ショッピングモールに到着。ここはゾンビが出たらオススメ。スーパーとホームセンターが一緒のお店もオススメ。食料と武器が一気に入手可能だから。
俺は両腕に引っ付く二人を見た。移動中の間、二人が俺を離さないお陰で、動き難くて仕方が無かった。せめて歩幅は合わせようぜ。鈴は小さく楯無さんは大きめだから、必然的に俺の体は斜めになった。地味にキツい。
周囲の視線は別に気にならなかったな。制服姿で身分バレバレだし、ニュースを見ていた人は顔ぐらい知ってる筈だから、集まっちゃうけど何故か気にならないなぁ。目立ちたがり屋?
「鈴ちゃんは最初は何を見たい?」
「やっぱりここは服じゃない?」
二人が顔をだけを前に出して、俺を挟んで会話をし始めた。だったら離せよ。俺はちゃんと後ろにいるから。ま、申し立てても無駄なのは知ってる。
「じゃ、服にしましょ。行こうか、夕君」
俺は二人に同行され、服を選びにいった。
女性物の洋服屋に着いて、二人は俺を解放して先に店内に入っていった。
「これからの季節に合わせた服を選ぶから、夕君も付き合ってね」
「はい」
「ねぇ、夕! これとこれどっちがいいかな?」
俺は適当に服を眺めていると、鈴が二つの服を両手を使って見せてきた。
「うーん……」
腕を組んで二つ見比べる。
鈴が持ってきた服は、一つは長袖で薄手の膝上辺りのワンピース。青と白のチェックだ。
もう一つが青のショーパンに、白で無地のTシャツ。上着に白のカーディガン。淡いピンクのストール付き。ワンピースの方は手抜きってレベルじゃねぇぞ。
「鈴はどっちがいい?」
「私は……こっちかな」
ワンピースじゃない方の手を少し上げた。
「俺もそれだな。絶対似合う」
個人的にそのワンピースが好きじゃないんだ。もっと他にあるでしょうよ。どう考えても選んでほしかったのが、マネキンから持ってきた感じの方。
「わかった!」
元気よく返事して、広い店内だが所狭しと服が並んでいる隙間を、鈴は小走りでどっか行った。店内では走らないようにー。
「ねぇ、夕君!」
今度は楯無さんだ。一つはカーキ色のカーゴパンツに、薄い桃色のTシャツ。薄い青の上着。
もう一つが灰色で、丈が少し長めのチュニック。青のジーパン。
「これはどっちも似合いますね」
「ホント?」
「はい。最初に見せてくれた方は、ボーイッシュというか爽やかというか健康的な感じです。もう片方は大人っぽい雰囲気ですかね」
本音はどちらも楯無さんが着れば、二十代に見違える服な気がする。凄く似合うんだけどね。
「じゃあ、キープするね」
「はい」
楯無さんは満足気な表情をしながらどこかに行った。
「あの、すみません」
「はい?」
適当に服をがさごそ見ていたら、横から知らない女性に声を掛けられた。これは二つの内の、どちらかがヤバい。
「さっきの人達を見てたんですけど、よかったら服を選んでくれませんか?」
「ゑ?」
「男の人の視点がなかなか無くて……」
ちょっと照れながら理由を話す女性。十代ぐらいの人かな?
「まぁ、基本的に男は女性の服選びに興味ないですからね。わかりました。好みに合致するかわかりませんが、自分でよければ」
仕方無い。言われてしまったなら、協力しましょうか。ナイスガッツだ。コミュ力凄いな。
「ありがとうございます!」
頭を下げてお礼の言葉をいただいた。この女尊男卑の世界に稀有な人だ。いや、俺としてはそこまでドギツい人と接した事はないけどな。かなりの確率で、目立つ一夏の方に向かってくから。あなた私の靴を舐めなさいとか。それは嘘だけど。
さてさて、着せ替え楽しみだなぁ。嫌いじゃないわ!
