OLWADHIS ~異世界編~   作:杉山晴彦

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第24話 巨獣の行方

 

 

 

 

 

「――待てッ! 何者だ、お前たち」

 

 半壊した町の入り口で待ち構えていたのは、槍を持った兵士らしき男の姿。

 恐らくは、見張り番といったところだろう。

 僕はほんの少しだけ頭を回転させた後、口を開いた。

 

「僕は、杉山榛名といいます。 レノン村で自警団員を勤めている者です」

「スギヤマ…ハルナ? おぉ…あなたがそうでしたか!」

 

 名前と職業を述べると、兵士は驚きと喜びが入り混じったような表情に変わる。

 その様子からすると、どうやら僕について多少なりかの噂は耳にしているようだ。

 

「話は聞いております。 あのドノブイを、町から追い払ってくれたとか…」

「えっ? いや、別に僕は…」

「さぁさ、どうぞお入りください! お仲間の方々が、心配しておられましたよ」

 

 ドノブイを追い払った…?

 残念ながら、僕にはそういった記憶は無い。

 むしろ、追い払われたという表現の方が正しい気がしてならない。

 

「…あの、そちらの方は?」

 

 兵士の目が、僕の後ろに立つ人物に向けられる。

 これまでに集まった情報から推測すると、ここら一帯の人間には

『ゴブリン』という種族自体は馴染み深い存在であるものの…その中で

自分たち人間の社会に深く介入する者は、そう多くはないといった認識があるようだ。

 

「ベントさんといいます。 安心してください。 彼の身の上は、僕が保障します」

「…承知致しました」

 

 僕がきっぱり告げたその言葉を聞くと、兵士は納得したような顔で彼を通した。

 ベントさんの方は、相変わらずの仏頂面(ぶっちょうづら)である。

 

 

 

「中々に、酷い状況ダな」

「はい…」

 

 町の中の様子に目を配るベントさんは、神妙そうに呟いた。

 目に付く建造物という建造物には、いずれにも痛々しい破壊の傷跡が見える。

 時折現れる血溜まり。 へし折られた剣や槍…。

 まるで暴動か戦争にでも巻き込まれたような有り様が、そこにある。

 

 だが、そんな場所でも、人々の(いとな)みは続けられている。

 建物の修復や瓦礫(がれき)の撤去などを行う町民の姿が、あちこちで見かけられた。

 あの巨獣が、またいつ襲ってくるか…それは定かじゃないけど。

 人は(はかな)くとも、しぶとい生き物である。

 

 ……

 

 尚も町の惨状に目をやり続けるベントさんであったが、僕はふと違和感に気付く。

 彼の眼は、まるで何処か遠くの場所を見ているようで…。

 その意識は、何処か別の場所に思いを()せているような気がした。

 

「ベントさん…どうかされました?」

「んッ? なに…別に、何デもねぇさ」

 

 ……

 

 僕らはしばらく、半壊したその町を黙って歩き続けた。

 しばらく歩き続けると、やがて見覚えがあるような建物が姿を現す。

 僕の勤め先である、レノン村警備所…。 それと似た外観の建造物。

 恐らく、あそこが目的地とみていいだろう。

 

 

 

「…無事、帰還致しました」

 

 そこへ入るや否や、各々(おのおの)から一斉に浴びせられる視線を感じながら、

僕はビシッと敬礼を決めて言い放った。

 場の空気が凍り付いたのを感じつつ、そこにいる面々を順に確認していく。

 

 ジウさん、ケヴィンさん、団長さん。

 お馴染みの、レノン村自警団のメンバー達。

 それに加え、見覚えのある老人と若い女性。

 恐らくは、この町の自警団に所属する人たちとみていいだろう。

 

「スギヤマ、お前「――スギヤマくん! 無事だったんだね!」

 

 ケヴィンさんがホッとしたような顔でこちらに歩み寄ろうとするが、

横から飛び出したジウさんがそれを跳ね除け、前に(おど)り出る。

 そして、僕の両手をギュッと掴んできた。

 

「もう~! あれからどうなっちゃったのかと、心配で夜も眠れなかったんだよ!」

「いや…あれからまだ、夜は来てねぇだろ」

「とにかく、良かったよ! まぁ君のことだから、別に心配はしてなかったけどね!」

「…どっちなんだよ」

 

 涙ぐんで語るジウさんと、冷静に突っ込みを入れるケヴィンさん。

 よく分からないが、なんだか微笑ましい気分だ。

 

 ……

 

「ご心配、お掛けしました」

「あぁ…。 ま、無事で何よりだ」

 

 まだジウさんに両手をロックされたまま、僕は団長さんに小さく頭を下げて詫びる。

 彼は僅かに口元を緩め、短くも温かい言葉を返した。

 さて、再会を喜ぶのはこれくらいにして…。

 

「あの…。 あれから、ドノブイは?」

 

