IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十一話

 一夏と一緒にテーブルで座って茶をしばいた。なんで俺の隣なの? いや、わざわざ向こう側に行く事じゃないか。

 

「なぁ、会長の事はどうするんだ?」

 おうふ。せっかくゆっくりしていたのに、疲れる話題を出すんじゃない。後、会長さんいつ来るかわからないから、聞かれる可能性もある。ま、その時はその時だ。

 

「今必要な話?」

 

「ああ、必要だ」

 どうやら真面目な話になるらしい。一夏の表情が真剣だ。仕方ない、色々話そうか。

 

「さて、会長さんから理由は聞いたな?」

 

「千冬姉とな」

 

「俺も見ていたからわかる。うん、一夏は会長さんをどう思う?」

 俺はまだわからん。まだ名前も知らないし、性格はまぁ……全てではないがちょっとは理解したが、一つだけで判断は出来ない。

 

「会長か。俺は悪くないと思うけど……ちょっと抵抗があるというか……」

 

「なぜ?」

 

「確かに生徒会長は強い。だけど、それで夕を守れるかと言ったら……」

 どちらかというと、感情が邪魔をしている? 強さを認めているみたいだが、それ以外?

 

「そうか。他には?」

 

「他は……俺は夕を渡したくない」

 やだ、大胆。そしてやっぱり一夏がラスボスか。

 

「ふんふん。それで?」

 

「それで……お前には、彼女が出来てほしくないんだ」

 なんだ? 遠くに行っちゃう的な? 君は実にバカだなぁ。俺が一夏や皆を置いていく訳ないのに。まぁ、不安なのはわかるけど。心だけはなにしてもごまかせない。

 

「なんで?」

 俺が質問する側になってんな。ま、なにをそんなに嫌がるのか聞かないと。

 

「……やってない事があるからだ」

 

「それってなに?」

 

「これは絶対に言えない。いくら夕だろうと、これだけは絶対にだ」

 一夏は力強く拒否した。ここで俺は詰まった。渡したくない、やってない事がある……うん。さすがにここから先の詳しい情報はわからないし、なにも見えない。秘密にしたい事があるくらいか。

 

「そうか。ま、それなら仕方ない。他は?」

 

「いや、これ以上はない」

 ここで終わりか。ま、二日目だしね。考える時間がないと、判断はほぼ無理だろう

 

「わかった。今度は一夏から俺に尋ねたい事は?」

 

「まずは、告白されたら付き合うのか?」

 

「いや、それは絶対にない」

 好きでもない人とは付き合えない。わざわざ、傷付けたい訳じゃないからだ。普通の事でしょ?

 

「そうか。うん、安心した。他は、これから会長を知っていった時に、再度告白されたら付き合う?」

 いやいや、そんな先の事はわからないから。現時点で特別な感情はないのは確かだけどね。

 

「わからん」

 

「だろうな。言ってから気付いた」

 一夏も頷く。

 

「これから一つだけ言う事がある。ちょっと声の音量下げてくれ」

 これは同性の一夏だから思いを告げられる事だ。異性には……キツいかな?

 

(わかった。これでいいか?)

 

(うん、それでいいよ)

 周囲になにもないか確認して、顔を近付けてお互い話す。やだ、近くにイケメンがいる。

 

(俺が一番恐れている事はなんだと思う? 時間はあるからじっくり考えてくれ)

 

(うーん……)

 一旦顔を離して、一夏は腕を組んで考え始めた。悩め悩め。変化球だからな。

 

 

(全くわからん。色仕掛け?)

 なるほど。

 

(確かに有効ではあるな。だが、あの人は自分がやれても、される事は恥ずかしがる。今日あの人の前で服を着替えたんだ)

 今朝あったちょっとした出来事がある。

 

(なにしてんだ!? 恥ずかしくないのか!?)

 

(服を見られて恥ずかしいのは、自意識過剰なのでそれは多分、病院に行かれた方がいいです。ちなみにジャージだけ脱いだんだが)

 不意打ち気味とはいえ、脱ぐ事なんてわかるでしょうが。ジャージ姿なんだし。いや、それは俺の配慮が足りないからか。すみません、今度から脱衣所で着替えます。

 

(え? それってTシャツ着てるよな? なら下は?)

 

(上はTシャツで下はハーフパンツ。下着姿じゃないよ)

 そう、今日は朝に風呂入ったから、ジャージの下まで着替えない。入ったばかりで全部着替えるとか、潔癖症かよ。一日着た服を次の日も着てくなら話は別。制服? 他に複数あっても、毎日は洗えん。

 

(ちょっと過敏か?)

