俺はアリーナの隅でラウラと簪ペアの練習試合を観てたけど・・・
「ら、ラウラ・・・」
「どうした簪?」
「これは・・・やりすぎじゃない?」
「問題ない。奴らの傲慢さが生み出した結果だ」
セシリアと鈴の二人が・・・
「一夏・・・見てないでさっさと・・・助けなさいよ・・・」
「一夏さん・・・早くわたくしを・・・」
言葉にできない程、ボロボロだ。
「一夏君、助けないの?」
「俺でも助けられない。言葉では言い表されない程、ボロボロじゃあ・・・」
「「なんですって!」」
立ち直るの早い!
「一夏!それ、どういう意味よ!?」
「一夏さん!それは聞き捨てならないお言葉ですわ!」
「俺一人じゃ、どうする事も出来ないほ・・・」
「そう言って、アタシと一緒にいるのが恥ずかしいんでしょ!」
「一夏さん、わたくし達との交流を疎かにしてはいけません!」
どうしてこんなに元気なんだ。あんなにボコボコにされたのに・・・
「いや、二人の交流は十分に・・・」
「どこが十分なのよ!アタシは足り無いわよ!」
「そうか。なら、満足するまで私の特訓に付き合って貰うぞ」
「・・・え?」
練習が続行できると知ったのか、ラウラの顔は笑顔に満ち溢れているんだが、どこか千冬姉を彷彿させる笑顔だった。
「い、いや・・・そういう意味じゃ・・・」
「返答できる程の体力はあるようだな。その体力が尽きるまで練習を続けるぞ」
そこにいるのはラウラじゃなくて、千冬姉だ・・・
「シャルル・・・練習はここまでにするか」
「そうだね。早く部屋に戻って、勉強しないと・・・」
俺とシャルルは空気を読んで、アリーナを早々と立ち去ることにした。
「貴様ら三人を相手しよう。簪!行くぞ!」
その直後、三人の断末魔がアリーナのフィールドに響き渡る。
「何故、私もなんだぁ!」
箒よ、南無三・・・
寮に戻り勉強をし終えた俺とシャルルは食堂に向かっていたけど・・・
「まさか、今度のクラスリーグがタッグ戦には驚いたな」
「僕もビックリしたよ。一人で戦うと思って戦略とか練ってたけど、タッグに変わったなんて」
食堂に向かってる途中、のほほんさんにクラスリーグマッチがタッグ戦になったと聞いた瞬間、シャルルと組んでると咄嗟に言ったけど・・・
「でも、一夏君が僕と組んでるって言ってくれて嬉しかった」
「そうか。早く本当の・・・」
「僕、一夏君に見捨てられるんじゃないかって思っちゃった」
「・・・え?」
「いや!?・・・ほら!一夏君以外の人に秘密が知れ渡ったら、僕はフランスに帰っちゃうからさ!」
「そう・・だな。今夜あたり千冬姉が帰ってくるから、期待しないとな」
「うん」
最近、シャルルの様子がおかしい。
俺の事を凄く気にかけるのは嬉しいけど、昨夜から俺をジロジロ見てる。幽霊に取り憑かれたかの様な目で俺を見る時がある。流石にシャルルがあの三人の様に、俺に付きまとう様な真似はしないよな?
