女の子が一人で歩いています。
「あっれ? ……ここどこ?」
ふと何かを思い出したように立ち止まりました。
どこか森の中です。
「私は……ハイル」
自分を“ハイル”と呼ぶ旅人は再び歩き出しました。しかし方角が分からずに挙動不審で彷徨っています。
ひとまず近くの木で一休みしつつ、自分の荷物を確認しました。特に変わった様子は、
「なにこれ」
ありました。
まず自前の焦げ茶色のセーターの上に、黒いだぼだぼのセーターを着ていました。その内ポケットには見知らぬナイフが入っています。荷物も傘が差し込まれた黒いリュックに二つのポーチがぶら下がっています。おかしな首飾りもしていました。どれもこれもが見慣れないものです。
「なにこれ、クーロはっ? ピーコっ?」
問う声だけが森に響きました。返事はありません。
ハイルは指笛を鳴らしました。甲高いですが綺麗な音色です。
少しすると様々な動物が集まってきました。
「あなたにしようかな」
一匹のぼさぼさの野犬でしゃがみ込んで話します。
「こんにちは。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ハムスターと鷹を見かけなかったかな? ……その子たちは私の大切な友だちだから食べないでほしいな。……うん、……うん。捜してくれたら……そうだなぁ……身体を洗ってブラッシングしてあげるよ」
野犬だけでなく他の動物たちも一目散に駆け出していきました。
ハイルも探し回ります。すると、
「あ!」
木の枝に鷹に乗ったハムスターが見下ろしていました。音色に誘われて来たようです。異色の組み合わせの二匹は真っ直ぐハイルに突っ込み、とても嬉しそうにじゃれつきました。
「もーどこに行ってたんだよー! 捜したよっ」
満面の笑みです。ハムスターの“クーロ”と鷹の“ピーコ”でした。
「じゃ、旅の続きをしよう! 二人のために他の動物たちにお願いしてたんだ。お礼しにちょっと寄っていこっか」
しかし、
「……どうしたの?」
二匹はハイルに付いてきません。
「野生に帰りたくなった? ……じゃあなに? ……誰それ? 知らない人だなぁ。というか酷い名前だねそれ。きっと偽名だろうけどちょっと考えものだよ、うん」
二匹は見合わせて、再びハイルを見ました。
草の音が聞こえます。すぐに銀銃を構えました。
「……!」
男女二人組です。一人は下半身に鎧を着込んだ優男で腰に刀を据えています。もう一人は凛々しい色白の女でした。“ソウドオフ・ショットガン”を向けています。
すぐにショットガンを下げました。
「ハイル! ぶじだったんだな」
「どこも怪我はないみたいですねぇ」
「……え?」
思わず固まってしまいます。
「どうした?」
「あぁ、私らがここにいることに驚いているのですねぇ。あなたのおかげで強制出国に出禁で済んだんですよ。帰ってくることを信じてペットたちと待機していました。言葉は分からなくてもそわそわして心配そうでしたよ」
「あ、ありが……とう……」
困惑しているのが目に見えています。
「あの、迷惑を掛けてしまったようでごめんなさい」
「むしろこちらの方が迷惑をかけましたよ。酷いことされませんでしたか?」
「……おい」
気が付いたのは女の方でした。
「なぜずっとじゅうをむけている?」
「!」
女が一歩近づくと、
「来ないで」
女に照準を合わせます。かたかたと銀銃が鳴っていました。
「ハイルさん?」
「どうやらきおくをけされたようだな」
「なんですって?」
息が荒くなってきました。目の前のことにも、不穏な行為が自身に起こっていると告げられたことにも。
ハムスターがハイルによじ登り、首筋に寄り添います。
「……ほんとなの? でもとても信じられないよ。嘘ついてないのは分かるのにおかしいよ、うそが上手い人? でっでもこの人たちだけじゃなくてもその国で私……へ、あっ、×されてるかも、いや、あぁ……ああ……」
「おちつけ。まずはすわっていきをとと、」
「そんなのムリだよっ!」
二丁拳銃で二人に向けました。がちがちと歯が震えて鳴っています。
「ナナさん、こちらが消えましょう。このままでは……」
「だめだ。なら、いちぶしじゅうをしっているやつにきくしかるまい」
「……だれ?」
「フー、きこえているのだろう? こたえてくれ」
女の旅人“ナナ”が真っ直ぐ見たのはハイルの首飾りでした。
「聞こえています」
わぁっ! とハイルが尻餅をついてしまいます。その“声”は首飾りから聞こえていました。
首飾りを手に取ります。四角く水色の物体で蝶番のように開くことができます。