 僕は、次に確認すべき事項を口にした。

 誰に尋ねるべきか、特定することも出来なかったので、とりあえず

その場にいたみんなを見渡す。

 

「お前を吹き飛ばした後、すぐに町から出て行ったようだ」

「それまでの暴れっぷりとは打って変わって、妙に落ち着き払った様子だったな」

 

 まずは団長さんが口を開き、続いてケヴィンさんが言葉を述べた。

 すぐに町から出て行った…。

 要するに、被害がそれ以上は拡大しなかったということか。

 

「それから、後をつけてはみたんだけどね。 途中でいきなり

猛ダッシュするもんだから…見失っちゃったみたいで」

 

 ジウさんは少し申し訳無さそうな顔をして、経緯を語る。

 まぁ、あの巨体ではあるが、奴はかなりのスピードで走れるようだし…

ジウさん達の方も、万全な状態とは言い難かったことだろう。

 

「奴が走り去ったのは、ジオン・フィオガの方面だったという話です。

人気の無い地域ですので、人的な被害は心配ないでしょうが…」

 

 次に口を開いたのは、兵装を(まと)った白髭の老人。

 やはり召集令の影響があってか、この町に至っても、若い男性ばかりが

こういった職務に付いている状態ではないらしい。

 

「ジオン・フィオガ…?」

「古くにこの辺りを支配していた国が造った、闘技場です。

ジオンというのは、この辺りに伝わる(いくさ)の神の名前ですね」

 

 僕の疑問に答えてくれたのは、老兵士の隣に立つ若い女性の自警団員。

 露出した肌には、幾つかの真新しい(あざ)や傷跡が確認出来る。

 恐らくは、ドノブイとの戦いで負ったものだろう。

 

「闘技場では、生き死にを賭けた戦いや、罪人の処刑などが行われていたようで…

昔から悪霊や怨霊(おんりょう)の溜まり場として、この地方には伝わっています」

「だから、人気の無い場所…というわけですか」

 

 老兵士の言葉に耳を傾けつつ、情報を整理していく。

 確かにそれなら、人的な被害は大丈夫そうであるが…。

 それは所詮、とりあえずの安堵(あんど)にしか成り得ない。

 ここは一刻も早く、奴を――

 

「…あれ?」

 

 僕はそこでちょっとした違和感に気付き、後ろを振り返った。

 そこには、いるべき筈の人の姿が見当たらない。

 

 ……

 

「ベントさん、何してるんですか」

「ん…あぁ」

「――来てくださいよ、こっち」

 

 ひょいっと外に顔を出してみれば、そこには警備所の壁にもたれ掛かる彼の姿。

 何だか入り辛そうにしているが、これからの計画に彼は欠かせない人材である。

 僕は彼の腕を引っ張り、強引に警備所の中へと連れ込むことにする。

 

 

 

「なるほど。 封魔の矢…か」

「そいつを打ち込めば、アイツを倒せるってのか?」

 

 ベントさんを引き連れ、あの海辺の洞窟で入手したとっておきの道具を

警備所に集まったみんなにお披露目(ひろめ)する。

 木箱の中にあるのは、銀色の光沢を放つ矢先に不可思議な紋様(もんよう)

刻み込まれた、サイズ的には普通の3本の矢。

 

「この矢には、魔力を封じ込める力が宿ッテいる。 それも、魔界に生きる奴らには

一際高い効果が望めるようダ」

「へぇ~…よく分かんないけど、なんか凄そうだね。」

 

 ベントさんの解説に、ジウさんが目を丸くして感想を述べる。

 魔界に生きる者…。

 つまりは、童魔(どうま)だとか暗黒獣だとか呼ばれている(たぐい)の生き物たちだ。

 

「確かにあの怪物に、正攻法で挑むのは得策ではありませんな…」

「これで、勝機が見えてきましたね」

 

 リシャーナの自警団員の2人も、それぞれに意見を口にする。

 何にせよ、この矢には色々と期待をせずにはいられない心情だ。

 

「――となると、善は急げだな」

 

 団長さんが解き放ったその言葉に、一同が一斉に注目する。

 確かに…こうしている間にも、またいつあの巨獣が襲ってくるとも知れない状況。

 それを打破するには、こちらから行動を起こすのが一番であろう。

 

 

 

 かくして僕たちレノン村自警団の一同とベントさんは、ドノブイ討伐(とうばつ)のために

ジオン・フィオガと呼ばれる闘技場に向かうこととなった。

 警備所にいたリシャーナの自警団員2人には、怪我の具合いからして

同行は断念してもらうという結論に至る。 しかし――

 

「…分かりました。 お供させて頂きます」

 

 町の出入り口の1つで見張り番を務めていた、ローブに杖という

魔道士風の格好をした男性が、こちらに向けて会釈(えしゃく)をする。

 彼は、先程のドノブイとの戦いでも、中々の貢献(こうけん)を見せてくれた人間である。

 

