一夏と一緒にテーブルで座って茶をしばいた。なんで俺の隣なの? いや、わざわざ向こう側に行く事じゃないか。
「なぁ、会長の事はどうするんだ?」
おうふ。せっかくゆっくりしていたのに、疲れる話題を出すんじゃない。後、会長さんいつ来るかわからないから、聞かれる可能性もある。ま、その時はその時だ。
「今必要な話?」
「ああ、必要だ」
どうやら真面目な話になるらしい。一夏の表情が真剣だ。仕方ない、色々話そうか。
「さて、会長さんから理由は聞いたな?」
「千冬姉とな」
「俺も見ていたからわかる。うん、一夏は会長さんをどう思う?」
俺はまだわからん。まだ名前も知らないし、性格はまぁ……全てではないがちょっとは理解したが、一つだけで判断は出来ない。
「会長か。俺は悪くないと思うけど……ちょっと抵抗があるというか……」
「なぜ?」
「確かに生徒会長は強い。だけど、それで夕を守れるかと言ったら……」
どちらかというと、感情が邪魔をしている? 強さを認めているみたいだが、それ以外?
「そうか。他には?」
「他は……俺は夕を渡したくない」
やだ、大胆。そしてやっぱり一夏がラスボスか。
「ふんふん。それで?」
「それで……お前には、彼女が出来てほしくないんだ」
なんだ? 遠くに行っちゃう的な? 君は実にバカだなぁ。俺が一夏や皆を置いていく訳ないのに。まぁ、不安なのはわかるけど。心だけはなにしてもごまかせない。
「なんで?」
俺が質問する側になってんな。ま、なにをそんなに嫌がるのか聞かないと。
「……やってない事があるからだ」
「それってなに?」
「これは絶対に言えない。いくら夕だろうと、これだけは絶対にだ」
一夏は力強く拒否した。ここで俺は詰まった。渡したくない、やってない事がある……うん。さすがにここから先の詳しい情報はわからないし、なにも見えない。秘密にしたい事があるくらいか。
「そうか。ま、それなら仕方ない。他は?」
「いや、これ以上はない」
ここで終わりか。ま、二日目だしね。考える時間がないと、判断はほぼ無理だろう
「わかった。今度は一夏から俺に尋ねたい事は?」
「まずは、告白されたら付き合うのか?」
「いや、それは絶対にない」
好きでもない人とは付き合えない。わざわざ、傷付けたい訳じゃないからだ。普通の事でしょ?
「そうか。うん、安心した。他は、これから会長を知っていった時に、再度告白されたら付き合う?」
いやいや、そんな先の事はわからないから。現時点で特別な感情はないのは確かだけどね。
「わからん」
「だろうな。言ってから気付いた」
一夏も頷く。
「これから一つだけ言う事がある。ちょっと声の音量下げてくれ」
これは同性の一夏だから思いを告げられる事だ。異性には……キツいかな?
(わかった。これでいいか?)
(うん、それでいいよ)
周囲になにもないか確認して、顔を近付けてお互い話す。やだ、近くにイケメンがいる。
(俺が一番恐れている事はなんだと思う? 時間はあるからじっくり考えてくれ)
(うーん……)
一旦顔を離して、一夏は腕を組んで考え始めた。悩め悩め。変化球だからな。
(全くわからん。色仕掛け?)
なるほど。
(確かに有効ではあるな。だが、あの人は自分がやれても、される事は恥ずかしがる。今日あの人の前で服を着替えたんだ)
今朝あったちょっとした出来事がある。
(なにしてんだ!? 恥ずかしくないのか!?)
(服を見られて恥ずかしいのは、自意識過剰なのでそれは多分、病院に行かれた方がいいです。ちなみにジャージだけ脱いだんだが)
不意打ち気味とはいえ、脱ぐ事なんてわかるでしょうが。ジャージ姿なんだし。いや、それは俺の配慮が足りないからか。すみません、今度から脱衣所で着替えます。
(え? それってTシャツ着てるよな? なら下は?)
(上はTシャツで下はハーフパンツ。下着姿じゃないよ)
そう、今日は朝に風呂入ったから、ジャージの下まで着替えない。入ったばかりで全部着替えるとか、潔癖症かよ。一日着た服を次の日も着てくなら話は別。制服? 他に複数あっても、毎日は洗えん。
(ちょっと過敏か?)