「武器をしまってください。無駄な争いです」
銀銃を下げましたが、太ももに戻しませんでした。
「え? ……え? これしゃべるのっ?」
「ダメ男さんの相棒の“フー”さんですよ」
「ダメ男? さっきクーロが言ってた旅人……。じゃあずっと今まで私のことも見てたの?」
「はい。“ハイル”と行動を共にするようになってから今の今まで見ています。ですが、これについてあなた方に教えられることは一つもありません。いえ、教える必要もありませんね」
「なぜだ」
「……あんな男を助ける必要がないからです」
「どういうことだ?」
「……ふぅ……」
寝息のようなため息はフーのものでした。
「……ダメ男とは仲違いです。もうダメ男に付き合っていられなくなり、知り合いであるハイルに頼んだのです。この国の記憶消去薬と復元薬にいたくご執心のようでしてね」
「薬?」
「何も知らないのですね。あの国では記憶を消したり蘇らせたりするのに薬を使っているのですよ。仕組みや製薬方法までは知りませんが、確かに効果はあるようです。あの傷も消してくれたのですよ、ナナさん」
「……それは……すまない……」
咎めるような物言いに旅人の男“ディン”がそっと寄り添います。
「まるで中毒のように嫌な記憶やトラウマを消しています。それで膨らんだ借金のためにこの国に数年留まるのです。……ここまで軟弱で馬鹿だとは思いませんでした」
「……」
ハイルはクーロと何かを話すと、ナナたちにフーを渡しました。
「私はもう行くよ。覚えてないから関係ない話だし、フーとやらは二人にあげる。……それじゃ、さよなら」
ずりずりとセーターを引きずりながら、森の中に消えていきました。
「ナナさん、追わなくていいんですか?」
「……もとはといえばすべてナナのせいだ。これいじょうはまきこむわけにはいかん……」
「そうですね。あなたのトチ狂った被害妄想のせいでダメ男はあそこまでボロボロになりました。……ともかくもう終わった話です。もうダメ男に関わるのはやめてください。落ち目の人間にかまうのは自らも陥れますよ」
「おまえはどうするんだ?」
「イカれた二人に話したところでどうしようもないでしょう? あなた方も早く消えてください。目障りです」
フーを投げ捨てました。
「行くぞ」
「し、しかしナナさん! このままでは、」
ショットガンを顔に向けました。
「口答えは許さん。……捨てておけ、そんな出来損ない」
「……どっちが」
「ま、待ってください!」
カンカンなナナをディンが足早で追いかけていきました。
静かになった森の中。
「……これでいいんですか……こんなのでいいんですか……×××……」
頼りの銀銃をようやっとそっとしまわれる。
「クーロ、その国であったことを全部話して。私全く覚えてないんだ」
〈御意〉
ハムスターである私“クーロ”はあの国で起こったことを全て伝えた。複雑ではあるが事細かく話す。
他人事のような話に、そして自分の変わりように大変驚かれていた。
「……あの二人にクーロを預けるなんて考えられないね。どんなことがあっても離さなかったのに……“ヒト”なんかに……」
〈! その言い回しは……〉
まるで昔のハイル嬢を見ているようだった。少なくとも旅に出る前のハイル嬢の雰囲気だ。お父上以外は全て“餌”と断言されていた時のハイル嬢……。ダメ男殿を忘れられているのが原因か。
「大丈夫。また一緒に旅をしよう。今度はそんな馬鹿なことはしないからさ」
しっかりと立ち上がり歩き出された。
だが……、
「どうしたの? クー、ピーコ?」
このもやもやは何だろうか。奥歯に物が挟まったような、取っ掛かりの強い……何かは。
ハイル嬢も私の表現しようのないものを感じ取られている。ピーコも同様だったようだ。
近くに座られ、私を胸ポケットから掌に乗せてくださった。そして静かに呼吸をしながら集中される。最大限のお力で私を感じようとされているのだ。
「何だろうね、私も分からない。ペットのことが分からないなんて飼い主も友だちも失格かな」
〈そんなことは断じてありませぬ。些細なことと思いまする。お気にせずに旅を続けましょう〉
「クーロがそう言うなら……分かったよ」
再び私を胸ポケットに戻して、ピーコを肩に乗せて出発された。
が、また足が止まってしまった。
「私、どうして旅をしてるんだっけ?」
〈……!〉
「ねぇクーロ、ピーコ、何か知ってる?」
〈それは……私には分かりえません。その時のお気持ちの通りにとしか……〉
〈世界中の子たちに会いたいーって言ってたじゃない。それが理由だと思ってたけど?〉
