Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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お待たせしました、第19話になります。

それでは、どうぞ。


Art19:決着

「……はあぁぁぁ!」

 

 カウントが0になると同時に、アスナが光を纏って突進してくる。その切っ先は寸分違わずに私の喉を狙っている。彼女がかつて最も得意とした細剣の基本ソードスキル“リニアー”を、私はコクテンドーで受け流す。

 次の瞬間、アスナはすぐに距離を開いてもう一度リニアーの体勢に入っている。いつかのリプレイを見るかのような応酬だけど、ひとつ違うのは当時より遥かにアスナの技が重くなったこと。

 

「せあぁぁ!」

 

 息つく暇もなくもう一度突進してきたアスナの狙いは、さっきと違って今度は足を狙ってきていた。

 

「……このっ」

 

 オリジンソードで迎撃するためになぎ払うと、ソードスキルのモーション中だって言うのに体を捻って上手く避けていた。

 本当に強いなぁ。

 

「でもね、もう私にはそれは通用しないんだよ」

 

 見える、視える。アスナの動きが手に取るように。それは攻略組のトップとして皆を引っ張っていくために、誰よりも前線に立ち続けていたから。

 君が頑張っていたのは、よく知っている。だからこそ、今回の作戦は間違っているんだって伝えたい……絶対に。

 

「もっと……周りに頼れ、このバカ――!」

 

 

 

 アスナとハクノンの決闘が始まって、もう10合は打ち合っているだろうか。果敢に攻めるアスナと、それを的確に防御して反撃の隙を伺うハクノンと言う構図が出来上がっている。

 それは、一見ハクノンが一方的に押されているように見えるのだが、明らかにアスナの顔に焦燥が浮かんでいるのが見て取れる。

 

「勝負あったな。ああなっては余でも奏者に傷をつけるのは難しい」

 

 ぼそり、と呟かれた言葉に思わず振り返る。

 

「セイバーさんでも難しいって、どうして」

「キリト、そなたは奏者の強みはどこにあると思う? 余と言うサーヴァントか。一見チートにも見えるあの三つの装備か。否、そのような物は無くとも奏者は今回と同じ行動に出たであろうし、この展開も同じだ」

 

 自分の剣をぎゅっと抱きしめるかのように、胸の前で腕を組んでいるセイバーさんがハクノンさんの動きをじっと見ている。

 

「奏者の武器は今も昔も変わらぬ、その戦術眼のみ。何度も見た相手であれば、その手の内を確実に読みきる力こそ、奏者が唯一できることなのだ」

 

 うんうん、なんて頷いている。その先で、ハクノンは狙っていたと言わんばかりにアスナのレイピアを大きく跳ね上げさせた。

 

「けれど、眼があっても動きが付いていけなければ意味が無いんじゃ?」

「もっともだな。だが、奏者は自己が傷つくことを恐れぬ。何かを護る為ならば殊更その性質は頑固なものになり、これと決めたことに突き進む。そなたも覚えておるだろう、かつてアスナの剣を都合するために単独でフィールドに出たことや、誰も引き受けたがらない偵察戦を行おうとしたことを」

 

 そんな記憶は、俺にもあった。それは1年と少し前。彼女は覚えていないと言うが、“コペル”というプレイヤーを助けるために一人モンスターの群れに突撃を敢行し、見事に救いきったこと。

 俺は自分の身を護ることを優先してコペルを見捨てようとした。けれど、たまたま通りすがりだった彼女は自分が危険な目に遭うことも厭わず、その細剣を振るっていた。見ず知らずであっても、助けられるものは全て助けると言い切ったときの彼女の顔に、酷くいびつな物を感じた記憶もあった。

 

「……降参(リザイン)

 

 次の瞬間、そんな声が広場に響いた。

 

 

 

「……降参(リザイン)

 

 私がアスナの細剣を弾きあげ、その胸へとオリジンソードの切っ先を突きつけたとき、アスナは悔しそうに、そう呟いた。

 やっぱり、強かった。

 

「私の負けです。これ以上やったって私の攻撃は通らないし、素直に負けを認めます……強いのね、ハクノン」

「ううん、身を護る術に長けているってだけだよ」

 

 ちゃきん、と細剣を鞘にしまう動作さえ、どこか優雅さを感じるアスナの動きに思わず笑みが漏れる。

 さて、と。

 

「じゃあ、約束」

「二日ほど貴女に付き合うんでしたっけ……良いですけど、一体何を?」

 

 軽くため息を吐いたアスナが不思議そうに私を見て首をかしげる。え、そりゃ決まってるじゃない。

 付き合って欲しいって言っているんだから、やることって言ったらひとつしかないんじゃないかな。

 

「そうだね、まずは“リンダース”や“アルゲード”でショッピングしてまわって……そのあとは“フローリア”でのんびりしようよ」

「……どこかダンジョンに潜るんじゃないの?」

 

 ますます意味が分からないといった様子のアスナに、思わずにんまりと笑みを浮かべてしまう。

 

「まさか。付き合ってって言ったのにダンジョンに潜るなんて、どこかの黒ずくめじゃあるまいし。一緒にゆっくり過ごしたいなと思っただけ。まあ、所謂デートのお誘いだね」

『なんです――――!?』

 

 ぶはーっと、周囲のギャラリーまで一緒になって突っ込まれた。え、なに。そんなにおかしな事言いましたか、私。

 

「デートなど、余は聞いてない、聞いてないぞ奏者!」

「そもそもどうして、わたしには血盟騎士団の副団長としての業務が……!」

「……よかろう、許可しよう。アスナくん、君に二日間の休暇を与えよう」

 

 わいわいと騒がしくなる広場の雰囲気が、一気にしんと静かになった。そこに居たのは、真紅の鎧に身を包んだ30代ぐらいの男性。髪は銀色だし、どこと無く気障ったらしい雰囲気をかもし出している。けれども、その人物を知らない人間は今や攻略組にはいないだろう。

 たった一人しか獲得できないエクストラスキル、通称ユニークスキル『神聖剣』を持つ絶対無敵の壁戦士(タンク)。血盟騎士団団長【ヒースクリフ】

 

「団長、しかし……!」

「構わんさ、その二日間の間にこちらもフィールドボス攻略に必要な物資を集めておく。君の実力ならレベル上げを二日休んだところで前線から外れることも無いだろう?」

 

 まさに鶴の一声。凛も居るのかなと思ったけれど、ここには彼一人で来たみたい。未だにきちんと言葉を交わせていないのが、少し寂しい。

 

「じゃあ、ヒースクリフさん。二日ほどアスナをお借りしますね」

 

 ぺこり、と頭を下げて私はアスナの手を引いてその場を立ち去る。そうと決めた以上、アスナと思い切り楽しもう。

 セイバーには、悪いけれども拠点にしている11層のタフトの街でお留守番をお願い。お土産買ってくるからと宥めすかしておいたのだった。

 

 だからだろう、私は彼が呟いた言葉に気がついていなかった。

 

「出自がNPC故の、拒否感か」

 

 と。私がアルゴさんからその言葉を聞くのは、もう少し後のお話。

 




ロストソング、大型アップデート楽しませていただきました。
しかし、もっと長いエピソードも遊びたかったなぁ……ルクスとか、もっと色々みたいです(笑)

はい、そしてこちらでは着々とメインキャラたちが……たちが?
はくのん、どうしてそうなった。

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