Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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Art17:思わぬ再会

 タランの町に戻った私は、アルゴさんに指定された店でぼんやりと待っている。実を言うと約束の時間より少し速く来てしまって何をするでもなく、美味しいんだか不味いんだかよく分からない【ホットミルク・ビター味】なるものを飲んでいる。普通のホットミルクが良かったものの、砂糖が無いんだとか。

 ピコンとNPCの頭に【!】マークが付いているけど、攻略本を確認したら長くて面倒なクエストだって書いてあった。

 

「奏者よ、受けぬのか? 砂糖だぞ、砂糖!」

 

 なんてセイバーはわくわくした目で見てくるけど、それはまた今度。今は約束があるし、長いクエストに関わっている場合ではないし。

 

「それよりも遅いよね……何かあったのかな」

「なんだ、先に来てたんだ。なら、もう少し急いだほうが良かったかしら」

 

 セイバーに対して、待ち合わせの時間を少し過ぎているにも関わらず姿を見せない【Rin】という人物のことを話していると、不意に声がした。

 

「え?」

 

 それは、しなやかな髪をもっていて。

 

「また、あんたのことだから遅れてくるのかと思ってたわ。でも、無事に合流できて何よりかしら」

 

 ミニスカートから健康的な足を覗かせる。

 

「えっと……その」

 

 豊満な胸を揺らして、紫の髪の少女が私の前に腰を下ろした。

 

「久しぶりね、はくのん」

「えっと……なにしてるのかな」

 

 あけてびっくり、凛だと思ってきた相手は別人だった――!?

 しかも黒い衣装に教鞭みたいなものを手に持っているところを見ると、ピンときた。間違いない、この少女はかつて私達と戦った……フランシスコ・ザビ――。

 

「はい、あなたのBBちゃんです。センパイ、こんな感動的な場面でなにボケようとしてるんですか?」

「奏者よ、バレバレではないか」

 

 うぐぅ。悪ふざけするまもなくつっこまれてしまいました。

 

「ま、まだ何も言ってないのに……。」

「ふざける時や空回りする時は大体空気で分かるって言いませんでしたっけ。白いのが」

 

 そうでした、確かに言われました。ここぞと言うときの不真面目さも自重するようにいわれた気がする。うん、気のせいだな。

 

「それで……BB。いや、桜……それとも【Rin】って呼んだほうが良いのかな」

「ああ、【Rin】の名前はセンパイを呼び出すために騙っただけで、今も昔も、私は【BB】ですよ」

 

 なんて愉しそうに笑うこの子、確かにサクラ迷宮で幾度と無く苦しめられたBBだ。その実、私を助けようとしてくれていたんだけれど、ある人物に利用されていた。

 でも、初期化の波に飲み込まれて消えたんじゃないんだろうか。

 

「よく無事だったね。初期化されちゃったものと思ってたから、会えて嬉しいよ」

「センパイのためなら、いつでも駆けつけますよ。今度こそ、間違えたりもしません……」

 

 正面に座ったBBが先程までと違った、本当の笑顔を見せて頷いてくる。

 

「それで、今回どうして私を呼んだの?」

「会いたかったから、じゃいけませんか? どんな世界でも良い。唯一、私が愛している人を一目見たいと思うことはおかしいですか?」

 

 ふと、そんな視線を向けられると困ってしまう。いや、BBの好意は素直に嬉しいし月での一件も突き詰めれば私を思ってのことだと思うと、叱るつもりも無いのだけれど。

 胸の奥にズキリとくるものがある。

 

「BBの気持ちは嬉しいけど、私はそんな風に思ってもらえる人間じゃないよ。結局、BBの力にはなれなかったし……誰かに助けてもらわないと、何も出来ないもの」

「止めてください。いくらセンパイでも、私の好きな人を貶める言葉は許しません。」

 

 ふと、視線を外しそうになった私の動きが止まる。それくらい強い口調で言われた。けれども、戻した視線の先には健康管理AIとして働いていた“桜”そのものとも言えるやさしい笑顔があった。

 

「誰にも頼らずに生きていける人は居ませんよ。それに……誰かに助けてもらわなきゃいけなくても、なりふり構わず前に進むのがセンパイの強みですし、そんなセンパイが好きなんです。それは、私以外にも」

 

 言って、BBが何かを操作する動きを見せた。次の瞬間に私の目の前に飛び出してきたのはトレードの名前が書いてあった。

 

「センパイ、平行世界って信じますか。“あったかもしれない”可能性。センパイで言えば、始まりの日にセイバーじゃなくて他のサーヴァントと組む可能性だってあったんですよ。それはアーチャーだったかもしれないし、もしかしたらキャスターだったかもしれない。はたまたバーサーカーを引き当ててたセンパイが居たかも知れなかったんです」

