一話
この状況を表そう。
羊の群れの中に放り込まれた狼? それとも、狼の群れの中に放り込まれた羊かな? どっちも捕食者がいるじゃないですか、やだー。
いや、この場合は醜いアヒルの子だろう。非常によろしくない言葉を考えてしまった。アホな私を許してくれ……。
まあ、確かに男からしたら天国や楽園だ。でも、今この場に立って感じた。ここは生き地獄でしかない。
環境を考えろ! 俺は男だよ! そんな文句は、誰に言っても無効にはならず、政府は特にどうにもならない。少年よ、これが絶望だ。そしてこれが権力だ。
俺達は、どうしてこんな遠い所まで来ちゃったんだろう。なぁ、この場にいない一夏よ。
目の前の現実から、逃避していた意識を戻し、この光景をしっかりと見据える。
いつまでも教壇の横に立った状態から、何もしない訳にはいかない。
とりあえず、変な意識は神棚にお供えしとこう。髪の話してる……。
もしかしたら、不信心かも知れない。皆の事をぽいぽいしまっちゃってもいいから、どうか俺だけは神隠しにあいませんように。また髪の話してる……。
目をしっかりと見開いて、覚悟を決めて言うんだ。
「白雪夕やいびーん。クリからゆたしくうにげーさびら」
『………………』
おし、掴みは十分。と思っていたのか? ダニィ!? セルフツッコミ。一夏がいないから余計に脱線していくの。
「うん、知ってた」
自分の発言に頷いた。
隣にいる先生が困惑して、クラスの人達は唖然としてる。何か嫌な空気が流れてきた。やめて、お肌は弱いの! デリケートなの!
「……あの、もう一回言ってくれる?」
恐る恐るといった様子で、先生が話かけてくる。
「白雪夕です。これからよろしくお願いします」
「あ、上京した」
その言葉が聞きたかった。誰だ今の。
声の主を探る為、クラス中の顔を素早く見渡す。
ああ、鈴ちゃんか。代表候補生とかになったらしいね、そういえば。事前に調べてなかったから、わからなかった。二組だったのか。一夏がいないとか、お互い不憫やのぅ。
「すぶたそ~」
「やめてよね! あんたが時々呼ぶから、クラスメイトやお客さんから呼ばれたりして、うっおとしかったんだから!」
ガタッと立ち上がりながら、リアクションしてくれた。
今、最後はわざと?
「ごめんなさいなの。賽は中華鍋の中に投げ入れて、チンチロリンと炒めちゃったの。パイナポーと一緒になッ!」
「わかったわかった。少しは落ち着きなさい」
鈴ちゃんが優しい目をしてくれた。
これが私を救ってくれる光。誰にも奪わせやしない。一夏なんていらんかったんや!
「はい」
返事をして、一旦深呼吸を挟む。
「今の鈴ちゃんは、まるで……フランチェスコ……フランチェスカ……フランチャイズ・ザビエルみたいだな!」
「段々、遠退いてるよ」
ありがとう、鈴ちゃん。俺はザビー教に入るよ。
「うん」
「じゃあ、続きを言いなさい」
「はい」
もう一度深呼吸。変な事を言うのはやめよう。モウヤメルンダ!
そして頬に手を当てる。
「ごめんなさいねぇ。変な話、頭がもう沸騰しそうで、俺の頭ハッピーセットかよっ! こんな風に思考がぶっ飛んじゃって、もう一杯一杯なのよぉ、変な話。もうどんだけぇ~」
クスクスと、クラスの誰かの小さな笑い声が耳に入った。
やった! 効いてる効いてる。
「もう、やだぁ…………助けて鈴ちゃん……」
ギブアップ。やばい、これ以上は自身をごまかせない。心が折れそう。あっ、涙も溢れそう。ダメよ、マスカラが落ちちゃってパンダになっちゃう。化粧してないけど。
だから、鈴ちゃんに助け舟を求めて八マイル。
この場所じゃ、鈴がいないとダメだなぁ、俺は。
「この通り、使い物にならないから、代わりに私から紹介するわ」
こくこくとクラス全体の人が頷く。俺も頷く。スイッチ!
