チュンチュン。昨夜はお楽しみでしたね。いやぁ、やっぱり楯無さんは強敵でしたね。
朝、俺は楯無さんのベッドの上で起きたら、楯無さんは俺のベッドに寝ていた……。絶望した……! なんでやっ! 俺が抱きしめながら一緒に寝てたやろっ! ワイのヌクモリティは不満かいっ! つまりそういう事だ。この人やっぱり耐性がない。
ちなみに風呂とかちゃんと入った しかも、楯無さん俺のシャンプーとか使ってた。かまへんかまへん。ちなみに俺が使うのはスカルプD。禿げてない。
昨日のテンションが今日も続いて、楯無さんが寝ている内に、楯無さんのために朝ご飯を作りました! パンとご飯の準備完了! パン派とご飯派は相容れないのだ! だから宗教戦争が起きる。コーヒー派、紅茶派、緑茶派や、スパゲティ派にスパゲッティ派など、たくさんある。 相容れないなら出来るだけ無視して、自分の派閥で楽しみなさいな。お前、食料ないサバンナでも同じ事言えるの? サバンナになにがあったか忘れたけど。
そして時間は七時。そろそろ起こそう。
「楯無さん楯無さん起きて下さい」
俺はベッドの上に乗って、楯無さんをかけ布団の上から優しく揺する。
「ん……五分だけ」
定番ですな。
「そんな事言わずにぃ!」
今の俺はテンション油揚げ!
「起きないなら、それ相応の事をしますよ」
ああ! 今ならやれる! 俺の血液がビートを刻むぞ!
俺は少し布団を捲り、楯無さんの頬をツンツン。
「っ!?」
楯無さんは驚愕して、光速でベッドから転がり落ちた。ああ、それはいけないな。
「大丈夫ですかぃ?」
俺はベッドの上から落ちた楯無さんを、上から覗き込んだ。
「…………」
返事がない。ただの乙女座のようだ。楯無さんは顔を真っ赤にして、片手で頬を押さえている。お相撲さんに張り手でもされたんですかね?
「仕方がないですねぇ」
楯無さんが床に横になっているから、俺は空いている場所に足を置く。今日の楯無さんの服は、青いパステルカラーのパジャマだ。
「失礼しますねー」
俺は楯無さんの両脇の下に両手を入れて持ち上げた。羽毛のようにライト! そんな訳ないじゃない! ある程度ヘビーだよ!
「…………」
借りてきた猫かな?
俺は大人しくて、動かない楯無さんにある事をした。
「失礼しまーす!」
それは! お姫様抱っこ! 少し高い高いしてから、片手で楯無さんの膝下に手を通す。初めてやったけどかなりいいな、これ。後で一夏とかにもやってみるかな。
「ゆゆゆゆゆゆゆうくん! はなして! はなして!」
ゆゆゆの二期が始まるのかな? 樹海化警報!
「ダメですよ。今離したら絶対怪我します」
「いいから! 恥ずかしい……」
楯無さんの声が段々小さくなり、最後は両手で顔を覆ってしまった。
まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!
「あなたのために……味噌汁を作りました。だから……俺の味噌汁を食べて下さい」
「ぃゃぁ……」
え? なんだって? 聞こえない。
「ほら、時間が来ちゃいますよ?」
楯無さんをベッドの上に優しく下ろす。
「朝食の準備をしてきますね」
そう言い残して俺は台所に立った。とりあえず、パンを用意しておく。トースターにすぐ入れられるように。
料理は……好みは聞いてないから、わからないけどベーコンエッグにしておこう。
レシピを決定し、調理を始める。
そして楯無さんは部屋から出て行った。仕方ないね。でも、俺は悪くない。初日に抱きしめられ、二日目にベッドに入り込んできて、昨日は首筋にキス。これで俺が悪いのか……? ごめんなさい。
しょうがない。一夏達でも呼ぶか。
「バンシィ! ちょっと来てくれ」
俺はバンシィを呼ぶ。手を素早く洗って、タオルで拭いたタイミングで、来てくれた。
俺はバンシィを片手で触ってから喋る。
「俺の部屋に来ないか? 簡単だけど、朝食作ったんだ。いらないなら、俺が一人で食べるけど」
そう言った瞬間、ファンネルからガタンと音が鳴った。多分、一夏になんかあった。一夏ぐらいしか慌てるような人物は想像出来ない。痛そう。
「四十秒で仕度しな。三分間待ってやる。いつまでも待つ」
通信終了。とりあえず、作っておこうか。
ちなみに昨日の楯無さんと俺の会話は、ほぼ筒抜けだと思う。
最初に来たのは一夏。服装が乱れている。あわて過ぎィ。ゆっくりしていってね!
