ガンダムSEED⇔(ターン)外伝 アストレイ リ:カズイ 作:sibaワークス
「全てのドラマにおいて、主人公という役所はない」
いつの時代も、人は生き、記憶を刻み、そして忘れ去られていった。
しかし、人は結局、忘れられる事、忘れる事を惜しんで物語りを紡ぐものだった。
我々の知る物語も、誰かが忘れる事を惜しんで紡がれた悲しみの残滓なのかもしれない。
結局人は物語に足らぬ物語を必死で生きていく事により道が出来ている。
ならば、道を外れた先にある物語も、誰かによって日々紡がれているのだろう……。
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機動戦士 ガンダムSEED ⇔外伝「ASTRAY Re:Kuzzey」
アストレイ リ・カズイ
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「あー、カズイ・バスカーク。 KIAだね。 戦死扱いだよ」
「せ、戦死って……」
PCからザフトのデータベースにアクセスしたイライジャが言った。
「……どうする? 月からでは、プラント行きの便が無いぞ。 スカンジナビア王国のコロニーに行くか?」
今度は劾がカズイに言った。
ヘリオポリスの崩壊後、彼らは叢雲劾率いるサーペントテイル商会に保護され、
一先ず月面の彼らの事務所まで連れてこられていた。
「えーと……」
カズイは、ちらり、と傍らに居る少女方を見た。
「あぅ……」
エル、という名の少女だった。
カズイもまた、成り行きからこの少女を保護していた。
エルは、不安そうにカズイを見ていた。
「い、いや、一刻も早く、この子をオーブに居る家族の下に送ってあげたい。
ス、スカンジナビア王国のコロニーまで行くのは日数が掛かるし、月での難民申請も通らないんじゃ……」
――ヘリオポリスの崩壊を受けて、宇宙における安保の状況も大きく揺らいだ。
オーブを元とする中立国家では、これまでは原則的に宇宙難民を積極的に受け入れていたが、
中立国家まで狙われる状況である事が判明した現在、難民の受け入れは非常に厳しい審査が行われるようになっていた。
また、宇宙から地球など、より安全な土地を求めて避難する人間が多く発生し、
受け入れ側の国家や公共機関は、大混乱ともいえる状態になっていた。
そのため、僅か6歳の少女であるエルですら、受け入れ先が見つからない日が何日も続いていた。
「エルって、名前だけじゃ身元も調べようがないしな」
「そ、それならさ、あんたたちも地球へ行くんだろ? この子を……さすがにオーブにいけば何かわかるんじゃないかな」
カズイが、劾たちにいった。
「――確かに俺たちは地球に降りる。ここも地球軍に接収される事になった。
またデブリ回収の依頼を受けるまではギガ・フロートの仕事に戻る。
……だが、俺たちもヒマじゃない。その為だけにオーブに行く時間は無い」
「あ! 劾つめたーい!」
風花が、劾にブーイングの仕草をした。
劾は気にも留めない様子だ。
「――ブルーコスモスが居なければなぁ」
カズイはため息をついた。
自分のようなコーディネイターを排斥しようとする団体。
ナチュラルな人間たちによる、過激派組織ブルーコスモス。
彼らは凄惨な私刑を、躊躇なく――自分のようなコーディネイターにすると聞いていた。
カズイが先日から、サーペントテイル商会の事務所に閉じこもっているのも、
ヘリオポリス崩壊を受けて、月にそういった勢力がはびこるようになっているからであった。
「オレもブルーコスモスには苦労しているんだよね」
イライジャが言った。
「イライジャ太っているから、なかなかバレないけどね」
「ウッ……うぅ……」
ロレッタの屈託の無い一言に、イライジャは顔を伏せた。
――カズイの聞いた話では、彼もコーディネイターで……どういう事情かはわからないが、
外見的な調整はほぼされていないらしく、また非常に太りやすい体質らしい。
彼の丸っこい体型は、確かにコーディネイターには見えなかった。
コーディネイターは遺伝子調整で、能力だけではなく、外見も美しくなるように操作されるからだ。
しかし、彼はそのかわりに非常に高い身体能力を持っており、頭の回転も速い。
パイロットとしての能力はザフト兵以上だという。
「――まあまあ、皆、そうかたっくるしいことを言うな。 どうだ劾? 地球までは連れてってやろうじゃないか? その上でオーブに行くかは考えりゃいい」
