君と見る世界の物語   作:ひよこ中尉

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プロローグ


第1話

「リーベ…お前は世界を知れ、それがお前に望む、私の最後の…」

 

遥か昔から住まうという、マナを司る残響の魔女がいた

圧倒的なるその強さで世界を掴み、存在していた

しかしその存在を見た者はいなく、お伽話と呼ばれるまで古いが確かにその存在はいつも在り、恐れられていた…

そんな魔女も、いつかは寿命で消えてしまう

これは世界から魔女が居なくなったその後の物語…

 

魔女には愛弟子と呼べる存在がいた

魔女はその愛弟子に全てを託し、幸せそうな表情でこの世から去ったという

魔女がいた霧の森は人を迷わす霧が薄まり、緑豊かな森林を表す

魔女が住んでいた屋敷から一人の赤茶髪の青年が出てきた

 

「世界を知れ、か…」

 

 

先生から言い残された最期の言葉

意図なんてわからなかった、でも、先生の言葉の意味を知りたかった、だから俺は世界を見て回る、このエスティヴァールの世界を

 

「おや、リーベさんじゃないですかー身支度されてお出かけですか?」

 

陽気な声に振り返ると大きな鞄を背負った金髪の活発そうな少女がにこやかに笑っていた

この少女はフィル・フィード

商業ギルドの長、先生とは知り合いらしいく、普段の生計取引や魔術道具などはフィルから調達していたらしい

 

「フィルさん、はい、少しばかり長旅をと思いまして」

 

「そうですか、寂しくなりますねー道中は気を付けないと魔物が多いですからねー」

 

「大丈夫ですよ、俺にはマナの御加護がついていますから」

 

マナは世界を巡る力、魔法とは違い世界や自然から力を借り発動する

手順や適応能力などいろいろ必要なのだが、残響の魔女はマナを借りるというよりも自身をマナの一部として扱っていた、つまり彼女は世界の一部だったのだ

 

「慢心は禁物ですよー何かあれば商業ギルド、ガルデバランに立ち寄ってくださいね、私も世界中巡ってますし───」

 

突如空気が変わり鳥がざわつき出した

鳥が羽ばたく森奥から一線の閃光、フィル狙いの攻撃と理解したリーベは半透明のマナのシールドでその攻撃を弾く

 

「な、なんなんすか!?盗賊!?」

 

フィルが言うことはあながち間違ってはいない

魔女を狙う者はたくさんいる、賞金に目が眩む者、討伐せんとする勇者、貴重な魔術品を狙う賊

 

「………」

 

しかしそこには盗賊とは似つかわしくない桃髪の少女がいた右目は眼帯をしていて、その殺気の眼差しはフィルに向けられている

それに特徴的な大薙刀だ、刃が長くランスのようだがどことなく機械的で、なにか仕掛けがありそうだ

 

「フィルさんが狙いか…!させない!」

 

リーベは相手が動くと同時に背負っていた長剣ツヴァイハインダーを構えた

その少女は矢の如く前進し大薙刀を振りかざした

がしかし、その攻撃はリーベに大きく弾かれ、少女はよろめいた、その隙を狙いリーベは右拳に力を込め、少女の大薙刀を殴り飛ばした

 

「しまった、武器だけ弾くつもりが…!」

 

少女はそのまま木に激突し倒れたまま動かなくなってしまった

 

「あちゃー…あれは当たりどこが悪かったら…ねぇ?」

 

不吉な事を言ってくれると、リーベは急いで少女に近づくがどうやらただ気を失ってるだけのようだ

少女の眼帯は取れ綺麗な素顔していた

 

「女の子ですね、エコーさんも随分いろんなとこから恨まれてたんですねー」

 

「まったく、先生は…」

 

リーベはやれやれと剣を地面に刺し少女を背負った

 

「先生の部屋なら傷を癒す道具ならあったはず、フィルさん扉開けてくれますか?」

 

リーベはフィルに鍵を投げ渡し、フィルは屋敷の鍵を開けて三人は屋敷の中への入っていった

 

………

 

あれから数時間後、少女の傷はかすり傷程度だったが、疲れていたのだろう、先生のベットに寝て目を覚ます様子はない、それにしてもこの子は少し怪我が多い気がする

 

「この子、どこから来たんでしょうね、リーベさんの傷よりもほかの傷が目立ちますし」

 

それは少女が起きないことにはどうしようもないが、ただ訳ありなのは理解出来る

 

「とにかく今日は安静にしてもらいましょう、この様子だとしばらくは起きそうにありませんし」

「そっか、それじゃ私も泊まってこーかな」

 

「あ、ああ、は?」

 

唐突すぎる、どうせ面白そうとか思ってるんだろう

こういう事に首を突っ込みたくなるのは先生と変わらないな、めんどうな人達だよ…

 

「男女が屋根の下で二人っきりというのはお姉さんわくわく…こほん、いけないと思うな、面白そう!」

 

「ただ漏れじゃないか!本音ぐらい隠してくださいよ!」

 

やれやれと軽いため息をし少女を見る

彼女は何しにここまで来たのか、魔女狙いだとしても、あまりにも無謀すぎる、彼女には何かある…のか?

