OLWADHIS ~異世界編~   作:杉山晴彦

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第12話 吉報

 

 

 

 

 

 日が昇り、僕とケヴィンさんは無事に警備所へと復帰した。

 それと同時に、続々と僕の元へとやって来る村民たち。

 彼らの対応をしている内に、いつの間にかお昼過ぎとなってしまった。

 

「おっ、君が噂の新人くんやね!」

「……」

 

 待ち受け係を務める僕の前に、見慣れぬ人物が姿を現す。

 栗色の瞳に、赤い髪のショートカット。

 体に着用している物は、恐らく鎖帷子(くさりかたびら)というやつだろう。

 そして左腕には、僕らと同じ十字架の腕章をしている。

 

「ウチはヤトフ・ジュニエス。 ガライブ村で自警団員しとるもんや」

「…どうも」

 

 人懐っこそうな笑顔を浮かべ、自己紹介をする彼女。

 ガライブ村とは、このレノン村から少し離れた森の近くに点在する村だ。

 それにしても、この喋り方…。

 

「あの山賊連中をぶっ倒してくれたらしいやん。 いや~、うちらの村も

今、あんたの話題で持ちきりやで!」

「…そうですか」

 

 悪事千里を走ると云われるが、それはどうやら、良い行いにも

多少なりか当てはまることらしい。

 いつの間にやら、僕も有名人になってしまったものだ。

 

「あら、何だか騒がしいなと思ったら…ヤトフじゃない。

今日はどうしたの?」

 

 警備所の奥から姿を見せたガラナさんが、話の輪の中に入る。

 近隣の村の仕事仲間ということもあってか、どうやら2人は顔見知りの様子。

 

「そりゃ勿論、噂の新人くんの顔を拝みに…とだけやと思ったやろ?

フッフッフッ、ウチをただの野次馬みたいに思たらあかんで」

 

 不適な笑いを浮かべ、ヤトフさんが僕の方に目を向ける。

 何を企んでいるのか素直に気になった僕は、黙って次の言葉を待つ。

 

「ウチの村で子供が2人、行方知らずになっとったっちゅう話は聞いとるやろ?」

「うん…。 でもその2人、もう無事に見つかったんでしょ?」

 

 僕の耳にも、そのニュースは入っている。

 そんな事件があったせいで、ガライブ村の人たちは先日の僕らの任務に

同行してくれなかった――という経緯だったかな。

 

「そうなんやけどな。 その2人が、気になること言うとるんや」

「…気になること?」

「その2人が行方をくらましとったんは、村の近くにある森ん中で

迷っとったせいらしいんやけどな。 その時、誰か人影を見たんやて」

 

 真剣な口調で話すヤトフさんの話に聞き入る。

 それにしても、この喋り方…。

 いや、うん。 そんなことは、後回しにしておこう。

 

「でも、村で他に誰か居なくなったっちゅう話は聞いてへん。 ただな…

異国から来たっちゅう人を、家に泊めてあげた人がおるらしいねん」

 

 異国から来た…。

 その言葉に、僕の脳内にある何処かしらがピクンと反応した。

 だが、こういう時こそ焦りは禁物だ。

 まずは、話をちゃんと最後まで聞いてみよう。

 

「その人の話やと、その異国から来たっちゅう人…自分の国のことを

『ニッポン』と呼んどったらしいんや」

「……」

 

 続きの言葉を聞き、僕の脳内全体がザワッと反応する。

 『ニッポン』、それは日いずる国…。

 そして他ならぬ、僕の故郷(ふるさと)である。

 その国からやって来た人物であるとすれば、それは無論――そういうことになる。

 

「それで、その人は…? まだ、村に滞在してるの?」

「いや…それが、行方知れずなんや。 昨日、子供らが森から帰ってきた後、

まるで入れ替わるように、姿が見えへんようになっとるらしいで」

 