「先生、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「こいつの名前は白雪夕。小学校の時から私と友人で、一夏の親友よ」
俺から自己紹介を引き継いで、鈴が紹介し始めた。
やった! 俺からの一夏への想いは、一方通行じゃなかったんだね! 本当によかった! もし片想いだったら、人間不信になる所だったわ……。あ、これ鈴ちゃん視点やん……。
「趣味は……」
確認を取るため、俺を一瞥する。
「ドウゾ」
傷は浅い方がいい。
「趣味はゲームやアニメと、ほぼ一般的。ただ、特に大好きなゲームは、ギャルゲーと乙女ゲー。それをぐいぐいと周りに布教してくる。主な犠牲者は一夏とち……織斑先生ね」
あの二人は特に推しまくった。人の気持ちというのを、勉強してもらうためだ。ゲームだから気軽に出来るしな。リアルとリアリティは違うと釘も刺しといたから、変な事がない限り混同しないだろう。一夏と千冬さんはわしがちょっと育てた。
「腹立つ事に、こいつの紹介するゲームは面白くてね。周囲がどんどんハマっていったわ」
そりゃ、シナリオ重視だもん。キャラ萌え重視だと、ストーリーが哀れなほど薄っぺらで、鉄の意志も鋼の強さも感じられない。冗談だ。単純にブヒれるのもたくさんある。
「まぁ、そんな裏話は置いといて、恋愛相談もよくされてたわね」
『おー』
クラスの所々から漏れる声。
「特に一夏がらみで。そういえば、夕本人に対してもあったわ」
え? 俺に対してとか初耳なんですけど。一夏はステータスばっちりで、惚れるのはわかるわ。でも、俺は今まで告白された事が、一回もないんだけど。ゲスな事しか言ってないからかな? 下ネタは、絶対言わなかった。
「皆に一つアドバイスをしておくわ。もし本気で一夏と付き合いたいなら、真っ向からその旨を伝えなさい。鈍感というより、そもそも恋心とか持ち合わせる余裕がなかったみたいだし」
さすが乙女。さすが乙女の見方が出来てますわ。でも、そこまで言っちゃうの?
「夕に関しては……」
もう一度こちらを、ちら見する。
このIS学園に来てから孤独で一杯一杯だから、一夏がいない状況で、これ以上はやめてと首を横に振った。
俺の心を露出させないで。ちり紙で作られた心に、コーティングしてあるメッキが剥げちゃう。また髪の話してる……。
「とても臆病なので、近付く時は慎重に。物理的な意味じゃなくて」
左腕の制服の袖で目を覆った。思ったより痛いな、これ。
そして鈴の言葉に心と顔の涙が止まらない。
「くぅ……」
ああ、本当に今日は最悪な日で、本当に色々と最悪な場所だ。だが、俺を知ってもらえる最適なタイミングだと思う。
ぐしぐしと袖で涙を拭う。目や鼻につーんとした刺激を感じて、顔を俯かせた。
「ご、ごめんっ! まさか、そこまで涙脆くなってるとは……」
鈴という悪魔が、慌てふためいていた。
そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。少年は絶望しました。鈴ちゃんのファンやめて、もう一度一夏のファンになります! ターンエンド!
「今は悪魔が微笑む時代なんだっ! 悪魔なんだから笑ってろよっ! 鈴ちゃんの鬼! 悪魔! ちひろ! 乙女プラグインした所で、俺なんかが乙女になれるはずがないだろっ! いいかげんにしろっ!」
右手でべしべしと教壇にある机を叩く。
正直、適当な事を口走っているのが、自分でもわかっている。この心はやめられない、とまらない。出来ればこの切なさを、一夏に届けたい。
「くそっ! こんな所にいられるかっ! 俺は自分の殻に籠もるぞっ!」
次々と、自分の口から吐き出される意味不明な言葉達。
「ほら、泣かないの」
いつの間にか、傍にいた鈴から頭を撫でられる。
そして鈴の手を、俺は軽く払う。
「やめてくれよ……惚れちゃうだろ……」
しゃがみ込んで目を閉じる。冗談じゃなく超痛い。
俺と鈴の身長差的に地味に辛いだろうから、撫でやすいようポジションを変更。
「ほーら、よしよし」
縮こまっている俺の脇に、鈴の手が入り込んできて俺を立たせる。
やめてよね! 今の状態で、僕が力で鈴に敵うはずないだろ!