と、其処へ髭面の男が入ってきた。
サーペントテイル商会で、営業を担当しているリードだった。
「……仕方ないな、拾ったのはこちらだ。いいだろう」
「えっ……!」
カズイの顔に光が差した。
「代わりに、仕事は手伝ってもらう。 地球への降下前に、最後のゴミ拾いがある。
それからギガフロートの仕事もだ。 コーディネイターなら、やれることもあるだろうしな」
「えっ」
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「こ、こんなの酷い、しんじゃうょォ」
「ザフトの訓練に比べたら楽だろ?」
「ザ、ザフトの訓練はきつかったけど、合理的だった。 こ、こんなの」
先程からカズイは運ばれてくるデブリの仕分け作業に追われていた。
数メートル大の機器の残骸をコンテナに移す作業だ。
無重力での作業の為、質量は全く問題ではなかったが、無重力帯では全身を使って体を動かさねばならず
それで物を運ぶのは、重力下で作業する以上に体が疲労した。
長時間水泳でもしたかのような、じんわりとして、とても重い疲労だった。
「ホラ、もうちょっとしたら休憩にするから」
イライジャはケロりとしている。
化け物だ。とカズイは思った。
カズイたちはグレイブ・ヤードに来ていた。
デブリを利用して作られた居住衛星だ。
デブリ回収の任務に当たるジャンク屋たちが、度々拠点として利用している。
――元々は、”世界樹”と呼ばれるコロニーだった。
人類初の本格的なスペース・コロニー。
コレに続いて、ミュトスやプラントツーなどの後期型コロニーが次々に開発された。
しかし、その”世界樹”は、2年前のプラントと地球の戦いにおいて崩壊した。
このグレイブヤードは、まさしく人類の夢の墓場だった。
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「マードック。 何だコイツは?」
劾は、グレイブヤードの”工房”と呼ばれるエリアで奇妙なものを見つけた。
近くにいたこの”工房”の主にソレを尋ねる。
「――ああ、レアメタルだよ。 フェイズ・シフト装甲の素材にもなる一品だぜ」
工房の主――グレイブヤードに一人暮らしている技術者、コジロー・マードックが答えた。
それは縦長に切り取られた金属だった。
まるでソレは――何か刀剣のようなものを連想させた。
「剣――か?」
「そうだ、趣味みてーなもんよ」
「趣味か……」
「後で見せてやるよ――」
と、マードックは工房の奥で、布を被っているコンテナを指差した。
マードックと劾は同じ技術者の縁から、共に仕事をする仲だった。
地球連合やザフトから報酬を得ては、此処を拠点に彼らはデブリを回収していた。
「なあ、マードック。 ここもそろそろ危険だ。 一旦引き払って、俺たちの仕事を手伝わないか? もう残っているのもアンタだけだろ」
「バカ言っちゃいけねえよ……此処にはまだ”世界樹”の遺産がある」
――マードックは、たった一人、この廃墟に残っていた。
かつて、此処がまだ夢の新世界を作る”世界樹”――世界の中心だった頃。
その頃仲間と共に追っていた理想。技術。
そういったモノを、軍事転用させないために、カレは一人、この廃墟と残るデータベース。資源や施設を守っていた。
「だが……それらは、地球連合にとっては喉から手が出るほど欲しい技術だ。この先何度も狙われる事になるぞ? それにザフト側では……」
「負の遺産――ってか?」
――世界樹攻防戦。
血のバレンタインから約1週間後のC.E.70年2月22日、
地球連合軍の月への橋頭堡であるL1のスペースコロニー「世界樹」をザフトが進行。
地球軍はこの戦いに第一から第三艦隊の全ての戦力を投入し、ザフトと激しい戦いを繰り広げた。
なお、この時に核分裂抑止能力を有する「ニュートロンジャマー」が試験投入され、成果を上げている。
戦闘そのものには双方が拮抗し、両軍ともに大きな損害を被るが、
最終的に「世界樹」は崩壊し、デブリベルトの塵――グレイブヤードと化した事で戦闘は終息した。
――ザフトが、コロニー諸共、地球軍を撃破することで。
「血染めの英雄。 グゥド・ヴェイアの凶行――ザフト側で現状唯一の汚点――だね」
作業を終えて帰ってきたイライジャが言った。
「よぉ!太っちょ」
「太っちょはやめてくれよ……」
マードックがイライジャの背中を叩いた。
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「こちらブラヴォー。
