OLWADHIS ~異世界編~   作:杉山晴彦

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第6話 初めての剣術

 

 

 

 

 

「お~っし、スギヤマくんも見てることだし…負けないかんね!」

「お手柔らかにお願いします」

 

 警備所裏にある訓練場にて、2人は向き合う。

 ジウさんはブンブンと素振りをしながら、いかにも気合い充分といった様子。

 一方のミューレさんは、やや伏せ目がちで、自信無さ気な表情だ。

 

「……」

 

 僕は設置されたベンチに座り、2人の試合を観戦させてもらうこととなる。

 ちなみにジウさんが手にしているのは木刀で、ミューレさんが

持っているのは、加工された長い木の棒。

 いわゆる、棒術と呼ばれるものだろうか。

 

「それじゃ、いくよッ!」

 

 開始を告げる合図の言葉と共に、ジウさんが木刀を構えて突っ込む。

 ミューレさんはスウッと右足を後ろへとずらし、手にした棒を斜めに構える。

 

 ジウさんが剣を振り下ろすと、カンッと木と木がぶつかり合う乾いた音が響く。

 続けざまに斬撃を放つが、これもガード。

 3撃目は下から振り上げる太刀であったが、これに対しても

ミューレさんはしっかりと棒で受け止めていた。

 

「……」

 

 まずは様子見…といった所だろうか。

 その後もジウさんは幾度となく剣を振るっていくが、その全てが防御、

もしくは回避されるという結末に終わった。

 

 分かりやすい太刀筋とはいえ、その剣速と連続攻撃の技術は

馬鹿に出来ないものがあるだろう。

 攻守それぞれに専念する両者共、ある程度の経験が(うかが)い知れる。

 

 

 絶え間なく続いていた攻防に、やがて変化が生じた。

 ミューレさんが僅かな隙を突き、とうとうカウンターの一撃を繰り出したのである。

 軽い打撃ではあったが、ジウさんはそれを受けると

一旦攻撃の手を止め、間合いを取った。

 

「……」

 

 ミューレさんは棒を突き出すように構え、ジリジリと詰め寄る。

 先程のカウンターの一撃が、2人にとって何かの合図となったのだろう。

 余裕を含んでいた2人の表情が、次第に緊張感に染められつつある。

 

「…ハッ!」

 

 間合いに入ったと判断したのか、ミューレさんが掛け声と共に

素早く棒を突き出した。

 ジウさんはそれを回避すると、無防備となった彼女の側面へと迫る。

 

 肩を目掛けて振り下ろされた斬撃であったが、ミューレさんは上手く

体を横にずらしてその攻撃をかわす。

 逆に体勢を崩したジウさんに対し、棒の長さを生かした

広い範囲に有効な薙ぎ払いを放った。

 

「わッ…と!」

 

 しゃがみ込んでどうにかその攻撃をかわしたジウさんであったが、

これまた体勢が崩れた状態を余儀無くされる。

 それを逃すまいとでも言うように、ミューレさんは彼女目掛けて

長い棒を振り下ろした。

 

 直撃するかと思われたその叩き攻撃であったが、棒は彼女に

触れることなく、地面を叩く羽目となった。

 ジウさんは後ろへのでんぐり返しで見事に攻撃を避けた後、

その勢いのまま、器用に直立してみせる。

 

「やぁッ!」

 

 力強い踏み込みであっという間に距離を詰めると、

彼女は強烈な払い斬りを放った。

 ミューレさんは棒を縦に構え、かろうじてそれを受け止める。

 

「くッ…!」

 

 彼女の表情に焦りの色が見えるが、そんなことはお構いなしに

ジウさんは追撃となる突き攻撃を放った。

 顔面へと向かうその攻撃に対し、ミューレさんは反応出来ていない。

 恐らくは、手が痺れてしまったのだろう。

 

 

「僕の勝ち…だね」

 

 木刀の剣先は、ミューレさんの顔の手前で止まっていた。

 ジウさんが誇らしげに勝利宣言をすると、ミューレさんは

やれやれといった様子で首を横に振った。

 

「ふぅ…参りました」

「へへっ♪ ま、ミューレも頑張ってたけどね」

 

 どうやら、これにて勝負ありということらしい。

 戦いを終えた両者の顔には、どちらにも満足げな笑みがこぼれている。

 

