【完結】デジタルモンスターゼヴォリューション~Another story~   作:行方不明

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第十六話~変わらぬ意思~

 あのオメガモン襲来の一件から、数日が経って。

 トコモンの死亡という可能性に、一時期は絶望に浸っていたドルモンだったが、ウォーグレイモンたちの奮闘によって最悪の状態だけは脱したようだった。

 まあ、あくまで目を離した隙に自殺しかねないような精神状況から脱せられただけで、良い状態とは言い難いのだが――とはいえ、その辺りは時間か切欠か、そのどちらかくらいでしか解決できないだろう。ドルモンを心配するウォーグレイモンたちには可哀想だが、こればかりはどうしようもない。

 

「……はぁ」

 

 そして、当のドルモンだが、毎日のように隠れ家の外に出ては、ボーッとしながら溜め息を吐くのが日課になっていた。わざわざ隠れ家の外に出るのは、気分転換の面もあるが、それ以上に隠れ家の中が気まずいからだ。

 ウォーグレイモンたちは言わずもがな、デュークモンたちロイヤルナイツの二人もドルモンのことを心配してくれている。それが、ドルモンには逆に辛かった。

 ドルモンは気付いた時からずっと一人で生きてきた。誰かに心配される経験など、今までなかった。だからこそ、誰かに心配されるという今の状況が理解できない。

 敵意とも殺意とも違う、心配というその他人から向けられる感情を前にして、ドルモンはどう対応していいかわからないのである。そして、わからないからこそ、辛かったのだ。

 

「どうするかな」

 

 ここ数日外に出てきた時には、ドルモンはたいてい空を見上げる。今日もそうやって空を見上げていた。

 今日の空は、曇りに曇るドルモンの心の中とは対照的な、憎々しくなるほどの快晴。まあ、快晴が憎々しいとは言うが、雨だったら雨だったらで気分が沈むのだが。

 そうして、いつものように空を見上げてボーッとしていたドルモンだったが、その時隠れ家から出てきた者たちに気づいた。

 その時、隠れ家から出てきた者たちは――。

 

「やぁ。いい天気だね」

「元気か?」

 

 ――出てきたのは、アルフォースブイドラモンとメタルガルルモンの二人だった。

 ここ数日、隠れ家の面々は入れ替わり立ち替わりで、外に出ていくことがある。

 それにはさまざまな理由があるのだが――特にウォーグレイモンとメタルガルルモンの二人は、その片手間にドルモンのためにトコモンを探してもいる。

 まあ、その結果はあんまり芳しくはないのだが。

 

「今日はちょっと長くなるけど、出てくるよ」

「……ああ」

「それじゃね」

 

 未だ自分たちに対する態度が固いドルモンに苦笑しながら、メタルガルルモンたち二人は飛んで行く。

 できれば、二人とも全然コミュニケーションがとれていないドルモンと世間話にでも興じたかった。だが、今日の二人には用事がある。

 今日、アルフォースブイドラモンは、ベルサンディターミナルの別のデジモンたちの隠れ家へ顔見せに行くのだ。メタルガルルモンは、その仲介役である。

 遠くまで行く移動の時間がある以上、遅くに出て行くわけにもいかないだろう。だからこそ、二人は惜しみながらも、さっさと飛んで行ったのである。

 

「……はぁ」

 

 そうして、そんな二人をぼんやりと見送ったドルモンは再びボーっとする作業に戻る。

 そんな感じでその後もずっとその場に座り込んでいたドルモン。

 だが、ボーっとしていようが、何していようが、生きている以上は生理現象があるわけで。つまり何が言いたいかというと――ようするに、ドルモンは喉が渇いたのである。

 

「川に行くか」

 