 ガラナさんの問い掛けに、ヤトフさんが怪訝(けげん)そうに言葉を返す。

 なるほど。 そこに、先程の子供たちの証言を加えれば…。

 その人物は今、森の中を彷徨(さまよ)っているという仮説も浮かんでくるわけだ。

 

 

 

 

 

 思い立ったら即行動に移してしまうのが、僕の良い所でもあり、悪い所でもある。

 決断力が有るといえば聞こえは良いが、そこはケースバイケース。

 世の中には、慎重派だからこそ成功者に昇り詰めた者も少なくない。

 

「そうなんですか。 ヤトフさんの所も…」

「まぁな。 ウチらのトコなんか、残っとるメンバーは団長含めても4人だけ。

ほんま、骨抜き状態って感じやな」

 

 そんなわけで僕は今、馬車に揺られながらガライブ村を目指す。

 同行者は、その村の自警団員であるというヤトフさん。

 そして馬車の運転手は、以前もお世話になったラッセルさんだ。

 

「それにしても、いまいち実感湧かへんなぁ…。 魔王なんて、

ホンマにこの世界におるもんなんかなぁ?」

「…どうでしょう」

 

 ヤトフさんが漏らした言葉に、僕は深く共感する。

 『こちらの世界』の住人である彼女ですらそう思うのであれば、

全く別の世界からやって来た僕に、そうそう実感が湧く筈もない。

 

「最後の3代目の魔王が倒されてから、もう100年以上経つんやもんなぁ…。

今更、無理に出てくる必要もないと思うんやけど」

「…ですね」

 

 話によれば、これまでこの世界に現れた魔王の数は、全部で3人。

 中でも初代の魔王である『グリム』は非常に強大な力を持っており、

彼のことを『大魔王』と称し、他の魔王と区別することもあるくらいだ。

 

「ま…そん時はまた、どっかから勇者様が現れて、バーンと

世界を救ってくれるやろうしな。 変に心配せんでもええやろ」

「……」

 

 そして、魔王がこの地に災厄(さいやく)をもたらすたび――勇者もまた、そこに現れる。

 魔王の伝説は、勇者の伝説へと移り変わる。

 それが、この世界で繰り返されていることらしいのだ。

 

 魔王と勇者の関係…。

 それはどうやら、何処の世界でもそう変わりのないものらしい。

 そしてやはり、いつの世も悪が栄えることはない。

 う~ん…。 そこはやっぱり、宿命ってやつなのかな。

 

「……」

 

 馬車の揺れに身を委ねながら、まだ見ぬ目的地を求めて

外の景色に視線を送ってみる。

 この辺りは背の高い草が沢山生えており、見通しが悪い。

 地理に(うと)い者では、迷子になる可能性も少なくないだろう。

 

 

 

「わッ…うわぁああッ!」

 

 しばらくして、緊急事態が発生した。

 バタバタと大きな羽音を立てる何者かの集団が、

馬車の周囲を群がる様に飛び回っているのだ。

 真っ先に悲鳴を上げたのは、運転手のラッセルさんであった。

 

 その声に反応し、僕はすぐさま馬車を飛び出す。

 それに続き、ヤトフさんも慌てた様子で馬車から飛び降りた。

 

「――バランチムや! スギヤマくん、やれるか!?」

「はい」

 

 飛び回る物体を見据えながら、ヤトフさんが吠える。

 『バランチム』とは、恐らくその物体の名称であろう。

 僕は手早く(さや)から剣を引き抜き、羽を震わすその生き物を観察する。

 

 見たところ、それはトンボの様な外見をしている。

 しかしその体長は、少なくとも70~80cm…中には、

1メートルを超えていそうな固体も存在した。

 

 ……

 

 ラsッセルさんに群がるその巨大なトンボの1匹に斬り掛かる。

 スパリと軽い感触がし、その固体は呆気なく一刀両断にされた。

 どうやら、それ程手強い相手でもないらしい。

 

「くッ…! か、勘弁してくれぇ!」

「ラッセルさん、落ち着いて下さい」

 

 だが、それは飽くまで1対1での話だ。

 尚も彼を襲い続けるトンボの群れを、剣や腕を使ってどうにか払い落としていく。

 そうこうしてる間に、僕にも巨大なトンボは群がってくる。

 全く、厄介な状況だ。

 

「――ハァッ!」

 

 そういえば、ヤトフさんは…?

