Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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お待たせしました、18話です。


Art18:決闘

 私がソードアート・オンラインという世界に来てから、約1年の月日が流れた。その間、大きな事件は3つ。

 ひとつ、25層ごとにそれまでの基準では考えられなかったほど強大なフロアボスが待ち構えていると言うこと。これは、全100層の4分の1のポイントで遭遇しているため、通称「クォーターポイント」と呼ばれている。最初の25層攻略時に攻略組は多大な被害を受けてキバオウさん率いる【アインクラッド解放隊】が前線離脱を余儀なくされた。

 ふたつ、ヒースクリフと名乗るプレイヤーが新たなギルドを発足した。名前を【血盟騎士団】名乗り、いまではSAOで一番勢力のあるギルドとして活動している。

 みっつ、アスナが血盟騎士団からのスカウトを受けてギルドで活躍し、今や【閃光のアスナ】として、多大な人気を誇っていること。加えて、血盟騎士団の参謀長として【遠坂凛】が席を置いていた。

 そして、2024年3月6日。現在攻略階層55層。パニの町フィールドボス攻略会議の日が今日。

 

「今回、フィールドボスを町の中へと誘い込みます」

 

 純白に赤いラインの入った騎士団指定の制服を着たアスナが、その会議の指揮をとる。

 

「フィールドボスが町のNPCに気をとられている間に一気に包囲・殲滅すれば難しい敵ではありません」

 

 端的に、そう言い切った。NPCを囮にすると。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 会議中、手を上げて発言したのはキリト君。全身に黒いコートを着て、黒い片手剣を持っている。すっかり【黒のビーター】だとか【黒の剣士】って評判が付いている。

 

「NPCを囮にするってことか。馬鹿なこと言うな、彼らはただのオブジェクトじゃない!」

「生きている、とでも言うつもり? 彼らは決まった役割(ロール)をこなすだけのシステム。岩や木のようなオブジェクトと同じで、壊れてもすぐに修復されます」

 

 その言葉が、聞き捨てならなかった。たとえNPCだとしても、心を持っている存在を多く知っている。桜が、BBが、パッションリップが、メルトリリスが。どんなエゴ()の形をしていたのか、私は覚えているから。

 

「保険としてハクノンさん。あなたのセイバーの宝具を展開して、ボスの能力を80%まで引き下げられますか」

 

 これでキリト君との話は終わりだ、と言うかのようにこっちに視線を向けてきたアスナの表情はどことなく虚ろで、とてつもなく張り詰めた雰囲気をかもし出していた。無理もない、私と同じような歳でこれだけの人数の命を預かっているのだから、磨耗しないほうが不思議なほどだし。

 

「確かに今のセイバーなら劇場を開けるし、能力の低下も出来ると思う。けど、私も今回の作戦は承服できないかな」

「な――!?」

 

 信じられない、と言った顔でアスナがこっちを見ている。

 

「アスナ、そなたは間違っておる! 民を盾にするなど【騎士】を名乗る人間のすることか! 民を護ってこその【騎士】ではないのか!?」

 

 堪えきれず、セイバーも口火を開いた。自分の国の民の全てを愛した王だものね、そりゃこんな作戦承服できるはずもない。

 

「わたしは、少しでも安全に攻略を進めようと――」

「余もそれには同意する。しかしな、余は気に食わぬ。どうにも今回の作戦は気に食わんのだ」

 

 ぷい、とそっぽを向いてこれ以上話すことは無いと意思表示するセイバーに思わず苦笑いを漏らし、自分の赤い外套に手を添える。

 何故だかこの外套を身に纏っている以上、自分が恥ずかしいと感じる振る舞いはしないと、誓えるような気になってくる。

 

「おたくの参謀長さんなら、私たちが承服しないのは目に見えていただろうに。アスナ、凛に相談なく今回の作戦を決めたね」

「……リンさんは常に多忙なようでしたし、団長付きの参謀ですから」

「それでも彼女のことだし、頼られれば嫌とは言わないはずだよ」

「随分、ご存知みたいですね」

 

