OLWADHIS ~異世界編~   作:杉山晴彦

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第27話 僕の日常

 

 

 

 

 

「――では、行ってきます」

「はい。 行ってらっしゃい」

 

 レノン村警備所にて。

 待機所に(つど)った3人のメンバーに見送られ、巡回に出掛ける彼の姿があった。

 もはや馴染み深い存在となった少年の、馴染み深い姿。

 

 ……

 

「ねぇ、ちょっと思うんだけど…」

「なぁに? ミューちゃん」

「なんだか最近、ハルナさんの様子がおかしい気がするの」

 

 しかし彼女には、何かしら感じるものがあったようだ。

 それは心の片隅にちょっとした()(もの)が出来てしまった程度の、

限りなく曖昧(あいまい)で、些細(ささい)な違和感。

 

「何をしている時も、心ここにあらずって言うか…上の空って感じで」

「あいつはいつも、そんな感じだろ?」

「…ケヴィン。 それって何気に、凄い失礼」

 

 ミューレ、ケヴィン、ガラナ。

 待機所にいるメンバー達は、それぞれに口を開く。

 

「あたしもちょっと、変な気はしてたの。 でもあの子って、元々訳ありの身だし…

顔にもそういうの、全然出さないからね」

「そうなのよ。 何があったのか、まるで予想が付かないから…尚更、心配で」

 

 遠ざかっていく少年の背中を見つめながら、彼女らは浮かない顔つきをした。

 ケヴィンは小さく溜め息を吐いた後、黙って警備所の奥へと歩き去る。

 人の心の内を知る手立てが無いのは、誰しも同じのようである。

 

 

 

 

 

「……」

 

 とある物置小屋の前。

 あの頃と比べると幾分(やわ)らいだ陽射しを避け、日陰に入った僕がいる。

 

 気持ちが落ち込んだ時にどうするかは、主に2つのタイプに分けられる。

 暗めの雰囲気の中、静かに時が流れるのを待つタイプ。

 明るめの雰囲気の中、その雰囲気と心が同調するのを待つタイプ。

 

 ……

 

 僕はどちらかと言えば前者であるが、場合によっては後者の時もある。

 気持ちが不安定な時こそ、冷静であれと自らに言い聞かせる…。

 生き延びる上では、冷静さほど強力な武器は中々存在しない。

 それ失くして危機を脱したところで、それは所詮、結果オーライと呼んで

差し支えないものが大多数であろう。

 

「……」

 

 『危機』、か…。

 僕が今置かれている状況は、そんな言葉で言い表せるものなのだろうか。

 

 いかに理不尽な事態に巻き込まれようとも、その原因がはっきりしているのであれば、

平常心を維持(いじ)することは、決して不可能なことではない。

 だが、その原因が分からなければ…。 例えば、自分が原因だと思っていた

『それ』が、自分には何も理不尽な所はない…間違ってはいない。

 そんな風に主張してきたとしたら、厄介(やっかい)なものである。

 

 ……

 

 まぁそれは()くまで、『それ』が心を持つ者の場合に限っての話である。

 いま僕が対峙(たいじ)している相手は、そんなものではない。

 恐ろしいぐらいに無機質で、微塵(みじん)の揺るぎも見せず…ただ、そこに在り続けるもの。

 

「……」

 

 考えてみれば、『世界征服』なんてものは、何て大それたことだろうと思う。

 それを完璧に支配するためには、『それ』を完璧に熟知(じゅくち)する必要がある。

 世界に存在するもの全てに対しそんなことをするのは、不可能である。

 人の頭に、それだけの情報量は入りきらない。

 

 いや…仮に、無限の情報を詰め込むことが可能だったとしても。

 心を持つ者である限り、不可侵な領域(りょういき)は必ず存在する。

 (ゆえ)に心を持つ者に、『絶対』などという言葉を(かん)することは出来ない。

 もしも、自らを『絶対』の存在にしたいのであれば――

 

「……」

 

 …なんか、話が脱線してるような気がする。

 いつものことと言われてしまえば、それまでのことだが。

 えぇっと、つまり…。 僕が今、すべきことは…。

 

 

 

 

 

 警備所裏のアパートの一室。

 夜が更け、静寂が村を包む中、僕は着々と準備を進めていた。

 

