「ルナ!」
バンッと音を立て小屋の扉を開くと、中にはアロマさんとギルドマスターが何か話し合っていた。俺は二人の後ろからその間を覗き込むように見ると、ぐったりとして動かないルナを確認した。
「どうなんですか……ルナは」
俺の方に振り向いたアロマさんに聞いてみるものの、自分も良くわからないと言ったような様子で首を振られた。
「毒テングダケの毒素はそう酷くはないんじゃ。じゃが、リオレイアが持つ毒素と融合し、まったく新しい毒素になってしまったようで……解毒薬が効かんのじゃ」
アロマさんの代わりにギルドマスターが答えてくれた。新しい毒素って……それじゃあこのまま何もせずに見ているしかないのかって拳を握っていた時だったよ。
「マスターが竜人族の秘薬を作ってくれるそうよ、あらゆる疫病や怪我を治す万能薬……今その素材を聞いていたところなの」
竜人族の秘薬……竜人にのみ語り継がれる秘薬の作り方で、それ故に竜人族は長生きするものが多くなったらしい。
「作れるんですか?この付近で取れるもので」
ギルドマスターに問うと、すぐに材料を教え始めてくれたよ。曰く、竜人の秘薬に必要な素材は【雪山草】【アオキノコ】【ケルビの角】【ドキドキノコ】の四つだそうだ。
「雪山草はギルドにストックがある、それを出そう」
おおう、普段は胡散臭いギルドマスターがこんな時は頼もしく思える。
「ケルビの角なら私が持っているわ、それを貸してあげる。ま、あとで返してもらうけどね……体で」
……どんな狩りに連れて行かされることやら。この人の『体で』で、アダルトな方面に向くことは断じてない。絶対に厄介な狩りに連れて行かされるんだが……この際仕方ないだろう。
「ありがとう……アオキノコなら俺がたくさん持っているから……」
「残るはドキドキノコね」
アロマさんが後を継いで答えてくれる。ドキドキノコはなかなか珍しく、俺もアロマさんもストックが無い。沼地ならあるかもしれないが、今から採りに行く余裕も無さそうだったため、どうするかと考えていたんだが……。
「ドキドキノコが必要なのか?ならオレがいくつか持ってるよ」
そんな声が不意に背後から聞こえたんだ。一体誰が声を掛けてきたのかと振り返ったとき、そこに居たのはランポス……いや、ポチだった。
「何?この阿呆」
身も蓋も無い言い方だけど、正しい。ランポスーツを着て格好良く現れようとしたものだから、どうにもアンバランスと言うか……阿呆に見えても仕方ないだろう。
「そんなことは置いといて……ポチ、本当にドキドキノコを持っているのか?」
「ああ、あるよ。ただ、何の見返りもなしにやるわけにもいかないな」
何か腕を組んで言ってるよこいつ。くそう……人の足下みやがって。
「金なら言い値で払うさ……だから譲ってくれ」
金と聞いた途端、ポチの眉が不可解そうに動いた。ん?金のことじゃないのか……?
「困ってる奴相手に金をよこせなんて言わねぇよ。ただ、そこの綺麗なお姉さんにオレのことを紹介し……げふあぁぁ!?」
うわっ、痛そうだな。アロマさんの鉄拳が鳩尾に埋まり、ポチは「くの字」に崩れ落ちる。で、そのアイテムポーチを漁って……。
「ソウヤ、あったよ。ドキドキノコ」
相変わらず強引にマイウェイなお方だ…けど、今回はそれが頼もしく見えた。
「マスター、これで作ってくれないか?」
三つの材料を持ち、さっきのやり取りを見なかったことにする為か明後日の方角を見ていたマスターに渡す。
「良かろう、一時間ほど待っておれば出来る。暫くの間だけ持たせるんじゃぞ」
そう言ってギルドマスターは酒場に向かって言った。俺とアロマさんは何を話すでも無く、ただルナを撫で苦しそうになると秘薬を飲ませると言う繰り返しだった。
「出来たわよ、ソウヤ君!」
五十分くらいだったかな……ギルドマネージャーが飛び込んできて、俺たちに薬を渡してくれたんだ。なんでも、マスターは疲れて動けないとかで。
「ありがとう、間に合ってよかった」
礼を言って受け取ってから中身を確認すると、液体状の薬だった。これならこのまま飲ませられるだろ。
「効いてくれよ……」
そう願わずにはいられなかったよ。ルナを抱き上げ、子どもにミルクをやるみたいに哺乳瓶で飲ませると、ぐったりしていたルナに次第に力が戻ってきたんだ。
成功した……誰もが安堵したその瞬間、思いがけないことが起こった。ルナの体が、急に光を放って輝き始めたんだが……その後の事は、また次の機会に話すとするよ。
―つづく。
お読みいただきありがとうございます、蒼の涼風です。
竜人族の秘薬……何か都合のいいものでも出さないと収拾がつかなかったとか(滝汗
本来プロローグ的な位置づけて此処まで書いてきたんですが……長くなりましたね。
まだまだソウヤの受難の日々は続きます、宜しければお付き合いくださいませ(深礼