「あーそっか。……でもなんで旅までしたいって思ったんだろう? 遠征すればいいのに」
〈……〉
我々はハイル嬢のように気持ちまで読み取ることはできない。言ったようにハイル嬢の気持ちの変化があったからとしか言えないのだ。だが旅の目的すらも忘れてしまっているということは……。
〈実は、ハイル嬢とダメ男殿は深い関わりにありまする〉
「……深い関わりって?」
〈それは何とも言えませんが、ハイル嬢や国の危機を救われています。ダメ男殿についての記憶を失われて旅の目的も忘れているのなら、彼が関わっている可能性はあります〉
〈ハイルちゃん、ダメ男さんに一目惚れだったのよ?〉
「信じられない。ヒトを好きになるなんて!」
〈しかし事実です〉
「……」
ハイル嬢が不意に笑みをこぼし、大声で笑い出された。犬歯が見えるほどに笑われた。
「あー……嘘じゃないみたいだね。直接お目にかかるしかないかぁ。どこにいるの?」
〈あちらの方向にその国がございます〉
「ちょうど良かった」
〈良かったとは?〉
「私ね、今……さいっこうに気分が悪いんだ。だからね、久々にめちゃくちゃにしたいなって思ってたの」
〈めちゃくちゃにって……まさか……!〉
「“あれ”の準備をお願いねピーコ」
〈本気なのですかっ?〉
「うん。その国、潰しちゃおっか」
そこはとある国の検問。ハイル嬢と二人の男がいた。奇しくも入国した時と同じ二人だった。
ハイル嬢は冷めた目つきで二人を見られていた。
「だから前に言っただろう? 身体検査をしないと入国できねえ決まりなんだよ」
「さっきの人はお金払っただけだったのに? ぼくも払えるんだけど」
「とにかく身体検査は必須だぜ? それができねえならお家にお帰りボーヤ」
舌舐めずりしている。全く、相変わらず下衆な男たちだ。
しかしあまりにも早かった。
「え」
男の額に風穴が空く。血と中身を噴き出しながら倒れた。
「……は?」
もう一人が気付いた時は既に遅かった。見覚えのないナイフが審査官の首筋に浸る。つぅっと皮切れ一枚で血が伝った。
観念してホールドアップした。
「おいおい、こいつは重大な犯罪だぜ? いいのかい? ただでさえ国際指名手配されてるのによ」
「……そうなんだ。なら罪を重ねても意味はないよね。捕まれば殺されるか×されるかなんだ」
「まあ……」
青ざめている。意に介さない狂気っぷりに当てられたか。私も苦笑いしかできない。
「で、この国で一番偉いヒトって誰?」
「……国を仕切ってる国長に決まってるだろ。他に誰がいるよ」
「そう」
首を刈り取られた。勢い良く血が溢れ出す。重い頭を投げ捨て、さらに重い体を引きずられた。
「このナイフすごい切れ味だね。骨までさっくり切れるなんて」
堂々と真正面から入国された。
「きゃあああっ!」
「なんだあいつはっ?」
「おい! 治安維持部隊を呼べえっ!」
ハイル嬢を見るや住民たちがパニックになる。そのお姿が尋常ではなかった。右手にべったりと血の付いたナイフ、左手には先ほどの入国審査官の首無死体。図体のでかい死体の足を持って引きずっておられる。
血の跡が一本となって門へ続いている。
「ウッげえっ!」
「にげろ! 歯向かうなあ!」
「うわあああ!」
ヒトどもは自分が餌にされると思い逃げ惑っている。ご命令とあれば従うのみだが。
早速、治安維持部隊の五人が囲んでくる。全員が自動式拳銃を向けてくる。
「お前、何のつもりだっ!」
「止まれ!」
どちゃ。死体を無造作に手放される。道となっていた跡が血溜まりになっていく。無造作な扱いに治安維持部隊は血の気が引いている。
「この国で一番偉いヒトを呼んで」
「なにいっ?」
「国長じゃなくて一番偉いヒトをここに呼んで」
「貴様、いったいなにさ、」
砕け散った。
顎めがけて射撃。当たりどころが悪かったようで中身を飛び散らせて弾けていった。無論、絶命だ。ぴくぴくと昆虫のように痙攣している。
さらなる悲鳴が上がる。吐き出す者もいた。
無意識の一発に一人が威嚇射撃を放つ。銀銃を持つ右腕……右肩に……。
「っ」
〈ハイル嬢!〉
「うおおおおおぉぉっ! おああああぁぁっ!」
猛り声。びりびりと自ら鼓舞するように、相手を威圧するように叫び上げる。
これだけで周囲を尻込みさせた。一頭の猛獣に恐れるように足が退いてしまっている。
にっこりと笑みを浮かべられた。
「あなたたちは怖いんだね。ぼくが何を考えているのか分からないから」
「ぐ……」
私には分からない。肩を射抜かれて笑みを保っていられる心境が。不敵の笑み? 殺されない核心があるというのか?