「おはよう、あなた。パンとご飯どっちにします?」
「……ご飯で」
そして次に来たのは、箒と鈴とセシリアさん達だった。
「邪魔するぞ」
「邪魔するなら帰って」
箒は俺の返しに部屋を出て、すぐに戻ってきた。
「おはよう、夕」
「おはよ」
「おはようございます。夕さん」
「はい。皆さんおはようございます」
全員来るとは思わなかったが、いいでしょう。よーし! パパ頑張っちゃうぞー!
ちなみにだが、一夏はジャージで鈴もジャージ。というか、皆ジャージ。皆に広めようジャージの輪! いや、マジで最近のジャージってシャレオツだから。
「そのエプロンドレス、意外と似合ってるぞ」
あら、一夏に褒められた。私のセンス抜群ね! 本当は楯無さんが着てたエプロンを使いたかったが、さすがに人が使ったものを借りるというのは……だからエプロンドレスを選んだが、結局これも使ってるかも知れんな。お借りました。
料理は全員分用意した。テーブルには、箒と鈴とセシリアさんが座って食事している。俺と一夏は台所で立ち食い。蕎麦屋かよォ。
ちなみにセシリアさんは外国人の方なので、半熟が苦手な可能性がありターンオーバーで対応。
「あらあら、ありがとう」
頬に手を当て礼を言った。
「そういえばさ、楯無さんはどうした? いないようだけど」
これは正直に答えよう。
「俺はな? 一夏達が帰った後、とある部分でテンション上がって、俺と楯無さんにリミットオーバーアクセルシンクロしたの。それで今日楯無さんが起きたら、恥ずかしがって出て行っちゃったの」
嘘じゃないよ。嘘じゃないよ。
一夏と話していたら、向こうのテーブルで、ガタンと音がした。誰だよ……よろしくない。
「へぇ、アクセルシンクロか。どんな風にだ?」
よし、気になって一夏が聞いてくれた。キャーステキー。
「眠っている楯無さんの布団の中に、アクセルシンクロ」
これ、わかるだろ?
ガチャンとまた向こうから、皿を落とした感じの音がした。静かに食おうぜ!
「へぇ、楽しそうだなぁ」
「ちなみに朝起きたら、楯無さんは俺のベッドで寝ていた」
そんなに嫌だったのかね? やっぱり攻撃特化の人は、防御がぺらっぺらだね。
「やっぱり弱いんだ」
「そうなの」
ごめんなさい、楯無さん。
俺達は食事を終えて、アリーナに向かっている。そのため廊下を歩いているんだが、俺達の後ろをついてくる、箒、鈴、セシリアさんの三人は顔が茹で蛸みたいに赤くなっていた。俺は自分の裸以外は、基本恥ずかしくない。
俺の隣を歩く一夏は普通だ。ま、男だからね。関係なさそう。
男二人と女三人で分かれて、それぞれの更衣室へ。
「へぇ、夕のスーツはそうなっているのか」
俺と一夏は服を脱いでスーツ姿になった。
「ああ。これで青じゃなく黄色だったら、マジで全体がバンシィ」
「確かに。工事現場の紐にも似てるな」
だろ?
「だから青でよかった」
本当に、バカにしてるとかじゃない。
後、気付いたんだが一夏のスーツって、狩人か親善大使に似てるな。ポンポン痛くならんよう注意しなきゃ。
俺達はアリーナで四人に合流。楯無さんもちゃんといた。今もまだ顔が赤いから、俺の方を向かない。首だけを逸らしている。
「よし、夕以外はやるか」
一夏の声を合図に俺以外の五人がISを起動。俺、ハブられた……。
しかし……皆すごいな……強者オーラがある。それに比べて俺は……。
「よしよし! 一夏ァ! 見ててくれよな!」
俺は皆の前に出て、一夏に力強く指差した。
「ちゃんと見てるぞ」
サンキュー。
(これは戦いじゃない。でも、お前が俺を選んだなら、その期待に少しでも応えたいから……力を貸してくれ)
俺は目を閉じながら、飛び回っているであろうファンネルに語りかける。
そして俺は叫んだ。
「行くぞ、バンシィ!」
一旦目を開くと、セシリアさんと鈴のファンネルが消え、一夏と箒のファンネルが俺の元へ転送されてきた。
シールドファンネル三枚が、同じ間隔で離れて俺を囲い、シールドファンネルが勢いよく回り始めて、光が俺の周囲を包んだ。なにこれかっけぇ。
それは一瞬の光だけど、温かさを感じた。
俺は閉じた目を開く。
「うん、成功したな」
自分で機体を確認すると、各部の装甲がスライドして、金色の光を発生させている。そんな様子を確認出来た。
これは完璧にアニメを再現してますわ。
そして装甲は閉じていき、ただの黒い機体に戻った。
ん? ちょっと待って……あれ? 形態移行だっけ? あれ?
