OLWADHIS ~異世界編~   作:杉山晴彦

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第14話 蠢く骸骨

 

 

 

 

 

「…なんや、ここ?」

 

 眼前に広がる光景を見て、ヤトフさんが小さく呟く。

 そこにあるのは、細い棒状の木を組み合わせて出来た十字架。

 そんな物を地面に突き刺す必要がある場所といえば――まぁ、限られてくる。

 

「墓場…だろうな」

 

 十字架の数は、1、2、3…20本はくだらないだろうか。

 それだけ十字架があるということは、当然のことながら、

ここにそれだけの数の埋葬者(まいそうしゃ)がいるということになる。

 

「えらいぎょうさんあるなぁ…。 森ん中にこんな場所があったなんて、

今まで知らんかったわ」

「あぁ…。 ま、結構奥の方まで来ちまったみたいだしな」

 

 濃い霧の中に並び立つその十字架の群れには、見る者に独特の雰囲気…

虚無感のようなものを感じさせる力がある。

 はっきり言って、あまりプラスのイメージを連想させるものではない。

 

 ……

 

「ひょっとして、これ――ウチのじいちゃんの話に出てたヤツとちゃう?」

 

 しばしの沈黙の後、ヤトフさんがハッとしたような表情をして言った。

 その仮説は、僕も頭に浮かべていたものである。

 

「森ん中にどんどん人が入っていって、それっきり帰らなくなる…ってやつか」

「それやそれ! やっぱりあの話、ホンマやったんやな」

「……」

 

 しかし、その説には多少の疑問が残る。

 おじいさんの話によれば、その出来事は数百年も前に起こったとされている。

 だが、それにしてはちょっと、十字架に使われている木が綺麗過ぎる気がした。

 

 数百年という歳月が経てば、当然のこと、木はもう少し腐蝕(ふしょく)している筈だ。

 つまり、ヤトフさんの仮説が正解だとするならば…最近になってから、

誰かがここに墓を立てた――もしくは、立て替えたということになる。

 

「……」

 

 僕は名探偵ではないので、その犯人の正体までは分からない。

 いや、名探偵でも多分、分かりっこない問題だろう。

 ともかく、この現状を目の当たりにし、次にどう動くべきかを考えてみる。

 

 

 

「一旦、戻りましょう」

 

 墓場を一通り調べ終えた後、僕は2人にそう切り出した。

 もっとも、これといって大した発見も無かったのだが。

 

「…いいのか?」

「えぇ。 霧もどんどん濃くなってきてますし、この辺りが潮時(しおどき)でしょう」

 

 2人とも言葉では返さなかったが、その表情を見れば、

僕の意見に賛同してくれていることは明らかだった。

 僕はクルッと(きびす)を返し、元来た方角へと歩みを始める。

 

「ま、しゃあないわな。 このままやと、ウチらもここの住人さんになるとこやで」

「…縁起でもねぇこと言うなよ」

 

 後方からそんな2人のやり取りを耳に入れつつ、僕は歩みを続ける。

 心残りが無いといえば嘘になるが…人生、いつ何時も焦りは禁物。

 『急がば焦るな』が僕の座右(ざゆう)(めい)の1つだ。

 

 

 

 

 

 多少迷いかけたりもしたが、どうにか僕らはガライブ村へと帰り着くことが出来た。

 警備所の方で安静にしているラッセルさんの元に行ってみると、

元気そうな顔を見ることが出来て一安心。

 イシェンダさんを警備所に残し、僕はヤトフさんと共に彼女の自宅へと向かう。

 

「ほう…そんなもんがあったんか」

「うん。 やっぱじいちゃんの話、ホンマやったんやな」

 

 ヤトフさんのおじいさんに、今日の探索の結果報告を済ませる。

 結局のところ、あの墓場以外で特に気になるものは無かったな…。

 いや、あのカラスの群れとの遭遇(そうぐう)も、中々にインパクトのある出来事であったが。

 

「……」

 

 この村に現れ、あのおばあさんの家に泊まっていった

『ニッポン』から来たという謎の男…。

 彼は果たして、何者なのだろうか。

 とりあえずはその消息を掴むことが、今の最優先事項である。

 

「ところで、あんた…これからどうする気や?」

 

 情報と思考を整理する中、おじいさんから尋ねられる。

 僕は少々考えた後、その答えを出した。

 

「まだしばらく、この村に居ようかと思っています」

 

 そもそも、ラッセルさんの体調が回復しない限り、馬車は使えないのだ。

 今しばらくはここに留まり、可能な限りの最善を尽くすしかない。

 

「ほうか…。 そんなら、ウチに泊まってったらどうや?」

「…いいんですか?」

「かまへんかまへん。 ワテ、あんたのこと気に入っとるさかい。

好きなだけおってもらったらえぇで」

 

 なんとも有り難い申し出である。

 僕だったらまぁ、野宿の一泊や二泊でへこたれるような男でもないが…

どうせなら、そりゃちゃんとした場所で眠りに就きたいところである。

 

