[海が見えるレストラン、どうぞご覧あれ]
そんな看板が立てられていたのは
レストランはというと、木々の日傘を受けることなく、ひっそりと
入り口へ続く階段を登って中に入ると、
「……美味しいなぁ……」
唯一のお客である青年が一人座って食べていた。
中もそんなに広くない。入ってすぐ右手にカウンターがあり、左手がお手洗いになっていて、一番奥にある窓に二人席が三つあるだけだ。ただ、窓の奥には先ほどの海が迫ってくるように広がっている。
青年はその三つのうち、真ん中の席に座っていた。フード付きのだぼだぼの黒いセーターにぴっしりとした黒いジーンズ、履きならした黒いスニーカーという格好だ。向い席に黒いリュックサックとポーチ二つがいる。
「うんうん……」
テーブルにはミートスパゲティとコップがあり、最後の一口を、
「ん」
青年が静かに味わった。
口まわりを
「ふぅ……」
そして再び口を
「美味しかったですか?」
青年に話しかける“声”。若くて
「こんな絶景で食べるランチは……うん……最高、だよ」
特に違和感なく話し続ける青年。
そこへ、ウェイトレスの格好をした女がせかせかやってきた。
「いかがでしたか?」
「こんな絶景で食べるランチは最高だよ」
「ありがとうございます」
“可愛い声だな”、と青年は漏らした。
その女は可愛らしくお礼を言うと、速やかに食器を運んでいった。
「鼻の下を伸ばしていますね、ダメ男?」
“声”が“ダメ男”と呼ぶ青年は、外を眺めた。
「フーにも見せてやるよ」
そう言って首飾りを外してテーブルに置いた。水色の四角い
「素敵ですね」
蝶番“フー”は味気なく呟いた。
「不満?」
「いえ、あまりにも綺麗な景色で驚いてしまいました」
「驚いてるように聞こえないんだけど」
「すみませんね、可愛くなくて」
「あぁ……ヤキモチやいてんのか」
「ち、違います」
にやにやとダメ男はフーを見ている。
「それで、もちろんこの風景残すよな?」
「ぜひお願いします」
ダメ男はフーを開いて、ボタンをかちかち押していく。そして、
「はい、チーズ」
パシャリ、とカメラのシャッター音を鳴らした。
「お客様!」
先ほどのウェイトレスが血相変えてやってきた。
「当店での撮影は禁止されております!」
「え?」
「今すぐに退出するか、写真を消去してください!」
「どうする? フー?」
「退出しましょうか」
「……申し訳なかった。すぐに出るよ」
ダメ男は代金を置いて、そそくさとレストランを後にした。
「ダメ男、すみませんでした」
「気にするなよ。……にしても、店自慢の絶景なら写真撮ったっていいと思うんだけどな」
「もしかして、隠れ家的なレストランではないでしょうか? あまり有名になりたくない店もあるらしいですし」
「誰かに紹介するわけじゃないのになぁ……」
「とにかく、謝罪はすべきだと思います」
「フーのせいだとは言わないけど、なんか納得いかない」
「一緒に謝罪してあげますから、ほら、あと少しで着きますよ」
「わかって、……! あれ?」
「変ですね。先ほどまでは営業していたのに、もう閉店しています」
「まだ、出て行ってから十二分も経ってないぞ」
「妙ですね。何かあるのでしょうか」
「あ、キミキミー」
「……あんたは?」
「私はここら辺を取り締まっている者だ。もしかして、この空き家に何かあったのか?」
「はい。“海が見えるレストラン”として、ここに看板が立てられていました」
「! こ、声っ?」
「今の声はこいつ、相棒のフー」
「どうもこんにちは」
「どうもどうも」
「それで、レストランについて何か知ってるの?」
「空き家については知らないが、悪行については知っている」
「悪行?」
「最近、主に食材を取り扱う店で多発しているんだが、客にイタズラする輩がいてな。何かと決まって店から追い出して、あっという間に跡形もなく失踪するんだが、捕まらなくて……」
「そうですか。しかも被害が出ているのですね?」
「あぁ……超強力な下剤を食材や料理に盛るという、何とも卑劣なイタズラだ」
「……」
「ダメ男? どうしましたか? やけに汗をかいていますよ?」
「……お世辞で美味しいって言ったんだけど、ここのスパゲティ……な~んか変な味がするなって……」
「ま、まさか、ダメ男、」
「効力はきっかり十五分という……どんな下剤だよって最初は笑ってたんだけど……、脱水症状で死亡者も出てしまってね……」
「あ、あと一分です、ダメ男!」
「なにいぃぃぃっ? ち、近くにと、トイレはっ?」
「急ごう! トイレはこの山を下るしかない! どんなに頑張っても……五分はかか、」
「ノオオオォオォォォォォォッ!」
「おじ様! 救護隊を要請してください! 大量のスポーツドリンクとトイレットペーパーも一緒にお願いします!」
「分かった! ……おい! 被害者が出た! 急いでこっちに来い!」
「ば、ばか、フー! お前、ここでしろってのかあぁぁっ!」
「それしかありません! 荷物を置いて紙と飲み物を持って木陰へ行くのです!」
「お、オレのプライドが許さんっ!」
「そんなものは、あ! あ、あと十、九、八、」
「くそおおぉぉぉぉ! やればいいんだろ、やれば! うぐっ?」
「だ、ダメ男! 急いで、」
「あ」