【完結】デジタルモンスターゼヴォリューション~Another story~ 作:行方不明
轟々と音を立て、崖から滝が流れ落ちている。この世界でも大きめのその滝のその様はまさに圧巻の一言。水しぶきで辺り一帯が白く濁って見えなくなるほど。
そんな滝の裏側。正確に言えば、滝が流れ落ちている崖の中腹。そこに空いている洞穴に、ウォーグレイモンのアジトはあった。
「大丈夫か?ウォーグレイモン……」
「っく……あれがロイヤルナイツ。流石に強い」
先ほどオメガモンの襲撃から逃げ帰ってきたウォーグレイモンは、このアジトにて休んでいた。
いくら無事に帰ってきたとはいえ、生きて変えることができたのはまさに奇跡のようなもの。それほどのことだったからこそ、彼は精神的にも肉体的にも相当疲れていたのだ。
そして、そんな風に休息しているウォーグレイモンと話しているのは、メタルガルルモン。青い二足歩行の機械狼のような究極体デジモンであり、X抗体持ちだ。
「……でも、俺はあれが彼らの意思だとは思えない。……思いたくはないんだ。きっとイグドラシルに命令されているだけで……!」
ロイヤルナイツがX抗体や通常を問わず、どんなデジモンたちでも虐殺し始めているということは、もうこの世界全体での噂になっていた。そして、それがおそらくはイグドラシルの命令であろうことも。
後者はともかくとして、前者の噂がほぼ事実であるということは、既に確認されている。情報通なデジモンなら既に知っていてもおかしくない。
今やこの世界にとって、ロイヤルナイツとは世界の守護者ではなく、単なる鬼門であった。
「お前の言う通りなら……なお悪い。イグドラシルの言うがままに同じデジモンを殺戮する!そんなアイツらのどこに意思がある?ただの人形と同じじゃないか!」
「それは……」
「オレはそんなアイツらを憎悪する!アイツらのデジモンとしての誇りはどこへ行った!?」
「……それでも俺は、ロイヤルナイツを信じたい」
憎しみを込めて言うウォーグレイモンと対照的に、メタルガルルモンはどこか縋るような、祈るような声色だった。この彼らの声色が、彼らの立ち位置と心情を端的に表していると言えた。
お互いに引く気はないようで。お互いがお互い、内心で溜め息を吐く。頑固だな、と。
そして、そんな時だった。この滝の中に、新たな人影が現れたのは。
「やぁ。ボ……私は、まあ知っていると思うけど……」
「なっ!ロイヤルナイツ!?」
「いやいやいや、ちょっと待ってって!」
滝を越えてこの洞穴へと入ってきたのは、蒼き聖騎士。どこか鳥のような、竜のような装飾の鎧を身に纏っている。それは、言わずと知れたロイヤルナイツの一員で。
メタルガルルモンもウォーグレイモンも、警戒するしかなかった。
もっとも、ウォーグレイモンは先ほどの疲労が抜けきれておらず、辛い内心を顔に出さないようにしての警戒だったが。
「ボ……私に君たちとやりあうつもりはない」
「それを信じろって言うのか?ロイヤルナイツ、アルフォースブイドラモン!」
そう。この洞穴にやって来たのはアルフォースブイドラモンと呼ばれるデジモン。かつて予言の下に現れた、神速のスピードを持つロイヤルナイツだった。
「信じて欲しいけ……が、この状況で信じろとは言えないかな」
「いけしゃあしゃあと……!」
「ウォーグレイモン!」
アルフォースブイドラモンに敵意を剥き出しで突っかかるウォーグレイモンを、メタルガルルモンは窘める。
もしアルフォースブイドラモンがその気だったのならば、自分たちはとっくにやられていてもおかしくはなかった。ここは洞穴。さらに自分たちは彼の接近に気づかなかった。普通ならば不意打ちでアウトだ。だが、そんなことはなく、アルフォースブイドラモンはこの場に来た。それは、自分たちに友好的だからだ。
そうメタルガルルモンは考えたのである。だから、メタルガルルモンはウォーグレイモンを窘めたのだ。
「すまない。ウォーグレイモンも悪気はないんだ」
「いや、先ほども言ったけど……言ったが、普通ならばボ……私を信じてくれと言うのが無理だと思ってる。大丈夫だ」