『アルファー了解。 地球軍側の動きも気になる。 早めに決める』
「OKだ」
グレイブヤード付近の宙域――ローラシア級戦艦が、グレイブヤード側に察知されないように隠密潜行していた。
そして、その先鋒を行くように、一機のモビルスーツが進んでいた。
それは、赤にに塗られたシグーだった。
そして、その後方を黒く塗られた隠密作戦用のジンが続いていた。
『……それにしても、今更”世界樹”の技術屋に用が出来るとは』
ジンのパイロットが言った。
――年は十代半ばくらいで、少年といっても差し支えない年齢だった。
「コジロー・マードックは金属加工のスペシャリストで、その加工技術が必要なのさ」
それに、赤いシグーのパイロットが答えた。
――こちらは20代半ばの青年だった。
『……だから、切り裂きエドにこの任務が回ってきたと?』
「どうだろうな……っていうかスウェン。 木星から帰ってきたばかりで、勝手がワカランかもしれないが、年上に対する言葉遣いってもんがあるだろ? ザフトだって一応組織だぜ?」
調子のいい声で、シグーのパイロット、エドが言った。
『悪い、しかし、習慣の払拭は困難だ。 できるだけ注意する』
エドワード・ハレルソン。
”切り裂きエド”の異名を持つザフトのエース・パイロット。
その物騒な二つ名は、彼がモビルスーツにおける近接戦闘のスペシャリストであることから付いた。
物資の不足しがちなザフトでは――圧倒的な物量を持つ、地球軍に、一対多の包囲戦を仕掛けられる事が多々あった。
ザフト側は、コーディネーターの駆るモビルスーツという、その強力な戦力でそれに対抗したが、
それでも、やはり、弾丸が尽き、物資が切れてしまえば、後は数の差で追い込まれる、といった場面が多くあった。
しかし、エドは、そういった戦闘に於いても、ジンのもつ近接戦闘用のサーベルを駆使し、弾丸が尽きて尚、地球軍を圧倒した。
――そうした戦闘を経たとき、彼の機体は、敵軍のマシンオイルで、まるで返り血を浴びたように赤く染まっていたという。
それが、切り裂きエドの異名の由来であった。
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「レイ、何かお話してよ」
「お話! お話!」
劾たちを待つ間、退屈を持て余した風花と、エルがレイに詰め掛けた。
『オハナシ――? それでは、大気圏に燃え尽きたアリスという、友達の話を……』
「え……と、友達? ……でも、それ重そうだから……他の話がいいな」
エルが言った。
「恋バナとかある?」
友達がいたんなら、と風花が試しに聞いた。
『恋――特定の人物に強く執着し、大切に思うこと――では、最初のカレシの話でもしましょう』
「えっ」
「最初って……意外にレイ、恋多き女なんだね……」
『カレは、天然パーマで、機械いじりで有名なちょっと内気なヒトでした、カレとの出会いは突然で……』
「は、はじまった!」
「AIの恋バナ!」
AIと二人の幼女は、世にも珍しいガールズトークを始めようとしていた。
「こら、二人にはまだ、早いわよ」
しかし、それを風花の母であるロレッタが遮った。
「えー」
「そんなーお母さん!」
『カレは段々と私に依存するようになって、”君を一番うまく使えるのはボクなんだ”とまで言うようになりました。 私はいつも胸の中の彼に思いました。 振り向かないで』
「レイもやめなさい……」
「わたし、レイの恋バナ聞きたい!」
「エルも!」
「この子たちったら……」
その様子をデブリの売却額の帳簿を付けながら、見ていたリードが笑った。
「お嬢さんがた退屈させちまって悪いな。 そうだ! グレイブヤードの仕事が終わったら地球だ、カザッパナはロレッタと温泉でも行って来い、親子水入らずで……」
「……リード!」
風花が叫んだ。
「あ……わりぃ」
リードはエルの方を見た。
彼女は、親と別れて此処にきているのだ。
両親の事を思って不安になったのか、エルの表情は暗く、重いものになった。
「ううん……平気だよ……カズイおにいちゃんもいるし」
気丈にもエルは言った。
「エルちゃん……エルちゃん、此処にいる間は、私のお母さんも、私も家族だから」
「――そうよ。 サーペントテイル商会はプロの集団。 だけど――」
「「アットホームな社風です」」
風花とリードが息の合った様子で言った。
「なにそれー!」
その様子が面白くって、エルは笑い出した。
しかし……。
ビーッ! ビーッ!
