フーと散歩   作:水霧

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おまけ

 とても柔らかい陽気に包まれていた。青空に雲が薄く浮かんでいて、陽の光が溶け込んでいた。

 山の中。緑が広がり、木々が疎らに散在している。どことなく湿気が多い。周りを見ると、雪氷が溶けかかり、山肌を濡らしていた。

 そこに二人の旅人が歩いてきた。一人は男。黒い長袖シャツに下半身を覆う甲冑を着ており、腰に刀を携えている。巨大な迷彩リュックをにこやかに背負っていた。見た目は優しく物腰が柔らかそうだ。

 もう一人は、

「大丈夫ですか?」

 女。見た目はとても厳しそうだ。きりりとしていて、辺りを睨むように見回している。

「……うん」

 しかし、口調は、

「だいじょうぶだよ」

 子供らしかった。

 女は黒のタンクトップに赤紫のへたったジャケットを羽織り、水色のタイトパンツを履いている。茶色のショルダーバッグを肩に掛けている。

 女が男を案内するように歩いていた。

「確かここではなかったような気がするんですけどねぇ」

「おねえちゃんがまちがえるはずないでしょ?」

「……その自信はどこから出てくるんでしょうねぇ……」

 とても不安そうに、男は女に付いていった。

 約半時後、

「……」

 目的の場所に着いていないようだった。

「あれ? おかしいな……」

「あの、私が案内しましょうか? ぼんやりと覚えていますし」

「うるさーい! おねえちゃんにまかせるのー!」

 男を弱々しくぽかぽか叩く。

「分かりましたから、そんなに暴れないでください」

 呆れてため息しか出ていない。しかし、男の表情は晴れやかだった。

 さらに数時間歩くと、

「!」

 見覚えのあるものをようやく見付けた。

「これでしたね」

 金属の柵。金属柱が列に二本ずつ地面に突き刺さり、その組み合わせが左右に定間隔で伸びている。その金属柱をいじってみるが、地中深く刺さっているようでびくともしない。

 二人はそこを通り、もう数十分歩いて行く。……見付けた。

「やっとですか」

 古風な家があった。出っ張るようにガラスの貼られた引き戸があり、玄関と思われる。その左側は縁側が通っていて、ガラス窓が閉まっていた。奥は障子で部屋が仕切られている。家の外壁は露出した柱に木材を当てている。

「どんなもんだい!」

「……すごいですね」

 苦味を極限に薄めた笑顔を浮かべた。

 家の中に入ると、石材で作った水回りや台所が右手側に。奥は掃除用具やら謎の木工品やらが置いてある。左手側に居間へ上がれる縁側があり、障子が閉められている。

 その障子を開けるが、誰もいない。床が焦げ茶色の木で、真ん中に囲炉裏が置かれている。さらに奥は一部屋あるようで、やはり障子が仕切っていた。

 二人は囲炉裏の部屋に上がることにした。仕方なく荷物を脇に置いて、一休みする。ディンは甲冑を脱いだ。下は紺青色のパンツを履いている。

「確か彼は山の捜索隊でしたよね」

「しらなーい」

「そ、そうですか。とりあえず待ちましょうか」

 

 

