日常回(?)を書くのは、意外と難しいんですね。
千冬姉に指輪を没収されて3日が経った。
俺はいつも通り学園生活を送っているが、真耶の方は落ち込みながらも頑張って仕事をしている。手伝いや労いをしようとすると千冬姉に止められて怒られる。別に悪いことをしようとするわけではないと言おうとしても、クラスメイトと仲良くしろの一点張りで聞く耳を持ってくれない。相川さんや谷本さん達とは仲良くやっていて問題は無い。他のクラスメイトとも楽しく会話をしているし・・・箒達を除いて。
千冬姉の言葉に悩みつつ、学園祭に向けての準備が行われているが・・・
「私語を慎め!不意にご主人様が襲来して来たらどうする!」
早朝、メイド服を着たクラスメイトと一緒に体育館で柔軟体操をしています。
俺が執事のメイド喫茶をする事は決定事項だから文句はない。その為に必要な準備も必要。それで、体力づくりの為にメイド服を着て柔軟体操を行う・・・そこが分からない。
「厳しい訓練に耐えてこそ、真の勝利を得られる。全員、気を引き締めて訓練を行ってくれ」
ラウラの言葉に疑問を感じつつ訓練を行っているが、料理と接客業がどうなるのか想像できない。
「どうした兄さん?」
「この訓練、メイド喫茶で役に立つのか?」
「役に立つから特訓をするんだ。しかし、これが訓練とでもいうのか?私には、ただのお遊戯にしか見えないが」
メイド服を着ているマドカ、執事の服を着ている俺が押す光景はお遊戯には見えないが・・・
「この訓練をお遊戯と言うか?」
ラウラの冷たい視線がマドカに突き刺さる。ドイツの特殊部隊の隊長を務めている事もあって、ラウラから放たれる威圧感は、他者を引きつけない冷酷冷徹な雰囲気である。
「周りがかなり緩いと感じる。どこかしら、はっきり言うなら、確固たる信念と言うものを感じない。この訓練を耐え抜ければ、勝てると誤解している輩もいるのではないか?」
対してマドカは怖気づく事無くドライな返答をしていた。
「では、日本のメイドと言うものを熟知しているのだろうな?」
「奴隷を上手く濁しただけのものだろ?」
「どうやら、メイドの知識は偏っているな」
「誰かを従わせるのも誰かに従う気も初めから無いな」
真剣な顔つきで二人は話してるけど、会話が全く噛みあってない。
「なら、アキハバラのメイド喫茶に行ってみるがいい。メイドに対する見方が180度変わるだろう」
「私に疑似奴隷の生活を見ろとでも?」
「疑似奴隷ではなく、日本のメイドだ。今度の日曜に一夏と一緒に見るがいい」
「・・・そうだな。見て学ぶのも悪くない」
何で俺も入ってるんだ?
「なあ、ラウラ。どうして俺も一緒に行かなきゃいけないんだ?」
「お前にも奉仕と言うのが、どういう物なのか知る必要がある」
「いや、別にそこまでの事を・・・」
「山田先生の奉仕を味わっている以上、メイド本来の奉仕を知る必要がある」
「うっ・・・」
ラウラの言葉に俺は顔を赤く染めざるえなかった。
二学期初日、千冬姉による公開処刑が行われてから周りの視線が若干変わった。入学当初は何らかの期待があったみたいだけど、今では恋愛に関して憧れの対象となりつつある。
憧れの恋愛をしていると周りから言われているが、他の恋人と変わらない付き合いをしているつもりだ。真耶だって、そう思っていると信じたい。
「今度の日曜日、マドカと一緒にアキハバラのメイド喫茶行くがいい。山田先生同伴でも構わない」
「え?」
「山田先生が同伴してはならないという決まりなどない。それに、何かあった時に大人がいれば問題を深刻にさせずに済むという点もある」
「ラウラ、お前・・・」
俺は初めてラウラを心の底から感謝している。最初は周りに冷たく当たっていたあいつが、今では皆や俺にやさしく・・・