しかし、膠着状態にしていたかいがあった。
ボロボロのシャツにダメージジーンズを履いた男がやって来たのだ。四十代中頃か、よれよれの長髪に無精髭を生やしている。見た目からして不潔な男だ。ご丁寧に重装備の隊員五人を盾にしていた。防護服と透明な盾でがっちりとガードする。
ハイル嬢を睨んでいる。
「何のマネだ! てめぇは入国禁止だろうがっ! この犯罪者めっ!」
「今ヒトを殺したから否定はしない」
「んだとっ?」
「ぼ、“ボス”犯罪者を煽るのは、」
「やかましい! こっちはキレてんだよドアホ!」
分かりやすい肩書だ。国長以上の存在と見て間違いないだろう。
「で、あなたがこの国で一番偉いヒトなんだ」
「とぼけてんじゃねぇ! 偉いのは国長だろうが! オレが来たのはてめぇを雇い入れてるからだっ!」
「ふーん……嘘が下手すぎて微笑ましいね」
ハイル嬢は耳栓をした後、両手の二本指を少しくわえられた。……“あれ”だ。
「なにっ?」
力強く指笛を鳴らされた。
「ぬぅ……!」
「きぃ!」
突っつくように突き抜ける高音。近くにいたヒトは苦悶で耳を塞いでいた。治安維持部隊たちは守るために身じろぎしながら必死に耐えている。
収まると全員がどよめき出す。一体何が起こるか不安で逃げ出すヒトもいた。当然だ。遠くから異音が轟いているのだ。まるで津波が押し寄せてくるような、地鳴りが響いてくるような、何者かが重々しく迫ってくる。それも何十にも折り重なっている。
一番偉いと思われる“ボス”とやらは歯を食いしばっていた。
「撃ち殺せ! さっさと撃ち殺せ!」
治安維持部隊が威嚇でなくしゃさつ、
「ふぃ」
「ご」
する前に隊員たちはばたばたと倒れていった。
「ぼーっとしちゃって遅いね」
「な、に?」
隊員たちの頭には鋭いクチバシが突き刺さっている。キツツキたちだ。有無を言わさずに刺殺したようだ。
ようやっとヒトどもが気付いた。
「な、なんっん、だあれはっ?」
「と、とりっ?」
「鷹とかもいるぞっ!」
何十種類といる空の集団。不吉の前兆を思わせる陰が我々を見下ろしていた。急降下爆撃も辞さないようだ。
「なななんだあれはあっ?」
「ひゃ、えっけ?」
「ひょう?」
「なんでゾウがっ?」
「かば……?」
地上では門から溢れ出ている肉食獣、草食獣、水生動物……怒涛の進行だ。あまりの轟音に地面が揺れ、周辺の城壁や家屋の壁が崩れていく。中には押し流している者もいた。
彼らは速度を落とし、ハイル嬢の後ろでびたりと停止する。獰猛な猛者たちの威圧感と圧迫感。その熱気にもハイル嬢は汗ばんでおられた。
「はっえ……? うぇ……?」
「呆けてないで話聞いてよ。ぼくの条件は一つ。“ダメ男”っていう旅人の安全な引き渡しだよ」
「は……な、なに? ダメ男だと? そんな馬鹿な名前がいるかっ」
「ふーん……知らないんだ。じゃあみんな餌になってもらおっかな」
「ま、待てっ! この国じゃ個人情報は教えられない、」
「知らない。っていうかこの状況でそんな余裕があるの? 一つ間違えれば滅亡するのにさ」
「……」
「ちなみにぼくを殺さなくて良かったね。殺したらこの子たちが食い荒らすから。つまり撤退する指示も出せないってことね。そこら辺よーく考えて行動してほしいな」
「つ……」
これでようやく悟っただろう。皆の者がハイル嬢に協力していることを。
数十分そのまま待たされた。皆の者は焦らされており血気盛んになっている。この時間すら逆効果なのも分からないようだ。おそらく我々を抹殺する手立てを考えているのだろうが……。
この場を外していたボスが戻ってきた。見解が一致したようだ。実質、この発言が国の未来を左右する。
「残念だが既に出国していた。入国管理局からこの通り記録もある」
ハイル嬢ではなく、猿に取りに行かせた。なるほど、確かにこの名簿にはそう書かれている。
「最後にもう一度言うね。よく考えた結果がこれなんだね?」
「考えるも何もそう記録されている。ただし不法入国した場合、どうしても行方が追えないんだ。大人事情ってやつを汲んでほしい。頼む……!」
「……そっか」
入国管理記録を破いて捨てられた。
「やっぱり人間って“餌”なんだね。昔のぼくはきっと頭がおかしかったんだ」
ひたひたと皆の者がハイル嬢の前へ出てくる。同胞たちは雄叫びを上げたが最後。
「ち、ちがう! 本当なんだ! 嘘なんかついて、」
「……死ね」
何回目だろう。この光景を拝むのは。
「うあああっ!」
「助けてくれえっ!」
「ぼすっ! 俺たちを見殺しにっ!」
「このどぐさっば」
とても自然な光景は。
あまり多くはない。我々にとっては宴のようなものだから、そう何回もできるものじゃない。宴が毎日あったらありがたみが薄れるように、たまに催される。
「この! うばっ」
「ぎゃああああ!」
「やめて! うちのこっ! あああああ!」
自然の掟。弱きは食われ強きが生きる。最弱がいれば真っ先に食われるべきなのだ。その数が多く世界中にのさばっているならなおのこと。これは……我々の反逆だ。自分勝手に我々の命を弄んだ罰。
そしてこの世界で唯一のヒトの同胞、それがハイル嬢なのだ。国王ですら捕食対象なのにハイル嬢だけは食われない。そんなハイル嬢を傷付けた代償は大きすぎる。
ただダメ男殿も……。
〈ハイル嬢、これではダメ男殿が……〉
「大丈夫。そのヒトだけは襲うなって言ってあるから」
〈皆の者には無理な話では?〉
「ほらこれ。きっとそのヒトの物でしょ?」
ダメ男殿のセーター……!