 数時間してもその人物が現れることはなかった。そんな訳で、

「寒くないですか」

「さむくないけどつまんなーい! もういこうよー!」

 女がぐずり始めた。

「お世話になったわけですし、“ナナ”さんもあの料理を、」

「ナナ“おねえちゃん”っ」

 ずいっと男に迫る。

「……ナナ“おねえちゃん”も食べたがっていたでしょう?」

「それでもやだー! つまんないっ」

「……」

 さすがに苦笑いを隠せなかった。

 女、“ナナ”はちょこんと男の膝に乗った。

「お、重いです……」

「さいてー。おんなのこにそういうこといっちゃだめなんだよ?」

「そ、そんなに暴れると!」

 ぐらりと男と一緒に後ろに倒れてしまった。

「……いててて……もう“ディン”! ちゃんとし、……!」

「あたた……」

 後頭部を強打したようで、そこを擦っている。

 ナナの目下に男“ディン”がいた。つまり、押し倒している体勢になっている。

「ナナさん、大丈夫ですか?」

 何事もない様子でナナに話し掛けた。

「……」

 じっとナナが見つめている。

「どうしました? ほら、ちょっとどいてください」

「……」

 ディンが押し退けようとしても、退かない。

「ねえ」

「はい」

「……」

 ナナが両手でディンの頬に触れる。

「な、ナナさん、なにをして、」

「ディン……」

 頬が赤みがかっている。そのまま顔が近づき、くちびるが……、

「何してるんだい、あんたら?」

「!」

 ナナがびっくりして振り返ると、

「お、久しぶりだなあ!」

 登山の服装をした男がいた。

「まさか、こんな時間帯でこんなところで盛り上がるとは思わなかった」

「あ、いや、そういうわけじ、ぶっ」

 びちん、と挟むように顔を叩くと、ナナはトタトタと奥の部屋へと行ってしまった。

「すみません。ちょっとした事故というか」

「いいよ。むしろ邪魔しちゃって悪かったな」

「いやいや。あ、申し遅れました。私はディンと言います。確か“ヤマ”さんでしたよね」

「ああ。覚えててくれたんか。嬉しいなあ」

「覚えるも何も、大分お世話になったので、お礼を言いに来たんですよ」

「!」

 登山の男“ヤマ”は荷物を下ろした。

「ってことは、例の復讐は……」

「はい。終わりました」

「……その話、詳しく聞かせてくれ」

「えぇ。今のナナさんでは話せないでしょうから」

「?」

 

 

 ちょうどお昼時ということもあり、ヤマは“例の料理”でもてなすことにした。それを食べながら、ディンは当時の事を話していく。

「……すぅ……すぅ……」

 ナナは既に食べ終えたようで、ディンの太ももで寝息を立てている。

 囲炉裏を挟むようにディンとヤマは座っていた。囲炉裏では火が起こされ、天井から吊るした鎖に鍋を引っ掛けている。その鍋からはぐつぐつと湯気を立てていた。

 うん、とディンが(うな)る。

「……これ、本当に美味しいですね」

「そんなに? ナナさんもそう言ってくれたけどよ」

「これはもう料理屋さんを開いた方がいいくらいですよ」

「はは。俺の仲間と同じこと言ってる」

 ヤマは笑った。

「……で、そういうことがあったんか。結局……」

「はい。(かたき)は殺しませんでした」

「前会った時は何が何でもって感じだったのに、何かあったんか?」

「分かりませんけど、当時私も復讐を果たしたとばかり思っていました。銃声も聞こえましたし。……私は外で見張りをしていたので、実際に目にしたわけじゃなくて……」

「……」

 ずず、と食べる。

「良心の呵責とか追い目とか、そういう感情ではないとは思うんですが、今となっては……」

「心が壊れたんじゃ、余計に話せないわな」

「えぇ。……すみません。本当はナナさんとお話ししたかっただろうに」

 ナナの頭をそっと撫でる。

「あ、そんな意味で言ったんじゃないぜ。なんつーかその……言葉が見つかんないんだけど。……でも、どうしてそれを俺に?」

「お世話になったからというのもありますが……久しぶりだからです」

 ディンは微笑んで、食べる。

「久しぶり?」

「彼女がまともに他人と会話をするのが」

 

 

「……」

 視界の多くを埋める黒。その端っこに丸みがあった。そしてその黒とは別に黒光りしているフレーム。

 一撃で全てを奪う……銃口。重心を短く切り詰めた二つの銃身に木で拵えた銃把(じゅうは)。それらが緩い曲線を描いて構成される。通称“ソウドオフ・ショットガン”。見た目は小さく二発しか装填できないが、接近戦ではその携帯性からは考えられない威力を発揮する。

 そんな危ない代物を女が握っていた。冷静さを装っているが息が荒く、心中穏やかではなさそうだ。

 目の前にはベッドで仰向けになっている男。それも左肩が銃撃で引き千切られ、その激痛で何もかもを流している男。ほぼ接射したためか、左肩の部分には床まで突き抜けた穴が空いている。