「なに!?」
「敵――ザフトか!?」
風雲急を告げて、グレイブヤードに、招かざる客が訪れようとしていた。
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『――コジロー・マードック殿 こちらはザフト、第三軌道上船隊だ。 常々連絡している協力要請の回答を伺いたい。
――貴殿が不法に所有している我が国の資源の回収と、貴殿の身柄の確保の許可も得ている。
あんたも、コーディネイターでプラント籍だったはずだ。 わかってもらえるよな?』
赤いシグーからマードックの元に通信が入った。
「劾、ローラシア級1、それからシグータイプとジンが多数だ」
「イライジャ! お前は先行して偵察を頼む」
「了解! 今日一日の重労働を無駄にはしたくないな」
イライジャと劾が、急いでモビルスーツに乗り込む。
イライジャはカスタムされたジン。 劾は先日手に入れた、青いアストレイと呼ばれた機体だ。
「あの……俺は」
カズイがおずおずと、劾に聞いた。
「お前は風花たちを頼む。 いざとなったら此処から脱出してくれ」
「そ、それだけ?」
二人の乗ったモビルスーツは、グレイブヤードを離れていった。
「――劾さん! あの……マードックさん? ジンとかありませんか? 俺も手伝わなくていいのかな」
カズイがマードックに聞いた。
「あるにはあるが、渡せねえな」
「でも……」
「なんせ、俺の秘密兵器だ」
「へっ……?」
マードックは、工房の奥の、布を被った巨大な物体に向かった。
そして、近くにあったコントロール・パネルを操作すると、その幌が取れた。
それは、カスタマイズされたジンだった。
そして背中には――。
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「劾! 赤いシグーだ! 恐らくは特務隊仕様だぞ!」
「分かっている――赤か、この間から縁があるな」
「モビルスーツが五機! 結構な数だ」
「俺たちサーペントテイル商会が相手だ。 そのくらい必要と判断したんだろうな」
グレイブヤードには、合計5機のモビルスーツが迫っていた。
1機が赤いシグー――そして、4機のジンが迫る
4機のジンは、バラバラに散開した。
赤いシグーはまっすぐに劾に向かってくる。
「イライジャ!」
「わかってるさ」
イライジャのジンが、向かって右側を突っ切る。
後続の敵を牽制するつもりなのだ。
「金にならん殺しはやりたくないが――通用する相手かな?」
劾は赤いシグーにライフルを構えた。
「――! 早いか!」
「フン!」
が、直ぐにライフルの照準が合わない事を悟る。
敵はエース・パイロットなのだと劾は知る。
「この青い機体! ヘリオポリスで作られたというオーブのロストナンバーか!? ……一つは傭兵の手に渡ったと聞いていたが、まさか白蛇商会にも渡っていたとはな」
エドは、得意の近接戦闘は仕掛けず、大きく間合いを空けてライフルでアストレイを牽制した。
「……? なんだこの戦い方は?」
劾を、違和感が襲う。 まるで誘い込まれているような……時間稼ぎをされているような……。
「イライジャ! 出てきたモビルスーツは五機! ローラシア級で来ているならもう一機居てもおかしくないはずだぞ!」
「と、なると――隠密潜行で一機先行したか!?」
「――まあ、コジロー・マードックの事だ、問題はなかろうが……できる限り早くしとめるぞ!」
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「あそこが”工房”と呼ばれるエリアか――ターゲットが確保できない場合、最低限サンプルだけでも回収する――」
木星帰りのエリート・パイロット、スウェン・カル・バヤンの乗る特殊任務用のジンは、デブリの陰に隠れながら、グレイブヤードの目の前まで接近していた。
「目標補足。 砲撃と同時に一気に攻め入る――!」
スウェンは操縦幹を握りなおし、ペダルを踏んだ――そのとき、
ズバアァアアア!!
