とあるハンターの受難な日々   作:蒼の涼風

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新たな力

 

 

「ふんぬああぁぁぁ……っ」

 

 ルナとアベさんがタルを挟んでお互い真っ赤な顔をしている。女の子なんだから、その掛け声はどうかと思うんだけど。

周りの視線も自然と二人へ向かう。そう、二人は今アームレスリングで対決中なのだ。

 

「いけー! 元ハンターの意地、見せてやんな!」

「ルナちゃーん、がんばれー!!」

 

 方々からはハンターどころか、一般客までヒートアップしてるし。ルナはルナで、嬉しそうに観客に手を振る……代わりに尻尾を揺らして返事をしている。

……犬か猫か、あいつは。

 

『がぎいぃっ』

 

 なんて音が響いたかと思うと、二人が台の代わりに使っていた大タルが粉々に砕けてしまっていた。マジか。

タルが割れるなんて、相当の力が掛からないと難しいだろう。なおかつ、荒くれ者の多いハンターが椅子やテーブルに使うような物をだぞ。

 

「壊れちまったか……しゃーない、おじょーちゃんの勝ちで良いよ」

「いえ。アベルさん……加減してくれていましたよね?」

 

 お互いがお大概を褒めあってる。ふむ、何か面白くない気もするけど気のせいだろう。俺はと言うと、店員が包帯を持ってきてくれたので巻きつけてもらっている……これ位なら狩りにも支障はないだろう。

 

「騒がせちゃって悪いね。あんた達も大変でしょうに」

「いえ、騒がしいのはオーナーとマスターで慣れていますから」

 

 淡々と処置されるのも居心地が悪く、包帯を巻きつけてくれているウエイトレスに言葉をかけてみたが……ふむ、アベさんは相変わらずみたいだ。

 

「ソウヤー。なんか貰ったけど、私は使わないからソウヤにあげる」

 

 そんなふうに言ってルナが持ってきたのはハンマー【激鎚オンスロート】。アベさんが最も愛用していたハンマーじゃないのか?

しかも上位武器だし、作るのにはかなり手間が掛かったはずだけど。そんなことを考えていたら、ルナの後ろからアベさんが声を掛けてきた

 

「じょーちゃんから聞いてな。なんでもソウヤくん、鬼斬破が折れちまったそうじゃないか。生憎太刀は持っていないけど、良かったら使ってくれ……アロマからハンマーの扱いも学んだんだろう?」

「しかし……アベさん、これはアベさんが一番愛用していたハンマーじゃ?」

「引退した奴の下で腐らせるより、よっぽど良いさ。新品といかないが威力は折り紙つきだ、使ってやってくれ」

 

 きらりと歯を光らせて親指立ててるよこの人、本当にそんなことが出来る人がいたんだ。まあ、何はともあれ武器が手に入るのは嬉しい……暫く触っていなかったから慣らしが必要だろうけど。

 

「わかりました。有り難く使わせていただきます」

 

 一見不細工なトンカチに見えなくも無いが、先端にある突起と重量があいまって凶悪な威力を持つハンマーだ。

実際、こいつの最終強化系【極鎚ジャガーノート】なんかは、生粋のハンマー使いで無い限り、それ一つあれば事足りると言われるような代物になる。

 

「ソウヤ、ハンマー使えるの?」

「ああ、アロマさんに基本は仕込まれてるよ。ただ……ブランクがあるから不安だな」

 

 まあ、下位のクエストであればブランクがあっても何とかなるとは思うが……油断は禁物かな。

 

 

 

「いただきまーすっ」

 

 ひとしきり店の片づけが頼んだ後、注文していた料理が運ばれてくる。見ているだけで腹が一杯になりそうな量なのは今更言わなくても良いだろう。

 

「ほーやもはへないと、いっはいくうよー」

「いっぱい来る殆どはお前が食べるんだろうに。と言うか、食べるか喋るかどっちかにしなさい……はしたない上に理解するのに時間が掛かるから」

「はっはっは、ソウヤくんはまるでお父さんみたいだな」

 

 なに当たり前のような感じでアベさんが同じ席についているんだろう。狭い机をより狭くしている原因はこれじゃないのか。こっちも見ているほうが気分悪くなるような量の料理を注文してるし。

 

「お父さんって言わないで下さい、以前それで散々いじられたんですから」

「ほーやは、わたひのおとーひゃんらいやにゃの?」

 

 だから、食べるか喋るかどっちかにしろって言うに。しかも、対等な位置になりたいって言ったのは何処の何方でしたかいね。

 

「そういう問題じゃなくてだな、おとーさんって呼ばれる事自体が……あああぁぁあ!? なにビール飲んでんだぁ!?」

「いっく……おいしーよ、泡の出るラムネ」

「おうともよ、ビールじゃなくて泡の出るラムネだぜ」

 

 なんだか、どうでも良くなってきた。どうせルナはこのまま酔っ払って寝るだろうし、残ったステーキやらソテーやらを何とか腹に詰め込む算段をしたほうがよさそうだ。

 まったく、事あるごとに面倒ばっかり運んできてくれるよ……こいつは。

 

「おとーひゃん、おにくがへってないよ。もっときゃんきゃんたべにゃきゃ!」

 

 きゃんきゃん食べてどうすんだ。こら、危ないからジョッキを振り回すんじゃない……お前の腕力だとなにを使っても凶器になるんだから。

 

「おとーひゃんのあちゃらしいぶきがでけた、おいわいなのー!」

『うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 ……後のは周りの客の声だが、捕獲したディアブロスが逃げ出したのかと思った。しかし、酔っ払うと本当に性格変わるな……これからはあまり飲ませないようにしないと、俺の精神と財布が偉い事になりそうだ。

 

 何故って? 机に叩きつけたジョッキが悉く割れるんだから、その弁償代とか……な。

 

――つづく

 

――

 




ソウヤ、ハンマーデビューの巻。
うそ、やっぱルナ可愛いの巻。
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