「……」

 

 準備と言っても、数少ない荷物を手頃な大きさの布袋に詰め込むだけだ。

 食べ物や水も多少は持っていくが、気候を考えれば、あまり長持ちは

しないだろうから…1日分もあれば充分。

 

 ……

 

 粗方(あらかた)の荷物を詰め終えたところで、殺風景な部屋の中、

隅に飾ってあったある物が目に止まった。

 青と白の羽根が交互に組み合わさった、いつかのお見舞いの品である風車(かざぐるま)

 

「……」

 

 手に取り、強めにフッと息を吹きかければ、それはたちまち回り出す。

 ちなみに僕の肺活量は、成人男性の軽く数倍以上はあるんだとか…。

 まぁだからと言って、特別良いことがあったような記憶も無いんだけど。

 

 ……

 

 カラカラ回る風車を見つめ、少し物思いに(ふけ)る。

 うん…。 色々と、色んなことがあった。

 退屈という言葉が似合うような瞬間は、一時(いっとき)たりとも訪れはしなかった。

 

「……」

 

 幸せな時間と呼ぶのなら、それはきっと、そうだったのだろう。

 でも…幸せというのは、長くは続かないものだ。

 だって、長く続いていると…それが幸せであることを忘れてしまうものだから。

 

 ……

 

 僕は少し迷った挙げ句、風車を袋の中に入れた。

 そう…。 僕は別に、ここでの生活を忘れるために行くのではない。

 むしろ、ここで(つちか)った経験は、これから先の旅路においても

大いに役立ってくれるものであろう。

 

「…よし」

 

 布袋を手にし、僕は立ち上がる。

 テクテクと、いつもと変わらぬ歩調で玄関へと向かう。

 まるで、誰も居る筈のないその空間で、誰かに自分の心を

見透かされまいとするかのように。

 

 

 

 

 

 ――この村は、こんなにも小さいものであっただろうか?

 駆け足でその境界線を越える瞬間、ふとそんなことが頭を過ぎった。

 でも僕は、もう振り返るつもりはない。

 

「……」

 

 急ぎ足だったペースを少し緩め、短距離走から長距離走仕様の走りへと

そのペースを変化させる。

 汗ばんだ肌に、柔らかな風が心地好い。

 

 何はともあれ、先は長い。

 ゴールが何処にあるかなどは、見当も付かないのだ。

 今、僕の胸に(かか)げられている目標は…。

 

 ……

 

 とにかくもっと、この世界のことをよく知り――色んなものに触れていくこと。

 僕がここへ来た理由。 家に帰る方法。

 都築さんが消えた理由。 その行方。

 僕の周りで起こる様々な出来事。 その要因と、対策。

 これらの答えを導き出すためには、そうする以外に方法はないのだ。

 

「……」

 

 孤独。 失望。 絶望。

 終わり。 始まり。 旅立ち…。

 色んな言葉が、どれも少しずつ当てはまるような、そんな状況。

 頭の中は正直、てんやわんやのお祭り騒ぎ状態だ。

 

 ここは、天国か地獄か…。

 どちらにしたって、やることにそう変わりはない。

 臨機応変(りんきおうへん)に、ただただ――『生』と『面白さ』を求めて。

 

 

“まぁでも、せっかくの機会だし。 楽しめるだけ楽しもうよ”

 

 

“これはこれで、面白いじゃん”

 

 

 ……

 

 …そう、だな。

 いつだったか彼が口にしたそんな言葉を頭に浮かべ、僕はそっと目を閉じた。

 そうやって生きていけば…。

 いつの日か、本当の居場所に辿り着けたりすることも、あるのもしれない。

 

 

 

 

 

 月と『星』の明かりを頼りにしばらく走り続けていた僕の前に、

やがて(つら)なった2つの山々が姿を現す。

 テドラ山…。 スサンボ山…。

 どちらの山にも、それぞれ色々と思い出がある。

 

「……」

 

 僕はしばし迷った挙げ句、左側に見るテドラ山の方へと駆け出していく。

 あそこはやはり、僕とこの世界との関係が始まった場所――。

 初心を取り入れるという意味も含め、横切らせてもらうこととしよう。

 それに…。

 

「――あっ、そうだ」

 