「!?」
咄嗟に、身を寄せていたデブリから離れた。
ジンの左手が、切断されている。
「なっ!?」
「外しちまったかぁ! 羽くらいはもぎ取るつもりだったのによぉ!」
ジンだった。
その手には長大な、ジンの身の丈はあろうかという”カタナ”が握られている。
「俺の愛刀スワロー・リターンを避けるとは、中々のテダレだな」
マードックは笑った。
「なんだその武器は――モビルスーツ用の物干し竿か?」
「ハハッ! 俺の作った斬機刀――いんや、このサイズなら斬艦刀だな!」
「デブリごと、俺のジンの手を切った……中々の威力だ。 これは上層部が欲しがるのも分かる」
『どうだ! スウェン! 上手くいったか?』
「ハレルソン、ターゲットがモビルスーツで出てきた。 隠密作戦としては失敗だな」
『――おいおい! が、まあいいか、出てきてくれたんなら――こっちは白蛇商会を何とかする――そっちもなんとか、捕獲してくれ!』
「了解した」
「お? まだやるかぁ……! やってやるぜぇ?」
コジロー・マードックのジンは、肩に背負った愛刀――スワロー・リターンを腰に移し、居合いの構えを取った。
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「時間を稼ぐつもりだったが……そうもいかなくなったんでな!」
エドのシグーはサーベルを引き抜いて、劾のアストレイに切りかかってきた。
「チッ!?」
劾は咄嗟にシールドで受けた。
「速いな」
そして、ライフルを腰に戻し、肩のビーム・サーベルを引き抜いた。
「ビームサーベルか!」
エドはシグーを引かせた。
「――そりゃッ!!」
一方、イライジャのジンは、ジンを一機ずつおびき寄せ、撃破する戦法を取っていた。
一機のジンを既に大破させている。
「ハレルソン隊長! コイツ! やります!」
「一機のモビルスーツに苦戦か! 噂の白蛇商会、恐るべしだな!」
「サーペント・テイルだ! そのほうがカッコイイだろう!」
劾の機体が、デブリを蹴って跳ねた。
その反動で一気に加速する。
「はやいっ!?」
エドが、ビーム・サーベルをシグーの重斬刀で受けた。
「受けられんさ!」
ズバァアア!!
シグーの剣が、ビームサーベルでいとも簡単に切られた。
「ダメか――いい獲物だな! おい、予定変更だ! アイツを寄越せ!」
「りょ、了解! ブリッジ! NOL-Y941を射出しろ!」
エドに命令された部下が、ローラシア級に電文を送る。と、ローラシア級からコンテナが射出された。
「――! 何をするつもりか知らんが!」
劾は、射出されたコンテナをビームライフルで狙う。
「やらせるか!」
ジンの内の一機が、射出されたコンテナに体当たりした。
コンテナは大きくその進路を変えて、ジンはその身代わりにビームの砲を受ける事になった。
「うわぁっ!!」
ライフルのビームは、足に命中して、ジンは大破した。
「よくやった! お前はそのまま離脱しろ!」
エドは、犠牲になったジンのパイロットに声を掛けると、コンテナへと向かった。
「劾!」
イライジャが、エドのシグーを追撃する。
「分かった!」
劾は、イライジャのジンを援護した。
ビームライフルで、イライジャの進路を阻むジンを狙撃していく。
「ぬあぁっ!」
またジンが一機、バックパックを貫かれて大破した。
残る敵機はエドのシグーと隠密潜行したジンを入れて3機である。
「どけぇっ!」
最後のジンも、イライジャが重斬刀で首をはねて、その動きを止めた。
あとはシグーさえ止めれば――。
そう思った劾とイライジャであったが、
カッ!
何かの閃光が、イライジャの目に映った。
「ビームの剣!?」
イライジャが、先ほどエドがしたように、その剣を重斬刀で受けた。
ズバァッ!!
イライジャの剣が、ビーム刃によって切り裂かれる。
先ほどの劾とエドの戦いを、まるで反転させたかのような光景である。
イライジャの機体は、剣だけでなく、胸の装甲まで切り裂かれていた。
「ぐぬぅっ!?」
「お返しだぜ! ――このレーザー対艦刀で意趣返しさせてもらう」
エドのシグーは、その手に、コンテナの中身――ザフトで開発されたばかりの試作の近接兵器――NOL-Y941レーザー対艦刀を抱えていた。
これは、ビーム兵器の実用化を急いでいたザフトが、先日ヘリオポリスで奪取したストライクの武装を元に、実験的に製作したプロトタイプのビームサーベルであった。
シグーやジンなどの、ビーム兵器を装備するには出力の足りない機種でも装備出来るように、補助ジェネレーターとバッテリーを剣側にも搭載した試作兵器である。
「イライジャ! 下がれ、そいつはオレがやる!」
劾は、再度、ビームサーベルを構えた。
「すまない、劾! オレとした事が……」
「うぉおおおおおお!!」
劾のアストレイが、エドのシグーに再び迫る――。
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「てりゃああああああ!!」
「チッ!?」
コジロー・マードックの剣撃が、再びスウェンのジンを捉えた。
「くそっ! いいセンスだ――だがっ!」
スウェンは剣がギリギリ掠める程度の間合いで、マードックの剣を避けた。
「なぁっ!?」
「それだけの大剣ならば、動作も重かろう!」
「ちぃ!」
グアッ!!