 好きな人だからじゃね? いや、俺にはわからんけど。性別が逆なら普通に恥ずかしい事ではある。

 

(多分ね)

 知ら管。

 

(わからないみたいだから、答えを言うぞ?)

 

(お、おう。ドンと来い)

 

(それはゲームだ)

 

(……ゲーム? それのなにがヤバいんだ?)

 ゲームの一言じゃ、わからないだろうな。急に俺も言われたらわからん。うん、普通に無理だわ。

 

(ゲームの最初に恋愛と付く。つまり、恋愛ゲーム)

 

(恋愛ゲーム? ……ギャルゲー?)

 そっちに思考が向かうのわかるわ。俺も恋愛ゲームと言われたら、ギャルゲーって答える。

 

(不正解。遠回しな感じで言ったが、つまり恋人ごっこ。恋人の振り)

 

(あー……恋愛物のドラマとかでよくやってるやつか。ああ、わかった。確かにな)

 理解したらしい。

 

(普通の恋愛なら、普通にデートしてお互い好きあったりする。または、普通に告白して片思いを知られてたりする場合のもある。だが、恋愛ごっこなら普通より一歩進んだ関係を強要させる事もある。まぁ、全てじゃないけど)

 あの会長さんはからかうのが好き。だからその一歩を踏み出せる人だ。多分だが。いや、恥ずかしがって無理かも知れん。あー……わかんなくなってきた。

 

(つまり?)

 うん。一番厄介だ。

 

(普通に手を繋いできたり、普通に腕に抱き付いてきたり、肉体的接触が増える。羞恥という感情を煽り、印象に残らせる。色仕掛けも含む)

 吊り橋効果みたいな? 違うけどな。

 

(それは……確かに効果的そうだな。そういえば色仕掛けじゃないけど俺も今朝、箒が目の前で服を脱ぎ始めたぞ。あれはドキドキした)

 聞こえていたから知ってる。もし俺だったら、恥ずかしいというより焦っていただけだな。

 

(そういう事だ。後は、恋人ごっこで一番の強敵。それは時間だ)

 時間なんだよ。ヤバいのは。普通の恋愛でも、時間の経過で印象に残ったりするし。

 

(時間?)

 

(恋人ごっこの状態で、常に一緒にいたらどう思う?)

 

(色々な魅力に気付いてきて、なんだか気持ちが揺らぐ?)

 ほう、経験が生きたな。ジュースをおごってやる。マッカン九杯な。俺が欲しいわ。

 

(そんな所だと思う。経験してないから知らんが、実際に聞いた話だ)

 そりゃあ、聞かされたからだよ。なにも知らずになんでそんなに言えるの、って言われたら俺は言い返す。人に聞いたって。

 

(全てまとめるぞ? 付け足す部分もあるけど)

 

(お願いします)

 

(俺は会長の好意を知っている。ごめんなさいしても、抜け道はたくさん。そこで恋人ごっこを提案。ごっこを名目にしてガンガン攻める。同室で避けられない、拒絶しても、恋する乙女は猪突猛進。拒絶されてすぐ諦めるならそこまで。他の恋をしてもらいたい。だが、あの人は前から俺を見ていた。冷める事はなかった。で、両親公認で出会った。だから長い付き合いになる。そして過ごす時間がある。こんなものかな)

 俺の頭で考えられるのはここまで。他にも見落としがありそう。

 

(なるほど。でも、その恋人ごっこがなかったら大丈夫なんじゃ?)

 そう思うだろう?

 

(しなくても、好きな気持ちを知っているから遠慮なく向かってくる。今朝もその一つだな)

 

(なにかあったのか?)

 はい、ありました。

 

(俺と一緒に寝てた。よくあるYシャツ姿で)

 

(マジかよ……破壊力ありそうだ)

 一夏は想像して、顔が赤くなった。

 

(そんな事には動じないさ。ちなみに俺が一番落ちやすい行動はなんだと思う?)

 実は最大の弱点がある。自分を知っている範囲で。

 

(それは……?)

 一夏の顔は赤みが引いた。別の事を考え始めたからだろう。

 

(今の状況が辛い。つまり、優しくされる事だ)

 ちょろい? この女だらけの園で辛い環境を強いられて、疲労が蓄積されているのに? そんな時に優しくされたら惚れるだろう。ちょろいな……。

 

(想像してみよう。一夏と違う二組で辛い。知り合いは鈴ちゃんだけで、頼れるけど限度があって、心細くて死にそう。普通の勉強もIS関連もまだまだで、皆より遥かに遅れてる。自分の力が思うように通じず、ストレス解消もこの学園の寮だけで、この部屋がそれなりに落ち着ける。そこで会長さんが協力してくれながら優しくしてくれる。どうだ?)

