Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君   作:蒼の涼風

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お久しぶりです、蒼の涼風です。
しれっと、28話、投下させていただきます。


Art28:暗雲

 迷宮区第70層フロアボス、“バーサーカー”ベルセルクを撃破。そのニュースはあっという間に広まって、70階層を活動の拠点にする人も増えてきた。

 不思議なのはあの戦いの後、誰一人として“ノーネーム”というプレイヤーのことを覚えていないと言うことだった。

 私とセイバー以外誰一人として、あの戦いが何故勝てたのか明確には思い出せないでいるようで。

 人知れず“霊長”の絶滅を影で何とかなる所まで引っ張り上げて消える、彼らしいと言えば彼らしい居なくなり方だった。今は、ひと時のあの奇跡に感謝して、次の階層の攻略に取り組もう。

 

「やあ、ハクノン。どうだ、剣の調子は」

「何、人が良い話で纏めようとしてるときにしゃしゃり出てくるんですかね、名無しさん」

 

 じとり、といつもの様に私の剣をメンテナンスしてくれている鍛冶屋に視線を向ける。

 本当に何がどうなって他の人のログから消えたのか、定かではないのだが。いけしゃあしゃあと、74層攻略中の現在も元気に鍛冶屋を営んでいます。

 爆ぜろ名無し。

 

「さてと、今日はどうしようか。今から探索に出かけるのはちょっと面倒だなぁ」

「奏者よ、それならばこのままのんびり過ごすが良い。うむ、それがいい。」

 

 こくこくと頷くセイバーに視線を向けると、思わず笑みが漏れてくる。

 攻略組に籍を置いている以上、必要以上にのんびりするのはタブー視されているのだが、たまには羽休めも悪くない。

 

「そうだね。じゃあ、久しぶりにお休みの日。どこか景色のいい所にでも言って、お弁当でも……と、ごめんね。ちょっとメッセージが来たみたいだ」

 

 むむ、と不満そうな暴君様の頭をなでてご機嫌を取りながら、視界の端に映る便箋のアイコンに触れる。

 それは、今やアインクラッド解放軍の幹部にまでのし上がっているキバオウさんからのSOSのメールでした。

 なんでも、ここ最近は治安維持を名目に下層で活動する事が多かった《軍》だけれど、ここ数週間のうちに急激に【攻略組に復帰すべし】と言う流れが強くなっているようだ。

 私がセイバーに視線を向けると、仕方ないというような顔をしてくれたので、狂の予定は変更。

 2人で第1層【はじまりの街】に行くことになりました。

 

 

 2014年、10月17日。はじまりの街。アインクラッド解放軍、キバオウさんの私室。

 中に通してもらった私達と、机で頭を抱えているキバオウさん。

 聞いた状況は、想像以上に深刻なものだった。

 

「この情報は、本当に信じて良いんだね。キバオウさん?」

「当たり前や! 何のためにワイがここまで地盤を固めてきたと思っとる。全部はこのクソゲームから解放されるためやないか」

 

 そんな短い言葉を交わして、お互いの目をじっと見る。彼とは第1層ボス攻略戦……正しくは私がこの世界で自我を持った直後からのちょくちょくとした付き合いだけど。

 人を纏めるカリスマ性はあると思っている。血盟騎士団のヒースクリフや、アスナとは違った“親しみやすさ”というアドバンテージで。

 

「頼む、ハクノン。こんなこと頼めるのは他におらへん。コーバッツの暴走を止めてくれ」

 

 深々と下げられる頭に、拒否を示すだけのものを私は持っていない。

 ちらり、と黙って話を聞いていたセイバーを見るけれど、彼女はなにも言わずただ『奏者の心のままに』と、目で訴えかけてきている。

 

「わかりました。では、74層の迷宮を目指すコーバッツさん率いる一行の追跡と、可能であれば連れ戻すと」

「すまん、恩に着る」

 

 予定では、コーバッツさん率いる一行は既に74層の主要都市で攻略の準備を行っているらしい。

 それなら、1日……や、もう半日か。準備する時間ができる。

 

「じゃあ、これで。行こう、セイバー」

「うむ、出陣の前だ。少し体を休めて英気を養ったほうが良い。余は薔薇風呂を提案するぞ! さあ、47層だ!」

 

 あれ。もしもし?

 今までのお話を聞いていたのでしょうか、ネロさん?

 

「む? 何だその顔は。余の提案はそれほど不思議か?」

 

 こくこくと頷く私に、ぐぬぬと表情を歪めてらっしゃる。

 

「今からレベルを調整する時間は無い。かといって今以上に装備は整えようが無い。ではどうするか。答えは簡単だ。ベストコンディションで挑めるように当初の予定通り休息を挟むが良い。ただでさえ、ここの所は探索ばかりで余は飽きた。良いか、これは皇帝の勅命だ」

 

 言葉でこそ、彼女が我がままを言っているように聞こえるのだけれど、その実彼女の瞳は心配そうにこちらを見ている。

 それは、事実ここ最近迷宮探索に根を詰めすぎていた自分への配慮が全てだと言われても否定できないほどの、まっすぐな眼差しだったから。

 

「はいはい、皇帝様。直々の勅命となると仕方ないね。フローリアの薔薇風呂だっけ……お金足りるかなぁ」

「なんと!? 奏者よ、そなたまさか所持金が足りぬと言うのか!」

 

 いや、足りないわけじゃないよ。うん、一回くらい入浴するのは問題ない。

 問題ないんだよ、入浴()

 

「お、オプションはできるだけ少なめでお願いします。そうでなくても、あのバカみたいに高いお酒をガバガバ頼んで残すとかA級食材を使った料理を沢山頼むとか、そう言うのは駄目だからね」

「何を言う、皇帝の入浴に酒宴の1つもないなどと!」

 

 そんな、どうでも良いようなやり取りに呆れているキバオウさんに苦笑いとともに手を振る。

 

「それじゃあ、これで。うちのサーヴァントのご機嫌を取らないといけなくなりましたので。任せてください、何とかしてみますから」

 

 そう伝えて、キバオウさんの私室を後にする。

 何とかする、うんそうだね。どんなに大変な出来事でも、セイバーが居てくれれば何とかできる。

 

「聞いているのか奏者! やはり今夜は酒宴と余興も組み込んでもらうぞ。金は使ってこその金だ、余の為に思う存分パーッとやるのだ」

 

 ……うーん。

 47層のフローリアに到着するまでずっと、この話を聞かされないといけないかと思うと、ちょっと気が滅入るけど。

 まあ、少しくらいなら贅沢しても良いかな……なんて思ったのが大きな間違いだった。

 きっちりかっちり、10万コルは飲み食いで使ったんじゃないでしょうか。

 とほほ。

 




いや、はい。
バーサーカー戦を書き終えて燃え尽きたと言いますか。
“やりたいこと全部やった”感が半端なくてですね。

いやいや、しかしSAO、Fate/EXTELLAと新作が続く中、やっぱりやりたいこと残ってるじゃねーかと。
と言うか、これSAO本編の時間軸まで辿り着いてねーじゃねーかと。

不定期・まばらではありますがこれからもこつこつと書き進めていこうと思います。

それでは、また次回。

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