「あー……」
俺は店の目の前のベンチに、腰をゆっくり下ろした。なんだよ、あの数は……。少しは遠慮してくれよ……。楽しかったけどさ。
あの後、あの人から始まり結構な人が、私の服を見立ててくれとお願いされた。ま、仕方が無いね。でも、親しい君らも彼女や友人の服を選んでやれよ。一言これがいいって。
いやぁ、それにしても意外と温かい世界でしたね。男は肩身が狭くて苦労する世界だから、男のIS起動者を排除しようと刺されてもおかしくなかったが、そこまでヤバい人は闊歩してないようだ。まぁ、刺したら社会的にその人は死亡。これが権力や。後はバンシィと楯無さんや鈴がいるから問題ない。
そういえば俺って制服着てるから、ありがたかったりするんかね? あの人に服を選んでもらったー、という感じで。写真も求められたし。うん、これは芸能界デビュー出来ますわ。しないが。
「人気者ね」
洋服を何着か買って、紙袋を持った鈴に話し掛けられた。ムスッとしてなく、苦笑している。
「俺って稀少だから。服選びは適当に選んで流す人大多数だし」
世の中の男は興味がないからね。俺も特別興味がある訳じゃないが、女子関連でどうしても聞かされてたし。休日のデートの格好はこれでいいかって。
「一夏や弾達がやりたがらないから、必然的に付き合いのいい夕になるのよ」
「嫌いじゃないから構わん」
「はい、これどうぞ」
洋服屋の紙袋を持ちながら楯無さんは、近くの自販機で購入した、飲み物を受け取る。
「ありがとうございます」
炭酸最高だわ。
「お昼にはまだ早いからどうする?」
楯無さんが壁にある時計を見た。
「まずはその荷物をコインロッカーに預けましょう」
どこにあるか知らんが。
二人の荷物を俺が持って、コインロッカーに預けて身軽になった。
「次はどうします?」
俺は二人にどうするか尋ねた。
「夕君の服を買いたい」
「夕に服を着せたい」
「自分で選ぶんで大丈夫です」
レディースの次はメンズだとさ。マネキンが着てるやつとか、適当に探して気に入った物を着るから俺のはいいんだよ。
『えー』
不満気ですね、あなた方。
「全く……わかりましたよ。付き合います」
俺は肩を竦めて観念した。ここで断って次は代わりに下着選んでとか言われたら、俺は死ぬ。下着売場だけは絶対に入りたくない。あそこはマジで男子禁制だし、他の女性客から嫌な視線を絶対に向けられるから。嫉妬か不快感かのどちらかを。見られるのは構わんが。水着ならギリセーフ……かな。
そして俺は二人に手を引っ張られて、メンズショップへと引きずり込まれた。
「夕君にはこれが似合う!」
「いや、絶対こっち!」
二人が俺の服で言い争いを開始。私のために争わないで!
楯無さんが持つのは、俺を大人っぽく見せるクール系。
鈴は今時の若者達が着てそうな、カジュアルなタイプ。
どちらもセンスは抜群にいい。女の子だしね。だが、自分の趣味の押し付けはいかんなぁ。ちなみに鈴の選んだ服の方が好みだ。
「どっちも買いで」
これは仕方が無いね。いつまでも決着がつかない平行線だし。だったら二つ買えばいいだろ! 後、他のお客さんの迷惑です。
そういう訳で二人の二着に、俺が選んだ二着を購入。
「夕君はそういう服が好みなんだ」
コインロッカーに向かいながら、先ほど俺が選択した服の感想を、楯無さんが呟く。
「ふふん! 私は夕と長く付き合ってるからね。好みの把握なんて余裕よ」
「ぐぬぬ……」
楯無さんが悔しそうに鈴を睨み、鈴は勝ち誇ったドヤ顔を楯無さんに見せつけた。俺をサンドイッチにしないでやってくれ。巻き込まないで。
そろそろお昼時だ。ファミレスを選択した。
俺が一人で対面に二人が座る。
そして注文した料理が運ばれてきた。
おい、バカ。二人で俺にあーんするんじゃない。一気に二つは食えんぞ。
食事を終えたら、今度は店内の食料品店へ。
「夕君は苦手な食べ物はある?」
「夕は出された料理は、基本的に食べるわ」
野菜コーナーで楯無さんに苦手な物を聞かれたが、先回りで鈴が代わりに答えた。
買い物かごを二人が持っているから俺は手ぶら。自分で持って選びたいんだって。
「あなたに聞いてないわ」
「夕に聞かなきゃわからないのね」
そりゃ、俺に尋ねんと好き嫌いがわからんからな。普通の事だよ、普通の事。
「ハンデとして好みぐらい私にくれたら?」