「何をしているボーデヴィッヒ?」
なっているんだけど、千冬姉は段々厳しくなっている一方である。
「これは、学園祭に向けての訓練でございます」
「それは分かるが、早朝に無断で体育館を使用するのは感心しないな」
「無断?使用許可証は提出したはず・・・もしや生徒会が!?」
いくら生徒会でもそんな事はしないから。
「冗談だ。許可証はちゃんともらっている。それと、山田先生の同伴は許可しない」
千冬姉が、さらりと俺の希望を打ち砕く発言を・・・
「今度の日曜は緊急の職員会議で山田先生は参加できない。代わりに相川や谷本達と一緒に行った方が良い。いや、行け」
表情を崩すことなく脅迫(?)する千冬姉の前に俺は黙って頷く事しかできなかった。
・・・・・・
「織斑君とメイド喫茶に行くって・・・デートになっちゃうよ!?」
「落ち着いて清香。これはマドカに色んなことを知るために織斑先生が提案しただけよ」
「でも~、おりむーと一緒に秋葉原に遊びに行くなんて夢にも思っていなかったよ~」
「そうだよね」
早朝の訓練が終わり、食堂で朝食を摂っている。相川さん達は俺と秋葉原に行ける事で気分が盛り上がっているが俺の気分は盛り下がっている。早朝の訓練がハードだからと言う訳でもなく、日曜に職員会議がある事だ。
「これじゃあ、日曜日のデートプランが延期だ・・・」
「兄さん、食べないのか?こういう時こそ、栄養をちゃんと摂らないといけないぞ」
鮭定食に箸を付けずに落ち込んでる中、隣でマドカはカツカレーを頬張りながら食べている。
「マドカ・・・これほどまで、お前の食い意地が恐ろしいと感じたことは無いぞ」
「あんなので根を上げるとは先が思いやられる」
相川さん達や俺も含め、今日の朝食はあまり食べていないのに・・・
「だからって、カツカレー4皿は流石に食べ過ぎだろ」
マドカはいつも以上に食べている。どこからそんな食欲が湧いて来るんだ。
「腹が減っては戦などできん」
「誰と戦うんだよ・・・」
「己自身だ」
自信気に言いながら4皿目のカツカレーを食べる姿を見て、千冬姉が常識を身に付けさせたいと言う思いに同情をせざる得なかった。
「一夏君、ここにいたのね。大丈夫?何だか、元気が無いみたいだけど」
妹の尋常じゃない食欲に驚いてる中、真耶が心配そうに俺の所に駆けつけて来た。珍しく右手に青い手提げを持ってのご登場である。
「ああ。早朝から学園祭に向けての準備をしたけど、疲れて食欲が出ないんだ」
「ちゃんと食べないと駄目だよ。朝食を摂る事は脳の活性化につながるんだから」
そう言い、青い手提げから肉球がプリントされてあるピンクのプラスチック容器を取り出した。
「これは?」
「昨晩の作り置きだけど、疲れている一夏君には丁度食べやすいかな?」
容器の蓋を開けると、小さな卵焼き、きんぴらごぼう、ほうれん草の胡麻和えの、三品が入っていた。
「私の朝食の分をあげるから、これで元気になって。私は食堂で、モーニングセットを・・・」
「そんなことしなくても、俺の鮭定食をあげるから。まだ、箸は付けてないから」
「私はただ、一夏君が・・・」
「大丈夫だよ。真耶が食べきれなかったら、俺が残りを食べるから。隣に座ってくれないか?」
真耶の小さな気遣いに少しだけ活力を取り戻し、隣で一緒に食べようと手招きしたが・・・
「姉さんに言われたはずだ。山田先生に頼らず、私や相川達を頼れ。んぐっ・・・カツカレーをおかわりだ」
「マドカ・・・食べ過ぎだ。これで5皿目だ」
「違う。これで6皿目だ」
いつの間にかカツカレー6皿を完食したマドカに、頭を悩ませる朝食であった。
「今日はいつも以上にカツカレーが美味しい」
「俺はいつも以上に、マドカの事で頭が痛い」
次回も日常回(?)は続きます。