「そういう連中がいないから心配ないんだろ?」
ある男と“声”が訪れた村は警備どころか防壁すらない長閑で平和な村だった。心配そうに宿に泊まるが、そこで明らかになった意外な真相とは……? 七話+おまけ収録。『キノの旅』二次創作。
はじめ:くろいそら
黒かった空はようやく青みを帯び始めていた。
小さな光の粒と大きく
街や建物も無く、木も湖も無く、なだらかな緑の
そこに薄汚れたテントがぽつんと浮かんでいた。
何かが出て来た。
「……ん……」
どうやら“人”らしく、このテントの所有者のようだ。黒の寝間着姿だった。
所有者は一度空を見上げると、テントの入口の反対側にのそのそと歩いていく。その先には木の棒を二本突き立てて、太い縄を繋げて作った簡易式の物干し竿があった。衣類やらタオルやらがかけられている。それらをごっそりと取り込み、テントの中に放り込んだ。
持ち主はそのままテントに入ると、
「おはようございます」
どこからともなく“声”がした。大人びた落ち着きのある女の声だ。所有者は暗闇の中、
「おはよう……」
挨拶を交わす。慌てる様子は無いが、声に力も無い。しかも
上から吊されているランタンを
所有者は取り込んだ服に着替えて、残りの取り込んだものと脱いだスエットを綺麗に手際よくたたむ。それをリュックに無理矢理詰め込んでいく。ぱんぱんに膨れ上がった。
ポーチを服の中にあるジーンズのベルトに引っ掛け、リュックと寝袋を持ってテントから出た。
「早過ぎませんか? やっと日が出るところですよ?」
改めて見回すと、大分明るみを取り戻していた。光源が草の海から顔を覗かせ始めている。その反対側の彼方に左右対称の山が
所有者は光源によって照らされたその山を睨み、
「……朝焼け見たいなって思って」
今度はテントを手際良く解体していく。はめ込んだり外したりする金属音がする。
「そうですね。もしかすれば日の出が頂上に重なるかもしれません。正しく百万ドルの夜景ですね」
「……今は……朝だし、それまで待つ時間はないし……ふぁぁ……ねむ……」
テントは解体され、まるで傘のようになった。最後にそれを寝袋に包んだ。ちょうど柄の部分は飛び出している。
「まさかとは思いますが、寝不足、」
「いくよ。寒い」
“声”を遮って、足早にその場をあとにした。
空は澄んでいる。あなたの心を透かすくらいに……。