「それ、は」

「それどころか、あの試練の間で諦めて力尽きていたかもしれない。たら、ればなんて無限にありますし、それこそムーンセルでも無ければ収集し切れません。けれど、その中でセイバーに次ぐ強い繋がりを持つサーヴァントが二体、いました」

 

 待った、待って欲しい。それは幾らなんでも突拍子も無いと言うか。私のサーヴァントはセイバー以外には考えられないのだが。

 

「もちろん、貴女自身のことは知りません。しかし、確かに“岸波白野”という人物と月の聖杯戦争を戦い抜いたという記憶を持っています。で、あるならば。自身のマスターと違っていてもその人としてのあり方、魂の形を同じくする貴女に力を貸したいと……2人のたっての希望なんですよ」

 

 こちらの考えをお見通しだとでも言わんばかりに微笑んだままのBBが、トレードとして差し出してきたのは赤い外套と、鏡のようなデザインの円形盾(バックラー)

 

「それぞれ、【オートクチュール・オブ・ソード】と【コクテンドー】です。すぐに装備できますよ。なんとBBちゃんのおまけ付き、セイバーの成長度に合わせて、それぞれ能力が上昇します。どうか、この世界の最後まで使って上げてください」

 

 真剣な目で差し出されてきた二つのアイテム。それを受け取って、メニューを開いて装備を選んでみる。

 一瞬の光に体が包まれた後、これまでブラウンを基調としていた私の服は赤い外套に包まれ、左手にはさっき見た鏡のようなバックラーに変わっていた。

 

「自らを知らぬかもしれない者のために、自身の装備を一部譲渡するか。うむ、奏者よ、そなたはなかなかサーヴァント泣かせなマスターかも知れぬ」

「あはは、でも……不思議と知らないって感覚が無いんだ。力を貸してくれることが、素直に嬉しい」

 

 どことなく、遠くを見るようなそんな表情で伝えてきたセイバーの手を握り、笑顔を作ってみる。

 というか、拗ねたようにも見えるその顔が何だか可愛くて。

 

「この二つが、私を守る守りの要なら……私の道を切り開く剣はやっぱりセイバーだよ。頼りにしてるからね」

「こ、この……! そのような顔で見るな、何だ上目遣いで首を傾げるなど、余の余裕を無くさせるつもりか。愛らしすぎるではないか!」

 

 あり。なんかへんなスイッチ入れちゃったかも。しーらない。

 

「漫才も良いんですが、あと少しだけ。正直、私は現在かなり無理してここに居ます。もう少ししたらムーンセルへ戻らないといけないかと思うので……癪ですけど」

 

 不意に立ち上がったBBは私に唐突に店の外へと向かうので、私もその後を追う。セイバーも慌てて付いてきてくれるけど、BBは軽い足取りで人通りの少ない場所へと移動する。

 

「遠坂凛が、この世界に居ます。それも、茅場明彦にとても近い場所から攻略方法を探っていると思われます。しかも……いえ、止めましょう。ここから先は、センパイが足掻いて足掻いて、答えを見つけてください。BBちゃんからの最後の意地悪、なんて」

 

 ふと、振り向いたBBの顔はどこか悲しそうで、それでも強い決意を持っていた。私はその顔を、掛け値なく美しいと感じた。その顔が近づいてきて、ゆっくりと唇が重なる。……へ!?

 

「ひとつぐらい、ご褒美をもらっても良いですよね。さようなら、センパイ。どうか忘れないで……無茶をしてでも、貴女に会いたいと思った馬鹿なAIが居たことを――」

「――桜!」

 

 強い風が吹いて、思わず目を閉じてしまった。目を開いたときにはそこにBBの姿はなく、桜の花のような、でも見たことがない綺麗な花びらが舞っていた。

 

「――奏者」

「行こう、セイバー。ぐずぐずしていられない。次のボスを倒そう」

「……うむ!」

 

 何かを言いたそうなセイバーの手をとり、私達は既に解放されているであろう転移門へと足を進める。

 忘れないよ、桜。君が残してくれた思いも、全て持ったまま。

 この歩みは止まらない。最終ボスを倒す……いいや、こんな世界を作り上げてしまった、茅場明彦なる人物と聖杯、そして自分自身にケジメをつけるまで。

 




はい、まさかのBBちゃんでしたと。

なんてこった、まいったぜ。
……何とか、他の2人も使いたいと悩みに悩んでの展開です。

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