 とあることを思い出した僕は、真っ直ぐ山を駆け抜けるルートから

少し外れて、山の中腹部を目指す。

 夜の山中で下手に動くことは危険だが、僕の脳内ナビゲーションからは

その自信と安全性が充分に伝わってくる。

 

 ……

 

 ガサリガサリと茂みを()き分け、一心不乱に走り続ける。

 ふと冷静に今の自分の姿を客観視してみると、かなりアブない奴にも思える。

 いや…他人の目を気にしている場合じゃないな。 今は。

 

 

 

「…発見」

 

 辿り着いた先にあったものは、木にぶら下がった紫色の、粒々の物体。

 見た目、味、食感などからして、間違いなくブドウと呼んで差し支えないものだろう。

 ベントさんに案内され、かつての僕はこの場所を訪れていた。

 

 ……

 

 あんまり感傷的な気分が心を占めないように、手早くそれをもぎ取っては

何房(なんふさ)かを袋の中へと詰め込んでいく。

 持ってきた食物の中に糖分の多いものは無かっため、この収穫は有り難い。

 

「……」

 

 収穫を終えた僕の頭に、ついでとばかりに(よみがえ)る記憶があった。

 そう言えば、あれは…この近くにあったような気がする。

 

 

 

 お目当ての物は、割とすんなりと見付かった。

 そこに悠然(ゆうぜん)とたたずむのは、天使を思わせる女性の姿をした石像。

 久しぶりの再会に、あの頃の気持ちをふと思い出す。

 

「……」

 

 …う~ん。

 やっぱりなんか、何処かで見たような顔をしている気が…しなくもない。

 再び記憶の糸を辿る作業もしてみたが、やはり思い当たる(ふし)は無い。

 

 ……

 

 ここに来てモヤモヤした気持ち抱え込むのは気に喰わないが、致し方あるまい。

 僕はクルリと方向転換し、山越えルートに戻ることにした。

 

 いや、これもまた…この世界に溢れた、多くの謎の1つ。

 ――だったらいつか、解き明かしてやろう。

 まどろむ想いを決意に変え、僕はまた走り出す。

 

 

 

「……」

 

 ()えて、ここに来るつもりもなかったのだが。

 自然と足が出向いてしまったという表現が正しいか。

 

 夜の闇に(まぎ)れ、その木造の建築物はひっそりと存在していた。

 明かりが点いている様子もなく、住人は恐らく夢の中…。

 どんな夢を見ているのだろうと、どうでもいいことをちょっとだけ考える。

 

 ……

 

「――いつか、また」

 

 僕は小屋に向かってペコリとお辞儀をした後、そんな言葉を紡いだ。

 以前よりもずっと痛烈に感じる、本当の別れの予感。

 それでも…。

 

 願いとは、叶える人のためではなく、願う人のために存在するものである。

 だから、どれだけ馬鹿げた願いであれ…それを願う心に、多少なりかの意味はある。

 そんなものがまた、その人を構築(こうちく)する1つの要素と成り得るのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、何処まで走り続けたのか…。

 時間も方向もまるで気にしていなかったので、よく分からない。

 とりあえず、山を下りて…。

 それからはもう、無我夢中で駆け抜けてった感じだ。

 

「……」

 

 気持ちは分かるが、ここらで一旦立ち止まり、頭を冷やすことにした。

 情熱は大切だが、だからと言って冷静さを捨てるのも勿体無い。

 互いに切磋琢磨(せっさたくま)するような関係こそが理想なのだろうが…

そこはやはり、色々と難しい。

 

 ……

 

 まばらに木々が点在する、原っぱの上。

 そう遠くない場所から、水の流れる音がする。

 僕はひとまず、その気配がする方角へと足を向けた。

 

 いつだったかも、こんな感じで湧き水の出るポイントを見付けたっけ…。

 水辺で変な蛙と戦ったり、岸辺でシャルコさんと出会ったり――

そして、あの海辺の洞窟では、水の精霊オコロポスと…。

 この世界での僕は、何だかやたらと、水との縁があるみたいだ。

 

 

 

 程無くして、水音の正体が発覚する場所へと辿り着く。

 眼前に流れるは、(ゆる)やかに立ちはだかる大河。

 これはもしや…。 ルベニアとの国境でもある、ファラテモ河かもしれない。

 