 その男の目先に銃口が向けられている。

 きき……と指に力が込められていくにつれ、女の表情から温度が抜けていく。ぐっ、

「!」

 かちん。……不発だった。

 何食わぬ顔で懐からショットガン・シェルを取り出し、入れ直す。空薬莢はきちんと回収する。

「……」

 そして再び向けた。

「……ふぅ……ふぅ……」

 男に意識はほとんどない。譫言(うわごと)のように、息をついていた。それが何を意味しているのか、既に女は察している。

 ちらりと“ショットガンから”視線を外した。男の傍らにある謎の物体。水色の四角い物体だが、中身をいじったようで分解されている。

「……ごめん……ふぅ……」

 ふる、女のショットガンが揺れる。ぎり、と歯軋り。無表情が崩れ、苦渋の面持ちになっている。

 それでも女は無理矢理、引き金を、

「待ちな」

「!」

 振り向くと同時に、声のする方へショットガンを向ける。

「……!」

 女は驚愕した。

「……外に見張りがいたはずだが……」

 ぼそり、と呟くように話し掛ける。

「裏口なんていくらでもあるんだぜ、お嬢さん」

 黒い男はにたりと笑う。

「何の用だ?」

「……」

 ぽりぽり、と頭を掻く。

「その弾……買い取らせてくれないかな?」

「……買い取る?」

「あぁ。それもお嬢さんが持ってる弾の数だけ」

「……それはつまり、この男を殺すな、ということか?」

「いんや、そうは言ってない。ただ、買い取りたい、と言ってるだけだ」

「では、仮にナイフで突き殺しても文句はないということだな」

「……それができれば、な」

「!」

 黒い男は首を解すように回す。

「……どうして助けようとする?」

「だから、助けようってことじゃないんだって。これを見ないとなっとく、」

「!」

 黒い男が懐に、

「動くな」

 入れるのを咎める。

「なら、お嬢さんが確かめてくれ。服の中にある」

「……」

 女は躊躇っていた。身体検査をしようものなら、たちまち戦闘になることは避けられないだろう。しかし、それよりも不審感不安感の方が(まさ)っていた。

 しっかりと目標を定めつつ、黒い男の方へ近づく。

「安心しな。変なことはしないからさ」

「……」

 追い込んでいるはずなのに、とてもそんな気分になれない。女は重圧感をひしひしと感じていた。

 ごそり、と黒い男の言う服の中を調べる。そして、何かを探り当てた。取り出すと、

「!」

 ショットガン。それも女の持つタイプと全く同型のものだった。中も調べるが、空だ。

「……」

 危なかった。女はなぜかそう思わずにはいられなかった。

「奴を助けるのではなく、私を殺すのが目的だったのか」

「どっちも違う」

「?」

「……お嬢さん、あんたを試してるんだ」

「……は?」

 黒い男は口角を上げる。

「どうせ殺すなら、銃もナイフも変わらないだろ? それに復讐達成も目前だ。その実感、肌身を持って感じたいと思わないか?」

「な、何を言っている?」

「つまりこういうことさ」

 黒い男が急に歩き出した。

「! う、動くな! 撃ち殺すぞ!」

「……」

 しかしずんずんと迫り、最終的には、

「あ……」

 女の目の前まで来てしまった。しかも、頼りのショットガンまであっさり奪い取られてしまう。

「どうしてできないか、分かるか?」

 にこりと笑う。

 ぼそりと、女は分からないと素直に答える。

「そっか。……お嬢さんは迷ってるんじゃない。こいつを仇と思わなくなってるからなんだ」

「! ばかな!」

 語気を強める。

「うすうす感じてるんじゃないか? こいつがはたして弟を殺すことができるんだろうかって」

「……!」

「お嬢さんは尾行監視していくにつれ、こいつの気に当てられちまったんだ。こいつはお嬢さんを知らないだろうが、お嬢さんは仲間のように感じちまってる。……もし、仲間でも殺すような(たち)なら、外の見張りさんも殺しているだろう。でもそれができない。もともと、お嬢さんはそんな(おぞ)ましい性格じゃない。ちょっと気難しくて不器用で口下手だけど、誰よりもお世話焼きで心優しい性格なんだ」

