【完結】デジタルモンスターゼヴォリューション~Another story~ 作:行方不明
クワガーモンを倒したドルガモン。彼は今、トボトボと気落ちした様子で歩いていた。その様子は、まるで迷子の子供を思わせる。
というか、実際に迷子なのだろう。いや、別に道に迷ったとかそういう意味ではなく、この過酷な世界において自分の在り方がわからないがゆえの、迷子。
「……はぁ」
死にたくないから、殺す。生き続けたいから、殺す。
それは、誰もがする当然のことだ。実際、この世界はともかくとして、地球という世界の生物は誰もがこれをしている。
生きることは他人を殺すこと。それは世界の必然と言える。ドルガモンもその摂理をわかっていて――だけど、これは何か違うと思ったのだ。だが、具体的に何が違うのか、わからない。どうすればいいのかも、わからない。
何もかもがわからないことだらけで、ドルガモンの思考は堂々巡りに陥ってしまっていた。
「……ん?」
だが、迷いある者の迷いが晴れるまでご丁寧に待ってくれるほど、世界は甘くはない。いつだって、事態は突然で、当事者の都合など知ったことではなくて。
悩み、嘆いていたそんな時だった。ドルガモンが、辺りが暗くなっていたことに気づいたのは。
夜ほど暗くはない。が、まるで日食が起きたような、太陽が巨大な何かに隠れてしまったかのような。日陰をさらに暗くしたような、そんな暗さ。
その事態を前に、ドルガモンは上を向く。そこにあったのは――。
「え?」
――そこにあったのは、赤だった。あれは何だ。どうしてあんなものが。とドルガモンは混乱していた。
だが、一つだけ。上空にある赤く巨大な何かが、太陽を遮っているということだけは、混乱するドルガモンにもわかった。
そんな混乱するドルガモンの上空から――。
「ふん。随分と辛気臭い顔をしている者がいるものよ。小僧。お主……それでも竜に名を連ねるものか?」
「なっ……喋っ……!」
――混乱するドルガモンの上空から、いきなり威厳溢れる野太い声が降ってきたのだ。
突然の声に一瞬驚いたドルガモンだが、その声の存在によってすぐにこの事態を把握することができた。
すなわち、あの巨大な赤い何かは――デジモンなのだと。そして、ドルガモンの知りうる限りでは、この色で、さらにこれほどの大きさのデジモンなど、一体しかいなかった。
まあ、問題は“かのデジモンが何故こんなところにいるのか”なのだが。
「竜帝エグザモン……!?」
「ほう。儂のことは流石に知っておったか」
「守護者ロイヤルナイツの一員が何で……!?」
天を覆い尽くすほどの巨体を持つ竜。すべての竜型デジモンの頂点に立つと言われるデジモンながらも、同時にロイヤルナイツと呼ばれるデジタルワールドの守護者にも名を連ねるデジモン。それが、このエグザモンだった。
デジモンの中でもトップクラスのデジモン。さらに世界の守護者たるデジモンの一人。そのデジモンがこんな場所にいる。
正直言って、ドルガモンは先ほど以上の混乱に襲われていた。
まあ、当然だろう。相手は世界の守護者。散歩していたら出会った、などそんなことがありうるような相手ではない。
「何で……だと?決まっておろう。我らロイヤルナイツ、イグドラシルの命が下ったのよ」
「イグドラシルの!?」
イグドラシル。この世界がこんなことになった元凶。そして、その命令。
それだけで、ドルガモンには嫌な予感しかしなかった。その顔には、驚きと共に疑問がありありと浮かんでいる。今度は一体何をする気なのか、と。
だが、エグザモンはそんなドルガモンを気に止めることはない。マイペースに話を進めている。
「まぁ、興味ないから蹴ってやったがな」
「えぇ……」
「それで暇つぶしに空を飛んで見れば……実につまらん小僧がいたのでな。からかいに来てやった次第だ」
エグザモンの在り方は正に自由の一言だ。
世界にも、
「小僧。何を迷っている。それでも竜に名を連ねる者か?」
「う……わからないんだ」
「ほう?何がだ?」
「生きたいって思ってる。死にたくないって思ってる。そのために他人を蹴落とした。けど……どうしてもモヤモヤする。それが正しいことなのかわからない」
エグザモンに話を振られたということもあって、ドルガモンはポツポツと語り始める。エグザモンはかのロイヤルナイツの一人。人生経験も豊富だろう。だから、何かいいアドバイスが貰えるかもしれない、とドルガモンは期待していた。
まあ、期待はあくまで期待でしかなかったのだが。
「ふん。くだらん」
「え……」
「実にくだらん!この小僧はつまらんだけでなく、くだらんときたものだ」
「くだら……ない……?」