 俺は確実に惚れる。弱っている時に優しくされるって、かなり嬉しいの。色仕掛けより肉体的接触の方がな。やめてくれ……その優しさは俺に効く。

 

(ん……確かにそれは印象に残るし、優しさはかなり助けになるな。千冬姉や箒がいなかったら、俺も挫けていたと思うし。箒や千冬姉の存在、箒は同室だから助かっている)

 多少でも理解してくれたら嬉しいな。男だから特に。

 ちなみに俺は一目惚れを否定しない。容姿で惚れるのもあれば、直感の遺伝子レベルで好きになったりもあるからね。

 

(そういう意味でどうだ? 箒の存在は癒やしだろう? 同室だし気をあまり遣わない)

 

(そう聞くとかなり助かってるなぁ。明るいし料理も美味くて、容姿は大和撫子風だが、性格はちょっとネジが外れている。その意外性が可愛いかったり。意外と気配りも出来たりするし、一緒にいて楽しいかな。気を遣わなくて気楽だ)

 あらま、好感触。俺、篠ノ之箒の恋愛を応援してみよう。セシリアさんと鈴も聞こうかと思い付いたが、これ以上なにか言うとバレるかも。

 

(確かに箒はうるさいけど、なんだかんだで人の事を考えているよね。こっちが肩肘張った状態でも、箒のペースに巻き込まれて緊張が和らぐし)

 一夏の言葉に同調して、箒のよさの他の部分もアピール。

 

(だから箒が帰ってきたら、ありがとうって言っときなよ)

 

(そうだな。箒や千冬姉に俺の感謝の気持ちを伝えておく)

 うん、これでいいだろう。こうしておけば、きっかけになりそう。鈴とセシリアさんの事はまた今度だ。どんな事をしているのか、結構気になる。

 

(これで俺の少し気持ちがわかったろ?)

 

(少しは理解出来た気がする)

 俺と一夏の違いを比べるなら、一夏は一方向の厚いシールドで俺は全方位の薄いシールド。ちょっとなに言ってるかわかんないです。

 

(あ、最後に一つだけヤバいのがあったわ)

 普通ならやらない事だが、一応あるかも知れない。

 

(なんだ……?)

 

(媚薬を仕込まれる)

 うん、これは俺の意志ではどうにもならない。強制的に思考を誘導されるから。

 

(うぇっ!?)

 完璧な不意打ちだったからな。ビビるのはしゃーない。

 

(だが、常識があるなら使ってこないと思うよ。バレたら終わる)

 

(そ、そうだよな。ホッとした……)

 生徒会長なら自然と注目は浴びるから、行為がバレた時は破滅を迎える。だ、大丈夫だぁ……。いや、俺に向けられる可能性が意外と高いな。信じるしかない。

 

(これで終わりだ。ま、穴があるかも知れないから、信じるのはほどほどに)

 正直、今まで述べてきた事が全部間違っているかも知れない。いや、経験した事ないし。経験がないから言っちゃいけないんじゃない、偉そうに語るからダメなんだ。じゃあ、俺ダメじゃん……。

 

「わかった」

 俺と一夏は姿勢を戻しながら、背伸びをした。うひょー、息ピッタリ!

 

「これからなにしますかね?」

 これから時間を潰そう。勉強は後でね。今からやるなら俺に死ねって、言っているようなもんだ。だから先に息抜きさせてくれ。死ぬほど疲れているんだ。

 

「一緒に考える事を考えようぜ」

 どういう事なの……? いや、わかるけど。

 

 

 

 

 俺達は指相撲したり腕相撲したり、腕立てをする時に腕立てやる人の上に乗っかったり、その他色々をやって遊んでいた。くっそ楽しい。ちなみに指相撲は俺が勝ったが、腕相撲は負けた。手をにぎにぎされて力が抜けちゃったの。いやいや、普通にパワーで敗北しただけだ。

 そんな風に遊んでいて、時計を見ると時間は十八時。意外と遊べるもんだな。

 

 そうして一夏と過ごしていると、会長さんは帰ってきた。

 

「ただいま」

 

「おかえりです」

「お邪魔してます」

 それぞれ別の言葉で返す。

 

「また来たのね」

 生徒会長さんは一夏を相手に身構えた。俺達はテーブルの近くで座っているから、距離的に下手したら下着見えちゃいますよ。

 

「はい。暇でしたからね」

 

「そう。邪魔しに来た訳じゃないのよね?」

 やっぱり俺関連かよ。いいぞー!