スウェンのジンが、マードックのジンにしがみついた。
「離せ! この野郎!」
「ハレルソン。 ターゲットを捕獲した。 これより帰投する」
「さすがだなっ!? こっちは試作の武器まで出すハメになったところだ! 助かったぜ」
「さすが、白蛇商会といったところか……だが、これで我々の勝利――」
スウェンが、マードックのジンを持ち帰ろうとしたそのとき。
「!?」
ピーッとビープ音がスウェンのコクピットに鳴り響いた。
――ロックされたのだ。
マードックのジンを咄嗟に離し、離れた――。
ビシュウッ!!
ビームの閃光が、スウェンのジンの太ももを貫いた。
「ぐああっ!!」
スウェンがレバーを倒し、全速力で離脱する。
「助かったのか――いや!?」
マードックが、ビームの放たれた方向を見て顔をしかめた。
その方向にあった反応は――地球軍――そして、其処に見えたのは、彼らに雇われた傭兵部隊の姿――。
「劾の
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「エド、すまない。やられた……連合の雇った傭兵部隊だ」
「何!? チッ、仕方ないな ――ジャンク屋、勝負はお預けだな」
ザフトのモビルスーツたちが帰投していく――。
「劾! この間の赤い奴だ!!」
イライジャから劾の元に通信が入る。
「チッ! 今度はあの傭兵、連合側か――本当に縁があるな――」
「へっ! どうやら助けてくれた……ってわけじゃないらしいな?」
マードックは、ジリジリと近寄るアストレイからゆっくりと離れた。
『あの船の中にあるレア・メタルとデータを渡してもらおうか』
「へっ! 誰がそんなこと――」
ブォオオッ!!
「ぬぉっ!?」
凄まじいスピードで、マードックの機体に、赤のアストレイが迫ってきた。
「こ、こんのぉおおおおお!」
――速さ勝負だ。
「居合いだッ!」
マードックは決断した。
自分の守る、技術者の意地。
戦争で散っていった仲間の無念。
そんなものを傭兵風情にやらせるか。
その心が、マードックに剣を抜かせていた。
スアァッ!!
「フフッ?」
「よけられた!?」
しかし、剣は虚しく空を切った。
ロウ・ギュールのアストレイは、マードックの剣を避けていた。
しかし――。
「だが、さっきのジンに見切られた時――閃いた――これはどうだ!」
マードックのジンは、手首を一回転させた。
――人間には出来ない挙動である
「名づけて、ツバメ返し!」
「ッ!?」
――一閃。
マードックの、スワロー・リターンは、アストレイの首を捉えていた――はずだった。
しかし。
「なにぃっ!?」
アストレイの首は、残っていた。
ビームサーベルを構えて。
そして、スワロー・リターンの先端部が、逆に欠けていた。
「ち、オレとした事が、自分の技術に慢心したばっかりに――」
慢心が、マードックに判断力を失わせていた。
「悪いな、オレはあんたみたいな技術屋――嫌いじゃないんだ――だがな!」
ズバァアアッ!!
「うわああああああ!!」
マードックのジンは、胴体を残して、ビーム・サーベルでバラバラに切り裂かれていた。
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「ジャンク屋ぁっ!!」
「きたか! ムラクモ・ガイ!!」
再び、宇宙で、青と赤のアストレイがまみえることになった。
『生存反応あり、コジロー・マードックは無事です』
レイが、劾に告げた。
「まぁ、あの傭兵ならそうするだろう」
『なぜ、そのように判断したのですか?』
「なんとなくだ」
『非論理的』
「そうだろうな!」
劾は、レイに構わず、ビーム・サーベルを引き抜いた。
ロウも、ビームサーベルを構えて、劾に対峙する。
ババァッ!!
ビーム刃同士が近づく事で互いに干渉し合い、激しいスパークが生じた。
「――
「オレもだ!
