【完結】デジタルモンスターゼヴォリューション~Another story~ 作:行方不明
そこは、不思議な空間だった。
暗闇の中で。光の中で。空の上で。海の上で。陸の上で。どこかの森の中で。どこかの崖の傍で。どこかの草原で。どこかの遺跡の中で。
そのどれもが見たことがあるようで、そのどれもを知らない。ここはそんな空間で。
「……ここは?」
そんな懐かしさを覚える場所に、ドルモンはいた。
ここはどこなのか。ドルモンはそう疑問に思いながらも、その疑問が解消するために動くことはできなかった。ここにいるドルモンは呆然とここに立ち尽くすことしかできなかったのだ。
もちろん、ドルモンは別に束縛されているわけではない。だが、自由に動けるというわけでもない。まるで立っていることを強制されているかのようで、されどそのことに不満も抱けない。ここはそんな空間だった。
そんな不思議な空間に、ドルモンはただ立ち尽くしていたのである。
『懐……いだ……う?』
「……誰だ?」
そして、そんな時。ドルモンは姿も見えない誰かに話しかけられる。
だが、話しかけられたのはいきなりだったが、まるでその声の主がこの場にいたことを初めから知っていたように、ドルモンは驚かなかった。普段ならば、驚き、警戒してもおかしくはないのに。
なぜ自分は驚けなかったのか、と。そんな自分自身に疑問を抱きながらも、ドルモンは姿の見えない声の主の言葉に耳を傾ける。
『オレ……時が……た……そろそ……』
「何を言ってるんだ?」
『まだ声……ない……戻……だけ……思い出……』
「何を……」
だが、聞こえてくる声はノイズだらけで、よく聞き取ることができない。
まあ、その時、声の主は納得したかのような様子を見せていることだけは、ドルモンにもわかったのだが――なぜ、姿も見えない者の様子がわかるのか。
ドルモンがなぜかそう思ったというだけの話だが、ではなぜそう思ったのか。この場にいるドルモンに、新たな疑問が浮かんだ瞬間だった。
とはいえ、今度は苦笑しているらしい声の主は、相変わらず雑音だらけの声でドルモンに何かを告げようとしている。
だが――。
『起き……いずれ……だす……その時……』
「……」
『今……まだ……が、……と』
――だが、だんだんと声が遠ざかっていく。ノイズにまみれて、聞こえなくなっていく。それと同時に、ドルモンの視界に映っていた、この不思議な場所も薄れていく。
それはまるで、制限された時間を超えてしまったかのようで。
やがてドルモンは、疑問を抱いたままに、されどこの場でのすべてを忘れて、この場所からいなくなったのだった。
『やれやれ。未だ時は来ず、か。だけど、デクスの力がイグドラシルの手に渡ったということは……もう、時間がない』
そうして、ドルモンが去った後のこと。
その不思議な空間で、未だ姿の見えぬ声の主が苦しそうに呟いたその言葉は、誰に聞かれることもなく、この場所に溶けて消えたのだった。
それは、ウォーグレイモンが隠れ家に帰ってきてしばらくしてのことだった。
この場の誰もがそれぞれ思い思いのことを考えながらもリラックスしていた時間。
そんな時間のことだった。
「……こ、こは?」
ドルモンが目を覚ましたのは。
目を覚ましたドルモンは現状が掴めていないらしく、ゆっくりと起き上がって周りを見渡している。そして、そのままこの場の面々を見て、それこそ特にデュークモンやアルフォースブイドラモンといったロイヤルナイツの面々を見て――驚いた。
「っ!ロイヤルナイツ!?」
まあ、当然だ。ドルモンの中のロイヤルナイツのメンバーに対する印象は最悪ではないとはいえ、出会ったメンバーのほとんどと最悪に近い邂逅をしている。そんな状態で、ロイヤルナイツのメンバーを無条件に信用できるはずもない。
だからこそ、ドルモンは身構えて――。
「待て。我々は敵ではない」
「信用できないかもしれないけどね」
――そんな身構えたドルモンに向かって、デュークモンたちロイヤルナイツの二人が警戒を解こうと話しかけた。
が、やはりそれだけで警戒を解くのは難しい。ドルモンは身構えたままだ。
そんなドルモンを見て、ウォーグレイモンは溜め息を吐いた。正直言って、ウォーグレイモンもドルモンの様子にはすごく納得できるし共感もできるものの、この場にいるのは一応味方と言っていい面々だ。
だから、ウォーグレイモンは仕方なく、本当に仕方なく、デュークモンたちの助け舟を出すことにしたのだった。
「大丈夫だ。そいつらは……少なくとも敵じゃない」
「ウォーグレイモン……?」