「……話しづらいなら、普通に話してもいいんじゃないか?」
「……そうだね。うん。そうさせてもらうよ。いや~最近、威厳がないって周りがうるさくてね」
メタルガルルモンの気遣いを受け取って、アルフォースブイドラモンの雰囲気がいきなり砕けたものへと変化した。というか、威厳というものが明後日の方向へとぶん投げられた感すらある。
先ほどまでの話し方からして、アルフォースブイドラモンは話し方を作っているのだろう、と。そう思ったメタルガルルモンではあったが、ここまで変わるのは正直言って予想外だった。
「オメガモンとやりあったんだろ?大丈夫か?」
「……」
「ウォーグレイモン!」
「……ああ」
先ほどからウォーグレイモンの態度が悪い。どうやら、まだアルフォースブイドラモンに心を許したわけではないようだった。
まあ、ロイヤルナイツの面々がデジモンたちを手にかけるところをウォーグレイモンは直接見ているのだ。
アルフォースブイドラモンがそのロイヤルナイツの肩書きを持つ者であるというだけで、即座に信頼できないと判断してしまうのは仕方ないのかもしれない。
「アルフォースブイドラモンはなんでここに?」
「用件ってほどでもないんだけどな。顔見知りくらいにはなっておこうって思ったんだよ」
「……?」
「最近、ボク達ロイヤルナイツ内も複雑でね」
「と、言うと?」
「まず君たちはどこまで知ってるんだ?」
そう、ウォーグレイモンたちにアルフォースブイドラモンは遠慮がちに聞いた。ウォーグレイモンたちがどこまで知っているかを知りたかったのだろう。
それによってどこから話すかが変わるのだから。
「デジモンの急激な増加に危機感を覚えたイグドラシルが旧世界を捨てる決定をしたこと。その後、Xプログラムというデジモン削除プログラムが放たれたこと」
「そして、ここの世界に逃げてきたオレたちだけでなく、選ばれたデジモンたちすらもロイヤルナイツたちは狩り始めた……まあ、そこは噂だけど。これくらいかな」
「……うん、だいたい知ってるね!」
ウォーグレイモンたちは、今のこの世界の概要をだいたい知っていた。
これなら、初めから説明する必要はないだろう。ウォーグレイモンたちの話を聞いて、アルフォースブイドラモンはどの辺りから話すかをだいたい決めたのだった。
「ついでに言うと、それは噂じゃない。イグドラシルはボクらロイヤルナイツに全デジモンの抹殺を命令した」
「……なっ!そこまで徹底して!?」
「そんな……!ロイヤルナイツは、それに従っているのか!?」
いくら噂になっていたとはいえ、いくらその現場を直接見ていたからとはいえ、あくまで噂と推測の域を出ないことと事実であると断定されることは、全く違う。
しかも、断定したのは、実際にその抹殺命令を受けたロイヤルナイツのメンバーの一人だ。
この話は、まるで自分たちの首に縄が巻かれたように感じて。ウォーグレイモンたちは寒気を覚えずにはいられなかった。
「うん。流石に全員じゃないけどな。ロイヤルナイツは今だいたい四グループにわかれてる」
「四つも!?」
「恥ずかしいことだけど……ね。イグドラシルの命令だから、積極的に従っていこうぜっていう者たちと……」
「……!」
「イグドラシルの命令だろうが、どうでもいいっていう者たち。あとは僕のような、イグドラシルの命令でもおかしいと思うから従わない組」
「三つしかないじゃないか」
「あとはまだ迷っている組かな。とは言っても、少数だけどね」
そう。そのロイヤルナイツに名を連ねる者として、アルフォースブイドラモンとしては実に恥ずかしかったが、現在のロイヤルナイツは大変複雑なことになって――というか、下手をすれば内部崩壊の危機があるほどの事態になっている。
とはいえ、それでもイグドラシルの抹殺命令に従う者が少しでもいるというこの状況は、先ほど信じたいと言ったメタルガルルモンにとってショックでしかなかった。
「ロイヤルナイツが……そんなことに!?」
