Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
はくのん6話、投稿させていただきます。
そろそろ、本格的なクロスになりそうな、ね。
「……はぁぁ!」
鋭い閃光が、一直線に私に突っ込んでくる。細剣の単発突進技“リニアー”だ。その切っ先は寸分違わずに私の喉を狙って突き出されたのを、ギリギリのところでバックラーで受け止め、受け流す。
「ふ……っ!」
頬を掠めていった時に少しHPが削られたけれど、気にすることなく右手に握ったメイスを思い切り振りぬく。狙うのはわき腹、がら空きのそこに叩き込んだ。
つもりだったのだが、振り抜いた時にはもう距離を開かれ、再度突進してくる閃光。無防備な私は腕と胸を纏めて貫かれてHPが残り4割程に減ったところで、目の前に“LOSE”の文字が飛び出してきた。
「うあぁぁ……また負けたぁ」
2人合わせて3手。殆ど勝負は一瞬で終わった。勝者、アスナ。
私達は今、アスナの素材集め兼私のレベルアップの為のモンスター狩りを終えて、宿屋で休んでいた。事の始まりは3日前。最前線のマロメの村に到着した私達は新しい攻略本を入手して、2層以降人型のモンスターが増えるに伴って、ソードスキルへの対処や人型との戦いに慣れる必要があるという話になった。
そこでアスナが、知り合いの情報屋のアルゴさんに連絡を取り、何かしら予習できる方法が無いか聞いたのが
「オレっちのお勧めは初撃決着かナ。今のところ、力試しにちょうど良いってやってる奴らも多いみたいサ。特にアーちゃん達みたいな初心者さんだと、ソードスキルの力の加減も難しいだろうしナ」
と言われ、初心者2人は素直にその助言に従っているわけです。
因みに、この3日間毎日夕食後に手合わせをしているのだけど、3戦全敗。一緒に狩りをしたり、決闘してみたりと随分アスナの動きの癖は見えるようになったんだけど、何分動きが速すぎて、昨日までは初手のリニアーを防ぐことも出来ずに負けてた体たらく。
「奏者、それにアスナ。そろそろ休まないか、余は湯浴みがしたい。それに明日はフィールドボスとか言う奴の攻略の日なのだろ? 余は今から楽しみで仕方ない」
そうなのだ、明日はいよいよフィールドボス攻略戦なのだ。もっとも、それを仕切るのは数日前に第1層のボス攻略戦で剣を貸してくれたキバオウさん率いるアインクラッド解放なんちゃらと、最後の最後キリト君に自分の恨みをぶつけていた剣士――リンドさんというらしい――彼が率いるドラゴンなんちゃらが指揮を執ると。
アスナは元々フィールドボスの攻略にはそれ程興味は無いらしく、ボス討伐まで無制限に沸く蜂型モンスター、ウインド・ワスプからドロップするウインドフルーレの強化素材が目的らしいんだけど、隣の皇帝様はボスと聞いてわくわくしています。はあ、どうなることやら。
「よ、アーちゃんにハーちゃん。今日も精が出てるネ」
明日のためにさっさと眠る準備をしようと思っていると、急にそんな声が聞こえた。それは、情報屋アルゴさんの声。
「アルゴさん。また
なんて、アスナが呆れたように声をかける。次第に目の前にぼんやりとモスグリーンのフード付き外套を纏った、悪戯好きそうな女性が現れた。すごいなー、あのスキル。新しくスキルスロットが解放されたら取ろうかな。や、でもセイバーはこそこそするの苦手だろうし無理だろうな。
「明日のフィールドボス攻略、参加するんだっテ? それで、陣中見舞いに来たんだヨ」
この独特のアクセントを持ったしゃべり方、お顔のヒゲと一緒で役作りかな? ロールプレイ、って言うんだっけ。本来ロールプレイングゲームは、卓上で役になりきって遊ぶ物だったらしいし、そう言うスタイルの人もいるのだろう。
「陣中見舞いって言うなら、あの人……どこに居るのか知ってます? 2層に上がってから全く姿を見てないんですけど」
アスナは何気なく聞いたつもりなんだろうけど、アルゴさんはにやーっとしてる。かくいう私もにやー。セイバーは腕を組んでうむうむ頷いちゃってる。
「何ですか3人とも!?」
「知りたイ? 知りたいんだネ?」
ずいずいっとアスナに距離を詰めるアルゴさん。うわー、楽しそう。私も私も。一緒になってうりうりってほっぺた突っついてみたり。
「ハクノンさんまで何で一緒になってるんですか!? というか、私はただもうフィールドボス戦なのに姿を見せないから、どこで油を売ってるのかなと」
「アスナ、それツンデレだよ」
「ツンデレじゃないです!」
もう、可愛いなぁ。多分、そんな風に見られているなんて思っても居ないんであろうアスナはどこと無く居心地悪そうに髪を弄っている。
「な・い・しょなノ。特にキー坊が、アーちゃんだけには教えるなっテ」
がーん。なんて効果音が似合いそうなくらい、あからさまにショック受けてるよアーちゃん。
そんなやり取りの横で、ふと大人しいセイバーが気になって振り向いてみると、何かに耳を済ませているような感じで目を閉じていた。
「セイバー?」
「奏者よ、耳を済ませてみよ。心地よいではないか、この槌の音」
言われて耳を済ませてみると確かに、聞こえてきたのは鉄を打つ音。カーン、カーンと、本当なら騒音とも取れるような音が、何だか耳に心地いい。
「初めてのプレイヤーによる鍛冶屋だネ。凄く腕の良い鍛冶屋らしくて、今一番人気ダ。こうやって生産職が増えていけば、きっと攻略のペースも上がるヨ」
ふと、さっきまでアスナをからかっていたアルゴさんが私達の所に来てしみじみと漏らす。そうだよね、前線で剣を振るうだけじゃない。アルゴさんのように未確認のクエストや情報を集め・公表する人や、こうやって武器を作ってくれる人が居れば。
きっと、私達は歩みを止めずに進んでいける。
「もう夜も遅い、そろそろ休もう。セイバー、アスナ」
ふと、メニューの隅っこに書かれている時刻表示を見ると22時を過ぎていた。明日の戦いのことを考えると、そろそろ体を休めたほうが良い。
アルゴさんは、これからまだ少し用事があるというので別れを告げて休むことにした。明日はボス戦。がんばろう。
同日、某所にて。
「なによ、随分楽しそうじゃない」
「明日はフィールドボス戦に参加すると言っていたヨ。まだ会いに行かないのかい? 友達なんだロ?」
「いいえ、まだその時じゃない。私は私のやり方で、攻略を進めないと。今、彼女に会うとそれだけで安心しちゃう。あの子なら何とかしてくれるって思っちゃうから、そんなの、今は心の贅肉だわ」
「彼女にそんな力があるとオレっちには見えなかったけド……まあ、信頼は人それぞれカ」
二つの影は、その会話を最後に別々の方向へと歩いて行った。
夜は、深ける。様々な人の思案、思惑を覆い隠して。
「本格的?」と思った人、挙手(*・ω・)ノ
いえいえ、次回からまたしっかり絡ませますよ、彼女を。
それではまた次回。