「全く、すーぐ泣いちゃうんだから」
「くっ……殺せ! 辱めを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ!」
「はいはい。席に行こうねー」
俺の手を引いて、席の間を通る。
「ここが夕の席ね」
どうやら一番後ろの窓際が俺の席らしい。よくあるよね。
しかし、なんだこの鈴から溢れ出る母性は。ハッ!? もしかしたら、鈴は俺のママァになってくれる存在かも知れない。
「こいつのために、席替わってくれない?」
俺の隣に座る席の子に、声をかけてお願いしている。
「うん、いいよ」
俺の惨状を目撃したからな。危ない奴には近付かない、自然体で目標を見ない事が生き残れる秘訣。
「ありがとう。今度なんか奢るよ」
こうして俺の隣に鈴が座る事になった。やったね! これで少しは気が楽になるよ!
「……ん? うん!? ちょっと待って!」
「!」
鈴が俺の右腕を持ち上げ、袖の匂いを嗅ぎ始めた。
「……あんた……袖に何を塗ったの?」
「……アンメルツヨコヨコ」
「キンカンじゃなくて?」
「殺す気かっ! せめてムヒで!」
べしっと机を叩く。
清涼剤が入ってる薬は、目にやると痛くて涙が出るんだ。
「そんな事はどうでもいいわよ! 今まで演技だったの!?」
「袖に塗ってなくても、泣きたい気持ちはありました。寧ろ袖に塗ってごまかしました」
声を上げて泣けたら、どんだけ楽になるのか。そこら辺は男の子だからね。女の子だったら絶対泣いていた。性別違ったら、そもそもこの学園に来ないと思うが。
「そう……まぁ、いいわ。とりあえず、これからよろしく」
嘆息し諦めの表情が出てる鈴。
「よろしゅうお頼み申す」
そして俺達は握手した。
「それでは先生、騒がしくしてすみませんでした! 皆もごめんなさい! これからよろしく! 鈴も悪かったね」
ここまで散々暴れたんだ、謝罪しとかないとね。最初から暴れるなという事は、言わない約束だろあんちゃん。誰だよ……俺に兄貴はいないぞ。
こうして、俺の学園生活が始まった。
最初の授業を受けた。
なんなのだこれは。どうすればいいのだ。まるで意味がわからんぞ!
そりゃね、ISが人より身近にあるとはいえ、勉強するほど興味があった訳じゃない。
教科書の内容を流し読みしておく。
何? ISとは心の光を宇宙に運ぶためのパワードスーツではないのか!? これは事務局に電話しないといけませんねぇ。
それにしても専門用語も多すぎる。パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを略してPICとか、オートクチュールとか呪詛か魔法の呪文か何かかな? これも事務局に問い合わせしなくちゃ。
もっとわかりやすくしてくれよ! 本当の天才はバカでもわかるように、ちゃんと理解出来るように教えてくれるんだぞ! 俺は悪くねぇっ! 猶予をくれなかった色々な人達が悪い!
まぁ、どう足掻こうが、結果的に勉強しなかった俺が悪い。悔しいでしょうねぇ。
でも、数日前までは普通の高校生やったんやで? 手続きとかで時間がなかったんや。
おのれ、一夏め。お前のせいでマニュアルが出来ちゃったじゃないか。もう一夏は打ち首で、俺は島流し。それでいいじゃあないか。
(さっきから一人で顔芸してたけど、何かわからない事でもあった?)
隣の鈴が体をこちらに傾けて、小さな声で話しかけてくる。
こいつ直接脳内に!?
(あ、鰐口さん。カランコローン!)
(カランコローン! って、誰が神社の鈴よ!)
よくわかったな。二礼二拍手とかの作法は、正直よく知らない。階段の真ん中は神様が通る道だから、端を通れというのは知ってる。
(ごめんね。こうでもしなきゃ、わからない事ばかりで俺挫けちゃう)
誰だよ……許可もらって日課として眠るIS拭いたり話しかけた奴は。僕だ!