「ばあさんの部屋が空いとるから、そこ使ってくれや。 ヤトフ、案内したり」

「うん…分かったわ。 ほなハルナ、こっちやで」

「ありがとうございます」

 

 ヤトフさんに先導されるまま、僕は居間を後にする。

 ちなみにおばあさんの方は、もう3年程前に亡くなってしまったんだとか。

 故人の部屋を使わしてもらうわけだから、ちゃんとその辺の心構えはしておこう。

 

 

 

「ここがその部屋や。 まぁ大したもんは置いてないけど、好きなように使ってや」

「はい」

 

 部屋の中を軽く見渡してみる。

 畳が敷かれた床に、鏡、机、タンス…などといった調度品。

 どれも落ち着いた色合いで、心が和む感じの部屋だ。

 ――というか、完全に和室としか思えないのだが。

 

「……」

 

 そんな中、僕の目を惹く存在がタンスの上にあった。

 動物を()した、木彫りの置き物。

 その見た目から察すると、どうやらライオンがモデルのようだが…。

 『こちらの世界』にも、果たしてライオンと呼べる存在はいるのだろうか。

 

「そういえば、ヤトフさん…ご両親は?」

 

 部屋を片付け始めた彼女に対し、何とはなしに尋ねてみる。

 彼女はほんの数秒、ピタリと動きを止め、また片付けを再開する。

 

「父ちゃんは、王都で兵士やっとったんやけどな。 偵察(ていさつ)任務の時に

敵に見つかってしもて…バッサリやられてもうたそうや」

「……」

「それから1年ちょっと後に、母ちゃんも病気で()ってしもうてな。

ほんでまぁ…ここにやって来たっちゅうわけや」

 

 片付けをする手を止めないまま、ヤトフさんは事情を語る。

 努めて明るい口調で話しているようだが、その瞳には寂しさが(ぬぐ)いきれていない。

 どう声をかけるべきかに迷った僕は、視線を宙に彷徨わせる。

 

 ……

 

「――それ、よく出来とるやろ?」

 

 無作為に宙を漂わせていた筈の視線が、自然とあのライオンの置き物に向く。

 その刹那、彼女がしばらく閉ざしていた口を開いた。

 

「ウチのじいちゃんが作ったもんなんや」

「……」

「あれでも昔は、工芸品作りを専門にしとってな。 ま、今はもう

目ぇ悪くしたんで、引退しとるけど」

 

 改めて置き物を観察してみれば、なるほど…良く出来ている。

 30cm程度の大きさではあるものの、そこにはライオンの猛々(たけだけ)しさというか、

貫禄(かんろく)というか…そういう『生きた』部分がしっかりと表現されていた。

 

「ライオンはな、ウチの家系の守り神なんや。 勇猛果敢(ゆうもうかかん)で、いつも

どしっと構えてて…大切なもんを守る時は、命を張って戦う」

「……」

「ウチもいつかは、そんな風に慣れたらえぇんやけどな」

 

 彼女の話を聞いている内、胸の奥がざわつくような感覚を覚える。

 それは、感動とも賛同とも呼べそうなものだが、何か…。

 何かそれ以上に、心打たれるものを感じているようなのだ。

 こんな感情は、今までに味わったことがないかもしれない。

 

「……」

 

 ふと視線を落とした先にある、あの『星』の飾り。

 そこから発せられる光が、何故か強まっているような気がした。

 

 

 

 

 

 間も無くして、夜も更けていった。

 僕はヤトフさんのおばあさんの部屋で布団を敷き、床に就かせてもらう。

 明日は一体、どんなことをしよう…。

 そんなことを考えている内に、いつしか意識は夢の中に。

 

「……」

 

 ――行ってはくれなかった。

 バッチリ、パッチリ、目が()えまくっている。

 

「…う~ん」

 

 昨日と同じ症状だ。

 もしかすると、また何か起こりそうな予感を無意識に感じ取っているのか。

 いやいや…エスパーじゃあるまいし、さすがにそこまでは――

 

 ……

 

 その時、闇の向こうから聞こえてきた音。

 それは明らかに、悲鳴と呼んでいいものだった。

 僕はすぐさま布団を引き剥がし、部屋を飛び出した。

 

「わッ…と!」

 

 飛び出した瞬間、誰かとぶつかりそうになる。

 それは紛れも無く、自警団員のヤトフさん。

 彼女の部屋は、ここからすぐ隣の場所にある。

 

「ヤトフさん。 今、外から悲鳴が…」

「あんたも聞いとったか。 ほな行くで、ハルナ!」

「はい」

 

 僕たちは廊下の隅に置いてある松明(たいまつ)を手に取り、火を付ける。

 そして玄関を飛び出し、闇の先で起こった異変の元へと急いだ。

 あの悲鳴は、只事じゃない。

 本能的にそう感じる部分があった。

 

 

 

「ヤ…ヤトフか!?」

「ネルボのおっちゃん! 何があったんや?」

 

