「おとーさん、ちょっと遊んでいこ?」
酒場の知り合いに声を掛け終え、家に戻る前にルナがそんなことを言ったんだ。遊ぶって言ったって、この辺に何かあったかな。
「遊ぶ? 何か気になるものでもあったのか?」
そんな俺の問いかけには答えず、ルナがある一点を見つめている。そこにあったのは、小さな公園と、子ども用の遊具がいくつかあるくらいなんだが。
「ルナ、もしかしてあれで遊びたいのか?」
じーっと穴が開くほど見つめているルナ。確かに、見た目は15歳くらいでも産まれて一ヶ月くらいなんだ。いろんな物に興味を抱く事は悪いことじゃないしな……寄り道くらい構わないだろう。
「よし。ルナが気の済むまで遊んでいくか……俺も懐かしくなってきたし」
そう言った途端、じっと見て俺を見上げていた表情が明るくなった。くそう、この笑顔は反則だろう。
「ほんと? じゃあね、じゃあね……あれに乗りたい」
ルナが指差したのは、太い木の枝からぶら下がっているブランコだ。そう言えば、農場にも大きな木があったな……今度ブランコくらい作ってやるか。
「よし。押してやるから、ちゃんと座ってるんだぞ?」
『おとーさんが』って付けそうになった辺り、俺もおとーさんと呼ばれることが嫌じゃないのかもしれない。だからと言って、ポチやアロマさんにからかわれて平気かって言われたら、そうでもないが。
「うん。はやく、はやく」
きちんとブランコに座り、両端の紐を持ったことを確認するとゆっくり背中を押し始める。
暫くは二人とも無言でブランコの軋む音だけが聞こえていたんだけど、不意にルナが口を開いたんだ。
「ねえ、おとーさん。おとーさんはどうしてモンスターを狩るの?」
正直、予想していたといえば予想していた問いかけだろう。ルナも元がモンスターである以上、いずれはもつ疑問だ。
「俺がモンスターを狩るのは、生活のためっていうのもある。モンスターと闘うのが楽しいって言うのもな。でもな、きっと人とモンスターはそうやってバランスを取っているんだよ」
「バランス……?」
不思議そうに振り返って見つめてくるルナの目には疑問の色が。少し難しいかもしれないけど、暫く聞いていてもらおうか。
「人が必要以上に自然を荒らせば、モンスターが怒ってその人間を襲うだろう。その逆もまた同じだよ、村や街に被害が出そうな場所までモンスターが出るなら、人間はそのモンスターを狩るんだ。そうして、人間とモンスターは多過ぎず少な過ぎずのバランスを保っているんじゃないかな」
「そっか……バランスか」
ルナは何かを考えるように、うんうん唸っていたけれど……すぐに頭の許容量を超えたのか大きく溜め息をついてこっちを見てきた。
「じゃあ、私が街や村に迷惑をかけたら……狩る?」
正直どう答えたら言いのか、わからなかったよ。でも、ルナは俺に答えを求めている……なら、きちんと答えるしかないだろう。
「そうだな……本当に迷惑をかけたのなら狩るのかもしれない。でも、ルナはそんなことはしないだろう? ルナはおとーさんの悲しむ姿が見たいか?」
あくまで穏やかに、そう問いかけ返す。自分を殺すのかと問いかけてきたルナの目には、一瞬驚いた後すぐにいつもの表情に戻った。
「うん、おとーさんが悲しむのは見たくないよ。優しいおとーさんが大好きだし」
保護者として好きと言われているのはわかっていても、照れるもんだよ。自分とそう歳の変わらない異性からの『好き』って言葉には。
「帰ろうか……そろそろ皆来ている頃だし、パーティーの準備をしなくちゃな?」
くしゃくしゃと頭を撫でてやってから、ブランコの揺れをゆっくりと緩めて止める。ルナは少し名残惜しそうだったけど、空腹には勝てないのかすぐに頷いて立ち上がる。
「うんっ。ばーべきゅーをするんだよね、楽しみっ」
先刻とはうって変わって明るい表情になったルナを引き連れて家に戻ると、もう数十人もの飲み友達やら、ハンター仲間やらが待ちわびていた。
「遅いよー、ルナ、ソウヤ!主催者が遅れてきてどうするのよ」
アロマさんが手を振って声を掛けてくる。
「デートでもしてたのかー? 別に朝帰りでもよか……ぎゃああぁぁぁ!!」
ポチが後を継いで声を掛けてくるも、数人の男性から囲まれて殴られてるよ。たしか、『ルナちゃん親衛隊』だったかな? 面倒くさそうな物ができたもんだな。
「行こうかルナ、皆待ってるみたいだし」
「うんっ」
満面の表情を浮かべたのを確認して、俺とルナは皆のもとへ走り始めた。
この笑顔を浮かべるルナを狩るなんて事は無いだろう……お前の笑顔は俺が守ってやるさ。
―つづく
こんばんは、蒼の涼風です。
11話、お送りしました。
ここから少し、物語を動かしていこうかと思います。