 水を飲みたくなったドルモンは、ウォーグレイモンたちに黙って、滝下の川の水が飲める位置まで歩いて行く。

 滝の近くということで、川の流れは少し速かったが、別に泳ぐわけではない。水を飲めればいいのだから、このくらいの流れの速さは許容範囲だった。

 川に口をつけ、喉を潤わせるべく、ドルモンはごくごくと川の水を飲む。飲むたびに、喉の渇きは癒される。

 最近ボーっとすることが多く、生きている実感が持てなかったドルモンではあったが、この瞬間には生きている実感を覚えることができた。

 

「生きて、いる……か」 

 

 そうして、その感覚に浸りながらも、ひとしきり水を飲んで満足したドルモンは、その場でまたボーっとする。

 だが、そんなドルモンは忘れていた。ここは、一歩間違えただけで命が失われる過酷な世界であることを。

 

「……」

「はぁ」

 

 ドルモンは気づいていなかった。()()()()()自分を見つめていた者たちがいたことを。

 ドルモンは忘れていた。デジモンは陸や空にばかりいるわけではないことを。

 結局、ドルモンがその者たちに気づいたのは、すべてが手遅れになってからのことだった。

 

「キシャアラ!」

 

 そうして、次の瞬間、川の中から大量の脅威が襲い来る。

 

「っ!なぁっ!」

 

 ドルモンに襲いかかってきたのは、メタルヘッドと呼ばれる金属の頭部を持ち、尻尾に重りを付けた魚のようなデジモンで。それが、メタルピラニモンと呼ばれる究極体のデジモンだった。

 そんな究極体のデジモンが、()()()ドルモンに襲ってきたのだ。その脅威は桁外れ。

 そう。群れという単語からわかるかもしれないが、メタルピラニモンというデジモンは、通常は個体数が非常に少ない究極体のデジモンながら、何故か大量に発生した異常なデジモンなのである。

 

「ガボガバ……!ガババナ!」

 

 なんとか、メタルピラニモンの初撃を躱したドルモン。だが、無理な躱し方をしてしまった代償か、足を滑らせて川の中へと落ちてしまう。

 こうなってしまえば、もはやドルモンの運命は決定したようなものだった。

 メタルピラニモンは並の究極体よりもスペック自体は低いが――それでも、ドルモンとは比べるまでもなく、しかもここは水中。

 ドルモンは陸上生物だ。水中で戦えるはずもない。

 もしドルモンが退化していなかったのならば、強引に水を吹き飛ばすことくらいはできたかもしれないが――所詮は仮定の話である。

 

「ガバゴ……ガババ!?」

「キシャー!」

「クシャウー!」

「ダシャー!」

「グシャシャー!」

 

 軽く数えただけでも十は超えるだろう数のメタルピラニモンが、ドルモンを取り囲む。まるで、お前だけズルいというかのように、ドルモンが弱るのを待っている。

 この水中で、その数の究極体に囲まれるなど、もはや足掻きでどうにかなるレベルを超えている。

 

「ガバ……ゴボ……」

 

 というか、それ以前に、そろそろドルモンの息も限界だった。水中に落ちた時に体力を消費し過ぎたせいか、ドルモンには、もはや自分の手足の感覚さえわからなくなっていた。

 水の中に落ちて、そのように動くことができなくなった陸上動物がどうなるか。言わずと知れたことである。ゆっくりと川底へと沈んでいくだけだ。

 もちろん、ドルモンもその例に漏れない。ゆっくりとドルモンは川底へと落ちて行って――。

 

「キシャーシャシャー!」

 

 ――その瞬間に、メタルピラニモンたちはドルモンめがけて突撃する。この狭い川の中、全員で一度に突撃などという愚行は犯さない。一匹一匹、されど全員が連続してドルモンを襲えるように隊列を組みながら、ドルモンめがけて突き進む。

 ドルモンは、薄れ行く意識の中で、水によって視界がうまく働かない中で、メタルピラニモンが迫ってくるのを感じていた。

 そして同時に、ここで終わりでもいいか、とも思っていた。

 トコモンを守れなかったのだ。あの楽しい時はもう戻ってこないことを思えば、生きていても仕方がない、と。そうドルモンは思ってしまったのだ。

 だが。

 