「……あなたは、私を知っているのか?」

「全然」

 唖然とする女。

 黒い男は、でも、と続ける。

「見ただけで分かる。それこそ色んな人間を見てきたから分かる。お嬢さんが見張りさんに惚れてることもな」

「! ……貴様……」

「……さて、長くなっちまったがどうする? 買い取らせてくれるのか?」

「……断ったらどうする?」

「どうも。ただオレは提案してるだけ。呑むかどうかはお嬢さん次第だ。だが、ここが人生の分岐点だと思ってくれよ。それほど、ここは重要な時なんだ」

「……」

 女は……、

「……」

 何とも言えない気持ちになっていた。殺すと決断したはずなのに、どこか足が(うわ)ついている感覚を覚える。黒い男の言うことが正しいのか、それとも今までの自分が正しいのか、頭がぐちゃぐちゃにかき混ぜられているようだ。

「!」

 ふとして、何かが聞こえた。

「……ふぅ……ふぅ……」

 耳に入ってきた呻き声。“殺す”、その言葉が喉から出そうになった瞬間だった。その言葉は、

「……好きにしろ。どうせ今から助けを呼んでも遅い」

 強引に形が変わってしまう。ただし、

「よく呑んでくれた。……して、何を望む?」

「……」

 女が黒い男にショットガン二丁とシェルを全て渡した。

「こいつを殺してみろ」

 変わったのは形だけ。その意味は変えられない。にやり、と女が男を一瞥して、妖しく微笑んだ。

「そんなことでいいなら」

「……え?」

 ところが、ショットガンにシェルを装填すると、

「ほい」

 男に向かって、連射した。残りの弾を全て吐き出すように、容赦なく撃ち込んだ。

 耳を覆いたくなるような銃撃音。鼓膜を弾丸で貫くような、痛みを訴える重高音だった。その音が途切れることがない。

 開いた口が塞がらない。黒い男が誰なのか知っているからか、衝撃が計り知れなかった。

 きーん……、と耳鳴りが激しい。周りの音が一切遮断されている。黒い男も同じようで、しばらく男を見下ろしていた。……ようやく終わった。

 耳鳴りが治まりつつある時、黒い男は女にショットガンを返した。

「これで取引成立だな。……殺す時はナイフでな。じゃあ」

「……」

 何事も無く立ち去る黒い男。傍若無人ぶりにもそうだが、あまりの強引な勢いと呆気無い幕引きに、呆然として見送ることしかできなかった。

 はっとして、女はナイフを取り出し、男の方へ寄る。振りかぶった。

「……」

 もはや意識も声もなく、ただひたすらに口だけが動いている。その口の動きは……。

「……“ふぅ、ごめん”……か……」

 男の首の右側に大きな穴が空いていた。左肩の部分よりも大きく、深い。床どころか地面さえも荒々しく削られている。先ほどの何十発も撃ち放った跡だった。

 ナイフを頬に擦らせる。女が力を入れれば、血と一緒に口腔という空間をさらけ出すことになる。しかし、

「“フー”か」

 女の表情は、綻んでいた。憑き物が落ちたように、顔の険が解れている。

「……なるほど。取引をさせたのはそういうことか」

 眉が寄る。しかしそれは意志が固まったようにも見えた。

「死ねばそれまで。しかしもし助かったなら……」

 

 

「ありがとよ」

「いえ。あなたに頼まれては誰も断れません」

「……」

「……こんなところでお会いできるとは光栄です。ツチノコを探すよりも出会えないと言われた方と会えるなんて」

「珍獣扱いかよ……。結構色んな人と会ってるんだけどな」

「しかし、あなたがなぜ助けるようなマネを?」

「そうじゃないけどまぁ……なんだ……たまたまだよ」

「たまたま?」

「あぁ。ちょうど通り道だったんで、寄っただけなんだ。それをもったいぶって色々嘘ついてごちゃごちゃ言ってただけ」

「そうですか」

「ただ、手に掛けたかどうかまでは分かんない。彼女に決断を委ねといた。……でも、お前さんは悪い奴だ」

「……」

「あいつを利用して彼女に近づくなんて、中々ゲスいぜ。しかも真実を隠すために心までも壊そうとしてやがる。……何が目的だ?」

「心まで壊そうとは思ってません。ただ……罪滅ぼしです」

「罪滅ぼし?」

「……彼女の弟の自殺を止められなかった罪です」

「?」

「彼女に向いてほしくて彼を利用したのは事実です。かと言って真実を伝えたところで誰が“僕”の話を信じましょう? 彼女は彼が殺したと思い込んでいて、当時その彼は僕らの依頼仲間だったんです。つまり、彼女の復讐対象に僕が入っていてもおかしくはなかった。だから彼を利用することで、自分で真実を受け入れてもらうしかない」

