やってきたのは密林のエリア5。ああ、エリア5って言うのはハンターの心得がある人物の中での隠語なので、堅気の人にはわからないかもしれないな。
ベースキャンプに使われる砂浜にあるツタを登って行った先にある場所だ。
古龍観測用の気球が上がっていたから手を振ってみたら、ライトが5回点滅したからここで良いんだろう。俺は姿勢を屈めて入り口から中の様子を伺うと、イャンクックが暢気に地中の虫を啄ばんでいるところだった。
「ルナ、そこに居るぞ。一人でいけるか?」
「う……うん、やってみる」
どうも緊張しているようでいけない。これじゃあ、いざと言うとき体が動かないぞ。
「ルナちゃん、リラックスリラックス。なんなら、俺が色んな場所を揉み解してあげよう……ぎゃああぁぁぁ……」
どどーん!!
なんて音を立ててポチが、アロマさんの切り上げを受けて崖の下に落ちていった。
……死んでないみたいだ、良かった。まったく、ことあるごとにシモの話に走るんじゃない。
「この阿呆が……ルナ、良いわね。余裕と言うわけじゃないけど、動きを良く見れば狩れない相手じゃないの。時間がかかっても良いから落ち着いて、一発ずつ当てていきなさい」
「は、はい! 行ってきます」
アロマさんに深く頷くと、ルナは飛び出していった。う~ん、流石に教えなれているというか、こういうときは頼りになる。
暫くしていると、またポチが登ってきた。おお、タフだな。
「は、ハンターは人に武器を向けないんじゃ……!?」
「二つだけ例外はあるわよ。自分の身が危機に晒された時と、セクハラ野郎に対しての時ね」
しれっとそんなことを言って片手でクリムゾンゴートの切っ先をポチに向けてる。あの人のどこにそんな筋力があるのか時々不思議になるね、まったく。
つい勢いで飛び出してしまったものの、私は困っていた。怖いとかそういう感情よりもまず感じたことがあったから。
「か、可愛い……」
大きな耳に、飛竜と言うより鳥と言った見た目。間違いなく怪鳥【イャンクック】だ。
のんびり欠伸を漏らすイャンクックは人里に危害を加えるような様子はうかがえなかった。だって可愛いし。
けれど、そうとばかりも言っていられない。こっちも仕事だしね……チェーンブリッツにペイント弾を装填する。
「ごめんね、狩らせてもらうよ」
――クエエェェェ!?
撃ち込んだペイント弾の衝撃でこっちに気づいた桃色の怪鳥は、奇妙な鳴き声を上げたかと思うとこっちに殺気をぶつけてきた。
一瞬全身の筋肉が強張る。これは経験を積んだハンターでも出るもので、仕方ないらしい。圧倒的な力の差の前では、自分達はちっぽけな存在だと痛感する。
……ソウヤはこの反応が出なくなったときがハンターの辞め時だ、と言っていたな。
「可愛い顔して良い殺気出せるじゃない……っ」
LV2通常弾に装填しなおすと、突進してきた巨体に反応が遅れた。私はなす術なく空中に吹き飛ばされる。
「うぐぅっ……いけない、相手は生き物なんだから……」
こみ上げてくる嘔吐感を堪え立ち上がりチェーンブリッツを肩にかけて飛びのくと、一瞬先まで私が居た場所を丸太のような尻尾が通り過ぎて血の気が引いたよ。
私だってやれる……そう、まずは標的の動きを良く観察することが大事だってアロマさんも言っていたし。
「時間はかかっても良い。確実に攻撃を当てることだけを……」
一発、二発……回避。突進がくれば早めに走って距離を空ける。
早めに動けばそう強い相手ではないみたい。余裕って言うほどの余裕は無いけれど、基本に忠実に。冷静沈着かつ慎重に、行動は慎重に……発想は大胆に。
イャンクックが何故ハンターの間で『先生』と呼ばれるのか少しわかった気がする。このモンスターとの立ち回りは、あくまで基本に忠実に行えばダメージを受ける割合が減るんだ。
急に突進されたりすると反応しきれずに受けてしまうけれど、他は当たらなくなった。
気づけば怪鳥の象徴ともいえる大きな耳はボロボロで、足を引きずって歩き始めていた。こうなったら後一息って聞いたし、自分の弾の残り具合を調べる。
LV2通常弾が10発とLV1貫通弾が20発、LV1拡散弾3発にLV1通常弾がある。
そう思って顔を上げると、不意に黒い影が私とイャンクックを覆った。
……そこに居たのは、黒いイャンクック……。
――つづく
――
黒いイャンクック、です。
まさかのあの方です。
時期尚早すぎんでしょ。