(一夏ならその気持ちがわかると思う)
(うん。だろうね。とりあえず、頑張ってみるよ)
ムーバブルフレームやサイコフレームとかいう単語はないかなー?
探したが、当然ありませんでした。
「はぁ……」
窓の外を見る。
俺の普通の生活は死んだんだ。いくら呼んでも帰っては来ないんだ。もうあの時間は終わって、俺も現実と向き合う時なんだ。もう、小生やだ。
「ふぅ……」
左の窓から、右隣にいる鈴を見た。
鈴ちゃんを見ていると、俺の心は復活するんだ。悲しみの弔鐘はもう鳴り止んだ。俺は輝ける人生の、その一歩を、再び踏み出す時が来たんだ。俺、鈴ちゃんと結婚します。鈴ちゃん、俺の気持ちを受け入れてよ。
でも一夏も恋すぃ。揺れるマインド、ソウルの振り子。
一応授業を聞きながら、最初の授業は終わった。
「ちょっと隣のクラスに行ってくる」
授業が終了し、鈴に声をかけて席を立つ。
「いってらっしゃい。思う存分舐め回してやりなさい」
手をひらひらと振って、見送られた。
廊下を早歩きしながら、一組の授業が終了している事を確認。
そして体を半分だけ教室に入れて、廊下に半分だけ体を出す。
「あしゅら男爵ぅ!」
一夏に会えると思うと、体がビート刻んじゃう。そんな一発ギャグを披露。
先ほどまでわいわいと聞こえていた話し声が消え、静かになった一組の教室。
訂正させてもらおう。男でも頭皮や肌が弱い人がいるんや。また髪の話してる……。
目標を発見してから息を思いっきり吸い込み、一組の床を踏んだ。
「……バ……バ……?」
クラス中の人達が、俺の一挙手一投足に注目した。
今更だけど、何て言おうかしら?
「ハルトオオオオオオオオオオオ!!」
違う、今のシャウトは俺じゃない。
「どこでも構わず叫ぶ兄さんは嫌いだ」
「ハルトォ……」
「いつもいつも、そして何度もハルトばかり、他の言葉は知らないのか?」
このやり取りが非常に楽しい! これこそが私を救ってくれる光。やっぱ一夏が最高やな! 鈴ちゃんなんていらんかったんや! 俺の手の平マジクルーテオ卿。
「いやぁ、久しぶりだなぁ! 夕!」
「ああ。俺はお前をディスプレイの前で、よく観ていたよ」
近寄って来た一夏と自然に握手。
キャーと叫ぶ女生徒が数人……いや、結構いたな。これくらいの接触で、興奮しちゃうなんて耳年増は大変ですね。気持ちはわかるが。
「よく特集が組まれてたからな」
一夏に関するニュースをやったりしていて、正直うんざりだった。一夏一夏と言うばかり、他のニュースはないのか。
「俺もテレビでお前を観たぞ。たまたま観ていたニュースでやってて、俺もかなり驚いた」
「そうか。それでここの生活は大丈夫か? 辛くないか?」
俺は一夏に問う。
「流すなよ……。まぁ、段々と慣れてきたさ。人間って意外と順応するのが早いんだな……」
キェアアアアア一夏の目が死んでるぅ。待たれよ。少し考える。
「……ここには! 千冬さんと――」
ちらっと見えたあの髪型。そしてあの佇まいというか雰囲気が凄い。あれは……箒ちゃんかな?