「……」

 

 僕はベンチから立ち上がり、2人にパチパチと拍手を送った。

 これだけ見応えある試合を生で観れるとは、感激だ。

 

「どうどう? カッコよかったでしょ、僕」

「…えぇ。 とても参考になりました」

 

 親指を立て『グー』のサインをしながら、満面の笑みで話すジウさん。

 あの蛙の化け物を相手にした時にもその腕は拝見させてもらったが、

やはりこの人、只者ではないらしい。

 …まぁ、ベントさんには刃が立たなかったようだけど。

 

「次は、君が相手をする番だけど…どう? やれる?」

 

 心配してくれているような、それでいて、どこか悪戯っぽい表情で

僕に尋ねてくるジウさん。

 彼女が望む返事を出してあげることにしょう。

 

「はい。 よろしくお願いします」

 

 あんな良い試合を見せられたお陰で、僕の心は若干(たか)ぶっていた。

 この昂ぶりを吐き出すには、やはり自分も参加してみるのが一番であろう。

 戦闘意欲に火が点いた時の僕は、正直、ちょっと止められない所がある。

 

 

 

「……」

 

 剣を持った両者が向き合う。

 大したインターバルも取っていないせいか、ジウさんはまだ

完全に息が整ってはいない様子。

 

 ちなみに僕と彼女が持つ木刀のサイズは、その体格に比例して違う。

 彼女が持つ物も、自身の体格からするとやや大きめに見えるが…

僕のはそれよりも、更にずっと大きいサイズだ。

 この違いを生かすも殺すも、己の腕次第。

 

「まずは僕、防戦に徹するからさ。 好きに仕掛けてきていいよ」

「…分かりました」

 

 経験の差を悟ってか、彼女は余裕たっぷりな表情だ。

 さて、その差をどう埋めていくべきか…。

 いつ何時も、勝利に貪欲なのが僕の性分だ。

 勝負と名が付く以上、最初から負ける気で挑みたくはない。

 

 何はともあれ、まずは剣を振るう感触を確かめてみる。

 うん…。 シュミレーションしていた感じと、特に変わりはない。

 ジウさんはあぁ言っていたが、僕は一応、警戒を解かぬまま

徐々に彼女との距離を縮めていった。

 3メートル…2メートル…。

 

「……」

 

 僕の間合いとしては、こんなものだろうか。

 いや…もう少し距離を置くのが理想か?

 あれこれと考えながら、自分に適した間合いを追求していく。

 

「凄いね、君。 初めての訓練だっていうのに…まるで

実戦さながらの緊張感だよ」

 

 ジウさんはそう言うと、少し気の引き締まった顔をする。

 向こうがそれだけ真剣なら、こちらも真剣に…といった具合だろうか。

 魚心あれば水心、というものだ。

 

「…では、いきます」

 

 右足を前に出し、スッと木刀を上段に構える。

 この構えは、太刀筋は見切られやすいが、威力は期待出来る。

 パワーが自慢の僕としては、長所を生かせるものと言えよう。

 

 シンプルに、そのまま武器を対象目掛けて振り下ろした。

 当然の如く、そこには対象を守るべくしてジウさんの木刀が現れる。

 両者の武器がぶつかり合った。

 

 ……

 

 この力加減で、こんな感じか…。

 その後も、一撃一撃を確かめるように、連続の斬り下ろし攻撃を仕掛けた。

 いずれも、しっかりとガードされてしまう。

 

 

 どうやら腕力の差を埋めるため、攻撃を『受ける』というよりは

『流す』ことに彼女は徹しているようだ。

 やはり、全て力任せでどうにかなる程、甘くは無い世界らしい。

 

「……」

 

 己の未熟さを悟った僕は、そこからはがむしゃらに剣を振るうことにした。

 何にせよ、まだ剣の感触が身体に馴染んでいない。

 ひとまず、『その時』を待つのが先決かもしれない。

 

 

 

 力任せに振るうだけに見えていた太刀筋が、徐々に変化していく。

 的確に、迅速(じんそく)に――より無駄のない力の入れ方へ。

 その上達ぶりに、彼女は否応なく驚かされていた。

 

(…この子)

 

 彼が初めて剣を手にしてから、まだものの数分程度しか経っていないだろう。

 そして、これといった指導を受けたわけでもない。

 にも関わらず、既にその腕は、素人の域を超えていることは明白だった。

 