 むっと、アスナの表情が険しくなるのが見えた。あれ、あの表情はどっちかというと自分の作戦にケチを付けられて気を悪くしてるだとか、そんな感じじゃない気がする。何だろう。

 

「兎に角、今回の作戦に関しては団長からわたしに一任されています。納得がいかないのであれば、参加していただかなくても結構です!」

 

 暫くお互いに睨みあった後、そう言い放ったアスナの言葉に会議の雰囲気が一気に刺々しい物になる。やばいかも。とは感じるものの、私はアスナを今でも友達だと思っている。思っている以上は、きちんと伝えなきゃいけないこともある。

 

「わかった、よく分かった。お互い譲れねえってんならもうアレだろ、決闘(デュエル)で白黒つけろよ!」

 

 睨みあう私とアスナの間に赤いバンダナと戦国時代の甲冑みたいな防具を身に着けた男性が割って入る。ギルド【風林火山】のリーダー、クラインさん。

 

「決闘? 決闘で負けたら作戦を変更しろと言うんですか?」

 

 訝しげにクラインさんを見るアスナの目には、焦燥感や苛立ちと言ったネガティブな感情が見える。

 これはチャンスかも。クラインさんが折角作ってくれた機会、活用させてもらうよ。

 

「作戦を変えろとは言わない。私が負けたらアスナの作戦に従うし、参加するなと言うなら参加を見送る。ただ、私が勝ったら……二日、付き合ってもらおうかな。もちろんセイバーに手出しはさせない。正真正銘の決闘だよ」

 

 手早くシステムウィンドを操作して、アスナへと決闘申請を送る。そして武装を展開させる。【オートクチュール・オブ・ソード】【コクテンドー】そして2層でボスからドロップしたあと、最近使えるようになった片手剣【オリジンソード】を装備。このオリジンソード、剣って言うには斬るより突くって感じ出し、刀身は円柱状で三分割されてて、何かの拍子でくるくる回りそうだけど、BBが用意してくれた防具と同じように、セイバーの成長率に合わせてスペックが変動している。

 キバオウさんがこの場に居たら、『チートや、チーターや』って言いそう。

 

「あなたが、私に勝てるとでも。それもサーヴァントを使わずに、ソードスキルも使えないのに? これまで行った手合わせでも殆ど勝てなかったのに?」

「そりゃね、手合わせと決闘じゃ意味が違うもの」

 

 にやり、と笑顔を作ってみると挑発に成功したのかアスナが決闘を受け入れるために手元を動かす。

 システムメッセージに決闘が承認された旨と初撃決着のルールで行われる旨が表示されている。

 

「ここじゃ狭いよね、外に出よう」

 

 60秒間のカウントの間に、私達は作戦会議を行っていたテントの中から町の広場へと移動する。

 彼我の距離、ざっと10メートルってところ。きっとアスナなら一瞬で距離を詰めてきて私のHPを削りに来るだろう。

 それでも、やると決めたからにはこちらも負けるつもりはない。

 

「奏者、そなたの事だ。心配はせぬ、思い切りぶつかってくるが良い。余を使わぬのは、いささか不満だがな」

 

 そう言ってくれたセイバーに頷いてコクテンドーを胸の前に。オリジンソードを腰の位置に構える。

 

「さあ、始めようアスナ。最初で最後、本気の勝負を」

 

 カウントが、0になる。

 




はい、ぐぐっと進んで55層攻略会議。
アニメでアスナがフィールドボスを町に誘い込むと言っていた場面ですね。

じつはこの場面が書きたくて、2層でのやりとりを書いたといっても過言ではないくらい。
はくのんの『型月主人公らしさ』が思ったとおりに表現できてれば良いな、と思う今日この頃です。

それでは、また次回。

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