そんなドルガモンの期待は、一瞬で斬って捨てられた。
「そうよ。そう言っているのよ。正しいことかどうかわからない?ふん。なら聞くが、世の中正しいと言い切ることができるものがどれほどある?」
「それは……そうだ、悪い奴を倒すとか……!」
「そんなものは極論自己満足の域よ。相手にも相手の事情と想いがあるのだからな」
「うぐ……」
「正しいと言い切ることができるものなぞ、正しいと言い切ることができないものと比べればごく僅かでしかない」
エグザモンの言葉を前に、ドルガモンは押し黙るしかなかった。
それほどまでに、エグザモンの言葉には重みがあったのだ。実際に、そういう場を見て、経験して来ただろう者だけが持たせられる重みが。
そんな重みある言葉を前にして、急繕いで用意した返しなど、戯言にも程がある。それを理解したからこそ、ドルガモンは押し黙り、聞き役に徹することにしたのだ。
「自信を持てばいいのよ。正しい正しくないなど、所詮後からついてくるもの。もしくは周りが勝手に言うもの。そのようなことにいちいち気を取られるなぞ、無駄でしかないわ」
「そんな……自信が持てないから悩んでるんじゃないか!」
「ふん。なれば自信がないから小僧は行動しないのか?自信があるから小僧は行動するのか?」
「それは……」
そんなわけがない。生死の関わっている場で、それでも生きようと願うのなら、自信があるなしに関係なく行動する。
ドルガモンは、レオモンの時も、クワガーモンの時も、そうして生き延びてきた。
「悩みなど……迷いなど持っていれば死ぬ。今のこの世界では特にな。なれば、悩むだけ無駄なこと。自分の思うままに行動すればよい」
「……そう簡単に割り切れる話じゃ……それに何の解決にもなって……」
「お主のように迷い、悩み、それでも答えを出そうとする者は見ていてじれったい。そうさな。ならばこうするとしようか」
「えっ!?」
直後、眩しさにドルガモンは目を細めた。陽の光だ。先ほどまでエグザモンによって隠されていた、太陽が突然として姿を現したのだ。
何故。そう思うドルガモンだが、エグザモンの姿がどこにも見当たらないことに気づく。その事実に、ドルガモンは嫌な予感を覚える。
そして、その嫌な予感を覚えたその直後、ドルガモンのその予感を現実のものとするように、空から声が降ってきた。
『今から儂は必殺技を放つ。儂の持つ技の中でも取り分けて広範囲を殲滅する技だ』
「なっ!」
エグザモンは、単純なスペックなら、ロイヤルナイツの中でも指折りの存在だ。
エグザモンは必殺技をいくつか持つが、そのエグザモンが放つと言っているのは、広範囲殲滅の必殺技。まず間違いなく、“ドラゴニックインパクト”だろう。簡単に言えば、大気圏外から超速で落下し、体当たりする技だ。大気との摩擦による熱や、エグザモン自体の巨体、そしてその速度も相まって、破壊力は計り知れない。
破壊力と殲滅力において、ロイヤルナイツの中でも群を抜く必殺技だろう。
そんな技が、放たれる。ドルガモンのいるこの場に向かって。はっきり言って、もう詰んだ。デジモンの成長段階の最高位、究極体でもどうにもできなさそうな技を、たかが成熟期のドルガモンがどうにかできるわけがない。
トドメとばかりに広範囲系の技。ドルガモンが逃げたとして、範囲外まで逃げ切ることなどできないだろう。
「なら……やってや――」
『ほう?やる気か?例え小僧が儂を殺して生き延びても……たかが一介の成熟期デジモンと世界の守護者たる儂と。釣り合いが取れるとでも?』
「……っく」
取れるわけがない。エグザモンは世界を救う者たちの一員であり、この世界に必要な存在だ。まかり間違って、ドルガモンが倒せたとして――エグザモンが抜けたその穴を、ドルガモンが埋めることなどできるはずもない。
つまり、この逃げ場もない状況で、ドルガモンがエグザモンに抗うことは、“正しくない”ことだった。
『どうした?諦めるのかな?儂を殺して生き延びる!それくらいの気概も見せられぬのか』
「……!でも……!」
『ならば、死ね。小僧……貴様の生に対する想いがその程度のものなら……この先も生き残ることなぞできないだろうよ』
キラッと。遥か頭上で、何かが光ったような気がした。
間違いなくエグザモンが落下を始めた証拠だ。あと一瞬後にはこの場に到達し、ドルガモンもこの場も、そのすべてをなぎ払うだろう。
死ぬ前だからか、全てがスローモーションに見える中で、ドルガモンの脳裏にはさまざまな記憶が浮かび上がっていた。
――お前は生きろ……俺の分まで……――
――よこせよこせよこせぇ!――
――自分の思うままに行動すればよい――