「俺たちや君を助けてくれたしな」
さらに、そんなウォーグレイモンの言葉を受け取ってメタルガルルモンも同じように助け舟を出す。
ロイヤルナイツのデジモンとX抗体持ちのデジモンが一緒にいるという奇妙な光景。そんな光景に、目眩を覚えそうになりながらも、ドルモンは気を確かに持って話を聞いていた。
メタルガルルモンとウォーグレイモンの二人が太鼓判を押すということは、まあ、信用してもいい理由にはなるだろう。そう思って、自分を納得させたドルモンは警戒を解いた。
「ああ、警戒を解いてくれてありがとう。知っているかもしれないけど、ボクはアルフォースブイドラモンだよ」
「デュークモンだ。よろしく頼む」
「俺はメタルガルルモンだ。ドルモンはウォーグレイモンとは知り合いなんだよな」
「ああそう……って、ドル……モン……?オレ、退化してるのか!?」
「今気がついたのか!?」
ウォーグレイモンの驚く言葉を尻目に、ドルモンは自分の手を見つめる。そこにあった手は、赤と白の毛が生えたものでもなく、オメガモンと戦った時の甲殻に包まれた鎧のような手でもなく、ある意味ドルモン自身が最も見慣れた手で。
一段階ならともかく、成長期まで一気に退化したという有り得ない現実に、ドルモンは呆然とするしかない。
「その様子では覚えていないのか?ふむ。どこまで覚えている?」
「覚えて……?何を……っ!」
混乱の収まらないドルモンの耳に届くのは、デュークモンの言葉。
覚えてない。どこまで覚えている。デュークモンの言ったそんな不可解な単語を耳にして、ドルモンは直前の記憶を掘り起こして――。
「っ……!う、うわぁあああああ!」
――直後、ドルモンは思い出した。
トコモンと楽しい一日を過ごしたこと。オメガモンに襲われたこと。進化して、オメガモンを追い詰めたこと。新たに現れたロイヤルナイツに殺されたこと。
それを思い出して。死んでしまった自分が生きているという事実に、今更ながら生き残れたという喜びに震えて。その直後、冷水を浴びせられたようにドルモンは気づいた。
この場に、トコモンがいないことに。
「そ、そうだ。と、トコモン!トコモンは!?」
「……トコモンは……見つからなかった」
目を伏せながら告げるウォーグレイモンを前にして、ドルモンは震える。先ほどの生き残れたという安堵とは違う、そんな喜びを消し飛ばすほどの絶望によって。
守りたかった。助けたかった。その思いは、進化を呼ぶほどだった。だが、守れなかった。
その事実にドルモンは茫然自失とする。
「そ、んな……!」
「ドルモン……」
そんなドルモンの姿は、まさに絶望という経験を体現しているかのようで、見ている方も痛々しい。
失意に沈むドルモンを前にして、この場の誰もが声をかけられなかった。
ウォーグレイモンが先ほど探し回ったところ、トコモンの死体は見つけられなかった。死体すらも見つからなかったということは、生きている可能性もある。
だが、幼年期のトコモンなど、究極体の前ではあまりにちっぽけだ。特に究極体同士の激突に巻き込まれていれば、その余波だけで死体すら残らない可能性の方が大きい。
「トコモ、ンは……」
さらに言えば、究極体の中でもとりわけて強大な力を持った者たちが集まっていたあの場にいたのだ。
あの場に限りなく場違いだった幼年期というちっぽけな命。そんな命があの場を乗り越えて生き残ることができているなどという楽観は、ウォーグレイモンたちにもできなかったし、そんな無責任なことをドルモンに言えるはずもなかった。
「ト……コモ……ン……!」
「おい!大丈夫か!?」
「気絶してしまったようだな……」
結局、ドルモンはショックのあまり、再び倒れ込んでそのまま眠り込んでしまう。
正直なところ、この場にいる者たち全員、ドルモンに聞きたいことはたくさんあった。特に、あの死の進化について。
だが、失意と絶望で寝込んでしまったドルモンの様子を見て、それでいて無理矢理にでも聞き出すことができる者はこの場の面々の中にいなかった。
そうして、何の進展もなく、ウォーグレイモンたちの今日は終わったのだった。
というわけで、第十五話。
オリジナル要素をぶち込んだ話で……はい。すみません!
勘違いしてました。
前回の次回予告に書いてあったドルモンの立ち直りは次回でした。
長かったから分割したのを忘れていました。
本当に申し訳ありません!分割状態でキリも悪いので、次回は明日投稿します!
次回は今度こそドルモンの立ち直り回です!
それでは次回もよろしくお願いします。