「……」

 

 気分を一新するには、違う国の空気に触れてみるのもいいだろう。

 そんな安直な発想を頭に思い浮かべつつ、僕は河沿いを歩き出す。

 

 ……

 

 しばらく歩いてみるが、延々(えんえん)と河沿いが続くばかり。

 確か、向こう岸とを(つな)ぐ大きな橋があるという情報を耳にしているが…。

 今のところ、それらしい物が現れる気配はない。

 

「…うん?」

 

 ふと、『星』の明かりに照らし出された先。

 そこには、小型のボートらしき物体が確認出来る。

 水に浮かんでいるわけではなく、生い茂る草むらの中に放置…。

 パッと見、捨てられてるって感じだ。

 

 僕はその物体に近寄り、その形態(けいたい)をよく観察する。

 全体に広がる、古びた木の色合い。

 所々から雑草が伸びるその姿は、草むらと一体化しつつあるようだ。

 

 ……

 

 僕はそれを持ち上げた。

 そして、河岸まで運んで行く。

 誰かの所有物かもしれないという思いも多少あるが、そこは

若気の(いた)りということで、寛大(かんだい)に受け取ってもらうことを祈る。

 

「…よしっ」

 

 ボートは無事、水の上に浮かんだ。

 渡りに船とは、正にこのことであろう。

 僕は意気揚々(いきようよう)と、そこへ乗り込むことにする。

 

 ……

 

 とりあえず、沈んだり、浸水してくるような様子は見られない。

 まぁ、そう長い旅路にするつもりもない。

 向こう岸に辿り着くまでの間、何とか持ってくれることを願う。

 

「……」

 

 こちらもかなり古びた様子のオールを手にし、ザバッと水を掻き分けた。

 ほのかな明かりに映し出される波紋(はもん)水飛沫(みずしぶき)は、やけに幻想的。

 そして僕を乗せたボートは、当然の如く岸から離れていく。

 

 

 

 ――どうして彼を、『1人』にしてしまったのだろう?

 胸中にずっと在り続ける自責(じせき)の念が、またくっきりと心に現れた。

 

 僕や都築さんと、『彼ら』と『彼女たち』。

 そこに何らかの(へだ)たりがあることは、ずっと覚悟していたことの筈だ。

 なのに、どうして…。

 

 誰かを…何かを信じる気持ちが、時に悲劇を生む。

 それは数ある(いとな)みと交流の中で、自然に発生してしまう事態(じたい)かもしれない。

 だが、実際にそれを目の当たりにすると…。

 

「――ス、スギヤマく~ん! 待ってってば~!」

 

 静かなる深淵(しんえん)の中、誰かが僕の名前を呼んだような気がした。

 後ろを振り返った瞬間、『バシャンッ』と何かが水に飛び込む音。

 

 ……

 

 なんと言うか…滅茶苦茶な泳ぎ方だ。

 明らかに、泳ぎを得意とする者の動きではない。

 しかし、それは意外な程に速いスピードで、ボートへと着実に接近してくる。

 

 

 

「ゲホ、ゲホッ…。 ふぇ~っ、死ぬかと思った」

「…何してるんですか」

 

 引き上げた彼女は、ずぶ濡れで少なからず水を飲んでしまったようだが、

とりあえず大事に至った様子はない。

 僕は安堵(あんど)の表情を見せる彼女の目を見つめ、言葉を口にした。

 

「――それ、こっちの台詞だよ! どういうことなの!? スギヤマくん」

 

 彼女は真っ直ぐに僕を見つめ返し、反論の言葉を口にする。

 そう言われても仕方ない立場だと認識している僕は、そこから更に

次なる言葉を(かぶ)せようという気にもなれない。

 

 ……

 

「…いいよ。 君のことだもん。 ここで話せるような理由があったんなら、

黙って出て行ったりはしてないよね」

「……」

 

 彼女は穏やかに微笑んではいるが、目付きはこれまでに無いくらい

真剣そのものであった。

 緊張と、動揺と…それに困惑。

 ここで下手に口を開くことは、出来ない。

 

 ……

 