「だからこんな遠回りな計画を企んだのか」

「……」

「今回の出来事の元凶はお前だ。……彼女がどうなろうとも、男として責任を取るんだな。それがお前を殺すことになっても」

「はい。……もう彼女と出会った時から、覚悟しています」

「……ったく、本当はオレは首突っ込みたくなかったんだ。誰かさんの命令だからってだけで、こんな所に来なきゃならんなんて……ぶつぶつぶつ……」

「え?」

「あぁいや、気にすんな。ただの愚痴だ。いろいろとめんどそうだからよ」

「?」

「あぁそれと、早くここらへんから離れた方がいいぞ。悪名高い女の国の近くなのは、知ってるよな?」

「はい」

「連中はオレらの存在に気付いてるぜ」

「! じ、じゃあ彼を助けなければなら、」

「あんな怪我人より自分らの身を心配しろ。どっちにしたって死んじまうんだ。よっぽど腕の良い医者がいないとな。しかもあいつに気を取られてくれれば、それだけ距離は稼げるぜ?」

「……では、何のために彼を助けたんですか?」

「オレは彼女を試しただけだっての。誰も助けるとは言ってない。……オレはもう行く。短かったが楽しかったぜ。じゃあな」

「あ、まだ聞きたいことがあ、…………! ……姐さん……」

「……」

「決着、つけました?」

「……」

(こぶし)……折れていますね」

「別に問題は無い」

「嘘つかないでくださいよ。あんなド派手な音だったのに、何もないわけないじゃないですか。ほら、見せてください。……あの男が真実を語り、そして姐さんが“平和的”に終決する。これが私の望みでしたが、ただの理想幻想にすぎないようですねぇ」

「……何だか(むな)しいな」

「結局、姐さんがしたことは、大切な人を奪われた人間を生み出しただけです。かつての姐さんのように……」

「!」

「今度は姐さんに憎しみが向けられることになるんですよ? かつての姐さんのように……」

「私はもう、この世に未練はない……」

「そうして、姐さんを殺したやつを、今度は私が殺す。もう、憎しみの連鎖が完成してしまったんです」

「……それでも構わない。私の生きる糧はないのだから」

「…………と言っても大丈夫ですよ」

「……え?」

「姐さんを殺そうとする連中から守り通してみせます。そうすれば連鎖が完成することはない。……僕がその糧になります」

「……ふ。よくもそんなクサくて、論理がスカスカな台詞を吐けたものだ。おかしくて笑ってしまうよ」

「あはは……。でも、その笑顔も素敵です」

「……っ……」

「ひとまず、ここから離れましょう。誰かに見られると厄介です」

「……では、あそこに行こう。弟たちに報告したい」

「はい」

 

 

「そうか。そんなこんなであんな感じに……」

「はい。……全ては私が悪いんです」

「いいとは言えねえが、真実は話したんだろ?」

「えぇ。今度は私が殺されるかもしれませんね」

「いやいやいや。それはありえんよ」

「?」

「隙間に誰も入れないくらいに熱々な二人だもの」

「?」

「俺の目の前でチューするくらいだしな」

「なっ、ちょっと! あれはわざとそうしたわけじゃ、」

「あっはっはっは。まあ、ナナさんを労ってやった方がいいよ」

「……」

「……さて、俺はそろそろ仕事に戻るか。最近はやたらと忙しくなってな」

「どうしてです?」

「まあ麓に来てくれれば分かる。……もっと旨いもん食わせてやるよ。もし来てくれるなら、ここの鍵、渡しとくぜ? 邪魔しちまったからな」

「! ヤマさんっ!」

「あっはははは。……お楽しみにな」

「冗談も過ぎてますよっ」

「じゃあ“また”な」

「……はい」

 

 

 

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