「――
その偉大なる力を
フォーマス王都の付近に広がる、森林地帯。
その先頭に立つ、赤黒い鎧を
「魔の時代の到来を、ここに告げん!」
言葉を言い終えた途端、後ろに控える魔物たちから一斉に巻き起こる歓声。
獣や虫の鳴き声が入り混じったその異様なシンフォニーは、前方に構える
騎士たちにとって、さぞかし耳障りなものに聞こえたことだろう。
「とまぁ、堅苦しい挨拶はこれぐらいにして…」
リーダー格と思われる銀髪の童魔が、向こう側の先頭に立つ
大柄な壮年の騎士に
壮年の騎士は微動だにすることなく、鋭い眼差しを童魔に返した。
「――パーティーの始まりだ!」
銀髪の童魔が剣を上空へと
……
「――
少なからず動揺が見られる配下の兵士たちに、壮年の騎士が陣形の指示を出す。
魔物を初めて目の当たりにする者も多いこの状況では、専守防衛を
その陣形が適切と判断したようだ。
マリクト・ジュニエス。
『
最高の騎士とさえ呼ばれる
「クハハハッ…」
対する魔の軍勢を指揮するのは、『
大きな岩の上に立つ彼は、今まさに衝突しようという両軍の様子を
見下ろしながら、心底楽しそうに笑っていた。
合戦が開始してから、幾ばくかの時間が過ぎ去った。
異形な魔物たちを相手に当初は戸惑いを見せていた騎士たちであったが、
やがて冷静さを取り戻し、各々が果たすべき役割を着実に行っていく。
「…ハッ!」
一閃した斬撃は、眼前に立つ魔物の胴体を真っ二つに切り裂いた。
奇怪な断末魔の声を上げ、魔物は絶命する。
マリクトは、すぐさま改めて周囲の様子に気を配る。
所々から鳴り響く、戦士たちの気合いの込もった掛け声。
自軍の優勢を確信しながらも、彼の表情に緩みは見られない。
……
その時、不意に耳に届いた叫び声。
それは恐怖や失望、無念の想いを感じさせる、戦場において幾度も耳にした――
されど聞き慣れぬ、人の
マリクトは弾かれたように駆け出し、声の元へと向かう。
「――ホルク!」
「…おっと、大将さん。 部下の悲鳴を聞いて、
クハハハハハッ!」
高らかな笑い声を上げる銀髪の童魔。
その
生気の無いその眼と血塗られた甲冑が、彼の現状を表していた。
「兵長殿…申し訳ありません。 わ…私は、どうやら…」
「――不様な負け犬となっちまいました」
ホルクと呼ばれた騎士は、最期の言葉を言い終える前に
童魔からの無常な斬撃をその身に受ける。
その一撃が彼の命の灯を
誰の目に見ても明らかであったことだろう。
……
「さてと…」
「――前置きはいらん。 部下の
童魔は怯む様子もなく、ゆっくりと剣を構え、その場に
相対する者との距離は次第に縮まり、互いの視線が
「いいねぇ。 友情、愛情、お涙
ったく、
銀髪の童魔がそう言い放つと同時に、両者の剣がぶつかり合う。
数刻の
繰り返される斬撃の
……
「オラオラ、どうしたぁ!? そんなんじゃ、あっという間に細切れだぜ!」
「くッ…!」
銀髪の童魔が繰り出す攻撃は想像以上に素早く、激しく。
マリクトは今、剣を交えている相手が、人間の域から外れた者であることを
痛切に感じ取っていた。
……
「ゴフッ…!」
尚も続く斬撃の応酬の中、銀髪の童魔は隙を見計らい、片足を軸に
クルリと回転すると、マリクトの腹部へと後ろ回し蹴りを決めた。
鎧の上からであったため多少はダメージが軽減されたものの、その衝撃は
彼の身体を後方3メートル先の大木へと吹き飛ばす。
「この程度かよ…。 ハッ、期待外れもいいとこだな!」
息を荒げながら立ち上がるマリクトの姿を見て、童魔は
そして、興味を失ったかのように彼から視線を外すと、付近に倒れている
血まみれの甲冑の騎士へと歩み寄る。
……
『ドカッ』と鈍い音が鳴り響き、マリクトの眼はカッと見開いた。
そこにある光景に、感情のコントロールを一瞬失いかけたためだ。
「オウオウ、不細工な顔がより一層酷くなっちまって…」
「貴様ッ…!」
「こうなりゃ、とことんブッ壊れちまった方がいいな! クハハハハハッ!」
童魔が履く赤黒いブーツの底には、既に息絶えたホルクの顔。
そして一度踏み抜いたその顔に、高笑いと共に幾度となく足を振り下ろす。
幾度も――幾度も。
……
「…ん~っ?」
もはや原型を留めてはいない騎士の顔面から足をどけると、
童魔は奇妙な気配がする方向を振り返った。
そこには、微かに白く輝くオーラを纏った壮年の騎士の姿がある。
「
「…武人じゃねぇ。 狂人なんだよ、俺ぁ」
その鋭い眼光を受けながらも、童魔は怯む様子もなく言葉を返す。
その態度に、彼に対するマリクトの
「誇り高き
紡がれる言葉は、決意の
自らの正義を貫き、目の前にある『悪意』を断ち切る。
その目的を果たすべく、解き放たれる力。
「邪を
彼が言葉を言い終えた瞬間、彼の身を包んでいた光り輝くオーラは
見る見る内に大きくなり、やがて1つの形を創り出す。
それはたてがみを生やし、鋭い牙と
「なるほどねぇ…。 ようやく、『レオナイト』さんの
童魔はその
次の瞬間には不適な笑みを浮かべていた。
獅子の幻影が、その身を溶け込ませるように、マリクトの身体にサッ重なる。
――刹那、彼は剣を振り被った。