 疾走する僕らの前に、やがて1人の中年の男が現れる。

 『ネルボのおっちゃん』と呼ばれるその男性は、何処からか走ってきたのか

息を荒くし、何かに怯えたような目をしていた。

 

「そ、それがな…」

 

 何か言いかけた男性が、ハッとしたような顔で後ろを振り返る。

 その視線の先にいたのは…。

 二本足で歩く、何者かの姿。

 しかしそれは、人間でもなければ、ゴブリンとも思えない。

 

「……」

「ちょっ…! 冗談やろ?」

 

 いや――もしかすると、元は人間やゴブリンだったのかもしれない。

 だが今の姿を見て、そんな名前で呼ぶ気にはなれなかった。

 そう、それを現す言葉は…骸骨(がいこつ)という他ない。

 

「おっちゃんは下がっとき! ウチらが何とかする!」

「お、おう…無理すんなや」

 

 ネルボのおっちゃんとやらを後方に下がらせ、武器を構えるヤトフさん。

 それと同調するように、僕も意識を戦闘モードに切り替える。

 一応、剣は持っているが…抜くべきか抜かざるべきか。

 

「っちゅうか、あんたは…?」

「説明すると長くなりますので。 とりあえずは、事態が収まってからにしましょう」

 

 初対面の僕に当然の如く困惑の目を向ける彼に、有無を言わさぬ口調で(さと)す。

 とりあえず納得した様子の彼を見て、視線を骸骨へと移し変える。

 

 ……

 

 2体の骸骨は、早歩きをするような感じで、着実にこちらへと接近してくる。

 会話が通じる筈も無ければ、友好的なムードもまるで無い。

 これは…やるしかないかな。

 

「――丁度、2対2やな。 ハルナ、1匹は任したで」

「…了解しました」

 

 僕の返事を聞いたヤトフさんが、1体の骸骨に向けて猛然と突っ込んでいく。

 ワンテンポ遅れ、僕は残りの1体の元へと駆け寄っていった。

 

 

 

 前のめりの姿勢となった骸骨が、口を開き、両手を前に突き出しながら

僕の方へと跳びかかってくる。

 完全にホラー映画の世界観だ。

 

「……」

 

 僕は悩んだ挙げ句、剣を抜くことにした。

 こういった得体の知れない相手に、直接肌が触れるような戦い方は

あまり得策ではないと判断したためである。

 

 ……

 

 まずは、その突き出された両の腕を剣で振り払う。

 身の安全を確保した僕は、反射的に相手の頭部へ向けてハイキックを放っていた。

 その蹴りは見事に命中し、体勢の崩れた相手が地面に倒れる。

 

 ――が、すぐに起き上がった。

 考えてみれば、彼らは多分、脳の機能によって

身体を動かしているわけでもないのだろう。

 そんな相手に対し、脳震盪(のうしんとう)を狙うハイキックが有効な筈もない。

 

「……」

 

 思考を練り終えた僕に対し、骸骨が掴みかかろうとしてくる。

 僕は剣を手放すと、その突き出た片方の手首を掴み、そのまま後ろに回り込んだ。

 捕獲(ほかく)した骸骨のその腕に、関節とは逆方向へ力を入れる。

 

 『パキリ』と乾いた音がして、肘関節から先の部分が完全に分離した。

 表情など読み取れる筈もないが、骸骨から僅かに戸惑いの色のようなものを感じる。

 僕はその隙を逃がさず、一気に勝負を決めにいく。

 

 ……

 

 羽交い絞めをするように頭蓋骨(ずがいこつ)を捕獲した後、両の手の平で

思いっきりそれを捻り回してやった。

 間もなく『カキッ』と小さな音がして、頭蓋骨と胴体が分離する。

 

「……」

 

 腕と頭を切り離された骸骨は、力無くその場に崩れ去り、それきり動く気配はない。

 一応、勝負ありと判断していいのだろうか。

 僕はすぐ側で熱戦を繰り広げている、ヤトフさんの方へと目をやった。

 

「――これで、どうや!」

 

 その瞬間、覇気(はき)のこもったヌンチャクの一撃が、骸骨の頭部に炸裂する。

 その衝撃に耐え切れず、頭部は弾き飛ばされ、数m先まで転がっていった。

 頭蓋骨を失った骸骨は、僕の時と同様、力無くその場に倒れ込み――

 

「わッ…! まだ動くんかいな!?」

 

 首無し状態となった骸骨であったが、まだその活動は停止していなかった。

 気を緩めた彼女の肩に、その手が触れる。

 

 僕は咄嗟(とっさ)に大地を蹴り、標的へとショルダータックルをかました。

 その歴然とした重量差から予想された通り、首無しの骸骨は

遥か彼方へと吹っ飛んでいき、民家の壁へと激突した。

 

 ……

 

 それがどうやら、奴の致命傷となったらしい。

 しばらく様子を見続けた僕らであったが、その骸骨が

再び動き出すようなことは、二度と無かった。

 

 

 

 

 

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