好きな人だからじゃね? いや、俺にはわからんけど。性別が逆なら普通に恥ずかしい事ではある。
(多分ね)
知ら管。
(わからないみたいだから、答えを言うぞ?)
(お、おう。ドンと来い)
(それはゲームだ)
(……ゲーム? それのなにがヤバいんだ?)
ゲームの一言じゃ、わからないだろうな。急に俺も言われたらわからん。うん、普通に無理だわ。
(ゲームの最初に恋愛と付く。つまり、恋愛ゲーム)
(恋愛ゲーム? ……ギャルゲー?)
そっちに思考が向かうのわかるわ。俺も恋愛ゲームと言われたら、ギャルゲーって答える。
(不正解。遠回しな感じで言ったが、つまり恋人ごっこ。恋人の振り)
(あー……恋愛物のドラマとかでよくやってるやつか。ああ、わかった。確かにな)
理解したらしい。
(普通の恋愛なら、普通にデートしてお互い好きあったりする。または、普通に告白して片思いを知られてたりする場合のもある。だが、恋愛ごっこなら普通より一歩進んだ関係を強要させる事もある。まぁ、全てじゃないけど)
あの会長さんはからかうのが好き。だからその一歩を踏み出せる人だ。多分だが。いや、恥ずかしがって無理かも知れん。あー……わかんなくなってきた。
(つまり?)
うん。一番厄介だ。
(普通に手を繋いできたり、普通に腕に抱き付いてきたり、肉体的接触が増える。羞恥という感情を煽り、印象に残らせる。色仕掛けも含む)
吊り橋効果みたいな? 違うけどな。
(それは……確かに効果的そうだな。そういえば色仕掛けじゃないけど俺も今朝、箒が目の前で服を脱ぎ始めたぞ。あれはドキドキした)
聞こえていたから知ってる。もし俺だったら、恥ずかしいというより焦っていただけだな。
(そういう事だ。後は、恋人ごっこで一番の強敵。それは時間だ)
時間なんだよ。ヤバいのは。普通の恋愛でも、時間の経過で印象に残ったりするし。
(時間?)
(恋人ごっこの状態で、常に一緒にいたらどう思う?)
(色々な魅力に気付いてきて、なんだか気持ちが揺らぐ?)
ほう、経験が生きたな。ジュースをおごってやる。マッカン九杯な。俺が欲しいわ。
(そんな所だと思う。経験してないから知らんが、実際に聞いた話だ)
そりゃあ、聞かされたからだよ。なにも知らずになんでそんなに言えるの、って言われたら俺は言い返す。人に聞いたって。
(全てまとめるぞ? 付け足す部分もあるけど)
(お願いします)
(俺は会長の好意を知っている。ごめんなさいしても、抜け道はたくさん。そこで恋人ごっこを提案。ごっこを名目にしてガンガン攻める。同室で避けられない、拒絶しても、恋する乙女は猪突猛進。拒絶されてすぐ諦めるならそこまで。他の恋をしてもらいたい。だが、あの人は前から俺を見ていた。冷める事はなかった。で、両親公認で出会った。だから長い付き合いになる。そして過ごす時間がある。こんなものかな)
俺の頭で考えられるのはここまで。他にも見落としがありそう。
(なるほど。でも、その恋人ごっこがなかったら大丈夫なんじゃ?)
そう思うだろう?
(しなくても、好きな気持ちを知っているから遠慮なく向かってくる。今朝もその一つだな)
(なにかあったのか?)
はい、ありました。
(俺と一緒に寝てた。よくあるYシャツ姿で)
(マジかよ……破壊力ありそうだ)
一夏は想像して、顔が赤くなった。
(そんな事には動じないさ。ちなみに俺が一番落ちやすい行動はなんだと思う?)
実は最大の弱点がある。自分を知っている範囲で。
(それは……?)
一夏の顔は赤みが引いた。別の事を考え始めたからだろう。
(今の状況が辛い。つまり、優しくされる事だ)
ちょろい? この女だらけの園で辛い環境を強いられて、疲労が蓄積されているのに? そんな時に優しくされたら惚れるだろう。ちょろいな……。
(想像してみよう。一夏と違う二組で辛い。知り合いは鈴ちゃんだけで、頼れるけど限度があって、心細くて死にそう。普通の勉強もIS関連もまだまだで、皆より遥かに遅れてる。自分の力が思うように通じず、ストレス解消もこの学園の寮だけで、この部屋がそれなりに落ち着ける。そこで会長さんが協力してくれながら優しくしてくれる。どうだ?)