「匂いならみんなも覚えやすいでしょ? それでも食われたなら仕方ないけどね」
このお方はなんと……。
「つ……」
〈は、ハイル嬢! やはりお怪我を先に、〉
「だ、いじょうぶ。こんなのかすり傷だよ」
そんなわけはない。待たされていた間に雑に手当をされたが、動かさなくても痛いはず。あの威圧は精一杯の虚勢でもあったのだ。早く救出して右肩を何とかせねば……。
案内のヘラジカに連れられてやって来たのは、
「……教会?」
聖堂だった。国の中心部分にある小さな聖堂だが、中に入っていなかった。他の動物たちもここが怪しいと感じているようで、避けるように国を食い漁っている。
木製の門を開けると、部屋がたくさんあるだけの祈り場に出る。それらしい銅像や教壇、長椅子もあるが異様に部屋が多い。それに番号が振られていて何かの鍵が飾られている。
「懺悔室っていうみたい。ヘラさん、どの部屋にいるのかな?」
トコトコとその部屋を教えてくれた。“076”と書かれた部屋だ。
ゆっくり開ける。
「……ひどい臭い」
顔を背けるほどの異臭。ヘラジカまで顔を歪めるほどだ。しかし感じる。
何とか堪えて入られた。
「……!」
い、いた。しかしこれは……。
「何されてたか分かっちゃうくらいだね。男なのにそういうこともされるのか……すっすごい傷……」
間違いなくダメ男殿だ。蝋燭が明かりの薄暗い部屋。中心で両手両足を鎖で繋がれ、立たされている。全身が生傷だらけ、異様な照りが見えている。目を凝らすと血の痕まである。拷問を受けていたのか……。く……。
ハイル嬢はその男をじっと見られていた。息を呑まれている。
勇気を出して、話し掛けられる。
「……生きてる?」
「だ、れだ?」
「私はハイル。覚えてる?」
「……なんの、ようだ……ぐ、ごほっうぇっ」
ぱたぱたと血と何かを吐いた。その内容物に……言葉を失う。
「……あなた……ロクにたべて、」
「ど、うしてもどってきた……?」
「それは……」
「お前は、なにもおぼえてないんだろ? かえれ……」
さすがに“ヒト”といえどこの扱いは酷すぎる。あいつらは同じ生物と思いたくないほどに下劣だ。
……ぐっと堪えられた。
「あなたがぼくの記憶を消したの?」
「……」
「そうなんだ。この子たちに助けてもらったって聞いたんだ。ぼくはヒトが大嫌いだけど、助けられたお礼はしないとね。帰れって言うなら……無駄骨だったかな?」
「あぁ。だからもうかえ、」
「カギは入口のところだね。持ってくる」
あの鍵は鎖のものだったのか。きちんと鍵穴は合って、無事に解放された。
「触っるな。……自力で立てる」
「お風呂行きたいんだね。あっちにあるようだよ」
「そうか。……右肩、大丈夫か?」
「! ……平気」
聖堂の一番手前の部屋が浴室のようで、ハイル嬢はそこで見張りをされることにした。ダメ男殿の荷物も持ってきているので、返してはある。衣服には困らないはずだ。
〈ハイル嬢、思い出せませぬか?〉
「思い出せないね。……ねぇクーロ」
〈何でしょう?〉
「あんな状態で他人を心配できる?」
〈いえ〉
「ケガを見抜いて気遣ってくれた……私のことも知ってるのに。……絶対ムリだろうなぁ」
〈それがダメ男殿なのですよ、ハイル嬢〉
「……そっか。私は忘れちゃったけど、きっと何回忘れても一目惚れしちゃうんだろうな。だって、」
突然入口が開いた。
「誰!」
素早く銀銃を引き抜かれた。
「あぁ? お前こそ誰だよ?」
な、んだと……っ?
「い、生きてたのっ?」
なぜ、なぜだっ? なぜ……、
「外はすげーことになってんな。でもなぜか襲われなかったぜ?」
ボスが生きているっ?
「んー、見た限り、お前は国際指名手配中のハイルだなぁ。なんで再入国できてんのか知らねぇがまぁいい。“076”は浴室だな?」
「……」
「お前さんを飼育員に雇ったって聞いてないんだがなぁ」
「しいくいん……?」
「あいつの飼育員だよ。ぴったりの表現だろ? 奴隷を飼育する役職さ。あいつはさんざん嬲られたからそろそろ身体洗ってやらんとってな」
「……ど畜生が……」
ドスの利きすぎる声。……ハイル嬢、キレましたな?