「まぁ、各々の思いの下に行動するような者たちだからね。結構バラバラさ。世界を救う者もいれば、何もしない者もいるし、何もできない者もいる」
「そんなのおかしいだろ!何がロイヤルナイツだ……!」
アルフォースブイドラモンの身も蓋もない言葉に、ウォーグレイモンは憤りを感じた。
そんなのが、世界の守護者なのか、と。そんなのが、世界の守護者でいいのか、と。
「……仰る通りなんだけどね。結果として、情けないが人間の子供たちに頼ってしまうことだってある。聞いたことあるだろう?人間とそのパートナーデジモンの伝説を」
「……ああ、ある。なんで今人間は現れないのかって言う奴もいるくらいだ。……でも!オレたちの世界の問題に、他人を巻き込むなんて――!」
この世界がどうしようもない危機に陥った時、異なる世界に住む人間という種族がこの世界にやって来て、この世界を救う。
それは、デジモンならば一回は聞いたことがあるようなありふれた伝説だ。
いや、伝説ではないか。実際にロイヤルナイツが動けなかった時、人間とそのパートナーデジモンがこの世界を救ったということもあった。
「ああ、君は真っ直ぐだな。うん、良い奴だ。ま、話を戻すだな。ボクたちだって君たちと同じなんだよ」
「……?」
「他人よりちょっと力が強いだけで、ボクたちだって同じデジモンなんだ。できることもあれば、できないこともある。届くこともあれば、届かないこともある」
「……!」
「申し訳ないけどね。ロイヤルナイツってだけで神聖視されるのは、困るんだよ」
「……」
そのアルフォースブイドラモンの言葉に、ウォーグレイモンたちは押し黙るしかなかった。
無論、ロイヤルナイツが世界の守護者という特別性を持つデジモンたちである以上、ある程度の神聖視は仕方ないし、その特殊性ゆえに神聖視されなければならない。
だが、時にはその神聖視が邪魔になることがある。アルフォースブイドラモンはそう言ったのだ。
「で、本題だ。ボクはこれからどうするかは決めてない。けど、これから味方として会うこともあるかもしれないからね。顔見せに来たんだ」
「そう言えば……最初にもそう言ってたな」
「……ん?」
「どうした?」
いきなりのアルフォースブイドラモンの困惑と怪訝な声。そんな彼の姿に、ウォーグレイモンたちは怪訝な表情を向けた。
「これは……オメガモンか?」
「何っ!?」
「君たちはここで待っててくれ!ボクは行ってくる!」
そう、アルフォースブイドラモンは僅かな音を聞き取ったのだ。それは、オメガモンの攻撃時に発せられる音と似ていて。
まず間違いなく、オメガモンがデジモンたちを狩っている音だろう。
見逃すわけにはいかない。そう思ったアルフォースブイドラモンはオメガモンの下へと行こうとして――。
「俺も行く!」
「お前のことを信用したわけじゃない。けど、オレも行く」
――直後、ウォーグレイモンたちも一緒に行くと名乗りを上げた。
先ほど負けた相手の下へと行くのに、ウォーグレイモンのその顔には怯えがない。メタルガルルモンも同様だ。そんな彼らの顔にあったのは、この世界で生き残ってきた者たち特有の強い表情だった。
アルフォースブイドラモンは、そんな彼らの勇気を胸の内で賞賛する。
「……わかった。遅れるなよ!」
「ああ!」
そうして、彼らはオメガモンの下へと向かう。
そこで、予想外の事態に遭うことになるとも知らずに。
というわけで、第八話。
原作で言う滝下でのシーンで、アルフォースブイドラモンの登場回でした。
アルフォースブイドラモンは、ロイヤルナイツの中でもトップクラスのスピードを誇ります。まあ、その分、その他のスペックは低めなんですが。
とはいえ、某Vテイマーでは超究極体版がいたり、とデュークモンに並ぶ潜在能力がすごいタイプですね。この小説内では、作者の偏見と独断、そしてストーリーのせいで、早々にロイヤルナイツから離反することになりました。
さて、次回は遂に主人公のターン!その1。
まさか、あのシーンであんなに話数がかかるとは……。
それでは次回もよろしくお願いします。