Fate/SAO それ行け、はくのんwith赤い暴君 作:蒼の涼風
Fate/SAO第8話、お送りします。
「アハハハ、ゴチソウダァ! 暴君ト、ソノマスター……ランサー、今度コソ食ベル!」
「善し、任せておけ妻よ!」
嵐のように振るわれる槍と、それを捌くセイバー。私は一度大きく深呼吸をして、じっとランサーの動きを見る。
見える、ランサーが次にどう仕掛けようとしてくるのか、断片的にだけれど。次の瞬間、ランサーは槍を自分のお腹に突き刺した。
「なんやあいつ、自殺しおったんか……?」
キバオウさんが漏らすその言葉に、私の背中を嫌な汗が伝う感覚が否定する。
そう、あれは決戦の日に何度も苦しめられた、粛清の儀というスキルだ。
「セイバー、戻って! スキルがくる、護りを固めて!」
「供物は天高く、飾るべし……では死ねい!」
次の瞬間、剣の世界であるこのゲームでは有り得ないことに、黒い波動がセイバーに襲い掛かる。防御を指示したのがギリギリで間に合ったから大したダメージにはならなかったけど、それでも痛い。
「エヒャヒャヒャ! ゴチソウ、イタダキマァス!」
不意に死角から聞こえてきたその声は、ランルー君のもの。しまった、セイバーの指示で一杯で、マスターへの注意を怠った。
とっさに、体を投げ出して地面を転がると、すぐ横を掠めた短剣にわずかにHPを削られる。
追撃しようとしてくるマスターのお腹を思い切り蹴り飛ばす、ダメージは通らないけれど、衝撃で吹き飛ばすくらいなら出来た。
「何なんだアイツは!? おいビーター、お前なら知ってるんじゃないのかよ!?」
そんな怒号が後ろから飛び込んでくるが、キリト君が知ってるはずが無い。と言うか、人型モンスターが増えるとは言っても、流石にゲームバランス崩壊するでしょ、この強さ。
「ハクノン、俺も……っ」
「来ないで、【ブルバス・バウ】に集中して! アレの始末、任せたよ」
右手に剣を握ったキリト君がこっちに助勢しようとしてくれたけれど、それは止めさせる。きっと、彼には目の前の2人を斬ることは出来ない。
ううん、そんな事させたくない。あくまで、遊びじゃなくなってもせめて“ゲーム”であってほしい。
こんな血生臭い戦いは、たくさんだ。そんな思いをこめて、メイスを振りぬいた。その先端はマスターの左のコメカミを捉えて、もう一度吹き飛ばす。
「愛深き故に、愛に裏切られた暴君よ! 我が槍の生贄にしてくれる!」
天高く飛び上がったランサーの槍が、一直線に落ちてくる。
「セイバー!」
「分かっておる。一度見た技、余に二度は通用せぬぞ、ヴラド三世!」
落下してくるランサーに対して、セイバーが跳び上がり体を捻る。流れるような3連撃は、的確にランサーの体を捉えてダメージを与える。
「善し、善し、善し! それでこそ、一度は我妻を葬ったマスターとそのサーヴァントよ! だがしかし、この人数を護りきるなど不可能なこと。我輩の宝具の前では尚更である!」
ぞくりと、何度目かわからない悪寒が背中を襲う。宝具、それは私達を支えてくれるサーヴァント……かつての英雄の伝説の逸話となり、伝説の存在を伝説たらしめるための物。例えば、かのアーサー王であればエクスカリバー、といった具合に。
「不義不徳の奴原共よ、無実無根の自覚はあるか!」
「いけない……皆、守りを固めて!」
次の瞬間、地面から突如として生えた無数の槍は周囲の人間全員を巻き込んで吹き飛ばした。そこに降り注いだ巨大な槍。
視界の片隅で、HPが残り少ない……と言うか、ほんとにちょっとしか残っていないのを確認する。あと、どさくさに紛れて【ブルバス・バウ】が結晶化して砕け散っていた。この状態はまずい。ムーンセルみたいな、一瞬で体力が回復できるようなアイテムがあれば良いのだけれど、生憎と少しずつ回復するポーションの類しかもっていない。
「下がれ、スイッチである!」
不意に、セイバーとランサーの間に入ってきたのは全身を重装備に固めた、タンクの人。振り下ろされたランサーの槍をその大きな盾でしのぎ切ると、にやりと口元を緩める。
「オルランドさん!」
後ろから数人の男の人が駆け寄ってくれて、セイバーの盾になってくれた。オルランド、と呼ばれたその人はちらりとセイバーを見ると、持っていた回復ポーションを投げてよこしてくれた。
「持ちこたえよ、今こそ力を見せるときぞ! 我ら
三枚の盾が、がっちりとランサーの槍の矛先を防いでくれるが、それでもダメージは通っているだろう。そう長くは保たないと思う。
実際、庇ってくれている人たちに焦りの色が見える。
「……っ、セイバー。劇場は、開ける?」
「余一人の力では難しいな、所謂レベルが足りん。だが、令呪の加護を持ってすれば、一度だけならば、あるいは」
答えるセイバーの顔には、こちらの判断を伺うような眼差しが見えた。それでもやるか、と。ならば迷う必要は無い。令呪の一画が何だ。
優先すべきは、この修羅場からの生還。それも、現在生きている人間全員での。なら、私は。私が口にするべき言葉は――。
「セイバー、令呪をもって命じる! 宝具をもってあの敵を倒しなさい!」
渾身の力をお腹に込めて、ランサーを指差す。左手には熱と、わずかばかりの痛み。視界に私の令呪が大きく表示され、その一画が黒ずんでいく演出が表示された。
「うむ、やはりそなたこそ余のマスターに相応しい。その判断、その勇気、その決意……やっぱり余は奏者が大好きだ!
うん、そんな改めて告白されなくても知ってる。なんて無粋な突っ込みはしないけど。セイバーの宣言とともに、周囲の景色が書き換えられる。それは、かつて演劇が終わるまで鍵を掛け、観客の意思で外に出られなくしたと言われる黄金の劇場。彼女の皇帝特権は、どこに居ても優先されるらしい。
「
展開された、黄金の劇場。棚引くローマ帝国の国旗。そう、これこそ私のサーヴァント、セイバーの奥の手。そして、セイバーの真の名前は。
「我が
そう、私がこれまで暴君だの皇帝様だの言っていたのは、揶揄や冗談ではなく。まさしく歴史に名を残す、偉人。
あらゆる快楽・あらゆる芸術を湯水のように楽しんだ暴君という評価の一方、ローマの大火での施政者としての手際、さらには没後も彼女が治めた国だからと、諸外国から便宜を図られることもあったという話も耳にする。
ローマ皇帝、ネロ・クラウディウスその人なのだ。
はい、宝具の撃ち合いとなりました。
何と2層での令呪消費。
いや、Fateの主人公は早々に令呪を消費するのはセオリーか(笑)
それでは、また次回。