「明日の放課後から僕と一緒に連携の練習してくれない?」
「いいけど」
積極的に誘ってくれるのは嬉しいけど、たまに悪寒を感じてしまう。
食事を終えた俺はシャルルに用があると言って、真耶の部屋へ向かった。
一日クラス担任の仕事で真耶はお疲れだから、俺の料理とマッサージをプレゼントしないとな。
「お疲れの真耶にはご褒美をあげないと」
真耶の部屋の前に辿り着いた俺はドアをノックして真耶がいるかどうか確認した。
「はい、どちらさまですか?」
良かった、真耶は部屋の中にいる。俺は返事をせずにドアを開けた。
「真耶、お疲れ様」
「一夏く・・・んんっ!織斑君!名前ではなくて、山田先生と呼んでください!」
ちょっと強張ってるな。だったら・・・
「いや、俺はこれからも真耶って言い続けるよ」
「せ、先生をからかわないでください!」
「からかってないよ。俺は真耶にご褒美をあげに来たんだ」
「ご褒美?」
「ああ。今日、一日クラス担任として頑張った真耶にご褒美に俺が料理とマッサージを・・・」
「き、気持ちだけで十分なので、織斑君は早く自分の部屋に戻って下さい」
「真耶、そんな・・・」
「とにかく!織斑君は自分の部屋に戻って下さい!」
そう言って、部屋から追い出そうと俺を押し出したが・・・
「兄さん、腹が減った。夕食を作ってくれないか?」
いつの間にか部屋にいた妹の一声で中断された。
「真耶、少し気を張り詰めすぎだよ」
「で、でも・・・」
「教師として頑張ってる真耶は好きだけど、無理をしてる真耶は見たくないよ」
そう言うと、真耶は少し残念そうな顔をしながら俺の作ったナポリタンを食べる。
「私、周りの生徒や先生達から天然とかドジっ子とか言われるんです。周りの人達は悪気があって言ってるわけではないですし、昔からそういう所があるのは知っていた。だけど、このままだと『織斑先生のオマケ』という不名誉な称号を貰いそうで・・・」
「つまり、姉さんがいなくても自分は教師としてやれますと証明したいから、あのような言動をとったのか?」
「はい!」
「はぁ・・・」
マドカは呆れながら俺の作ったナポリタンを食べているが、真耶は深刻に悩んでるんだから素っ気ない態度をとらないでくれ。
「真耶・・・俺は今まで真耶が教師としてちゃんとやれてると思っているよ」
「でも、周りは・・・」
「だって、俺が今日まで学園生活を送れてるのは真耶のお陰なんだ。それに無理して背伸びをする必要は無いし、千冬姉の後を追うようなことはしなくてもいいんだよ。それに周りがどう言おうと、俺はそういうのも含めて真耶の事が好きなんだから」
「無理をして姉さんのマネをしなくていい。自分ができる事を精一杯やることも教師の仕事じゃないのか?」
「そう・・・なのかな?」
俺とマドカの聞いて真耶は首をかしげた。
「俺はそう思うよ。だから真耶、今日は俺のご褒美を素直に受け取って欲しいんだ」
今日の真耶は教師として頑張っている。だけど少し頑張りすぎていると感じた。確かに千冬姉は凛々しくて、(いろんな意味で)強くて、生徒達の憧れだけど、真耶は真耶、千冬姉は千冬姉なんだ。
「じゃあ一夏君、マッサージ・・・やってくれる?」
「ああ、いいよ」
やっぱり真耶には元気な笑顔が似合ってるよ。
「兄さん、そんなにマッサージが上手いのか?」
「ええ・・・一夏君のマッサージは物凄く・・・上手です」
「何故顔を赤くする?」
「それは・・・その」
夜のマッサージの事を言ってるけどマドカは気付いていない。いや、気付いて欲しくない。
「じゃ、じゃあマッサージを始めるか。最初はマドカから」
「恋人じゃなくていいのか?」
「俺のマッサージを体験して欲しいからさ」
「分かった」
マドカが気持ちよさそうにしてる顔ってどんな顔だろう・・・
「一夏・・・これは一体どういう事だ?」
「マドカにマッサージをしただけなんだが・・・」
千冬姉が帰って来て、俺はマドカにマッサージをしたと言ったんだが・・・
「ぐわあ!体の痛みが通常の数倍に・・・ぐあっ!」
「マドカさん大丈夫ですか!?」
どうしてこうなった・・・
「兄さん・・・どこでその拳法を・・・」
「ただのマッサージだから!」
「一夏、お前にも拳士としての・・・」
「ないから!千冬姉も乗らないで!」
何だ!?拳法使いには俺のマッサージは別の意味で効果があるって言うの!?
「仕方がない。マドカは私が何とかする。明日までには何とかする」
そう言い、痛みを堪えているマドカを担ぎ寮長室へ戻って行った。
「マドカさん、大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ。きっと・・・多分・・・」
マドカ・・・元気になってくれ。
「ねえ、一夏君」
「何?」
マッサージは中止だよな。あんな痛い所見たらさすがの真耶も・・・
「私にマッサージしてくれない?」
「え?」
「私にマッサージして」
真耶は顔を赤くしながら俺を見つめるけど、そういう体質でもないのにどうして?
「その・・・私・・・一夏君の・・・ああいうマッサージ・・・好きなの・・・」
そういう体質だったの・・・
「じゃ、じゃあ、真耶がそう言うならやるよ」
「・・・お願い」
真耶は床の上でうつ伏せになり、俺のマッサージを受け入れる態勢になった。真耶にそういう体質があったなんて・・・。付き合って一年半になるけど気付かなかった。いかんいかん!変な事を考えるな俺!いつも通りにマッサージをすればいいんだ!