自分のISに疑問を抱きながら、皆の方を見た。
『………………』
え? 俺なんかやった? ただ起動しただけだよな? なぜか皆、目を見開いて無言だった。
「す……」
一夏が一番最初に言いかけた言葉はなんだ? す?
「すっげーかっこよかったぞ!」
一夏が驚きながら感想を言って、ISの姿のまま勢いよく俺に飛びついてきた。俺はなんとか踏ん張って、一夏を受け止める。倒れたらどうするんだ! 俺は多分、亀やカブトムシみたいに倒れて、起き上がれないぞ!
「本当に、現実に飛び出してきたかと思ったぞ! 俺達まで眩しかった!」
興奮するのはわかる。俺と一夏はよく、アニメを一緒に見ていたからな。でも、これは俺じゃなくてバンシィと束さんのおかげだ。
これはCMに出ればいい宣伝になって、アニメに興味が出てきますわ。神々しくて神秘的ですもん。俺、卒業したら宣伝するんや。
「綺麗な光……」
さっきまで赤面してた楯無さんが、俺のISの印象を呟いた。うん! これが俺のIS! 誰にも渡さない。
その後、箒に鈴にセシリアさんの三人から感想を聞かせてもらった。まとめると、すごいだって。
そして俺は一夏にISの動きを教えてもらった。他の三人は楯無さんから、なにか教わっている。
後はビットをまだ使う予定がないので、セシリアさんに説明して後回しにしてもらった。今は基本動作すら難しい。
「おぉ! 段々上手くなってきた!」
俺は一夏に地上の動きを教わった。歩いて走ってステップなど。
「そ……そうか?」
俺は息切れしている。体力がないんじゃなくて、神経を使うから。一緒かね?
「そうだ。俺も触った時間があまりないけど、きっと大丈夫だ!」
一夏がそう言ってくれるから、俺は素直に喜んだ。まだまだだけど。
「……ありがとう。ならさ、せっかくだからアニメを再現してみない?」
俺は一つの案が頭に浮かんだ。
「それって?」
「この俺と一夏の機体で、UCみたいに空中戦」
「…………あれか! 三次元的なあの戦い」
少ししてから、俺が言ってる事に気付いた。
「そうそう、それ。いずれだけどね。今は普通に、地上限定の近接勝負をしてみたい」
「今の夕には、空は難しそうだしな。だからそれをやってみるか」
一夏は腕を組みながら、了解してくれた。
「じゃ、やろう。手加減してくれよ? 俺は待ちのスタイルで」
普通にやったら絶対勝てない。普通にやってもまず勝てない。だが、地上なら一発だけなら。掠るだけでいいから。
「わかった。俺が攻めるぞ」
俺と一夏は距離を離す。約十メートルぐらい。若干近くね?
(シールドファンネルや、他の武装を外してくれ。サーベルだけを頼む)
バンシィは俺の言う通りに、サーベルだけを残してくれた。
(ありがとう)
俺はバンシィに礼を言って、両腕の前腕部のサーベルをパージしてから柄を掴んで、標準ぐらいの長さでビームを出力して、二刀で構える。
『おいおい、いきなり二刀流か?』
一夏の声が頭に響いた。これはIS間での通信だろう。
一夏は白い太刀のような刀剣を一つ、正眼に構えている。
『二刀流でやってみたいんだ。他の武装は使わないし』
『そうか……わかった。構えろ。夕』
真剣な表情で真剣な声の一夏に、言われた通りにビームサーベル二つを構えた。
横目で他の四人を確認。どうやら、俺と一夏の対決を観戦するみたいだ。
『よし! 三秒数えたら行くぞ! 三!』
カウントダウンが始まり、手が少し震えてきた。俺は殴り合いの喧嘩をした事ないけど、これは喧嘩の一つ上のステージ。
『二!』
一夏に勝てるとは思っていない。力に関しての向上心は、俺は持っていない。だが、俺にはバンシィがいる。だから少しでも、俺はバンシィと一緒に戦いたい。勝敗なんて関係なく。いや、やっぱりやるなら勝ちたい。
『一!』
どこまで行けるか試そう。
(行こう、バンシィ。一発でもいい、一夏にダメージを入れる)
『零!』
一夏は真っ正面から接近。僅かだが宙を浮いている。
頭上にブレードを上げて、垂直に振り下ろす。多分、様子見の牽制だろう。
俺は一瞬だけ考えた。サーベルをクロスしてブレードを受け止めるか、それとも片手のサーベルだけでブレードの軌道を逸らすか。
直感に従い、俺は片手のサーベルでブレードを斜めに受け流す。
一夏はその受け流しを予想していたのか、高速で後退してブレード引いた。
