東京ニ觭人   作:syuu

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ふと、一人称を中心に書いてみたくなって、やってみました。


始まる前の話

「僕。お名前、おじさんに教えてくれるかな?」

 

「……角沢(かくざわ)空暖(あだん)、です」

 

本当にどうしてこうなってしまったのだろう。

 

海が近い所為か風が運んでくる潮の香りが通り過ぎる、ガラス張りの小さな交番の中で四歳ほどの小さな体に似合わない大き目のシャツを着せられて、ざっくばらんに切られた赤い髪から出る両側頭部に一つずつ、角の生えた男の子、空暖(あだん)は年齢より大人びている疲れ切った顔をしながら小さくため息を漏らした。

優しく語りかけてくる警官と向い合せに座る子供……空暖の容姿も異常だったが、その状態はそれ以上に尋常ではなかった。

同年代のわんぱく盛りの子供と比べて痩せて窶れた身体とその細い腕に対して袖から覗く無骨な鎖が乾いた音を鳴らし、将来を約束された整った顔には痛々しい殴られた痕が残っていた。

 

しかし虐待、否、拷問を受けた後のようなその様子に比べて彼の精神は安定していた。

 

何故なら、意識を取り戻す前に生まれ変わってからの死亡フラグを乗り越えてきたばかりなのだから。

 

 

そう彼は、仏教の転生輪廻を経て新たな生を受けた所謂転生をした転生者だったのだ。

 

 

 

 

 

角沢空暖。

生前は、氏名共々世間一般の大学受験を控えた所変わったものもない男子高校生で、青春真っ盛りの最盛期に風邪を悪くして急性肺炎となってポックリ死んだこと以外は、ごく普通の少年だったのだが、何の因果かその時の記憶を保持したまま再びこの世に生まれ落ちた……ところまでは良かったのだが、誕生後の待遇が色々おかしかった。

自分の頭の突起状の角のようなものに嫌な予感が溢れていたけど、敢えて考えないようにしていた。

 

出産後、母親の胎内で共に過ごした双子の兄弟と母親から引き離されて、一人小部屋に入れられ。世話をするのは、同じ白衣でも看護師といった雰囲気ではなく、実験動物を見るような目で観察しながら色々な検査を受けさせる科学者。

時折、その科学者を更に見下す初老のスーツ姿の男性が小部屋の上部に設置されているガラスから空暖を見て生理的に悪寒を走らせる不気味な笑顔が嫌いだった。

半年頃、世話役の科学者から「ディクロニウス」だの「角沢長官」、「双子のスペア」、「ベクター」といった聞き捨てならない台詞を聞いて自分の第二の生を呪った。よりもよって、あの『エルフェンリート』の世界に生まれるとは想像していなかった。

それは、岡本倫を原作とする現人類を滅ぼす可能性を持った新人類、ニ觭人(ディクロニウス)人間(ホモ・サピエンス)が互いの存続を掛けて殺し合うSF漫画でアニメ化の後にハリウッド映画化の話もあった。日本よりも海外で有名な作品だ。

自分は、その中でも重要そうな位置に居ながらも出落ちであっさり殺された唯一の男性のディクロニウスこと、(ルーシー)の弟の双子(イレギュラー)とし生まれたのだ。

 

全てを察した俺は、三日間ずっと夜泣きを繰り返して吹っ切れた後、何が何でも生き残ることを決めた。

 

現状からいって、世界で三人しかいないオリジナルのディクロニウスである以上、研究所側から殺されることはないまでも、近い将来に実の姉に物理的に首を落とされることが分かっているので如何にかしてこの研究所から逃げるのがベストなのだがそれは叶わない、この研究所から出ることはできないからだ。外部からの協力者が居れば話は変わるが、ディクロニウス最大の武器である「見えない腕」ベクターが出せない状態ではどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

二歳か、三歳の頃に今まで、ずっと何もない部屋から、寝ている間に移動したのか起きた時には、両手に鎖の付いた手錠を嵌められて前の小部屋よりずっと広くて長い部屋にいた。

 

そこからは、地獄の始まりだった。二人いる男のディクロニウスでもベクターが発現するのか実験するために双子の内後から生まれた自分が実験台として選ばれたのだ。

 

