結局、俺は外で星を眺めたまま気を失ってしまったらしい。酒に呑まれるなんて格好悪いな……反省反省。
しかも家の外は農場だ、うつ伏せで眠っていたみたいだから唇がじゃりじゃりする。
「仕方ない……風呂に入るか」
一人でそんな事を呟いて風呂場に向かう……今日はアロマさんも居ないし、ばったり裸の女性と遭遇なんて事も無かった。
……のだが、現実ってのはどこまでも残酷と言うか、意地悪なモンなんだな。風呂に入るため、脱衣所で服を脱いでいたんだが……脱衣所は洗面所と兼用して使っている。
意味がわかるだろうか?いや、この展開ならわかるだろう……服を脱いだその瞬間、ルナが起きて顔を洗うために脱衣所に入ってきたのだ。
『…………』
二人の間に流れる嫌な沈黙……みるみるルナの顔が赤くなっていく。うん、感受性が豊かになったものだ。
「いやああぁぁぁぁああぁ!!」
そんな叫び声を上げて部屋に戻ってしまった。いや、嫌って言うな、嫌って……ちょっと傷つくぞ。
そんな事を考えながらも、俺は体中の土の不快感に負けて風呂に入ったよ。狩りの時はともかく、平時に我慢するような感覚じゃないしな。
「あのね、話があるの」
風呂から上がって開口一番、ルナがそんな風に切り出した。まだ顔が赤い気がするが、無視だ、無視。
「話?話ってなんだ?」
どうにも真面目な様子だったので、俺も茶化すことは無く椅子に腰を下ろす。少々喉が渇いていたが、我慢できないほどじゃない。
「私、ハンターになりたい!」
俺の向かい側に座っていたルナが、『ドンッ』と身を乗り出して訴えてきた。その際に多少乱れた金色の髪を気にする様子も無く、二つの翡翠色の目が俺を捕らえる。
まてまて……ハンターになりたい?つまり、モンスターハンターになりたいってことか、ふむ……。
「ダメだ」
にべも無い返答だろうと自分でも思う。でも、ルナをハンターにすることは反対だ……危険だし、同族殺しをさせることになる。
「おとーさんの言いたいことはわかるよ。危険だし、同じモンスターの命を奪うことになるって」
ルナは全く目を逸らさずに訴えてくる。そこまでわかっていて、何故ハンターになりたいなんて言うのか俺には理解できなかった。
「でもね、私は護られているだけなんて嫌なの。おとーさんやアロマさんが危険な目に遭っているのに、ただ待つだけなんて出来ないよ」
ポチの名前が無いのはこの際無視だ、あいつは殺しても死なないだろうし。
「だからと言って、ルナまでも危険な道に入る事は無いだろう。それに、最近のモンスターは……」
「私はっ!」
何とか説得しようとした俺の言葉は、ルナの悲痛な叫びに消された。見ると、その目に涙を浮かべているし……お、俺が悪いのか?
「私は、おとーさん……ううん、ソウヤと対等になりたい。ソウヤだけじゃない、皆と対等になりたい……自分の目で、世界を見たいの。だから、私に狩りを教えて……」
一切の迷いも躊躇も無い目で見つめ返されて、返答に困った。だが、はいそうですかと認めるのは難しい。
「ハンターの仕事は凶暴なモンスターを相手にするだけじゃない、人に無害なアプトノスやポポだって、依頼があれば狩ることがあるんだぞ。いや、依頼がなくても食料に困れば狩るんだ……お前にそれができるのか?」
我ながら汚い質問だと思う。でも、目を背けられない……何の罪も無い命を奪っているという純然たる事実。それを乗り越えられなきゃハンターとしては無理だ。
「今は断言できないよ……でも、やる。辞めたいなんて泣き言は言わないから……お願い」
揺るがない二つの瞳を見て俺の心も決まった。良いだろう、そこまで言うなら迎え入れてやるよ、俺たちの見ている世界に。
「わかった、じゃあギルドマスターに連絡しなきゃな……一人ハンター見習いが増えるって」
降参と言った調子で肩をすくめて見せると、途端に表情が明るくなる。まったく、厄介な子だな。
「なら、もう『おとーさん』は無しだ。さっき見たいに、俺の事はソウヤって呼ぶんだぞ……わかったか?」
「うん、わかった…ありがとう」
屈託無い笑顔を浮かべる相手の頭をなでると、俺は防具を着けるため立ち上がる。
本当に厄介なことになった……そう頭では考えているのに、これからのことに期待を馳せる自分が居るのも確かだ。
俺もまた、ルナと見る狩りの世界に少なからず期待しているのかもしれないな……。
―つづく。
ルナ、ハンターになるの巻き。
あと、小説評価していただきありがとうございます、とても励みになります!