『やれやれ。その気持ちはわかるけど、ここで終わられても困るんだけどな』

「……?」

『生きていても仕方がない?本当にそう思っているわけじゃないだろう。……お前の想いは違うだろう』

 

 だが、その瞬間に聞いたことのあるような、誰かの声が聞こえた気がして。

 聞こえたような気がしただけで、声の言ったことの内容を覚えているわけじゃない。

 だが、自分の想いをまるでわかったように言われていた気もして、ドルモンは酷く腹を立てて――それでも、同時に不思議と納得もしていた。

 何に対して納得したのかは、ドルモン自身にもわからない。

 だが、その瞬間に、気づいたのだ。

 死にたいと思ったのは嘘ではないが、それはあくまで表面的なもので、心の底からの本気でもなかったことに。この自ら死を選んだ状況でも、死にたくないと思ってしまっていた自分に。

 死にたくない。それは当然で。それはいつも通りで。

 

「ガバガ……あぁあああああ!」

『我が事ながら、本当に面倒くさいもんだ』

 

 そして、そんないつも通りの想いが、ドルモンの進化を呼ぶ。その瞬間、またどこからか声が聞こえたような気がして。

 ドルモンは進化する。川の水を吹き飛ばして、自分に迫っていたメタルピラニモンを吹き飛ばして。

 一瞬後、ドルモンに変わってそこにいたのは、体の半分が機械となった竜。ラプタードラモンと呼ばれる、成熟期デジモンだった。

 

「はぁっはぁっ!」

 

 進化したラプタードラモンは、一気に川岸に上がって水中で吸えなかった息を存分に吸う。息を吸えたことにこれほどまで感動したことは、ラプタードラモンは初めてだった。

 生きている。そのことを実感して、そのことに安堵して。

 結局、ラプタードラモンはこうだった。トコモンの死にどれほど悲しんでも、自分の命を投げ出すことはできなかった。

 生きる。それこそが、ラプタードラモンという存在の――いや、この世界に生きる者たちの根本にあるものだったから。トコモンを失っても、ラプタードラモンのその根本は変わらなかった。

 トコモンの喪失を悲しんでいない訳ではない。だが、それでも生きることを放棄することはできない、と。そのことをラプタードラモンは改めて知って。

 

「キシャーアア!」

「はぁっ……はぁっ……しつこい!」

 

 そうして、そんなラプタードラモンの前に、メタルピラニモンが立ちはだかる。ラプタードラモンにしてやられたと思っているのか、随分とお怒りの様子だ。陸上だというのに、戦う気らしい。

 この場を生きて乗り越えるには、ラプタードラモンはメタルピラニモンたちの包囲網をくぐり抜けなければならない。今のメタルピラニモンたちがいくら陸に水揚げされた状態とはいえ、油断はしない。

 

「行くぞ!」

 

 生き残るためにも、ラプタードラモンは油断なく相手を見据える。

 そして、手近な一匹のメタルピラニモンにラプタードラモンが飛びかか――るその直前で。空から飛んできた炎弾が、メタルピラニモンの一体を消し飛ばした。

 

「なっ!今のは……!」

「大丈夫か!?ドル……モン……?」

 

 ハッとなってラプタードラモンが上を見上げると、そこにいたのはウォーグレイモンで。

 流石にウォーグレイモンまで相手をするとなると分が悪いと悟ったのか。一目散にメタルピラニモンたちは逃げていったのだった。

 




というわけで、第十六話。
前回の続きで、ドルモンの立ち直り(強引)回と再進化回でした。

さて、次回からはまた主人公の影が薄くなって、アルフォースブイドラモンやデュークモンたちなどロイヤルナイツ組の方に視点は移ります。

それでは次回もよろしくお願いします。
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