俺は確実に惚れる。弱っている時に優しくされるって、かなり嬉しいの。色仕掛けより肉体的接触の方がな。やめてくれ……その優しさは俺に効く。
(ん……確かにそれは印象に残るし、優しさはかなり助けになるな。千冬姉や箒がいなかったら、俺も挫けていたと思うし。箒や千冬姉の存在、箒は同室だから助かっている)
多少でも理解してくれたら嬉しいな。男だから特に。
ちなみに俺は一目惚れを否定しない。容姿で惚れるのもあれば、直感の遺伝子レベルで好きになったりもあるからね。
(そういう意味でどうだ? 箒の存在は癒やしだろう? 同室だし気をあまり遣わない)
(そう聞くとかなり助かってるなぁ。明るいし料理も美味くて、容姿は大和撫子風だが、性格はちょっとネジが外れている。その意外性が可愛いかったり。意外と気配りも出来たりするし、一緒にいて楽しいかな。気を遣わなくて気楽だ)
あらま、好感触。俺、篠ノ之箒の恋愛を応援してみよう。セシリアさんと鈴も聞こうかと思い付いたが、これ以上なにか言うとバレるかも。
(確かに箒はうるさいけど、なんだかんだで人の事を考えているよね。こっちが肩肘張った状態でも、箒のペースに巻き込まれて緊張が和らぐし)
一夏の言葉に同調して、箒のよさの他の部分もアピール。
(だから箒が帰ってきたら、ありがとうって言っときなよ)
(そうだな。箒や千冬姉に俺の感謝の気持ちを伝えておく)
うん、これでいいだろう。こうしておけば、きっかけになりそう。鈴とセシリアさんの事はまた今度だ。どんな事をしているのか、結構気になる。
(これで俺の少し気持ちがわかったろ?)
(少しは理解出来た気がする)
俺と一夏の違いを比べるなら、一夏は一方向の厚いシールドで俺は全方位の薄いシールド。ちょっとなに言ってるかわかんないです。
(あ、最後に一つだけヤバいのがあったわ)
普通ならやらない事だが、一応あるかも知れない。
(なんだ……?)
(媚薬を仕込まれる)
うん、これは俺の意志ではどうにもならない。強制的に思考を誘導されるから。
(うぇっ!?)
完璧な不意打ちだったからな。ビビるのはしゃーない。
(だが、常識があるなら使ってこないと思うよ。バレたら終わる)
(そ、そうだよな。ホッとした……)
生徒会長なら自然と注目は浴びるから、行為がバレた時は破滅を迎える。だ、大丈夫だぁ……。いや、俺に向けられる可能性が意外と高いな。信じるしかない。
(これで終わりだ。ま、穴があるかも知れないから、信じるのはほどほどに)
正直、今まで述べてきた事が全部間違っているかも知れない。いや、経験した事ないし。経験がないから言っちゃいけないんじゃない、偉そうに語るからダメなんだ。じゃあ、俺ダメじゃん……。
「わかった」
俺と一夏は姿勢を戻しながら、背伸びをした。うひょー、息ピッタリ!
「これからなにしますかね?」
これから時間を潰そう。勉強は後でね。今からやるなら俺に死ねって、言っているようなもんだ。だから先に息抜きさせてくれ。死ぬほど疲れているんだ。
「一緒に考える事を考えようぜ」
どういう事なの……? いや、わかるけど。
俺達は指相撲したり腕相撲したり、腕立てをする時に腕立てやる人の上に乗っかったり、その他色々をやって遊んでいた。くっそ楽しい。ちなみに指相撲は俺が勝ったが、腕相撲は負けた。手をにぎにぎされて力が抜けちゃったの。いやいや、普通にパワーで敗北しただけだ。
そんな風に遊んでいて、時計を見ると時間は十八時。意外と遊べるもんだな。
そうして一夏と過ごしていると、会長さんは帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりです」
「お邪魔してます」
それぞれ別の言葉で返す。
「また来たのね」
生徒会長さんは一夏を相手に身構えた。俺達はテーブルの近くで座っているから、距離的に下手したら下着見えちゃいますよ。
「はい。暇でしたからね」
「そう。邪魔しに来た訳じゃないのよね?」
やっぱり俺関連かよ。いいぞー!