「150J(ジュール)。クリア」

 

広くて長い部屋の自分から見て奥に設置されている巨大なピッチングマシンのような機械から飛び出す大人の拳ほどの鉄球が、打ち出された。鉄球はレーザーポインターで狙っていた俺の脳天を目指し真っ直ぐ飛んで来たが五メートルからその軌道を少しずつ、ずらしていきすぐ横の壁にめり込んだ。

 

「180J(ジュール)、始めます」

 

正直、精神年齢が成人目前だろうがなんだろうが関係無しで普通に怖かった。原作で自分の実力を隠すために出来るだけ減速させて顔面で受け止めていたジルペリット(生殖能力が無いディクロニウス)がいたが、四歳児の発想じゃない。

 

「、ッギャ」

 

結局、俺も頑張って歯や目を失わないように注意して受け止めていたけどな。

 

 

 

 

 

四歳過ぎて暫くたった頃、血筋上父親である角沢長官が双子の兄を機械洗脳(インプラント)して自分に従順な姿を見せつけながら、異父姉のルーシーを捕らえたことを伝えに来て、

 

「今いる全ての人種を滅ぼし。私が、新人類の父となった暁には、お前にも働いて貰うぞ」

 

と、いつもの気難しい顔のまま機嫌良くいやらしく笑っていた。

 

(そろそろ頃合いか)

 

原作の大振る舞い(クライマックス)である、鬼ヶ島こと国立生態科学研究所沈没が近づいて来た。

思えば、自分は何かと幸運だったのかのしれない。洗脳機器であるアジナーの施術の有り無しの経過を見るサンプルとして手術を免れ、父親と認めたくないあの男に姉との対面に連れて行かれることもなかったのだから。

 

しいて言うなら、顔面鉄球のベクター性能観測実験が毎日行われていて痛覚が麻痺してしまったことが気に掛かるが、これはもうどうしようもない。

 

「ごめんなさい。兄さん」

 

今生で喋る事さえ叶わなかった、父親の後を付いて出ていく双子の兄の最後を見送り。どうやって逃げ出そうかと考えていると、床の下から無数の可視化されたベクターが天井を目指し上がってきた。おそらく施設の2000メートル地下にある地底湖から延びるそれは、原作通りルーシーが加速的に成長したものの表れだろう。

俺は、背中から自分のベクターを伸ばし囲い込むように展開して衝撃に備えると床が一気に爆ぜた。

ベクターの波動を瞬時に加速させて一種の振動兵器とすることで透過した物体を蒸発させるそれは、研究所に2000メートルの大穴を作り出した。

その爆発で、壁も一緒に壊れたおかげで鎖も外れて自由になった俺は、とにかく外に出るためにベクターを上に伸ばし穴から見える空を目指した。

 

崩れかけた研究所の屋上まで上がり、生まれて初めて外の世界を見た俺を出迎えたのは、研究所から立ち上る煙と絶海の孤島に吹き荒れる潮風だった。

島の敷地内は、セキュリティが切れて自由になった、名も知らない姉妹(ジルペリット)が脱出を図る研究員を思い思いの方法で殺し回っていて、血と人の焼ける匂いが鼻を突いた。

不意に、何か途轍もなく嫌な感じがした方を見ると、眼鏡を掛けた肌着の女性がコールドケースを持って逃げようとしているのが見えたが、今はこの島から直ぐに逃げることが重要だ。この流れだと、ディクロニウスのベクター発生器官を抜き取って培養した新兵器を持った自衛隊がやってくるため急いで逃げる。

海岸を目指しベクターで飛び上がると、地平線の方から軍艦らしき船が見えたので急ぎ方向を変えて島の海岸に着くと暫く考えて貫頭衣を着たまま海に飛び込み、ベクターを使って蛸や烏賊の様に海中を泳いで行き、ある程度沖に出て取り敢えず軍艦が見えなくなったことを確認して潮の流れに身を任せていると、島の崩壊によって生じた大波に煽られて意識を落とした。

 

 

 

 

そして、気付いたら警察に保護されていたという訳だが。

 

 

 

 

ここは、一体どこなのだろうか?

 

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