Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
私の書き物を楽しみにしてくださっていた方々、大変申し訳ございません。
第25話、投下します。
「一歩間違えたらあなたが危険な目に遭っていたんです。その自覚はあるんですか!?」
お説教なう。
いや、正直それほどのほほんとしていられはしないのだけれど。何せ、かれこれ2時間は正座をしてこうやって血盟騎士団の副団長様からありがたーいお話を聞かされているのだから。因みにセイバーはパスと言って、適当に遊んでいるとアルゲードへ繰り出してしまっている。はくじょうもの。
やれ、自分は攻略組の全体を指揮する以上、不用意な脱落者を出すつもりは無いとか。自分たちをそれほど信用できなかったのか、だとか。
そして何より気に入らないのは。
「どーして、“そっち”に居るんですかね、参謀長殿」
「あら、ラフコフ討伐に向けて士気高揚の為に早めに現地に向かったら、偶々単身で拠点に殴り込みをかけようとしているプレイヤーを発見して、なおかつ意識を失ったそのプレイヤーの安全を確保するためにアスナ副団長達が到着するまで護衛していた私に何か用事かしら?」
ふあー。なんて、アスナの後ろで暢気に大欠伸をかましてくれている凛に恨み言のひとつでも言いたかったのだが。見事にぐうの音も出ないほどへこまされた。
ことの始まりは今朝、アスナから飛ばされたインスタントメッセージ。
――本日1400、グランザムの執務室にて待つ――
たった20文字のこのメッセージが飛んできたことから始まる。
このメッセージを開いたときに、こう、全身の血の気が引く感じ。分かっていただけるとありがたい。
「兎に角、今後このような勝手な行動は慎んでください。そうでなくても、あなたやキリトくんはスタンドプレーが過ぎると攻略組の各ギルドから苦情が寄せられているんですから」
「いや、それは……はい。や、でもそういうギルド間の柵が面倒だから、私もキリト君もフリーランスやソロなわけで」
「その柵がこっちに飛んできて迷惑だって言ってるの、通じませんか?」
にっこり笑うアスナさん。怖い。
ですよねー。攻略組のなかのソロやフリーランスが好き勝手やってれば、苦情が行くのは現場で指揮を執っているアスナなのは少し考えれば分かることだけど。
「と、まあ。ここまでは血盟騎士団の副団長と言う立場上軽くお説教させてもらいましたが」
「軽く?」
「何か?」
満面のスマイル。怒ってらっしゃる。本気で怒ってらっしゃる。
あ、あそこで嬉しそうにニヤニヤ笑いながらこっちを見ている“あかいあくま”がいる。ちくせう、いつかぎゃふんと言わせてやる。
「何でもないです」
うぐぐ。何だろう。アスナ、昔は素直で可愛かったのになー。
「よろしい。では……こほん。ここからは友人として。心配したんだから、お願いだから一人で無茶しないで」
「分かった。アスナが無茶しない限り、私も無茶しない」
なんて、冗談交じりに答えてみる。本来なら不謹慎なんだろうけど、友達同士としてなら、この返答がベストのはず。
結局、何故だか分からないけど1時間のお説教追加の後に解放されました。解せぬ。
そんなこんなで、今ひとつ釈然としないまま私は61層のセルムブルグに来ている。と言うのも、移動式の鍛冶屋を営んでいる知り合いが最近はこの辺りを拠点として活動しているとアルゴさんから情報を買ったから。
「……見つけた。いい加減本拠点作ってよ。探すの面倒なんだけど」
「移動式は移動式で身軽さがウリなものでね。なに、どこであろうと私の仕事の腕は変わらんよ。今日は何か用かな、ハクノン」
私に気がついて手を止めて顔を上げたのは、上下黒の衣装でノースリーブ。エギルさんほどじゃないけど色黒だけど、どちらかと言うと東洋……というかアジア系の顔立ちで真っ白な髪の男性。
40層の攻略が終わった辺りから活動を始めたらしい鍛冶屋さん。
その強化の成功率は、ほぼ100パーセント。尚且つ砥ぎも作成も丁寧って言うので私もよく利用している。欠点と言えば少し口が悪いと言うことだろうか。
「新しい剣が手に入ったから、メインに据えようと思ってるんだけど。どう、君の意見を聞かせてくれない、名無し」
つい先日いつの間にか手に入っていた片手剣【ブレイブハート】をオブジェクト化して彼に差し出す。名無し……プレイヤーネーム【No Name】に鑑定してもらうために。
「さて、元々私は剣に関しては門外漢でね。造るのは良いが扱うのはからっきしだ。使い勝手については君が実際に経験するより他にないが……ふむ、これは面白い。モブドロップでも店売りでも、プレイヤーメイドともまた違う。あえて言うなら遺跡の奥の秘宝として設置されるタイプのものか」
剣について門外漢な人がこのゲームに来るわけないだろうというツッコミはさておいて。
やっぱり職人さんの鑑定はその武器を見極めるプロだと思う。
私じゃ、この武器ステータス高いなーぐらいしか分からない。
「きちんと強化すればおそらくこれから最終層まで現役で使えるだろう、良い剣だ。大事にすると良い」
そう言った名無しの顔は何だか保護者と言うか、一段上から私を見てる気がして。勝手にオカンの眼差しと呼んでるわけです。
「このアインクラッド攻略もいよいよ佳境。のこり30階だ。せいぜい、死なないように気をつけるんだな」
そう言葉をかけてくれた名無しは、広げていた商売道具その他もろもろをストレージに片付けるとゆっくりと立ち上がる。
「しかし、ふむ。この階層のフロアボスは所謂“サーヴァント”クラスらしい。さて、死人ゼロでと言うにはなかなか厄介だと思うがね」
「らしいね。今回フロアボスを発見した“軍”のキバオウさんから、そんな連絡が回ってたよ」
ふむ、なんて腕を組んで考えているしぐさを見せる彼の体は理想的な筋肉の付き方をしており、現実世界では何かスポーツ……それもかなりの上級者として活動してたんじゃないかな。
「こっちはDDAのリンドから連絡があった。生産職である以上前線に出るのは不本意なのだが、致し方あるまい。相手が相手だ、私も出よう。この際、二束の草鞋をこなしているエギル殿に教えを請うのも良い」
「よく言うよ、“投擲射手”のノーネーム。投擲スキルなんて趣味スキルを思う存分使いたいが為に鍛冶スキル振ってるニッチプレイヤー」
ふ、なんて肩を竦めて去っていく名無しを見送ってから、私はサーヴァントスキルを開いて、セイバーに呼びかけてみる。
ボス戦が2日後なので、それまでに出来るだけレベリングしておきたいのと……ほら、なんだか彼女と喋っていないとどこと無く落ち着かない。
居たら居たで煩わしいと思う程に構ってくれるのだけれど、今はそれが愛しくて大切だと思ってしまう自分も居る。
転移門を使って待ち合わせた70階層に行くと、彼女は既に待ってくれていた。いつものように、ふてぶてしい笑顔と一緒に。
「待ちわびたぞ奏者よ。さあ、久しぶりに余を存分に暴れさせよ!」
「うん、行こう。よろしくね、セイバー!」
ボス戦まで、残り36時間。当日の集合時間まで迷宮にもぐってセイバーを鍛えるために。
はい、25話でした。
どうにも自分の中でこの先バッドエンドしか見えてこず、非常に難産しています。
ハッピーエンド至上主義な身として、きっと皆が笑顔になる結末目指します。
それではまた次回、はくのんとセイバーにお付き合いください。