「ええ。そんなに疑わなくても」
お前千冬さん達と昨日やった事を忘れてんのか? デュ……頭痛が痛い。綴れない。
「そうね。悪かったわ」
でも、会長さんの声は冷ややか。やめて。会長さん空回り気味だから、落ち着いてくだせぇ。
「会長も帰ってきたし、飯でも食いに行くか?」
一夏と俺は立ち上がり、俺は無言で頷いた。
「会長も一緒にどうです? 昨日の仲直りをしましょう」
「そうね……わかったわ。ちょっと着替えるから、外で待ってて」
少し考えてから、提案に乗った。一夏達に、すっげー苦手意識を抱いてそう。そんなんじゃ、俺は奪えないぞ? 奪われる気はないけどなっ!
会長さんに言われて俺達は廊下に出た。
「ちょっと敵意があったな」
一夏はそう呟いた。当たり前じゃろがい。
「うん。昨日の事を思い出してみなさい」
「……はっちゃけてたな」
そうですね。かなりやで。俺の記憶に間違いがなければ、多分初めてかな?
「ま、後で謝りなさい。許してごめーんねってさ」
「わかった。言っとく」
俺の発言のまま謝罪するんじゃないぞ?
「待たせてごめんね」
ジャージ姿の会長さんが、部屋から出てきた。またジャージ……。
「全然待ってない。俺も今来た所だから」
一夏よ……その返事は会長さん求めてないと思う。
「ふふ、行きましょう」
会長さんが一夏の腕に抱き付いて、食堂に足を進めた。ジャージで。
へぇ、デートかよ? 俺からしたらまだ地味すぎるZE。もっと腕にシルバー巻くとかSA☆
いつの間にか君ら和解出来てるやん。
「今日はどこに行く?」
「そうね……食堂かな」
当たり前だろ。他にどこへ行こうと言うのかね? この学園って娯楽なさそう。IS?
「そういえば、さっきから一夏君の周りを飛び回っているものはなーに?」
俺は二人の後ろを付いていく。
「シールドファンネルだよ。ISの待機形態なんだ」
「可愛いね!」
「でしょ? 気に入ってるんだ」
見てて超楽しい。だから、俺は黙ったまま。
「おい、私も混ぜろよ」
あ、このセリフ箒だわ。
箒が会長と反対の腕に抱き付いた。袴姿で。
「もー、二人して勝手に行っちゃうんだからー!」
「ごめんね。ちょっと遅れるって聞いたからぁ」
「そうだぞ。遅刻する箒が悪い」
仲良さそうね。俺は嬉しいよ。
T字路に差し掛かった。
「ぐふっ!?」
そんなデート風な会話をBGMにしていると、なにかが勢いよく俺の腕に当たった。痛かったから、ぶつかった腕を押さえる。
「ちょっとどこ見てんのよ!」
制服姿の鈴ちゃんだった。廊下は走っちゃいけません。
「転校初日で遅刻しそうなのよ!?」
知らんがな。もっと余裕を持って早く行きなさい。
「わ、ごめん!? 大丈夫! 俺は大丈夫だから!」
「ニュアンスが違う! こっちを心配しなさい!」
そりゃそうだ。
「部活帰り?」
時間帯的に、多分そうなんじゃないかな?
「その通り……なにあれ?」
鈴ちゃんが横を向いて、前の一夏達を発見した。
「デートごっこ」
「楽しそうね。一夏の腕が埋まっているから、私が夕にしてあげる」
そう言って俺の腕を掴まえた。歩幅を合わせて一緒に歩く。
「ありがとう」
「どういたしまして。あんまり夕を構ってあげられないからね。そのお詫びも込めて」
「おお、ありがたやありがたや」
「所で、どこに向かってるの?」
行列があったらとりあえず並ぶ人達かよ。いや、まあ、会ったばかりだからね。これは仕方ない。君は悪くない。
「食堂」
「ちょうどよかった。私も行く所だったし」
「おうともさ」
俺達は寄り添って、食堂に足を向けた。
うは、我が世の春がきたよ! 御大将!