「僕ね、分かんないよ。 君が何を感じて、何を信じて…いつも、

どんな思いでいるのかなぁって」

「……」

「君はいつも、上手に()(つくろ)ってるからさ。 僕もただ、ずっと気付かない振りを

していることしか出来なかった」

 

 彼女は少し息を荒げながらも、一瞬たりとも僕から目を離すことなく

言葉を紡ぎ続ける。

 僕は黙って、その言葉に耳を傾ける。

 

「でもね――知りたいんだ」

「……」

「もっともっと、君のこと」

 

 そこにあるものは…。

 嫌になるくらい、真っ直ぐな想い。

 僕の中の一部分が、盛大な警鐘(けいしょう)を鳴らし始める。

 

 そこにあるものは、ただの(まぼろし)に過ぎないかもしれない。

 あるいは、時を()れば簡単に()じ曲がるものなのかもしれない。

 それ…でも…。

 

「そのために、あなたは――日常を捨てるんですか?」

 

 僕が投げかけたその言葉に、彼女の身体はピクリと微かに震えた。

 そして、下唇を噛んで何かを考えるような仕草。

 

「うん…。 そうしないと、君と一緒にいられないみたいだから」

 

 普段よりもどこか大人びた、(うれ)いを含んだ表情で答える彼女。

 こんな顔は、初めて見た気がする。

 

「――でもさ、心配しなくていいよ」

「えっ…?」

「これからはさ、君とこうして一緒にいることが…僕の日常になる。

そうなればいいなって…そう、思ってる」

 

 ……

 

 …そう、か。

 日常なんてものは、ただそこに在り続けるだけのものじゃない。

 そして、守り続けるだけのものでもない。

 

 いつだって変えられるし、いつだって…新しく作り上げていくことが出来る。

 そこに――誰かの強い意志さえあれば。

 

 ……

 

「これから僕は、当てもない旅を始めます。 何が待ち受けるかも…

いつ終わるかも知れない、途方のない旅です」

「…うん」

「それでもよろしければ…」

 

 僕はそこで口をつぐみ、そっと目を閉じた。

 こんな台詞は、生半可な気持ちで伝えるものではないから。

 しばしの沈黙を(はさ)んだ後、僕はその想いを口にする。

 

「――僕の日常に、ついて来てくれますか?」

 

 ……

 

 只ならぬ決意を秘め、只ならぬ覚悟の元に解き放った言葉。

 しかし彼女は、何故かポカンとしたような、呆気に取られたような顔をしている。

 ここは笑顔で、『うん!勿論だよ』とか…そんな感じの(さわ)やかな台詞で

答えを返してくれる場面だと思うのだが。

 

「い、今、君…笑ったよね?」

「…えっ?」

 

 質問の意図とはまるで違う返答に、今度は僕が呆気に取られる番であった。

 だが数秒が経ち、起こり得た事態を認識する。

 

「わぁ~っ、凄い凄い! 初めて見たよ! へへっ…ちょっと感動」

「……」

 

 自分の口元へ、そっと手をやってみる。

 少なくとも現時点では、口角が上がっているような様子はない。

 

「ねぇねぇ、もう1回やってみせてよ! 突然だったから、

あんまりちゃんと見れてなかった!」

 

 彼女はジャングルの奥地で恐竜の生き残りを発見した学者のような興奮ぶりで、

僕にスマイル・アゲインの催促(さいそく)をしてくる。

 期待には、どうにか応えてあげたいものだが…。

 

「…ニコッ」

「いや、そんな…口で言っても駄目だよ! あ~ほら、もう1回…頑張って!」

 

 ……

 

 何はともあれ…。

 想像していたものとはちょっと違う、騒々しい雰囲気の中。

 僕の新たな冒険が始まった。

 

 これからが多分、僕とこの世界との、本当の戦いとなるだろう。

 その先に見えるものが何か…今はまだ、知る(よし)もない。

 でも僕は…最後までやり遂げたい。

 この身に降りかかった、この最大級の謎を…きっと、解き明かしてみせる。

 それがこれからの――僕の日常となる。

 

 

 

 

 




読んで頂いて、ありがとうございます。
第3章は、これにて終了となります。
キャラクター紹介とEpisode:3を書き終えた後は、
現代編の第3章を進めていく予定ですので、ご了承下さい。
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