(ひょっとしたら、凄い逸材(いつざい)かも…)

 

 剣の腕そのものはまだ未熟な点があるものの、本来の身体能力の高さを

着実に生かしつつある彼の攻撃は、凄まじいものがあった。

 次第に彼女は、反撃に『出ない』状態から『出れない』状態に

自分が追い込まれていることに気付く。

 

「…ハッ!」

 

 僅かな隙を狙い、彼女はついに行動に出た。

 振り下ろされる彼の木刀に対し、側面から叩き付けるように剣を振るう。

 武器が交錯し、ぶつかり合った衝撃で彼の腕が硬直したことを確認すると

彼女はすぐさま後ろへと距離を取る。

 

 

「……」

 

 剣を構えたまま、お互い無言で見つめ合う2人。

 言葉を交わす必要は無かった。

 ここからは、問答無用の真剣勝負。

 彼の放つ雰囲気から、彼女はそう感じ取っていた。

 

 やがて彼女は、沈黙から痺れを切らしたかのように足を踏み出す。

 一直線に彼に駆け寄ると、手加減なしの払い斬りを放った。

 

(…ッ!)

 

 彼は木刀を地面に突き立てるようにして、彼女の攻撃を防いだ。

 渾身の力を込めた攻撃を、まるで危なげ無く止められた

事実に、彼女は動揺を隠せずにいる。

 

 そんなことはお構いなしとばかりに、彼が斬り上げの攻撃へと移行する。

 咄嗟(とっさ)に体を横にずらした彼女の頬を、木の刀身が掠めるように通り過ぎた。

 

(…チャンス!)

 

 彼女は体を捻り、回転斬りを放った。

 狙いは、右の太腿辺り。

 彼の体勢を考えれば、避けられるタイミングでは無かった。

 

 だが、その攻撃は当たらなかった。

 彼はその場でジャンプをし、その軌道から肉体を遠ざけたのだ。

 悠に1メートルを超すそのジャンプ力は、彼の体格と不充分であった

体勢を考えれば、彼女を驚愕させるに相当なものであった。

 

(…凄い)

 

 そのまま後方へ宙返りをし、彼は地面に着地する。

 その身のこなしに一瞬目を奪われた彼女であったが、

すぐさま気を取り直すと、剣先を彼に向けて駆け出した。

 

 突き攻撃。

 特に素人では、どう対応すればいいかに迷う攻撃だ。

 少なくとも、彼女はそう考えていた。

 

「…遅いッ!」

 

 剣先を彼を捉えることなく、虚空を突き刺した。

 しかしその程度の事態は、彼女も予測し得るものだった。

 攻撃を避けた彼に対し、そのまま払い斬りを放つ。

 

 際どいタイミングに思えたが、彼はその攻撃をしっかりと木刀で受け止める。

 だが、そこで彼女の動きは止まらなかった。

 その勢いのまま、更に回転斬りへと移行したのだ。

 

 

 バチリと鈍い音がし、1本の木刀が回転しながら宙を舞う。

 それは、先程まで榛名が手にしていたものである。

 受けた攻撃の威力に耐え切れず、武器を弾かれてしまったのだ。

 

「勝負ありッ! …かな?」

 

 眼前に剣先を突き付け、ジウは勝利の笑みを浮かべた。

 しかしその刹那、武器を持つ右手に鈍い衝撃が走った。

 それが榛名の回し蹴りによるものだと気付いた時、

既に2人の立場は逆転していた。

 

「勝負あり…ですかね」

 

 武器を落とした標的に対し、その顔の目前で左の拳を

寸止めした榛名は、静かに言い放つ。

 しばらく呆気に取られていたジウであったが、やがて口を開いた。

 

「って、ちょっと…ズルいよ!? スギヤマくん」

「何がですか?」

 

 荒ぶる口調の彼女に対し、キョトンと首を傾げる榛名。

 まるで表情を崩さない彼に対し、ジウは言葉を続けた。

 

「いや、そんなさ…殴るとか蹴るとか、ナシでしょ!? 普通」

 

 抗議の声を上げる彼女であったが、彼の方は特に困惑することもなく、

黙って彼女を見続けている様子。

 