「――箒と――」
両腕をバッサーと広げる。
「――俺がいる!」
そして力強く、俺は一夏を抱き締めた。
『キャアアアアアア!?』
抱いた瞬間と同時に、周囲の乙女達から湧き上がる歓声。
アンダーグラウンドでやるなら、かまへんかまへん。目に付いた時は、ビリビリしちゃうぞ。ンヒィ。
「……帰ってきたんだな。俺」
「箒ちゃん、やっほっほー!」
抱きしめ返してくる一夏を敢えて無視して、箒に向かって片腕を上げて挨拶。
「昔と変わらんな、お前は。髪が伸びてる事以外は」
また髪の話してる……。
「箒は随分変わったね。ふいんきが凛々としてるよ」
何年経っても面影は残っているのだ。しかし、箒ちゃんはふつくしくなったなぁ。
「織斑先生もはいさい!」
教壇に立っていた千冬さんにも挨拶。
「ようこそ。IS学園へ」
ああ! 千冬さんはいつみてもふつくしい。だから誰かもらってあげて。
「はい! よろしくお願いします! しかし、一組は天国ですね! それに比べて二組は……鈴がいなかったら、地獄に早変わりしちゃいますです……」
「恐ろしいほどの孤立無援さだな。私もたまに顔出すから、二組でも頑張れよ」
「はい!」
千冬さんの言葉で元気が出てきた。
しかし、気付けばクラス中の視線を俺が独り占めっぽいぽい。花でも摘みに行きなさいよ。
「何見てるんですか! 俺は見せ物ゴリラじゃないの!」
ブフッと誰かが吹き出した。怖いよね、ファンメル。
「は――」
耳元で声がする。え? なんだって?
一夏が俺を突き飛ばす。
「――半端な気持ちで入ってくるなよ……ISの世界によォ!」
「やめてくれ……覚悟のない俺にその言葉は俺に効く」
「ちなみに、次の授業は一組二組合同だぞ」
「マジっすか!?」
千冬さんが言った事が間違いじゃなければ、それは朗報だ。
「二回目の授業が一夏と一緒だなんて嬉しいなぁ。こんな事、IS学園に来て初めて。もう何も怖くない」
「これが私から出来る、最初のファンサービスだ」
「……え? ここは敢えて千冬さん、ちょっと待って下さい。おいィ、一夏。お前ェ……千冬さんに何て事をしてくれたんだ! 言え!」
「面白くって、ついな」
はにかんだ表情を見せ、頭に手を当てる一夏。
そ、そんな表情をしたって、私騙されないんだから!
「千冬さんが言うと本気でイラっとくるぜ!?」
ブリュンヒルデだもんな。現役時代に煽り発言していたら、これはきっと戦争もんよ?
「何を言ってるんだ? お前からの派生だ」
千冬さんが俺に言い放った。そうなのか。俺って超罪深いな。教えてごめんなさい。
「すいませんでした。そういえば、さっき鈴が俺の趣味に関して、千冬さんの事バラしてましたよ」
俺はともかく、千冬さんまで及んじゃあダメでしょうよ。一夏はセーフかな。
「……そうか。後で個人的に言っておく」
腕を組んで頷いている。千冬さんは絵になりますなぁ。
「時間の余裕がなくなって来たぞ。そろそろ着替えてこい。わからない事があったら、先輩の一夏に教えてもらえ」
「あー……あのあの。まだ俺のスーツやISが届いてないんです」
そう。まだないのだ。
「急遽決まった事でして、一夏という前例はありましたが、それは書類とかの類です。スーツはまだサイズを測っただけで、ISはしばらく使われてなかったので、オーバーホール中です」
転校する準備期間をもう少し延ばすべきだったんだよ! どれだけデータが欲しいのか、関係者の対応に表れている。政府の人達の言う事もわかるけど! 僕は、僕はね! おにぎりをゆっくり食べたかったんだなぁ。茶漬けにして食えとか、美希が怒っちゃうの。
「スーツの方はジャージでも構わん。打鉄かラファールは使えるか?」
「無理でした。反応しません」
例え使えたとしても、私はあの機体じゃなきゃダメなの。眩き光にほいほい誘われる蛾じゃないのよ。尻軽とか淑女に対して何てお下品なんざますか。
「……仕方ない。白雪は見学だ」
でしょうね。
IS学園にいるのに、ISに乗れないとか酷い話だ。使いたい訳じゃないけどさ。
「これは特例だ。織斑、この後の授業の遅刻を許す。白雪に校内を案内してやれ」
何? 男でもIS学園の生徒なら平等に扱うのではないのか!?
「わかりました。では、可能な限り早く行動します。行くぞ、夕」
一夏に手を引っ張られて、教室を出た。
やだ、強引さがとても男らしい。
「一組の皆さん、お達者でー!」
こうして俺は、一夏に連れられて学園内を案内された。
今の内に、一夏酸を摂取しないと。