 気になって振り向いたその瞬間、彼女が掛け声と共に振り回した

その武器が、敵にクリーンヒットする様が見て取れた。

 あれは、もしかして…ヌンチャク?

 

「てぃッ! やッ! ハァッ!」

 

 2つの(こん)を繋げた、中国発祥とされる打撃用の武器。

 僕としては、扱いづらい武器の代表格みたいな印象もあるが…

彼女はそれを(たく)みに使いこなし、テンポ良く次々とトンボ達を撃ち落していく。

 どうやら、あちらの方はあまり心配しなくても大丈夫そうだ。

 

 僕は後ろからラッセルさんを抱きかかえる様にし、

彼の身をきっちりと保護しつつ、戦闘を(こころ)みる。

 しかしこの状態では、身動きに不自由が生まれるのもまた事実だ。

 

「…ッ!」

 

 顔面へと飛びかかってきたその敵に対し、僕は瞬時に首を曲げて難を逃れる。

 そして、隙を見せたトンボの腹に、素早くガブリと喰らい付いた。

 剣で斬り捨てられるのであれば、僕の歯で噛み砕けぬ筈はない。

 

 その後も腕や足、肘や膝など、とにかく体のあらゆる部分を駆使して

戦い続け、少しずつ敵の数を減らしていった。

 やがてヤトフさんも加勢に駆け付け、どうにか戦局はこちらに傾いてくる。

 

 

 

 

 

「…どうにか、着きましただな」

「はい。 ご苦労様です」

 

 力無い笑みを見せるラッセルさんに向け、僕は(ねぎら)いの言葉をかける。

 彼の体には、そこかしこに痛々しい噛み傷が付けられており、

巻かれた包帯からは、血が滲んでいる。

 僕とヤトフさんも多少の傷は負っているが、彼と比べれば大したことはない。

 

「ほんなら、ウチんトコの警備所に案内するわ。 そこでゆっくり休むといいで」

「…ありがとうごぜぇます」

 

 ふらつき気味に歩くその姿を見て、僕は彼の体を支えてあげる。

 命に別状がある程ではないと思うが…まぁとにかく、安静にしておくべきだろう。

 

「それにしても、霧が濃いですね」

 

 僕は村の中に漂う白いものを見て、思わず呟いた。

 かなり優秀な視力を誇る僕を持ってしても、しっかり見通せる範囲は限られる。

 中々の視界の悪さと呼べるだろう。

 

「うん…なんか最近になって、一段と濃くなってきた気がするわ。

でも、あっちの森ん中は、もっと凄いみたいやで」

 

 ヤトフさんが視線を向けた先を追ってみれば、霞む木々の密集地帯。

 どうやら、あそこが噂の森ということになるらしい。

 僕は密かに胸が騒ぐのを覚えながら、歩みを進めていった。

 

 

 

「あんたが、例の新人さんか。 なるほど…確かに、デけぇな」

「よろしくお願いします」

 

 ガライブ村の警備所に到着した僕たちは、早速ラッセルさんを

奥の部屋に運び、寝かせることにした。

 看病役に自警団員の1人を宛がってもらい、僕らは玄関先の部屋で

もう1人の自警団員の方と話を始めた。

 

「あたしは、イシェンダ。 あんたらが来るまでに、村で色々と

聞き込みはさせてもらったよ」

 

 イシェンダと名乗るその女性は、モデルの様にスラッとした

体型でありながらも、中々に良い筋肉を付けている。

 その絞り込まれた身体を見れば、彼女が普段から鍛錬を

怠っていないことは、容易に想像が付く。

 

