フーと散歩   作:水霧

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「あっ、懐かしい曲……」
「懐かしい?」
 爪弾(つまび)かれる繊細で美しい音色。街中に響き渡っていた。耳にしたある男はどことなく懐かしむ。お人好しな男と辛辣(しんらつ)な“声”が送る変わった世界の短編物語、七話+おまけ収録。『キノの旅』二次創作。





-大地を感じて-
はじめ:きいろのだいち


 砂塵荒れ狂い、太陽が霞み、汗が湧き出るほどの猛烈な暑さが、この砂漠一帯に閉じ込められています。とても人が生活できなそうなところ、村がありました。

 そこはとても貧しい所でした。崩壊した家が道の両側に一直線に立ち並んでいます。その道は砂に埋もれていて、村を素通りできるようになっています。

 崩れ散って中が見えている家に項垂(うなだ)れた男や、薄汚い布切れを(まと)った肌黒の女、道端に寝っ転がっている少年など、人々は貧相です。骨身が露になっています。

 そこに数人、足を踏み入れました。一人は全身黒尽くめで大きい荷物を肩に抱えています。どしゃりと砂を踏み、見た目以上に重量感がありそうです。

「ひどいな」

 二人目は砂の混じった唾を吐き捨てました。男のようです。

「助けましょ? 苦しそうだし」

 三人目は女でした。

 ある男は、

「無理」

 平然と断りました。

「そんな義務はない」

「で、でも、」

「第一、ここの村人全員を助けられるほどの余裕はないんだ。オレだって死にたくはないんだよ」

「……どうにかならないの?」

「どうにもならないな。言い方は悪いけど、見捨てるしかない」

「……」

 男は女を説き伏せ、そのまま歩き出しました。すると、

「!」

 真正面から子供二人がぶつかってきました。男が振り向くと二人は軽く頭を下げて、走り去りました。二人は二人三脚しているかのように、肩を組み合っています。仲良くマントを着ていました。

「なんだ、元気な子供もいるじゃん。子供は風の子元気の子だな」

「といっても、盗っ人がうろついてそうな所では遊びたくないものだけど」

 男はにこりと笑って、子供二人と反対方向に再び歩き出しました。

「……?」

 しかし、すぐに立ち止まりました。

「……ふぅ……?」

「どうした?」

 溜め息をついたように、自分の胸に呼びかけます。反応がないようで、中を探ると、

「……」

 固まりました。

「盗まれた!」

「なっなにぃっ?」

「まさか、今の子たちが……?」

「私が行こう。二人は周囲を警戒しててくれ。依頼品がパクられたんじゃ話にならないし」

 男は急いで二人を追いかけます。砂をずさずさ蹴り上げ、全力で走ります。

 一方の二ゆっくり歩き出しました。

「かなり手癖が悪いようねえ」

「こんな所じゃ仕方ない。そうでもしないと生きていけないんだろう」

「へぇ〜、寛容なんだ」

「さぁね」

 その途中にあった物置の中に、様々な物が保管されています。大量の本が詰め込まれた本棚や真新しい食器棚、オブジェだったり銅像だったり、楽器など、芸術的な物が特に多いようです。

「ぎゃあぁぁ……!」

「……! 悲鳴?」

「あんたはここで待機しててくれ。オレが行く」

「あっあいつは?」

「……とりあえず見てくる」

 銅像の首元に、何かが飾られています。水色の四角い物体で、紐を通して首にかけられています。

 それを一瞥(いちべつ)して、男は悲鳴のした方へ走り出しました。

「まったく、気が緩みすぎですね」

 その物体から“声”が出ていました。冷淡で気品のある女の声です。

「しゃ、しゃべった!」

 女は四角い物体をつんつんしてみたりしますが、

「爆発しませんから安心してください」

 埃っぽい物置に放置される四角い物体はその後も女に愚痴をこぼしていました。

 

 

 数十分後、男が帰ってきました。男は、

「どうだった?」

 男はナイフを出し、リュックから取り出したタオルで拭います。べっとりと赤く汚れました。

「まさか、殺したの?」

「オレも殺されそうになった。仕方がなかったんだ」

「……」

 颯爽と、ぶちり、と四角い物体の紐を引きちぎり、物置を後にします。

「どうして手にかけたんですかっ!」

「……」

 女はまた驚きました。一方の男は淡々と作業を続けます。

「私を回収して立ち去ればいい話じゃないですか! なのになぜそこまでする必要があるんですかっ? この悪魔! 人でなし! 殺人鬼! シリアルキラー!」

「……なんとでも言えよ」

「反省すらしていないのですかっ!」

「……」

 男は無表情です。

「まっまぁ二人とも……とにかく、任務に戻ろうよ」

「……」

 女たちが歩き去っていくのを、

「……」

 一人の別の女が見送っていました。

 

 

 




大地は繋がっている。あなたの足を留めまいと……。


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