「一夏・・・そこをどけ」
・・・え?
「聞こえなかったのか?そこをどけ」
何故か鬼の形相をしている千冬姉がそこにいた。
「織斑先生・・・さっき寮長室に・・・」
「行った。そして戻ってきた」
一分も経ってないよ千冬姉。
「山田君。私がいない間のクラス担任はさぞお疲れでしょう。ここは、私のマッサージを受けた方がよろしいでしょう」
千冬姉がYシャツ姿になったけど、手の動きがマッサージをする動きをしてない。獲物を捕らえようとする時の動きになってる。
「あの・・・私は一夏君の・・・」
「安心しろ、一夏とは違う気持ち良さがある。だから安心してマッサージを受けるが良い。一夏、お前は部屋に戻れ」
俺の意思とは無関係に体は回れ右をし、自分の部屋に戻って行った。真耶・・・ごめん。今の千冬姉に勝てる見込みが全くない。
翌日、ちょっと疲れた顔をした真耶と髪が全て白髪に様に見えるマドカがいた。
次回はクラスリーグマッチ戦です。
ご意見、ご感想、お待ちしております。
オマケ
※このお話は、ラウラ・ボーデヴィッヒ視点のお話です。このお話を読まなくても、次の話に支障はありませんが、キャラへの理解が深まる・・・はずです。
私の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。私は簪と一緒に寮長室である人物と交渉している。それは・・・
「ボーデヴィッヒ・・・要件はそれだけか?」
「はい。私と更識簪の同室を許可してください」
「駄目だ。既に簪にはルームメイトがいる。クラスリーグマッチが終わった時にお前のルームメイトも決まる」
教官に簪との同室を認めさせようと交渉しているが、やはり認められない。
「ボーデヴィッヒ。お前に何かあったのかは知らないが、個人の欲求だけで行動起こすのは感心しないぞ」
「これは私個人の欲求だけではありません。私と簪と・・・」
「だからと言って、既にルームメイトが決まっている者との同室は到底認められない」
「私はあの時の・・・」
「分かっている、あの時のお前ではないと言うのは。だからこそ、お前には様々事を学ぶ必要がある」
さすがは教官。私の言いたいことをサラリと言い、反撃の手段を与えない。このままでは簪との同室が夢物語ままで終わってしまう・・・
「お、織斑先生!」
「何だ?」
・・・簪?
「先生・・・ボーデヴィッヒさんのワガママを・・・許してください」
「駄目だ。たとえボーデヴィッヒが変わったとしても、一個人の・・・」
「わ、私が・・・ボーデヴィッヒさんの・・・」
「教育係など任命させん」
「うぅ・・・」
簪の勇気が砕け散った
「これ以上お前達が言っても答えはノーだ。早く自分の・・・」
「教官!」
「・・・何だ?」
私は思わず教官に対し声を荒げた。
「私は簪から様々な事を学びました。人との支え合い、人として教え伝えるべきもの、様々な事柄を私は簪から学びました。そして教官はそれを感じ取っています」
「・・・」
「そして教官はそれを学んだ私を変わったと言いました。なのに教官は私を昔の私と重ね合わせて話を進める。どうしてそんなことをするんですか!」
「・・・・・・」
「教官。あなたが私を鍛えた理由は分かりません。ですが過去に囚われ、私を・・・」
「そこまでにしておけボーデヴィッヒ」
「!?」
教官から強烈なプレッシャーが・・・耐えるんだ。いや、簪を守らなければ!
「ほう・・・私のプレッシャーに耐えたのは、身内を除いてお前が初めてだ」
「教官、一体何のマネですか?」
「あそこまで言われたなら、どこまで成長してるのか試したが・・・まだまだだな」
くっ・・・
「だが、この私にここまで言うようになった褒美だ。一つチャンスを与えよう」
「チャンス?」
「近々、クラスリーグマッチが行われる。今回のリーグマッチはタッグ戦で行われる。ボーデヴィッヒ。お前は簪と組んで成果を見せろ。成果しだいでは簪との同室を認めてやろう」
簪の眼差しから恐怖と焦りが消えている。教官の目も若干ながら私に期待を寄せている。
このクラスリーグマッチの成果・・・優勝以外に道は無い!
「分かりました。ラウラ・ボーデヴィッヒ、全力を持ってクラスリーグマッチに挑みます!」
このチャンス・・・無駄にはしない!