「結論から言わせてもらうと、例の異国から来たっていう男は

どうやら、あの森の中に入り込んだまま、出て来ていない様子だね」

 

 淡々と話す彼女の言葉を聞き、僕はどこか『やっぱりな』という感覚がした。

 一目見た瞬間から、あの森にはどうも得体の知れない何かを感じているのだ。

 

「その男についてもっと詳しく知りたいってんなら、そいつを

家に泊めてあげたっていう人がいるが…案内してやろうか?」

「えっと…。 それじゃ、お願いします」

 

 今の段階ではまだ情報不足と判断した僕は、彼女からの提案を

有り難く受け入れさせてもらう。

 期待に胸は膨らんでいるが、それと同時にあらゆる事態も想定しておく。

 失望はいつも、期待の先にあるものだから。

 

 

 

「そうですか。 あなたも、ニッポンという国から…」

 

 出迎えてくれたのは、1人の年老いた女性であった。

 既に70、80はいっていそうな風体(ふうてい)をしているが、足取りもしっかりしており、

まだまだ元気そうな雰囲気が窺える。

 

「そんなわけでして、彼に関する情報を出来るだけ頂きたいのですが…」

 

 家の中の様子を何気なく観察しながら、僕は言葉を紡ぐ。

 いかにも田舎の、風情(ふぜい)ある(たたず)まいの家…。

 僕が抱いた単純な印象としては、そんなところだ。

 どうやら村全体を見ても、生活水準はレノン村より少々低めな様子である。

 

「情報と言われましてもねぇ…。 彼は色々と話をしてくれましたが、

どれも私には理解しかねることばかりで…正直、ほとんど覚えておりません」

「……」

 

 仕方のないことだ。

 理解不能なものは、そう感じる人間にとって、やがて意味の無いものに変わる。

 そして意味の無いものは、やがて忘れ去られてしまう運命にある。

 

「あの…どんな人だったんですか?」

 

 あんまり、重要な情報は聞けないかも。

 心の隅でそう呟きながら、僕は次の言葉を発した。

 

「あなた程じゃありませんが、背の高い人でしたよ。 いつも笑っていて、

陽気な人のようにも見えましたが…心の内は、どうだったのでしょう」

 

 老婆は何とも言えない複雑そうな表情をして、視線を宙に漂わせる。

 他人の心の内を知るなど、神様とてそうそう出来るものではない。

 ま…だからこそ、知りたいと思ってしまうのかも。

 

「彼とは、いつ出会ったんですか?」

「えぇと…一昨日(おととい)のお昼頃でしょうか。 村の近くの草むらの中で、

倒れている彼を見かけたんですよ」

 

 一昨日のお昼頃…か。

 僕らが丁度、あの山賊団とやらかしていた時間帯だ。

 

「随分と疲弊(ひへい)しきっていた様子でした。 私は彼を家に招き入れて、

手料理を振る舞いました。 彼は美味しい美味しいと言って、沢山食べてましたよ」

 

 彼女が、囲炉裏(いろり)を挟んだ向こう側にある虚空を見て、穏やかに微笑む。

 恐らく彼は、そこに座って料理を平らげていたのだろう。

 

「それから、しばらくして夕陽が沈みかけた頃…出かけていた私が

家に戻ってみると、彼の姿は何処にもありませんでした」

「……」

「それから、間もなくでしたよ。 行方知らずの子供2人が戻ってきたのは」

 

 …ふむ。

 彼とその子供たちが、入れ替わるように村に現れたというわけか。

 ヤトフさんから聞いた話と、ばっちり合致する。

 

「……」

 

 そして、彼とこのおばあさんが出会ったのが、一昨日のお昼頃。

 子供たちが行方不明になったと判明したのは、その前の日。

 やはり、彼と子供たちには、何か接点があるような気がしてならない。

 …とりあえず、その子供たちからも話を聞いてみることにしよう。

 

 

 

 

 

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