【完結】デジタルモンスターゼヴォリューション~Another story~ 作:行方不明
雨が降っている。
「ハッ……ハッ……」
その中を必死な姿で走る一匹の動物。
その動物は、外見だけで見れば変わった色の犬のようにも見える。だが、その手の鋭利な爪と背中のコウモリのような小さな一対の翼が、その動物が犬であるということを否定していた。地球上の生物にありがちな特徴をいくつも持っていながらも、その動物は地球上に存在するどんな生物でもなかった。
「逃げ……なきゃ……!」
だが、それも当然なのだ。ここはNEWデジタルワールド。デジモンという生命が住む、地球とは違う世界。ここでは地球に存在する生命は――人間を含めて存在しない。
代わりに、この世界にいるデジモンも、種族によっての姿の類似はあれど地球には存在しない。
だからこそ、この動物が地球上の生物に見られない姿であるのも当然だった。
この動物の名をドルモン。種族が個人の名となるこの世界では、それが彼の種族であり、彼個人を指す名前だった。
「逃げても無駄だ。おとなしく“X抗体”を寄越せ」
「……!」
そんなドルモンを追う、一匹の獣人。シルエットは人間と同じ。手が二つに足が二つ。だが、決定的に違うのが一つだけ。顔がライオンそのものだったのだ。彼の名をレオモン。レオモンという種族は凶悪なデジモンを狩る、正義のデジモンとして名高いのだが――事この場において、悪役は彼だった。
明らかに怯え、逃げるドルモンを執拗に追いかけるレオモン。誰がどう見ても、レオモンを悪者だと言うだろう。
だが、それも彼らの事情を知ればわからないでもない。今、この世界は善悪などほとんど意味のなさない、生存のための弱肉強食の世界となってしまっている。正義だの、不義だの、善だの、悪だの。そんなことを言う前に、誰もが死ぬ。だからこそ、生き残るために誰もが必死になる。
誰だって死にたくはない。このレオモンも、生き残りたいが故にドルモンを追っているのだ。
「ハッ……ハッ……」
「ここまでだな」
そうこうしている間にも、レオモンはドルモンを追い詰める。
彼らが追いかけっこをしていたのは、森だった。それもかなり深い。だからこそ、ドルモンは気づかけなかったのだが、行く手に崖があったのである。
レオモンはそのことを知っていた。だから、地形をうまく使ってドルモンを行き止まりの崖まで追い詰めたられたのだ。
こうなるとドルモンにできることなど、一つしかない。死にたくないから。力の差があろうとなかろうと抗う。それだけだ。
「ほう?」
「っく――“メタルキャノン”!」
「ふん!」
ドルモンの口から放たれたのは、鉄球。
およそ生物としてはありえない現象であるが、デジモンという生物にはこんなのは普通である。各々が自身の体を、武器を、魔術を、さまざまなものを使って攻撃する。そうした攻撃で身を守り、あるいは敵を打ち倒す。
だから、この鉄球はドルモンの攻撃なのだが――そんな攻撃は、レオモンの持つ剣によって一刀両断された。かなりの速さを持つ鉄球も、レオモンには簡単に見切られてしまった。
それは、ドルモン自身の経験不足が原因。対してレオモンは、ドルモン以上に戦闘の経験がある。彼にとってはただ単純に放たれただけの技など、脅威でもなんでもないのだ。
「っく!まだ……!」
「諦めろ。これ以上は……」
そう言われても諦められるはずなどない。だって、諦めた先にあるのは死だからだ。だからこそ、ドルモンは前を向く。
そして、そんなドルモンの姿を、追い詰めるレオモンは苦しそうに見ていた。
「――“メタルキャノン”!」
「……――“百獣拳”!」
再度、両者の技が激突する。
あっさりと対応された先ほどの教訓を活かして、ドルモンは連続で鉄球を放ち続けた。その数は数十にも及ぶ。
だが、レオモンはそれを軽く上回った。一瞬だけ拳が霞むと、極限まで練り込まれた力が拳から放たれる。正に拳圧。魔術も何も使っていないというのに、獅子の頭部を模した力が自然に拳から放たれて、敵に向かう。レオモンの奥義とも言うべき技。百の数の拳圧がドルモンの鉄球を迎撃する。