「ヒントがなければ夕の事を理解出来ないの?」
何なのこの人達……。
「くぅ……」
楯無さんは唸る。あーあ、黙っちゃった。ま、楯無さんが好意を伝えなければ、鈴も告白しなかっただろうに。タイミングが悪かった。
「夕は食べたい物ある?」
楯無さんが沈黙している内に、鈴が差をつけるために攻撃。
「揚げ物かな?」
「唐揚げとか?」
「うん」
俺は素直に答えた。嘘吐いても何もならんし。
答えた瞬間、二人はダカダカ精肉コーナーに走っていった。危険ですので走らないで下さい。ドゥエらないだけいいか。
「あなた、幸せ者ね」
俺が一人残され突っ立っていると、二人のやり取りを見ていたのか、ショッピングカートを押す主婦っぽい人に話掛けられた。この人頬に手を当てながら、かなりにこにこしている。微笑ましいのかな。
「はい。凄く幸せです」
俺は主婦の人に笑顔で返す。
「頑張ってね」
「ありがとうございます」
俺はお礼を言って会釈すると、主婦の人は野菜の選別を始めた。優しい世界だ。
「お菓子でも見てこようかな」
俺は独り言を言ってから、お菓子コーナーへ向かった。
「夕! やっぱりここにいた」
新作のお菓子を上下左右眺めていると、いつの間にやら鈴が隣にいた。俺の行動パターン読めてんなぁ。
「目当ての物はあった?」
「うん!」
「そうか。そいつはよかった」
「そろそろレジに行くね」
「一緒に行くよ」
楯無さんはどうしたんだろう? ま、後から来るでしょ。
俺は鈴のかごを持って、一緒にレジへと向かった。
レジでお会計していると、楯無さんも並んだ。
楯無さんと鈴の分を俺が払った。金はあるんだ。かまへんかまへん。
買い物を終えて服の入った紙袋と、食料が入ったエコトートバッグを俺が持って、IS学園へと帰ってきた。私は帰ってきたきた! あまり落ち着けないお家ですね。
鈴は自分の部屋に一旦戻って、荷物を置いてくるそうだ。
「今日は楽しかったね。一匹余分なのが引っ付いてきたけど」
楯無さんは買った服をクローゼットに入れていき、俺は冷蔵庫に品物を並べていく。
「楽しかったのは同意しますが、その後の発言はマイナスです」
鈴が同じ事を言ってもマイナスだ。別に贔屓ではない。
「三人で行けて楽しかったよ!」
「俺もです」
普通の買い物より疲れた。こんなに疲れる買い物は初めてかも。胃は痛くないし面白いけど地味に面倒だった。
「また行こうね」
「はい」
俺達は言葉だけだが、約束は交わした。
ジャージに着替えた後、時計を見た。時刻は約十五時。ふむ、何をしようか。
「ねぇ、夕君。一緒にゲームしない?」
「え?」
俺は今ベッドに座って教科書を読んでいる所だ。
「夕も一緒にさ」
「えぇ……」
楯無さんと自分の部屋から遊びにきた鈴に誘われる。
「ずっと睨めっこしていても、簡単に覚えられないよ? 明日夕に教えるからさ」
そ、そんなぁ~。ま、それはそうだ。
「わかりました。何するんですか?」
「格闘ゲーム」
楯無さんにパッケージを見せてもらうと、世紀末のあれだった。
「やり方知りませんよ?」
星が光るとかシステム辺りはわかるけど。
「大丈夫。私が教えてあげるから」
鈴に言われて俺は無言で頷いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 店員さーん!」
楯無さんにバグ昇竜決められた。
「おい! 開幕いきなり座るな!」
鈴に座られ、1ラウンド目から開幕ぶっぱされた。この二人は確実に俺の心を殺しにきてる。
「あっ……セクハラされた」
「あっ……槍投げだ」
「あっ……目押しミスらなーい」
「あっ……欲望が足りてる」
「あっ……ブー挑発された」
そして俺の心は折れた。何だよ……どう考えてもあっちゃいけない事がいくつかあった。
「くそっ! 俺だって世紀末モード突入していたのに……」
四つん這いになって、俺は泣いた。少しは接待してくれよ! バスケや田植えはまだ許されるが、メザメタコーってBGMが流れるのはおかしい!
「何だよっ! 俺が操作する時に限って、我が生涯に一片の悔いなししやがってっ! 悔いろよっ!」
どう考えてもおかしい。プログラムか何かを確実に弄っている。
そして俺の両隣で悪魔が微笑んでいた。
「俺は寝るっ!」
自分のベッドに潜り込んで、頭から掛け布団を被った。