血管が浮き出そうなほどに怒っていらっしゃる。今にもぶっ放しそうだ。
「オレも影武者かもしれないぜ?」
「何回も何人も殺す。骨の髄までしゃぶり尽くしてやる」
「女の子の発言じゃねぇな。だが、こいつを見てもそう言えるかな?」
何かのスイッチを取り出した。
「起爆スイッチだ。押せば国の隅々まで消し飛ぶ。……オレの心が読めるかい?」
「ひとでなしめ」
「どっちが。……そう言うなら、076を見逃してくれたらお前さんの記憶を戻して帰してやろう。興味が無いとはいえ、ぽっかり空いてるようで気持ち悪いだろう?」
「記憶はもういらない。それならあの旅人を人間らしい生活にして」
「どうして?」
「ぼくがまたここに来る時に死んでたら嫌だもの」
「自分の身よりそいつを気にかけるか。……惚れたか」
「……」
答えはしないものの、ボスには既に勘付かれているようだ。
にやり、とボスが笑う。
「あいつはウチの組織でも必要な奴隷で手放すわけにはいかない。だが今の状況、お前さんに早くお帰りいただかないと国が崩壊する。ところがオレを殺そうとしたら自爆して全員死ぬ。そしてオレらは一歩も退く気がない」
「お互いに手詰まりだ。ぼくはこのままでもいいけど」
「だから早急にこちらから提案する必要があるわけだ」
なんと、手に持っていた起爆スイッチを放り投げ、代わりに紙に何かを書き始めた。ハイル嬢がそれを咎められないのは影武者の可能性を捨てきれないからか。つまりこいつの思考をハイル嬢は読み切れておられないのだ。
「決闘だ」
紙を折り曲げると、ハイル嬢に投げ渡した。
「ここより遠く離れた所に公正に殺し合いをさせてくれる国がある。期限は一ヶ月後。賭けるものはこっちは076、そっちは……“フー”だ」
「……なぜフー?」
「お前さんにはどうでもいいことだ。お前さんじゃない分、お前さんに失うものはないぜ?」
「まぁ確かに。でもメリットがないなら、勝負が終わっても一生干渉しないし関わらないし行方を追わない、これくらいは欲しいね。ぼくが勝つんだから美味しい目がないと」
「っ……いいだろう」
「じゃあ場所と時間はそっちで決めたから、ルールはこっちで決めて良いね?」
「ああ」
「そっちも既に被害甚大だから参加する人は少ない方がいいでしょ? ……一対一の勝負。“殺した方が負け”ってルールにする」
「! じゃあどうやって勝敗を決する?」
「当事者同士で決めたらいいんじゃない? そこは自由でいい」
「なら、何らかの理由で“決闘に参加できなかったら問答無用で負け”でいいんだな」
「そうだね。ぼくを煮るなり焼くなり好きにしていいよ」
二人してお互いにニタリと笑った。
「決まりだ」
ボスが無線機で連絡すると、ハイル嬢は、
「ヘラさん、みんなに餌の時間は終わりって伝えてきて。撤収だよ」
ヘラジカに伝言を頼まれた。
「じゃあこれで失礼するぜ。お前さんたちのことは出国するまで手は出さないように伝えた。殺し合いの国はここから南へずっと進んだ所にある」
「……浅ましいね」
「それほどでも」
「というわけです」
俯かれる。
「それで、動物たちに教えてもらいながらこの国を目指しました。ダメ男が知っている中で一番強い国ってここだったから。でも道中はやっぱりたくさん襲われました。ぼくを殺せば勝負は成り立たなくなる。……死ぬかと思った……」
目の前にはイリス殿ではなく、幹部クラスの騎士たちと一人の高貴な老婆が座っていた。イリス殿の故郷に戻った後、同じ話を老婆にも話していた。この老婆こそが、
「あなたは相当のおバカさんねぇ」
この国の女王陛下であられる。
ハイル嬢は真っ直ぐ見ておられるが対峙するだけで分かる。私のような小さき者を圧殺するほどの重圧感。ハイル嬢がいてくださらなければ死んでしまいそうだ。
「二人のために一国を潰そうなんてよっぽどの死にたがりみたいねぇ」
女王陛下は頭を抱えて考えこまれる。それを全員が見つめていた。
「そしてあなたを手助けするために一国に依頼するって話はもっとお馬鹿な話よねぇ。しかもここがどんな国なのか分かって言っているのでしょうねぇ?」
「はい」
「まったく、イリスったらとんだ化け猫を拾ってきたものねぇ」
「お言葉ですが女王陛下、私は“奴”を助けるつもりでいました。そもそも女王陛下がお悩みすることの方が驚きです」
「リスクが半端ないわぁ。たかが旅人を助けるために、しかもメリットもほぼないのにそんな危なっかしい戦いに参加するはずもない」
噂では聞いている“死神の国”。法外な依頼料の代わりに対象を絶対的死に追いやる暗殺者の国。しかも国に住まう者全員が女だという。どういう経緯でダメ男殿が知り合えたのか分からないが、よく生き延びたものだ。