剣と剣、二体のアストレイが、今度は文字通りの真剣勝負に挑む事になる――。
激しく、火花を散らす、二体のアストレイ。
勝負は全くの互角。
ただ、異なる点があるとすれば――
『劾、出力低下。 ビームサーベルの使用は控えてください』
「――!」
先ほどまで、劾はザフトのモビルスーツと戦闘をしていたというところだ。
エネルギーの残量が少ない。
(仕とめ切れるか――?)
この間は、コロニー内部で互いに脱出するという命目があったから、拳での戦いになった。
だが、今回は、そういった制約の無い戦いとなる。
武器無しで、勝てる相手ではない。
(が、一か八か、速攻で決めるほかあるまい)
劾は、ビーム・サーベルの残量を確認する――あと数撃、といったところだ。
「いけるか――!?」
劾のアストレイは、宇宙を駆けた。
「――!」
ロウのアストレイは、それを往なした。
「くっ……傭兵!」
劾が再度剣を返す。
しかし、ロウの機体には届かない。
「ゼェエエイ!!」
もう一度、劾はバーニアを吹かし、ロウに接近する。
しかし――
「パワーダウンか!?」
ビームサーベルの刃が消える――!
「チッ!」
劾は咄嗟にビームサーベルを投げ捨て、最低限のパワーをアストレイに残した。
「――悪いな! ジャンク屋!」
それを見たロウの
「グァッ……!」
「――オレにもオレの仕事があるんでね!」
ロウ・ギュールのアストレイは、劾のアストレイを一瞥すると、グレイブヤードに真っ直ぐ向かう――。
「くっ!」
「チクショウ! やっぱりそれが狙いかよ!」
コジローが叫ぶ。
もはや、なすすべは無いのか――自分たちの技術は、またも戦争に利用されるのか――。
「くそ……手は無いかレイ」
「――いや、あるぞ!」
「マードック!?」
「――おい、ボウズ!!」
コジローは、グレイブヤードに通信機で怒鳴った。
「え、ええっ!?」
そこには、慌てふためくカズイの姿が――
「オレのジンのあった隣に、もう一個、幌かぶりがあるはずだ! ソイツを射出しろ――」
「わ、わわわわああ!!」
カズイは、急いで、”工房”に備えられたマスドライバーに積荷を載せて、射出させた――。
バシュゥ!!
「なんだ!?」
ロウの脇を、積荷がすり抜ける。
マスドライバーで加速されたコンテナが、グレイブヤードから射出される。
「劾! 受け取れ――そいつは特別製なんだ! ビーム・サーベルとも戦える!」
「!!」
劾のアストレイは、積荷をキャッチした。
その中身は――。
「カタナか!?」
「そうよ! そいつぁレア・メタル製の斬機刀――名づけて、
「”
「へっ、世話になってるアンタにくれてやろうと思ってな――」
「ありがたい、使わせてもらう――」
劾は、腰のマウント部に
「おいおいマヂかよ――かっこいいじゃんかよ!!!」
ロウが、ビームサーベルを構える。
――一閃!