「それじゃ、見張りは私がやっておくから。 …気を付けて」

 

 警備所にいた女性兵士が、彼の代わりに出入り口の前に立つ。

 激しい戦闘は難しくとも、見張り番ぐらいは出来る…と彼女は主張し、

僕らがそれに同意した結果である。

 

「リベリオと申します。 皆さんの足手纏いにはならぬよう、努めますので。

これから、よろしくお願いします」

「あぁ…こちらこそな」

 

 緊張気味に挨拶をする彼に、団長さんが短く言葉を返す。

 先の戦い振りを見る限りでは、頼もしい同行者が増えたと言っていいだろう。

 

「無理はすんなよ。 あんたは、あんたが出来ることをすればいい」

「…は、はい。 ありがとうございます」

 

 歩み寄る彼に対し、ケヴィンさんがボンッと背中を叩いて声をかける。

 僅かながら彼の顔から笑みがこぼれ、緊張が解れた様子が窺えた。

 

 

 

 

 

 リシャーナの町を離れ、目的地へ向けて歩き続けること、しばらく。

 道中に交わす雑談の対象は、主に新加入のリベリオさんのことであった。

 彼は兵士になることに(あこが)れていたものの、昔から体が弱く、鍛えようと思っても

他の人と同じようにはいかない…そんな体質だったらしい。

 

 そこで彼は、精霊術を学んで『霊術士(れいじゅつし)』になることを決意。

 教わることとなった師匠の方からは、筋があると言われているらしいが…

それでも修行は、中々に大変なものであるとのこと。

 

「へぇ~…お師匠さんって、あのイデオックさんなの!?」

「凄ぇじゃねぇか。 確か、フォーマス軍魔導部隊の副兵長だろ?」

 

 自警団メンバーの反応を見る限り、どうやら師匠のイデオックさんとやらは、

それなりに名の知れた人物らしい。

 副兵長ってことは、えっと多分…2番目に偉い人みたいな感じなのだろう。

 

 ……

 

 盛り上がる3人を他所に、団長さんは黙々と先頭を歩き続ける。

 ベントさんも険しい顔つきで前を向き、こちらに目をくれる様子もない。

 来たるべき強敵との決戦が待ち構えているとなれば、無論のこと、

引き締まった気持ちで望む必要があるが…。

 

「あの、ベントさん」

「ん…何ダ?」

「ベントさんは、精霊術とか使えないんですか?」

 

 人間の頭は、四六時中100%の性能を発揮し続けれるようなものではない。

 機に備えるからこそ、緩みが必要なこともある。

 ま…彼は人間じゃなく、ゴブリンなんだけど。

 

「精霊術を行使するには、生まれ持ッタ才能ト資質が欠かせねぇんダ。

それが無ぇ奴が必死デ修練を積んダトころデ、タかが知れテいる」

「……」

「俺には、その資質が無い。 ダから、使える筈もねぇ」

 

 ベントさんはぶっきらぼうにそう答えると、再び前を向いて歩き出した。

 才能と資質、…か。

 努力では埋められない差っていうのも、やっぱり世の中にはあるものなのかな。

 

「僕は…どうなんでしょうか?」

「俺じゃ、判断出来ん。 見るヤツが見れば、すぐに分かるものらしいが…」

 

 ついでとばかりにぶつけた質問に、そんな答えを返すベントさん。

 とりあえずその可能性は、無きにしても有らずということらしい。

 

 僕も頑張れば、あんな魔法が使えるようになるのかもしれない…。

 そう思うと、なんだか俄然(がぜん)、ワクワクしてきた。

 人間、誰だって一度は魔法使いに憧れるものである。

 

「まぁデも、才能があるかはトもかく…お前にゃ、必要のねぇ技術ダろう」

「――えっ? …どうして、ですか?」

 

 続けて発せられた彼の言葉に、僕はキョトンと首を傾げてみせる。

 彼はしばし僕の顔をジィッと見つめた後、再び口を開いた。

 

「お前には別の才能が、他に山程ある。 欲張ッテ手を広げなくトも、

充分、上手くやッテいけるさ」

「……」

 

 ほんの少しだけ口元を緩め、彼は穏やかにそう説いた。

 なんか…どっかで聞いたような言葉だな。

 

 そうそう。 秀輝くんにも昔、似たようなことを言われたっけ。

 確か、『あなたは今のままでも充分ですよ』…的な台詞。

 あぁ言われたから、僕はこれまでの人生、格闘技とかも習わずに生きてきたのだ。

 

「ドうした?」

「いえ…。 以前にも、あなたと似たようなことを言ってくれた人がいたもので」

「…そうか」

 

 僕の返答に短い相槌を打つと、そこで彼は僕の方から視線を外した。

 どうやら、要らぬ詮索をする気はないらしい。

 彼の、実に彼らしいそんな態度に、僕は少しほっこりとした気分となった。

 

 

 

 

 

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