ハイル嬢が入国された時は何もトラブルはなかったが、男だったら……。
そんな死神に笑顔を向けられた。
「怖いんですね?」
「……あ?」
瞳が千切れそうなほどの睨み。か、身体が震えて……。
〈あ……〉
ハイル嬢が胸ポケットの上から優しく撫でてくださった。布越しなのにその手が恐ろしく冷たい。
「負けるの怖いから逃げるんですね。死神なんてのは雑魚狩りことしかできない殺人鬼程度だと。そんなの子供だってでき、」
ハイル嬢の顔に何本もの光る銀色の切っ先。直線的な殺意に毛が縮みこみそう。
「串刺しと細切れ、嫌いな方を選べ」
「あなた、ハイルの味方じゃなくて?」
「我々を愚弄するなど自殺志願以外の何物でもありません。一国の姫といえども介錯して差し上げるのがよろしいかと」
「だけどここで殺したら子供遊戯と認めることになるわよ?」
「……このまま引き下がるわけには、」
「引き下がりなさい。こんな小娘に煽られて殺気立つ騎士がいますか。あなたたちも少し頭を冷やしなさい」
切っ先はゆっくりと鞘に収められていく。
「にしてもこれだけされても眉一つ動かさないなんて、さすがサバンナ国の読心の姫ね。見抜いてたの?」
「いえ、全く。殺されても仕方ないと肚を括ってました」
「ふ。一切合切がくたばり損ないの言う台詞じゃないわぁ」
鼻で笑われる。
「イリス、これでもこの娘を助け依頼を引き受けようと思う? この娘は国際指名手配された超極悪人よぉ? 庇えば間違いなく我が国は非難され、責めを受ける。しかし召し捕れば褒美もくれるし感謝される。そうねぇ、この国が五年は裕福に暮らせるくらいよ。……どちらが最良の選択かしら?」
「言うまでもありません」
「……」
この国ですらも駄目なのか……。むしろこうして話を聞いてくださるだけでもありがたい、か。ハイル嬢も目を落とされていた。
イリス殿がハイル嬢の頭をそっと撫でる。意外そうにイリス殿を見られた。
「……え?」
「そうよねぇ。あまりにも簡単すぎたかしら」
「私でも分かりましたよ、女王陛下」
「ふふふ……」
「ハイルを守る以外の選択肢はありません」
二人して、いや騎士たち全員が朗らかに笑い合った。
「薄汚い男どもの下賤な金など触りたくもない」
「気色悪い感謝もいりませんね」
「関わりたくもありません」
「満場一致ねぇ」
驚きのあまり、開いた口が塞がらない。
立ち上がって背伸びされる女王陛下。足が悪いのか杖を使われている。
「記憶を司る国……私も聞いたことがあったけど、やはり利用していたのね、あの男は……」
「あの男? ご存知なのですか?」
「ええ。狂おしいほどに」
「!」
突然の風切り音。発生源は、
「分かりやすい口調に人相、悪行。奴以外に考えられないわ」
「お、お母様……」
女王陛下。持っていた杖を振っただけ。しかし、目の前の分厚いテーブルに切れ目が付いていた。いや、これは……。
「ハイル姫、実は私が“彼の救出”に協力する気が全く無いのを見抜いていたのでしょう?」
「いえ。女王陛下ほど読み切るのに時間がかかる人は滅多にいません。正直まだ……でも今なら分かります。……全てを焼き尽くす業火のようで」
「若い時はいつもこうだったのだけれど、久々に
杖の太さにテーブルが綺麗に抉れている。テーブルの一部は床に転がっていた。ただの杖なのに削ぎ落としたというのか。木製だが天板を敷いたテーブルだぞ……。人間業ではない。
「奴は私の足を奪い、モモの姉をさらった男。実業家だとか抜かしているけれど、結局は成り上がりの奴隷商」
「奴隷商……じゃあダメ男は捕まって奴隷に……」
「話からして彼は元々奴隷だったようね。ブランドも相まってか利用価値は高かったか。あの身体の夥しい傷跡はそのせいね」
「っ!」
「相変わらずのクズ野郎ね」
口から沸き立つ血霧をこもらせるように、声を鎮める。
「本当の名は“リック”。人身売買に生きるケダモノ……金の匂いに群がる害虫よ。今は事業拡大して、あらゆる悪事に手を染めているわ」
「じゃあ協力して、」
「だから言ったでしょう? 勘違いしないでちょうだい。“彼の救出には協力しない”」
「じゃあ何に……?」
「リックの抹殺」
「!」
「この機を逃しはしない。あの男を殺すことができれば他なぞどうでもいい」
「それはダメです」
「……あぁ?」
は、ハイル嬢、さすがに押し過ぎでは……。もう体毛が抜け落ちそうです……。
「ぼくが負けた場合でも抹殺するんでしょう? ぼくらが決めたルールの違反です。あくまでもぼくの依頼に、」
「ハイル姫、いえハイル」
女王陛下がハイルの腹に指を這わせる。ぞくりと震えた。