 

………

 

翌日の朝

目覚めた少女のもとへと向かい、事情を聞くこととなった

 

「………」

 

警戒と怯えの表情がリーベとフィルに向けられていた

少女の瞳は左眼が碧眼、右眼が赤眼となってとても不思議と綺麗だと思わせる

 

「はーい、フィルお姉さんですよ?貴女お名前は?どこから来たのかなー?」

 

「………」

 

左手がそわそわ何かを探すように動いている、彼女にとっては敵が目の前にいるようなものだから不安で仕方ないのだろう、きっと探しているのは武器に違いない

 

「フィルさん、警戒されまくりですよ、えっと、俺はリーベ・ルーンリフェルト、君の名前教えてくれるか?」

 

出来るだけ優しく声をかけることに努力をしてみるが

相変わらずの警戒、困ったように苦笑するリーベ

まあ、仕方ないか…

 

「………てください…」

 

すると少女は小さく言った

 

「え?」

 

「武器を返して…ください…」

 

「ええ、お姉さんもびっくり、立場上返してしまうとあっぶないんですよねー」

 

フィルさんの言うことはもっともだ、こんな狭い部屋で暴れたら危険だ

でも、このままじゃラチが明かないのは確かだ

リーベは立て掛けてあった少女の大薙刀を差し出す

 

「…!」

 

大薙刀受け取った少女は自身を斬ろうと大薙刀を自身に向けて刃を向けたが慌ててリーベに止められた

 

「び、びびった!なんてことするんだ!君は!」

 

「離してください!魔女に殺されるくらいなら自分で死んだ方がマシです!」

 

「思い切りがいいけど勘違いしてるって!魔女はもういないんだ!」

 

「え…」

 

ピタリと少女の動きが止まった、話を聞く気になるなったのか

 

「一週間前に彼女は死んだんだ」

 

「え、で、でも三日前に王都を襲ったのって…」

 

三日前?襲った?

 

「うん?訳ありですかね?」

 

そのようだ、彼女は何かしらの理由で魔女を狙った

 

「事情を話してくれる?大丈夫、俺たちは君に危害を加えるつもりはないから」

 

そう言うと少女はゆっくりと 大薙刀から手を離した

 

「…三日前に私の街が魔女に襲われたんです…でも」

 

違うって気づいたんだろうな

そのはずだ、彼女はもういなかったから

 

「顔は見てなかったのか?」

 

「一瞬だったから…それに魔女の仲間がたくさんいて…」

 

「うん?もうそれ完璧な偽物だねー」

 

確かに先生は誰とも組まない、たとえ組んでも対等に行動できるはずがないし、それに先生は何もしてない街なんて襲わない

 

「勘違いで襲ってしまってごめんなさい!!死んで、死んでお詫びします!!」

 

急に取り乱して変な子だなぁ…

 

「それは大丈夫ですよーそれにしてもどうして一人で?王都から来たなら傭兵ぐらい雇えばよかったじゃないですかー」

 

「そ、そんな…迷惑は掛けられません…」

 

迷惑…そんな理由で一人なのか…無茶するけど、なんだか共感できるなと少し内心笑った

 

「君は無謀だな、魔女に一人だなんて、彼女が生きていたら危なかったよ」

 

あの人は本当に八つ裂きにしかねないからなぁ…悪い意味で手加減しないし

 

「いいんです…私が死んだって誰も悲しまないですから…」

 

そう言う少女はどこか儚げだった、寂しそうな苦しそうな表情…どうしてこの子はこんなに苦しそうな表情をするのだろう…

 

「私は悪魔憑きなんです…この目が証拠ですから」

 

少女はオッドアイの瞳を向ける、不安で仕方ないのか震えている

この感じ…あまり好きじゃない…見てるだけで少女が壊れてしまいそうな…

 

「悪魔憑きの少女…へぇ」

 

「フィルさん知ってるんですか?」

 

「有名ですからね、血を吸った赤き瞳は魂を吸い、言霊となりて黒き暴龍現れん、破滅をもたらすとされた言い伝えですよ」

 

「………」

 

また辛そうな表情…なんだろうこの気持ち…苦しい…

 

「だから魔女に殺されるならそれもアリかなって…私が消えれば喜んでくれる人もいるから」

 

「…そんなことはない」

 

「お心遣いありがとうございます…でも大丈夫ですよ、私は、慣れてますから、ここもすぐに出ていきます…」

 

ああ、もう!このもやもやは!

 

「君は、ダメだ!」

 

気付けばそんなことを言っていた、だけどもう言いたいことを我慢できない、気持ちに素直になろう

 

「君は自分を大切にするべきだ、君が消えて喜ぶ奴なんていてたまるか!悲しい表情をするな!俺が君を笑顔にしてやるから!」

 

っ!