 

「ええ。そんなに疑わなくても」

 お前千冬さん達と昨日やった事を忘れてんのか? デュ……頭痛が痛い。綴れない。

 

「そうね。悪かったわ」

 でも、会長さんの声は冷ややか。やめて。会長さん空回り気味だから、落ち着いてくだせぇ。

 

「会長も帰ってきたし、飯でも食いに行くか?」

 一夏と俺は立ち上がり、俺は無言で頷いた。

 

「会長も一緒にどうです? 昨日の仲直りをしましょう」

 

「そうね……わかったわ。ちょっと着替えるから、外で待ってて」

 少し考えてから、提案に乗った。一夏達に、すっげー苦手意識を抱いてそう。そんなんじゃ、俺は奪えないぞ? 奪われる気はないけどなっ!

 会長さんに言われて俺達は廊下に出た。

 

「ちょっと敵意があったな」

 一夏はそう呟いた。当たり前じゃろがい。

 

「うん。昨日の事を思い出してみなさい」

 

「……はっちゃけてたな」

 そうですね。かなりやで。俺の記憶に間違いがなければ、多分初めてかな?

 

「ま、後で謝りなさい。許してごめーんねってさ」

 

「わかった。言っとく」

 俺の発言のまま謝罪するんじゃないぞ?

 

 

「待たせてごめんね」

 ジャージ姿の会長さんが、部屋から出てきた。またジャージ……。

 

「全然待ってない。俺も今来た所だから」

 一夏よ……その返事は会長さん求めてないと思う。

 

「ふふ、行きましょう」

 会長さんが一夏の腕に抱き付いて、食堂に足を進めた。ジャージで。

 へぇ、デートかよ? 俺からしたらまだ地味すぎるZE。もっと腕にシルバー巻くとかSA☆

 いつの間にか君ら和解出来てるやん。

 

「今日はどこに行く?」

 

「そうね……食堂かな」

 当たり前だろ。他にどこへ行こうと言うのかね? この学園って娯楽なさそう。IS?

 

「そういえば、さっきから一夏君の周りを飛び回っているものはなーに?」

 俺は二人の後ろを付いていく。

 

「シールドファンネルだよ。ISの待機形態なんだ」

 

「可愛いね!」

 

「でしょ? 気に入ってるんだ」

 見てて超楽しい。だから、俺は黙ったまま。

 

「おい、私も混ぜろよ」

 あ、このセリフ箒だわ。

 箒が会長と反対の腕に抱き付いた。袴姿で。

 

「もー、二人して勝手に行っちゃうんだからー!」

 

「ごめんね。ちょっと遅れるって聞いたからぁ」

 

「そうだぞ。遅刻する箒が悪い」

 仲良さそうね。俺は嬉しいよ。

 

 

 T字路に差し掛かった。

 

「ぐふっ!?」

 そんなデート風な会話をBGMにしていると、なにかが勢いよく俺の腕に当たった。痛かったから、ぶつかった腕を押さえる。

 

「ちょっとどこ見てんのよ!」

 制服姿の鈴ちゃんだった。廊下は走っちゃいけません。

 

「転校初日で遅刻しそうなのよ!?」

 知らんがな。もっと余裕を持って早く行きなさい。

 

「わ、ごめん!? 大丈夫! 俺は大丈夫だから!」

 

「ニュアンスが違う! こっちを心配しなさい!」

 そりゃそうだ。

 

「部活帰り?」

 時間帯的に、多分そうなんじゃないかな?

 

「その通り……なにあれ?」

 鈴ちゃんが横を向いて、前の一夏達を発見した。

 

「デートごっこ」

 

「楽しそうね。一夏の腕が埋まっているから、私が夕にしてあげる」

 そう言って俺の腕を掴まえた。歩幅を合わせて一緒に歩く。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。あんまり夕を構ってあげられないからね。そのお詫びも込めて」

 

「おお、ありがたやありがたや」

 

「所で、どこに向かってるの?」

 行列があったらとりあえず並ぶ人達かよ。いや、まあ、会ったばかりだからね。これは仕方ない。君は悪くない。

 

「食堂」

 

「ちょうどよかった。私も行く所だったし」

 

「おうともさ」

 俺達は寄り添って、食堂に足を向けた。

 うは、我が世の春がきたよ! 御大将!

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