「はっ、……っ、はい」
「綺麗事を吐かすな。お前は今まで何をされた? あの旅人は何を強いられた?」
「い、いたっぃ」
爪を立てる。ぐ……完全に足が竦んでしまって……すみませぬ……。
「奴の国が半壊状態ならなおのこと。今叩くのが最良でしょう? 影武者が無数いるならその分だけ恐怖にさらして磨り潰してやりましょう? 生きているのが嫌になるほど可愛がってあげようかしら」
「それじゃあダメ男は殺されますよっ……!」
「んー? そんなのこちとら関係ないわ。あなたの依頼はあの男を殺すことでしょう?」
「ん、……ち、違う……」
「なーんだ。でも依頼が殺し以外だと依頼料はもっと高くなるわよぉ? この死神の国と契約するのにあなたは何を供えるのかしら?」
「っ……命くらいしか……」
「死に損ないの命ねぇ……憂さ晴らしくらいしか価値はないのだけれどねぇ」
腹から肢体へ這いずる。びくりと震える。貴様……これ以上ハイル嬢を嬲るなら、
「腸を引きずり出すぞネズミ」
〈っ……?〉
こ、この老婆は私みたいな者の殺気すら悟るのか! 寿命が三年縮む……。
「この国はねぇ、女好きが多いのよぉ。あなたなんか可愛いから、すぐに切り刻まれて食われてしまうわぁ。子宮や膣なんかとても美味しそう……」
「っ……ずっいぶんと悪趣味なんですね」
「臓物大好きな死神ですもの」
ぐり。聞こえてしまうほどに何かをしやがった。少女にここまでするとは……あの男と同じではないか。大人気ないぞ女王陛下。
女王陛下がハイル嬢の顎を持ち上げる。
果敢にも笑みを絶やされない。
「命を供えるということはそういうこと。何をされても文句は言えない……分かる?」
「でも、ぼくもまだ死ぬわけにはいきません」
「じゃあ四肢を
「……」
女王陛下の指を追い出して、かぷりと噛まれた。
「ヒトの美味しい部分は太ももと指先ですよ、女王陛下」
「! あっはっはっはっはっ! ははっ! あーっははっ!」
涙を浮かべるほどに大笑いされた。
「あー……死神相手に胆で押すとは爽快な旅人ねぇ。いいでしょう。その小さい命、貰い受けましょう。お楽しみは依頼が終えたら、ね」
「……はい」
薄ら笑い。女王は契約書と朱肉をハイル嬢に渡された。
「しかし可哀想ねぇ。勝っても負けても命が取られるって」
躊躇なく、捺印された。口が裂けて、妖しい笑みが隠せない。
「これで契約完了ですね」
「えぇ。今をもってこの国の立入りを許可するわぁ。帰るあてがないのならしばらくはここを根城になさい。さて、あなたの望みを言いなさい」
「お母様」
「何?」
「なぜ問い詰められなかったのです?」
「なぜって……そういう依頼だからよぉ。考えがあってのこと。口を挟んではいけない」
「明らかに最悪の手でしょうっ? あの小娘が何を考えているのか分かりませんっ」
「その辺はイリスが案内がてらにやんわりと聞き出すからいいのよぉ」
「賭け対象のフーを連れ出すなんて頭がおかしすぎる! 決闘の日ギリギリまでここに潜伏すればいいのに! フーの正体がバレれば奴らは容赦しないわ!」
「その通り。フーを賭けさせるってことは正体がつかめてない証左だからねぇ。しかもなぜミオスくんを奴隷にできたかも吐露してしまっている。その有利を自ら潰すってんだから誰がどう見たって悪手。目の前の餌を見逃すほど甘い連中じゃない」
「ではどうして……?」
「分からない。でもきっと出来事を全て話してはいない。あの少女は核心を隠しているわぁ。私が本気で脅しを掛けたのも真意がつかめなかったから。だからこそ我が国に欲しい人間、いや化物なのよぉ。ある程度の自由は許すしかない」
「しかも決闘の立会とケツ持ちもなんて気が狂ってるんですかね!」
「勝負を無視して武力で台無しにするのは良くあることよぉ。向こうは間違いなく武力をチラつかせるだろうしねぇ。その点ウチに持ってもらえればまず命の保証はされるわけだ」
「……まどろっこしいことしないで戦争しちゃえば楽なのに……」
「モモ、それよりももっとやってほしいことがあるのだけれどぉ。ここでのんびりホットミルクを
「ふぇ? だってこの仕事はイリスお姉様と“ラウレル”が担当だし、あたし昨日帰ってきたばっか、」
「次は“殺し合いの国”とやらの調査! ついでに近くの国の殲滅もあるからお願いねぇ」
「うへ~……じゃあ七人借りていきますよぉ……」
「甘えないの。五人で二・四に分ければ楽勝でしょ?」
「……ハイルを突き出せばめちゃくちゃりえきが、」
「あ?」
「いえなんでもないですはいいってきますはい」
「……さて、フーをどうしましょうかね。護衛は何十人必要なのかしら」