ。幸い、今回の詐欺で犠牲になったのは武器だけ……と言ったら怒られるんだろうけど、これから先武器や防具は更新していかなければいけないし、ここで詐欺が止まるのならよしとすると言う流れみたい。

 

「じゃあ、俺たちは先に行こう。次の街のアクティベートを済ませてしまいたいし、ちょっとやりたいこともあるしさ。」

 

 キリト君が声をかけに来てくれたのだけれど、それと同じタイミングでフレンドメッセージが飛んできたことを知らせるアラームが鳴った。

 キリト君に一言断りを入れてからそのメッセージを開くと、アルゴさんからのもので、私に会いたいという人がいると。

 

「どうして、彼女がここに……」

 

 思わず一人漏らす。そこに書かれていた名前……【Rin】とはっきり書かれていた。

 

「奏者、もしやこれは……」

「多分、凛のことだと思う。確かに、地上に送り返したはずなのに……いや、送り返したからこそ?」

 

 キリト君とアスナが不思議そうに見ているので、一度メッセージから目を離して二人に振り向くと両手を軽く合わせて謝罪のポーズを作る。

 

「ごめん、私少し行かなきゃいけないところが出来たみたい。本隊と一緒にタランに戻るから、キリト君とアスナは先に行ってて。必ず追いつくからさ」

「そんな……!」

 

 ふと、アスナが寂しそうに言ってくれるけど、軽く首を振って笑顔を作る。

 

「キリト君が先に片付けたいって言うくらいだから、きっとお得なクエストとかだと思うよ。少しの間アルゴさんと行動することになると思うから、またすぐに会えるよ」

 

 アスナの頭を軽く撫でたあと、別れの挨拶を込めて抱きしめてみる。あ、私の後ろから殺気が。

 

「奏者よ、もう本隊はタランに戻ると言っておる。同行するなら準備をしないといけないのではないか」

 

 むーっと頬を膨らませているセイバーに苦笑いを漏らし、最後にキリト君に向き直る。

 

「キリト君、アスナのことよろしく」

「ああ、分かってる。また次のボス戦で会おう」

「次のボス戦まで邪魔するなって? ふっふっふ、頑張れ男の子」

「んな――!?」

 

 握手を交わした際に思わずキリト君の言葉尻を捕らえて遊んでしまったのはご愛嬌。本当に出発し始めた本隊の後を追いかけて戻る際、2人に手を振る。2人とも、最後まで私たちを見送ってくれた。

 

「良い友人だったな、奏者よ」

「うん。また会えるよね……きっと」

 

 セイバーと言葉を交わして、私達は進む。

 おそらく、この広いようで狭いゲームの世界。しかもお互いに上を目指すというのであれば必ず再会するだろう。

 取り敢えず、今はアルゴさんと接触して【Rin】というプレイヤーに会ってみよう。

 きっと、彼女なら私たちの力になってくれる。それに、彼女がこの世界に囚われているのだとしたら、何が起こっているのかきちんと調べないといけないと思うから。

 




……どうにも、戦闘描写って苦手かもしれないと思い始めた今日この頃です。
兎に角敵を書くのが難しい。

さて、泣き言はこれくらいにして。
ついにRinと接触。実は16話までやってきてやっと2層攻略終了と言うスローペース。なにこれ(笑)

それではまた次回。今回もお読みいただきありがとうございました。

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