結果。数十の鉄球と百の拳圧はぶつかり合って――ドルモンはその余波を前に吹き飛ばされた。
「っぐ……」
「……」
拳圧の直撃をくらわなかったのは、ドルモンにとって運が良かったと言うしかない。もし、あの拳圧を一つでもまともに受けてしまっていたら、ドルモンはすでに動けなくなっていただろう。
だが、いくら運が良かったとは言っても、ドルモンにとって最悪な状況であることには変わりない。いや、むしろ悪くなっている。
先ほどの技はドルモンにとって全力だった。つまり、ドルモンが全力を尽くした技は、レオモンにあっさりと破られたということで――それは、これ以上の打つ手がないことの証明だった。
「……」
「諦めろ」
「……だ」
「諦めろ!」
「……ま……だ」
「頼む。諦めてくれ!」
まるで懇願するかのようなレオモンの声。追い詰めているのはレオモンで、追い詰められているのはドルモンだ。だが、この場において一番辛そうな顔をしているのはレオモンだった。
それが、なぜなのかドルモンにはわからない。だが、
ドルモンはただ――生きていたかった。
「頼まれても……諦めるもんかぁぁあああああ!」
「……何!?」
そんな、生きていたいというドルモンの思いが、“進化”を呼ぶ。
進化。デジモンのソレは地球上の生物のソレとは似て非なる。
デジモンには成長段階があり、初めから幼年期、成長期、成熟期、完全体、究極体。それぞれ上がっていく。成長段階がひとつ違うだけで、よほどの例外でもない限りは圧倒的なまでの力の差がある。例を挙げるとするならば、ドルモンは成長期でレオモンは成熟期。それぞれの力の差は先ほどの通りだ。
デジモンの進化とは、すなわち成長段階のレベルアップ。それに伴って姿かたち種族も変化する。デジモンにとっての進化は未来にして可能性。だからこそ、たいていのデジモンは進化を望む。進化するということは、未来を掴むことと同義だからだ。
とはいえ、デジモンの進化に必要な要素は思いだけではない。戦闘のみならず、さまざまな経験も含まれる。
だからこそ、ろくな経験もなく進化するドルモンは異常でしかないのだが――それはこの場において必要のないことである。この場において必要なこと。それは、ドルモンが進化したという一点のみだ。
「――ドルガモン!」
「……!進化しただと!?」
成長期が成熟期へと。小さな翼は大きな翼へと。頼りない体はより雄々しい体へと。
「っ……!」
「オレは……生きる!――“パワーメタル”!」
驚き固まる前で、気合を入れてドルガモンの口から放たれたのは鉄球。無論、先ほどと同じではない。先ほどよりも大きく、重く、そして速い。破壊力は桁外れに増えている。
だが、それでもレオモンにとってはそれほど脅威でもなかった。
なるほど、確かに先ほどよりも威力は上がっている。そして速い。だが、それだけだ。それだけなのだ。例え進化してスペックが上がろうと、戦闘経験の差が埋まるわけではない。たいていのデジモンが進化して急激に強くなるのは、それ以前の戦闘経験が活かされるからだ。その活かすべき経験がないドルガモンでは、進化したその体も宝の持ち腐れのようなものだ。
だからこそ、己に迫り来る鉄球を前にして、レオモンは構えた剣を――ゆっくりと
「……ああ。これが終わりか」
そして、そう呟いたレオモンの顔はどこか複雑で。その直後に、ドルガモンの鉄球を受けてレオモンは吹き飛び、地に沈んだ。
そんなレオモンの姿にドルガモンは驚くしかない。まあ、先ほどまで自分を追い掛け回し、殺そうとしてきた相手が、急に自分の攻撃を受け入れるという自殺願望者の如き行いをしたのだから当然とも言えるが。
もうレオモンが起き上がる力がないことを確認して、ドルガモンは近づいていく。どうしても気になったのだ。生き残りたいが故に敵を殺そうとしていたというのに、最後はわざと負けるような真似をしたことが。
レオモンは仰向けに転がったままで、空を見上げていた。その姿には、先ほどまでのような力強さはない。
「……なんで」
「……どのみち俺は助からなかった」
「諦めたのか……生きるのを!?」
