Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
「敵襲、敵襲―!」
「信じられねぇ、たった4人相手に……うわあああ!!」
「何なんだよ、畜生。なんであんな大型武器で短剣や細剣より速く動けるんだ!」
「HPが……俺のHPが! 助けてくれぇ!」
洞窟内に響き渡る怒号と剣戟。
「おら、さっさとどきな!」
「奏者の道を阻むものは、余が全て切り伏せる!」
駆け抜ける赤と青の暴風。通り去った後には、何も残っていない。うわー、すげー。
阿鼻叫喚、という言葉がぴったりと当てはまるくらいラフコフのアジトはパニック起こしてます。
いや、そりゃ酷いもので先陣を切るランサーの槍とセイバーの剣、どちらも間違いなく大型両手武器なのに、素早さが売りの短剣や細剣が動くよりも先に切り伏せてるんだから、そうもなるだろうね。
「死にたくないヤツは、こっちに並びなさい! 黒鉄宮まで転送してあげる」
「それでも徹底的にやると言うのなら、私たちも容赦はしない……!」
取り敢えず警告を行ってみる。何人かは素直に両手を挙げて投降する意思を見せているけれど、やはりそんなことお構いなしに突っ込んでくるやつの方が多い。
ごめん、そう心の中で呟いて7人めのオレンジプレイヤー……いや、レッドプレイヤーのHPを全損させる。
「分かった、降参する。命だけは、命だけは助けてくれ!」
そう叫ぶ男には、純然たる恐怖が浮かび上がっていた。
……そうやって命乞いする人間を、自分たちは楽しみのために殺してきたんじゃないのか。そう思うと、助けてやる義理なんて全く無いんだけれど。
「なら、凛のところに行きなさい。生き延びて、このゲームがクリアされたとき……自分のしたことの重大さを実感すると思うよ」
手に持っていたオリジンソードを軽く地面に向かって振り下ろす。所謂時代劇なんかで見る“血振り”っていう動きを自分なりに真似したもの。
実際剣に血がつくなんてことはないし、そもそもオリジンソードは収めるべき鞘も無いんだけれど、何となく……自分の中で戦いが一区切り、という意味合いも込めていつのころからかやっていた。
「おいおいおい、良くそんなんで
不意に、甲高い声が響き渡る。
「お前ら、死ぬまで、戦え。それが、俺たちの、生き様だ」
ズタ袋のようなマスクを被った男と、髑髏のようなデザインのマスクを被った男。どちらも知っている。【ジョニー・ブラック】と【赤眼のザザ】と呼ばれる
「出てきたわね。あんたらもまとめて駆除してやるわ!」
「ひーっひっひ! 良いね、威勢が良くて」
耳障りな甲高い声、これキャラつくってんのかな。それならロールプレイって面では楽しんでるなー、なんて思わず場違いな感想を抱いてしまう。
セイバーとランサーが、無力化したラフコフ構成員を拘束しながら警戒しているのが分かっているから、口には出さないけど。
けれど、ふと一抹の不安が頭をよぎる。確か、ジョニー・ブラックと赤眼のザザは、ラフコフの幹部であり、基本的に“あいつ”と行動を共にしているはずなのだ。
「Wow……誰かと思えば、お前達か。そいつは納得だ、下っ端じゃ手がつけらんねぇはずだぜ」
「やっぱり居たんだ……
PoH……それはギルド笑う棺桶のリーダーの名前。加えて、今やこのアインクラッドであの手この手でPKをやってのける上に、性質が悪いことに他のプレイヤーをそそのかして、PKや犯罪に手を出させてその顛末を眺めるのを至上の楽しみとしている変態。
「随分機嫌が悪そうじゃない、PoH。そんなに私と凛の奇襲が意外だった?」
「そりゃそうでしょ、態々内通者を使って得た情報が無駄になったんだもの。それぐらい悔しがってもらわなきゃ」
ジョニー・ブラックとザザの後ろから現れたPoHは、ポンチョ姿とフードでその表情は読み取れなかったものの、挑発の意味も込めてそう宣言してみる。凛もにやりと口元に笑みを浮かべてる辺り、役者だと思う。
「いいや、俺は今最高に機嫌が良いぜ。なぜなら、こんな上玉が1晩で2人も俺の獲物として出てくるんだからな」
PoHがそういった次の瞬間、セイバーとランサーが同時に動いた。それぞれがそれぞれの主人の前に割って入ったのと同時に、ジョニー・ブラックとザザの剣が防がれていた。
「ちっ、やっぱサーヴァントってめんどくせぇ! ワーンダウーンできなかったじゃねえか!」
「へ、その程度止められねぇわけ無いだろうが。良いぜ、俺の相手はお前かよ?」
「赤い、剣士。貴様の剣、オレの、趣味じゃ、ない。消えろ」
「貴様の殺気に塗れた剣こそ、余の趣味ではない。どけ、奏者の前に立つのならば、容赦はせぬぞ」
ジョニー・ブラックとランサー、ザザとセイバーが睨みあう。2人ともこの狭い洞窟の中で難なく武器を振るえるだけの技量はあるけれど、私たち2人を守りながらだときっと足手まといになる。だから。
「セイバー、私のことは気にしなくて良いから。PoHは任せて、ザザに集中して」
「ランサー、こんな所で終わるなんて承知しないわよ?」
それぞれに、自分の護衛としての責務を解いて眼前の敵に集中するように伝える。凛は自分のポーチから投擲用のナイフを、私はオリジンソードを構えてPoHと睨みあう。
「おいおい、まさかサーヴァント使いのお2人さんが、サーヴァントを使わずに俺とやるってのか?」
「ぐだぐだと煩いわね、獲物を前に舌なめずりして狩る側の気分ってのを味わってるだけでしょ」
正直なところ、幾ら私と凛がパラメータ的にPoHより強いと言っても技術的な面では不安なものが多い。
けれども、そんなことは百も承知で、本来ならセイバーと2人で乗り込むはずだったんだから。今更自信が無いから戦わないなんてことは、言わない。
「さっさと降りてきなよ、ド三流。高々ゲームのプレイヤーと、本物の殺し合いを経験した人間、その格の違いを見せてあげるから」
オートクチュール・オブ・ソード、コクテンドー、オリジンソード。うん、今使える最高の装備を確認して、オリジンソードの切っ先をPoHへと向ける。
にやり、とその口元が歪んだ気がした。
それは、彼の口癖でもあり、笑う棺桶の合言葉にもなっている一言を発するためのものだと、すぐに分かる。
「ok、なら思い切り殺しあおうじゃねえか。イッツ・ショウ・タイム」
黒いポンチョと同じように、【ラフコフのPoH】を象徴するのが、短剣にしては大振りな、中華包丁のようなそのダガー。
その短剣が引き抜かれ、PoHは物凄い勢いで飛び降りて私たちに切りかかろうとしてきた。
さあ、始めよう。正真正銘の命のやり取りを。敵は、ソードアート・オンライン……いや、認めよう。岸波白野が出遭った中で、間違いなく最凶の部類に入る人間だ。
どうも、蒼の涼風です。
ここ最近の気温の変化、皆様体調には十分お気をつけください。
さて、ラフコフ戦も佳境。後一回くらいでラフコフ編終わるかな……どうかな。
それでは、また次回。