「っう……あぶね!!」
劾の、アストレイの抜刀が、ロウのアストレイのアンテナを切り裂いていた。
「っクソ! 俺様のツノが片方欠けちまったぜ!?」
ロウは急いで機体を引かせた。
マードックの時と同じく、ロウはビーム・サーベルでカタナを受けていた――。
しかし、マードックのスワロー・リターンとは異なり、アマノムラクモは、ビームの粒子をも乗り越えて、ロウの機体を切り裂いていた。
「――いい剣だ。 ビームサーベルとの刃合せにも耐えるとはな」
劾が呟く。 刃こぼれ一つしていない。 宇宙空間でそれは妖しさと神聖さの二つを孕めて、光り輝いていた。
再び、劾はアマノムラクモを鞘に収め、そして、居合いの構えを取る。
「へっ、ジャンク屋、やっぱりアンタはおもしれーな」
その様子を見たロウが、コクピットの中で笑った。
「……今度はこっちのパワーがマズい。 今回は、アンタの勝ちでいいぜ」
ロウは、アストレイの両手を挙げさせると、そのまま、あとずさるように機体を引かせていった……。
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「マードック。 いい剣だ。 やはり、アンタ達の遺した技術は、戦争に使うべきじゃないな」
「ああ――でもよ。 やっぱり無理だな。 これ以上は」
マードックは、ポツリと呟いた。
「マードック?」
「分かってはいたんだ――だけどよ。 オレも結局は技術屋だ。 本当は技術を――完全に捨てちまうのが怖かっただけなんだよ」
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「ええっ!? このグレイブ・ヤードを大気圏に!?」
風花が、コジローの提案に驚いて言った。
「そうよ、中のデータや設備ごと、大気圏に落として燃やしちまうんだ……特に手に負えないものはな」
「でも、勿体無いよ! 中には、ヒトを助ける技術だって!」
「へっ……そうかもしれねえけどよ。 殺す助けになる技術のほうが多いさ。 本当はもっと早くこうするべきだったんだよ
オレは技術屋の意地と――エゴでコイツを守ろうとしてただけだ。 でも、ムリだって、分かったからよ?」
「でも……」
「この戦争だってさ。 もとはといえば、やっちゃいけねーって言われてた遺伝子改良の結果だろ? 俺たちコーディネイターってヤツのさ」
「そんな……」
自嘲気味に言う、コジローの様子に、風花の声も泣きそうな声になった。
「グレイブ・ヤードはバラバラになった廃コロニーをつなげたものだ。 細切れにして落としていけば、自然に燃え尽きるさ。
そうだ、あんたらも、一緒に落ちていくといい。 最近は、宇宙からの落下物はなんでもザフトと疑われるからな――オレも地球に降りるよ。
コーディネイターに優しい太洋州連合にでも行って、機械の修理工でもやるさ」
「マードック……」
「だけどよう、劾――技術は使うヤツ次第だ――アンタにやった餞別。 アンタならちゃんと使ってくれるって信じてる。
そしたら、俺たちの技術だって完全に消えちまうわけじゃない……いつか、な?」
マードックは、笑顔で、劾へ向けて、親指を立ててサムズアップした。
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グレイブヤードが、地上に向けて落ちていく。
人類の夢の墓場が、成仏していく瞬間だった。
――しかし、それでも亡霊は残った。
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「プロフェッサー……あの短時間に全データのバックアップが取れたのかよ? 流石だな」
自身の拠点――ザフトの艦船を改造した母船に帰ったロウ・ギュールを待っていたのは、仲間達からの報告であった。
「ええ、ロウがあのジャンク屋の気を引いてくれたお陰でね」
「フ……このガーフィールドに掛かれば、容易い事です」
メガネの妖艶な女性と、長髪の貴公子然とした男性が答える。
「私もがんばったのよぉ? ロウ?」
そこに、豊満な乳房をした女性が現れ、ロウに擦り寄った。
「
「フフ? オーブのラクス・クラインにもね、それから、コーディネイターを敵視する、危ない連中にも」
「ザフト、最大のスキャンダルか……まあ、どう使うかは俺たちの考える事じゃないさ……」
ロウ・ギュールと仲間達は、眼前に広がる地球へと目を向けた。
彼らもまた、次なる仕事を求めて、地球へと降りるのだ。
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「見つけたのか、スウェン」
「ああ、これだけ良質のサンプルがあれば、なんとかなるな」
スウェンのジンが、母艦に持ち帰ったもの。
それは、ロウ・ギュールに切り落とされた、マードックのスワロー・リターンの先端部であった。
「あの物干し竿――素晴らしい切れ味と硬度だった。 レアメタルを使えば、ビーム剣に対しても対抗できるとも分かった」
「コレで、スピットブレイクに間に合うな――ビーム・サーベルと併用する事で、地球軍のモビルスーツにも対抗できる」
「フェイズシフト装甲をもつ敵にはビーム・サーベル。それ以外の敵にはこの技術を使った重斬刀で、戦力の即時強化、大幅な底上げが見込める――」
「ザフトは、これで、まだまだ戦える……!」
この後、エドワード・ハレルソンは、完成したばかりの近接戦闘用ディンを以って、地上に降りる事になる。
その目標は、シベリアに降りたアークエンジェル隊のモビルスーツ。 イージスとなるのであった。
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「――オレ結局なにもしてないな」
カズイは降下していくサーペントテール商会の宇宙船の中で頬杖を付いていた。
横では、エルが眠っていて、カズイの体に頭を擡げていた。
カズイの物語はまだ始まったばかり。
彼が主人公らしく振舞うのは、まだ先の話である。
主役ながら、主役足り得ない。
それもまた、彼が