フーと散歩   作:水霧

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「こんな無防備で大丈夫ですかね? 目をつけられるのは時間の問題ですよ」
「そういう連中がいないから心配ないんだろ?」
 ある男と“声”が訪れた村は警備どころか防壁すらない長閑で平和な村だった。心配そうに宿に泊まるが、そこで明らかになった意外な真相とは……? 七話+おまけ収録。『キノの旅』二次創作。




-空を眺めて-
はじめ:くろいそら


 黒かった空はようやく青みを帯び始めていた。

 小さな光の粒と大きく(えぐ)られた月が一緒に浮かんでいる。その月はというと、西の方へ逃げている最中だ。

 街や建物も無く、木も湖も無く、なだらかな緑の絨毯(じゅうたん)が地平線の彼方まで薄く広がっている。微風で波を作っては、さぁっ……、と音が折り重なって、やがては()ぐ。まるで海のうねりのようだった。しかし、海のような草原は朝焼けを迎えていない空を映すかのように薄暗く不気味だ。

 そこに薄汚れたテントがぽつんと浮かんでいた。

 何かが出て来た。

「……ん……」

 どうやら“人”らしく、このテントの所有者のようだ。黒の寝間着姿だった。

 所有者は一度空を見上げると、テントの入口の反対側にのそのそと歩いていく。その先には木の棒を二本突き立てて、太い縄を繋げて作った簡易式の物干し竿があった。衣類やらタオルやらがかけられている。それらをごっそりと取り込み、テントの中に放り込んだ。

 持ち主はそのままテントに入ると、

「おはようございます」

 どこからともなく“声”がした。大人びた落ち着きのある女の声だ。所有者は暗闇の中、

「おはよう……」

 挨拶を交わす。慌てる様子は無いが、声に力も無い。しかも(かす)れていた。

 上から吊されているランタンを(とも)し、ぼうっ……、と周りが(ほの)めく。先ほどまで使われていたらしい寝袋と真っ黒のリュック、二つのウェストポーチが隅っこにあった。どちらも膨れている。しかし“声”の主の姿はどこにもいなかった。

 所有者は取り込んだ服に着替えて、残りの取り込んだものと脱いだスエットを綺麗に手際よくたたむ。それをリュックに無理矢理詰め込んでいく。ぱんぱんに膨れ上がった。

 ポーチを服の中にあるジーンズのベルトに引っ掛け、リュックと寝袋を持ってテントから出た。

「早過ぎませんか? やっと日が出るところですよ?」

 改めて見回すと、大分明るみを取り戻していた。光源が草の海から顔を覗かせ始めている。その反対側の彼方に左右対称の山が(そび)え立っている。

 所有者は光源によって照らされたその山を睨み、

「……朝焼け見たいなって思って」

 今度はテントを手際良く解体していく。はめ込んだり外したりする金属音がする。

「そうですね。もしかすれば日の出が頂上に重なるかもしれません。正しく百万ドルの夜景ですね」

「……今は……朝だし、それまで待つ時間はないし……ふぁぁ……ねむ……」

 テントは解体され、まるで傘のようになった。最後にそれを寝袋に包んだ。ちょうど柄の部分は飛び出している。

「まさかとは思いますが、寝不足、」

「いくよ。寒い」

 “声”を遮って、足早にその場をあとにした。

 

 

 




空は澄んでいる。あなたの心を透かすくらいに……。


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