――貴様の生に対する想いはその程度のものなら……――
そうして思い返した瞬間に、ドルガモンはハッとなった。
託されたのだ。レオモンから。命を。
奪ったのだ。クワガーモンから。命を。
レオモンもクワガーモンも、彼らだって生きたかったはずで、自分だって生きていたくて。
死にたくない。生きていたい。自分が出した答えが、正しくなかろうと正しかろうと、その思いだけは本物だった。ただその思いだけで、ドルガモンはここにいた。
だから。だから――。
「やめろ……やめろぉおおおおお!」
――だから、ここで“正しくない”から諦めるのは、違うのだ。
直後、ドルガモンを光が包む。それは、進化の前兆で――成熟期に進化したばかりであることを考えれば、あまりにも早すぎる進化だった。
一瞬後、現れたのは赤い竜。エグザモンには遠く及ばないものの、それでもそれなりの巨体。ドルモン、ドルガモンの面影をどこか残した、獣竜。それが、完全体のドルグレモンというデジモンだった。
「あぁぁあああ!“メタルメテオ”!」
『“ドラゴニックインパクト”!』
全身全霊をかけた、ドルグレモンの必殺技が放たれる。その巨体の何十倍もの重量を持つ鉄球が、超速で落下してくるエグザモンを迎え撃つ。
一瞬の拮抗。その後、ドルグレモンの鉄球はあっさりと砕かれて。直後の衝撃波がドルグレモンを吹き飛ばした――。
「ぐぅ……!」
――だが、それだけだ。ドルグレモンはまだ生きている。辺り一帯は衝撃波でとんでもないことになっていたが、ドルグレモンは無事だった。
ドルグレモンの必殺技は、エグザモンの技になすすべもなかったはずだ。普通ならば、ドルグレモンは自分の放った技ごとやられていたはずである。
なのに生きている。そのことに疑問を抱いて――その疑問を目の前を飛ぶエグザモンが解消させた。
「生き残ったか。それが小僧。お主の意思よ。善悪正誤。そんな表面上のものでいくら囚われていようと、結局はそこに行き着く」
「……手加減してくれたのか?」
「何を馬鹿な。存外骨を見せてくれたのでな。外してやっただけのこと」
「……もし骨を見せられなかったら、どうする気だったんだ?」
「その時はその時だ。周りもお主も御陀仏だっただけの話よ」
「な……」
「はは……所詮竜などこんなもの。それに、儂が属すロイヤルナイツもな。奴らも曲者ぞろいでな。なかなかに飽きん」
随分な言い草だ。
もし、ドルグレモンが進化してなかったら。もし、ドルグレモンが意思を見せつけなかったら。考えるだけでも恐ろしい結末がこの世界に訪れていただろう。
エグザモンの気分一つで、この世界は地味に危機に陥っていたのだ。つくづく、自分勝手な竜帝である。
「さて……儂はそろそろ行く。生き延びて見せろ。竜に名を連ねる者よ。その先にお主が何を見るのか……何を思うのか。見させてもらうとするわ」
「……オレは……」
「……ふむ。今のこの世界には正しい事などありはしない。この世界で正しさを見つけたいのなら、行動しろ。そして世界を生き抜くのだ。そうすれば、何かが自ずと見えてくるのだろうよ」
「え?」
「せいぜい生きるのだな。これからの動乱を」
そう言って、エグザモンは空の彼方へと去っていく。
そんなエグザモンを見ながら、ドルグレモンは呆然としていた。
問題は何一つとして解決していない。まだ悩みも迷いもある。が、それでも。答えが出るかどうかわからないが、答えが出るまでは前に進もう、とドルグレモンはそう思えた。
その時、ふとエグザモンが何をしに来たのかを思い返して――もしかしたらエグザモンは、そんな自分のことを最初からわかっていたのかもしれない、と。つくづくスケールの大きさには適わないな、と。
そう、ドルグレモンはひとり笑うのだった。
というわけで第二話。完全体への進化回。はい、ちょぅっと展開が早い気もしますが、ゼヴォで物語を作ろうとするとどうしてもこうなってしまうんです。許してください。
さて、初っ端からエグザモンです。
最新作のサイスルで最も不遇だったロイヤルナイツのエグザモンです。
(ちなみに二番目はガンクゥモンだと個人的に思っています)
この作品内では、単純なスペックだけならロイヤルナイツ内最強という位置づけです。
まあ、あくまでスペックだけなら、ですが。
ええ。戦闘に関する技術という面やその他諸々では、他のロイヤルナイツの方が優れています。
ちなみに、今回の話で、ゼヴォとクロニクルを知っている方は、ん?となったかもしれませんが……そこら辺はまた追々明らかになっていきます。
それでは、いつになるかはわかりませんが、次回もまたよろしくお願いします。
なるべく週一くらいでやっていきたいですね。