君を、笑顔に…?

この言葉…確か先生が俺に言ってくれた言葉…だった

ああそうか…この子は俺なんだな…行き場の無い孤独、それを抱えようと潰されている

この子には、誰かの手が必要に違いないのか…

 

「あ、あの…」

 

突然のことで驚いているのだろう、空気を読まないフィルさんでさえ呆然としている

 

「うっ…ごめん、君の事情もあるのに勝手な事言って…熱くなると周りが見えなくなるんだ…」

 

「いえ、あの…少し驚いちゃって…」

 

何度これで先生に笑わられたか…

 

「いやぁ、熱血ですねぇ、リーベさん、でもグッジョブ」

 

フィルさんはにこやかに笑った

 

「君、名前は?」

 

「クロウィ…クロウィ・エルフィード」

 

「エルフィード?そんなはずが…」

 

フィルさんが何か呟いていたが、今はこの子との会話が先だ、フィルさんの疑問は後で聞こう

 

「そっか、ならクロウィ、まずは君の傷つけた偽魔女に懲らしめに行こう」

 

「え…」

 

「偽魔女がいるのは俺にとっても嫌だし、それに目的がない旅よりも目的がある旅がしたいしね」

 

「ちょっとリーベさんー絶対後半の方が理由でしょー」

 

「余計な事言わないでください」

 

変に鋭いからこの人は…空気さえ読んでくれれば有り難いのに

 

「あ、あの、その…お気持ちは嬉しいんですけど…ごめんなさい…貴方を巻き込むわけには生けませんから…」

 

「やーい、リーベさんフラれた〜」

 

キャッキャと子供のように笑い楽しんでいる、悪魔だ

 

「アンタ楽しんでるな…」

 

しかし断られるとは…弱ったな…

 

「あの、私、もう行きますね…」

 

困ってるのを悟られたのか、それとも反論を言わせない為か、クロウィはそそくさと部屋から出てしまった

 

「なんと逃げ足の速い、よっぽど嫌われましたね、リーベさん」

 

「うっ…意外と心にきますよ、フィルさん」

 

「あはは、まぁ、なにはともあれこれで旅に行けますね、行き先が決まらないのであればまずは私とガルデバランを目指してみます?」

 

「……」

 

過るのはクロウィのこと、本当に一人で行かせてよかったのか…でも拒絶されたからな…追いかけづらいし…

 

「…ふぅ、やれやれ、彼女を笑顔にするんじゃなかったんですか?彼女をこのまま見捨てるんですか?」

 

軽くため息をしたフィルは少し真面目な声で訪ねた

 

「追いたいですけど、本当に嫌がってたら可哀想ですし…」

 

「まったく!イライラしますねぇ!この子は!」

 

ムキー!と怒るが子供っぽくて少し笑えてしまう

でもフィルさんがイライラしてるのもわかる、わかるけども…

 

「自分の言葉に責任を持ちなさい!」

 

フィルが眼帯をリーベに投げ渡す

クロウィはそそくさと行ってしまったから忘れてしまったのだろう

 

「追う理由はそれで十分です、来ないでと言われてもついていきなさい!あの人の弟子なら簡単でしょ」

 

「フィルさん…」

 

リーベは眼帯を見つめる、クロウィのあの辛そうな表情を思い浮かべてしまう

悩んで思い込むのは悪い癖だって先生にも言われてただろ、行動しないで終わってたまるか!

 

「フィルさん!ありがとうございます!やっぱり先生の友人だ!」

 

心が少し晴れた、追うんだあの子を…!

リーベは部屋から飛び出しクロウィを追う

部屋に残されたフィルの元に片耳が白い黒猫が一匹入ってくる、その黒猫は尻尾に銀の鈴を着けていた

 

「行っちゃいましたねぇ…貴方も面倒な事をしますね、エコーさん」

 

「そうかのう?あの馬鹿弟子は世界を本でしか知らん、だから旅立たせるのはこれが手っ取り早いのじゃよ」

 

エコーと呼ばれた黒猫が喋りだし窓際に飛び乗る、その瞳は走り出す弟子を見ている

 

「寿命だってまだまだ先ですし、リーベさんに直接言えば旅立つと思うんですけどね」

 

「馬鹿を言うでない、あの馬鹿弟子は私にべったりなのじゃ!そう簡単に離れるものか!」

 

「あー…あはは、まぁ、そういうことにしておきましょう、それよりもエコーさん、お疲れでしょう、温泉行きましょうよ温泉」

 

「む?温泉とな?」

 

「はい、いい場所ありますよ〜」

 

「おぉ、ちょうどよい、馬鹿弟子がいつまでも旅立たぬから隠れていた疲れでもとるかのう」

 

こうして魔女は弟子を騙し、世界を知る旅に出させた、運命の小さな小さな幕開けとなった

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