そう尋ねたドルガモンだが、そう聞くのはお門違いだということはわかっていた。レオモンにトドメを刺したのは、自分なのだから。だが、それでも。命を捨てるような真似をしたレオモンを前にして、どうしても口から漏れてしまった。
ゆっくりと目が閉じそうになっているレオモン。だが、最後まで言葉は言い切りたいのだろう。そのためだけに、レオモンは死に行く命を保っていた。
「死にたくなかったが……ふとそのことを思い出してな」
「……それで?」
「今している……すべてが無駄だと……そう思った……時だ。お前は……良い眼……だと思った」
「何を……」
「……だから……お前は生きろ……俺の分まで……この新世かいで……でじも……んの……みらい……のために……」
「……」
「おいかけ……まわし……て……わる……た」
それを最後に、レオモンは事切れる。命が消える様。この世界では見慣れた光景だ。
他人のために自分の命を捨てる。最後までレオモンの行動を理解することはドルガモンにはできなかった。だが、レオモンの言葉を聞いて――どうしても、今ある何もかもが理不尽のように思えて仕方なかった。
一人残ったドルガモンは天に向かって慟哭する。なぜ、こんな思いを抱いているのか。最後までドルガモンにはわからなかった。
世界の中心。過去と未来、そして現在。その三つを司る世界の中心にある神の地。
「オメガモン……プロジェクト・アーク……我々ロイヤルナイツのみの手で実行することが可能だと思うか?」
「可能かどうかの問題ではない。それがイグドラシルの決定事項だ。デュークモン。我々は確実に使命を遂行するまで」
彼らはロイヤルナイツという、十三体いるというこの世界の守護者たちのうちの二体だ。デュークモンという真紅のマントを纏う騎士。そしてオメガモンという右手が狼で左手が竜の籠手を装備した白き騎士。
二人の騎士は互いに向かい合って話しているが、話している内容がそうさせるのか、それとも煮え切らない様子のデュークモンがそうさせるのか。その間には緊迫した雰囲気が漂っている。
「それでいいのか?」
「何が言いたい?」
「我々は二重に過ちを犯そうとしているのではないか?」
「イグドラシルが間違っているとでも?」
プロジェクト・アークは彼らロイヤルナイツの主であり、この世界の神であるイグドラシルの命令だ。
それに異を唱えるとなれば、また疑問を持つとなれば、それこそ反乱者とされてもおかしくない。
それだけではなく、デュークモンの言っていることは自分が忠誠を誓った相手を悪く言われていることに近い。まあ、忠誠を誓った相手でなくとも、誰だって自分の親しい人が悪く言われていると人は機嫌が悪くなるものだ。
つまり、何が言いたいのかというと――現在進行形で真面目なオメガモンは不機嫌になっている。
「他のメンバーでさえ、そのような世迷言は言わん。我が盟友デュークモン。よもや貴様がそのような世迷言を言うとは思わなかったぞ」
「だが……デジタルハザードを介しても我が君イグドラシルが実行したXプログラム……このデュークモンにはそれが……」
「黙れ。“X抗体”を持つデジモンなど所詮は異分子に過ぎない。異分子は速やかに排除するまでだ」
これ以上話すことはないとばかりに、オメガモンはデュークモンの言葉を遮って言葉を発し、そしてそのまま去っていく。
「彼らと我ら……同じデジモンとして何が違うのか……?」
オメガモンが去った後、残ったデュークモンは一人呟くのだった。
はい、最近、自分が書いているA&Aの方がスランプ気味、そしてモチベーションが下がり気味だったので……気分転換としてサイスルの方と一緒に書きました。
以前からちょっと触れていた、別名ロイヤルナイツ大決戦の話ですね。
内容(予定)としてはゼヴォとクロニクルを混ぜた感じになります。
書いた経緯としては、
→ロイヤルナイツ十三体揃ったんだよな
→あれ、ってことはアルファモンが正式に十三番目を名乗れるようになったのか
→……ってことは、ゼヴォ時空の時にいろいろと行方不明だったメンバーにも触れられるようになったんだよな
→よし、書こう!
こんな感じですね。いや、自分のことながら、なぜこうなったんでしょう。
では、この作品をよろしくお願いします。