「今日はだって、剣術の訓練でしょ! なのにさ…!」

「でも、素手に頼っちゃいけないなんてルールは聞いてませんよ」

 

 尚も抗議を続ける彼女に対し、榛名は平然と言い返す。

 スポーツや競技というものは、ルールがあって初めて成り立つもの。

 しかし今回は、実戦を踏まえての訓練であった筈だ。

 

 戦場には、ルールなんて存在しないのだから…。

 榛名の言い分としては、そんなところであろう。

 

「むむむッ…! い~や、僕は認めないからね!」

「…では、取り直しといきます?」

「勿論!」

 

 こうして再び、2人の戦いの火蓋(ひぶた)は切って落とされた。

 その白熱した雰囲気に、ベンチに座り観戦していたミューレは、

口も挟めぬまま見守ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「なんか、ジウちゃん…かなりお疲れ?」

「うん。 ハルナさんとの訓練に、随分と熱が入ってたみたいで…」

 

 ここは、警備所の玄関先にある待機室と呼ばれる部屋。

 今朝やって来た時、メンバー3人に事情説明をした所だ。

 僕とジウさんは、ここで休憩がてら、軽い事務仕事をするよう言われている。

 

「あの様子だと、負けちゃったのかなぁ?」

「さぁ…。 私は途中から席を外したから、後のことは…」

 

 チラリと彼女の方を見れば、机に突っ伏して顔を腕の中に埋めている。

 授業中に居眠りする人を連想させる格好だ。

 まぁ、さっきは随分と張り切ってたみたいだから、あぁなるのも

必然の結果なのかもしれない。

 

「あのさ、君…。 あれだけ動いてて、疲れてないの?」

 

 とりあえず色んな書類に目を通してみるが、自警団の一員としても

レノン村の一員としても新米の僕では、どう対処すればよいのか分からない。

 まずは、もう少しこの村のことについて知っておきたいところだ。

 

「生まれつき、体力はある方なので」

「…言っとくけど、今日のところは引き分けだからね」

 

 僕の返事が終わるかどうかという間際で、彼女は言葉を挟む。

 頬杖を付きながら、ジト目で僕を見つめている。

 

「……」

 

 僕が視線を返すと、分かりやすいぐらいにプイッと顔を背け、

そのまま再び机に突っ伏してしまった。

 とりあえず、ここは放っておくのが吉だろう。

 

「よっ、新人くん! 調子はどう?」

「…良好です」

 

 さっきまで離れた席のミューレさんと話していたガラナさんが、

親しげにこちらへとやって来る。

 ミューレさんがしっかり事務仕事をこなしている感がある一方、

この人はお喋りに夢中という感じである。

 

「でも凄いねぇ。 あの子、剣術だけは自信があるっていうのに…

素人の君が打ち負かしちゃうなんてさ」

「負、け、て、ま、せん!」

 

 ガラナさんの発言に、彼女は首をカキリと180度回転させて異を唱えた。

 僕は2人の顔を交互に見やりながら、反応に困る。

 

「体がおっきいぶん、スギヤマくんの方が、そりゃ体力はあるよ。

剣の腕だけだったら、多分…うん! 僕の方がちょっと上だよ!」

「はいはい。 そういうことにしときます」

 

 声を荒げるジウさんに、ガラナさんはあからさまに素っ気無い態度。

 ミューレさんは離れた場所から、そんな2人の様子を見守っている。

 こういった光景は、ここでは日常茶飯事なのかもしれない。

 

「あのぉ、すみません」

 

 そんな中、待機室に別の人間が姿を現した。

 ちなみに、玄関のドアは常時開け放しとなっているため、外の人間は

いつでも自由に出入り可能な仕様となっている。

 交番や派出所と同じ態勢(たいせい)だ。

 

「…はい。 どちら様でしょうか?」

 

 この村の住人にしては少々違和感を覚える、独特な身なり。

 年齢は、60歳は過ぎているだろうか。

 背中に大きな(かご)を背負ったその老人に、ミューレさんが歩み寄る。

 

「ギータタルクという町で薬師(くすりし)をやっとる、ティルチと申します。

つきましては、あんた方にちぃと頼みがあるんじゃが…」

 

 老人は礼儀正しい態度で、僕らに言葉を投げかける。

 何か一仕事ありそうな予感に、僕はちょっと気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

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