だから俺は接近した。今の一夏はブレードを引いたラグがあり、再度構えるにはそのブレードは長すぎる。ちょっとした隙でも、攻める。
俺の動きを読まれたのか、一夏はサイドステップ。移動した勢いでその場を回転して、ブレードの重さを利用して回転切り。
俺はそれをスライディングで避けて、片足を突き出し地べたを滑る。
繰り出したスライディングを、一夏は地面で両足を揃えてから、空中で何回かひねり、俺の体を飛び越えた。
俺は避けられたのを見て、すぐさま片方のサーベルを地面に突き立てた。サーベルを軸にして半回転し、勢いよく滑る。そして体勢が低めのまま、俺と一夏は少し離れた距離で相対した。
ISのサーベルって地面を焼かないんだな。支えになるとは思わなかった。
『驚いたぞ! まさか下から潜り込んでくるだなんて!』
『俺も驚いた! 体操でよく見るやつだ!』
俺達は互いに賞賛しあった。
『楽しくなってきたぜ!』
『俺も意外と楽しいぞ!』
だからもう一度だ。
『さぁ! 来い、一夏!』
『だったら行かせてもらう!』
一夏が正面からダッシュ。ブレードの刃を下にして突きの構え。
俺はサーベルを順手から逆手持ちにしてクロスさせながら前進。
一夏の突きを、サーベルをクロスした中心部分で受ける。
俺はクロスしているサーベルの中心部分を下にズラし、一夏のブレードをクロス部分の上に通す。
その際にクロスしたサーベルと脇でブレードを上下で挟み込み、俺はブレードに沿って前に進んだ。
脇に通す時、シールドエネルギーが少し削れたが、お構いなしだ。これで俺はシールドエネルギーの残量が減った。
一夏は後ろに傾き、後退してブレードを引き抜こうとする。
俺は急ブレーキをかけて、引き抜かれないよう、脇とクロスしたサーベルでブレードをロック。
ここで互いの動きが止まった。一夏と俺は動けない。どちらかが先に動けば、今の状態では小さな隙になる。
一夏は回避重視でブレードを後ろに引けば、俺は引き抜く速度と一緒に詰める事が可能だろう。
一夏がダメージ重視で前に突っ込むなら、俺のサーベルが待っている。
だから動いたら、一気に勝負が決まってしまう。だが、このままだとダメージ負けするのは俺だ。一回ぐらいダメージを与えたい。
俺は賭けに出た。両手のサーベルを離して、ブレードを瞬時に両手で挟み込んで、しっかり掴む。止まっていた一夏は反応が遅れた。
先ほどの脇の下と、サーベルのクロスで挟むのと同じやり方だ。ダメージ重視で行く。
両手でがっちり掴んだブレードを、最小限の動きでブレードの切っ先を、掴みながら片足で踏む。重さでブレードの切っ先は地面に刺さる。
一夏は俺の事を構わず、ブレードの切っ先を引き抜こうと必死だ。だから俺は両手をブレードを離し、切っ先を踏んでない方の足で、柄の付近を踏みつける。
一夏は危険と判断したのかブレードを放棄。一夏の判断は正解だった。俺はブレードを地面に踏みつけた。そのため地面に着地した硬直がまだ残っており、一夏はそれを見事に見抜いた。
一夏は加速して俺に踏み込み、ストレートでもなくフックでもない技を繰り出す。
腹部を狙うラリアットだ。胸部や首ならまだギリギリかも知れない。だからギリギリであるなら、まだなんとかなる。だが腹部じゃ回避は無理と判断して、俺は諦めた。
だが、バンシィはそうは思わなかった。
NT-Dが発動。俺は一夏の攻撃を避ける事が出来た。
距離を離して仕切り直し。バンシィのおかげで助かった。
『きょ、今日はこの辺にしよう! ね? ね?』
俺はそう提案した。NT-Dがなければ、俺はダメージを受けていたからだ。
『……そうだな。これ以上は肉弾戦になりそうだ』
一夏も肩の力を抜いて、腕をだらんとしてぶらぶらさせた。
『楽しかったぞ! また相手してくれ!』
俺はそう叫んだ。勝負事は苦手なんだけど、一夏との戦いは楽しかった。
NT-Dが終わって装甲は閉じていく。
『ああ! もちろんだ!』。
(バンシィ、ごめんな。助けてくれたのに、やめちゃってさ)
ただ、バンシィが力を貸してくれたのに、俺はギブアップした。それが心残りだ。
(俺はもっと強くなりたい。バンシィに頼るんじゃなくて、バンシィと一緒に並んで戦いたい。だからそれまで、俺の弱さに付き合ってほしい)
答えが返ってくるかわからなかったが、一瞬だけ装甲の隙間から光が漏れた。それが返事だと思う。
(ありがとう。お疲れ様)
こうして俺は、一夏と一緒に武器を回収して、四人の所へ戻った。