一夏に学園内を案内してもらい、わかった事がある。やっぱり、男用の設備は少ない。
そして男性用トイレが凄く遠い。生理現象は操作出来ないので、これから凄く困るのが見え見えだ。女装すれば女性用トイレに入れるのかしら?
「やっぱり、男同士は落ち着くし癒されるなぁ」
更衣室に向かいながら、一夏が呟く。俺はどう反応するべきか。
「そだね。ここでは俺達異分子だからね。同性が凄い魅力的に見えちゃうわ」
とりあえず、事実なので素直に頷いておこう。
「だよな。そうだよな! ルート的に男を好いちゃっても仕方ないよな?」
今の距離的に、俺がパックンチョされそう。
「選択肢的には二つだ。先に千冬さんに話を通して許可を貰うか、既成事実を先に作っちゃうかだ」
この場合、後者が最善だろうな。だけど、実行したらきっと千冬さんからの死が待っている。死が二人を分かつ的な? ロマンチックでいいんじゃない?
もし一夏が本気で同性愛に目覚めたら、一夏が好きな人達は残念がるだろうな。悔しいでしょうねぇ。
「どっちを選んでも千冬姉がどんな反応するか、俺には想像出来ないなぁ。夕はどうだ?」
ふむ。問われたのなら、答えない訳にはいかない。
「どちらだろうと、最終的に一夏を殺して私も死ぬっ! とかされちゃう未来しか見えない。今の所」
ルート的にどう進んでも、きっとラスボス。最大の障害。
「あ、思い付いた」
「何だ?」
「禁断の愛ならば、何とか許されるかも知れない。やっぱりダメだわ」
案が浮かんだけど、即却下。結局死にそう。どうせみんないなくなる。
「難しいな、人間って」
「そうだねぇ」
俺達はこんな場所で、何の話をしているんだろうか?
「ちょっと待って! もしかしたら、これはトラップかも知れない!」
「え?」
「確か動物で、環境的に同性愛が生まれた事があったらしいよ」
そんな話を、聞いた事があるような気がする。後で暇だったら、真偽のほどを調べよう。
「これはきっと兎さんとか日本政府の陰謀だ。そうしたら、ハニトラに絶対引っかからないでしょ?」
やばい、俺は天才かも知れない。常人には至れない領域に、辿り着いちゃったかも。
「なるほど。つまり、女はやばいから男と一緒になれと。これが天才か」
俺がいないという期間が、矛盾点になるがなっ!
「そう! 俺達は同性愛を、強いられているんだっ!」
「なんだって!? それは本当かい!?」
これも全部、束って人の仕業なんだ。
「そんな事はどうでもいいっ! それより、ここで好きな人は出来たか? 一夏君」
実際の所凄く気になる。だっていつハーレムが誕生してもおかしくない状態だからだ。ん? ちょっと何言ってるかわかんないです。
「うーん」
一夏が顎に手を当て、どこかに視線をやって悩んでいる。もう、この瞬間にわかっちゃったよ。
「なら、気になる人は?」
うん。これなら、まだ答えやすいはずだ。
「んー」
今度の一夏は、腕を組んだ。はい。
「……ダメだ。思い浮かばない。あ、ハルトとオードリー!」
「取って付けたように、画面の輝きの向こう側に、行くんじゃあない」
ダメだこいつ。早く何とかしないと。
そこは一夏が何とかするって、言わないと。言えよっ!
狙いは外さないとか言いながら、明後日の方向にBMを撃ち込むから、当たるの期待されず特殊移動のために踏み台としてしか使われない、踏み台さんの気持ちを考えた事があるのか!? 方向入力でNサブくれよ……。親のビンタより食らった、あのNサブを! そ……そそっか……そそっか……。
「わかってるって。じゃあ、逆に聞くけど、夕はどうなんだ?」
「え? なんだって?」
「そこで難聴を発動するな!」
「お前が言うな!」
「お前も言うな!」
うんうん。話の流れはわかるけど、初日の俺に聞いても答えられない事だなぁ。
「もしかしたら、鈴は私の母になってくれる女性かも知れない」
さっき思い付いた事を言ってみる。
「お前、ロリコンかよォ!」
「やめろォ! 鈴ちゃんに失礼だろっ!」
「大佐ァ!」
「私は大尉だ!」
うっわ、打てば響くという感じですっごい楽しい!
俺の人生の中で一番楽しい時間なのは、確定的に明らか。だとすると、今までの俺の人生ってなんなん? 知ら管。
「鈴とか箒とか千冬さんとか一夏かな? うんうん」
正直な気持ちを伝える。いや、嘘じゃなくて見知った顔だからだ。テンション上げて、思考を空っぽにしていないと心細いんだよぉ。俺のメンタルはダイヤモンドなんだ。傷には強いが衝撃に弱いんだ。昔は泣き虫で、今も泣き虫。いつまで経っても泣き虫とかなんでやっ!? 悲しい涙は人前で流すなと、マスターから教わった。だからトイレか一夏の胸で泣くの。
「所で話が変わるけど、実は僕も鈴ちゃんも、一組になりたかったんだよっ!」
唐突にネタ振りするのと同時に、ブンっと軽く腕を振り一夏の背中目掛けてアタック。
だが、一夏の奴は背後からの攻撃を難なく避けた。
そして俺と一夏は立ち止まり、向かい合う。
「暴力はいけません。フッハハハハハ…………ですが笑えますねぇ、あの事件であなたはISも持たずに二組へと転入、一方私は今では一組のクラス代表、随分と差がつきましたぁ。悔しいでしょうねぇ」
これが本来の使い方! いや、使っちゃダメだろ。そして効果はばつ牛ン! いや、思っていたほどでもないな。全然悔しくない。
俺がISに執着してないからだろうか? それとも俺の地位が転落してないから?
二組という部分が引っかかるぐらいか。
「てめぇ!」
とりあえず、お決まりのセリフで切り返しておく。
「……即興だからまだまだ甘いけど、正しい使い方をすれば、これ超嫌な奴だろ」
誰かに言うまでもないだろ。一夏よ。
「うむ」
事前に確認しといて理解してたが、使われるとこの有り様だよ。こんなセリフ吐いたら、誰だろうとヘイトが確実に上がるわ。
お互い示し合わせなくても、止めていた足を揃って動かし、更衣室への道のりを歩く。
どうやら、一夏はわざと遠回りするルートを選んだらしい。更衣室までまだ距離があるとか、本当に長いな。
廊下を走っちゃいけないというルールは、どこの学校にもあるだろうから、長距離でも歩くしかない。だから、遅くなっても仕方ない。そういう体かな? 一応許可はあるが。
全部俺の想像だが、一夏には意図なんかなく、ただの天然かも知れない。ここら辺はよくわからんな。
「続きをしよう。一夏は誰なら勝てる?」
とても重要な事だ。ネタ的な意味で。
「今の俺じゃ無理だな」
「断言するねぇ。じゃ、逆に俺が教えてお願いするか」
いい案だと思う、発想だけは! ただ、相手がわからない限り、実行手段はない。結果没。
こんなの、ただの考えなしじゃない! だったら考えればいいだろ!
「やめておいた方がいい。犠牲者は俺と千冬姉とお前だけで十分だ」
俺もサラッと入れるなよ……姉弟の中によォ! ハッ!?
「はい」
これ以上、内輪でのアニメネタを、周囲に振りまくのはよくない気がする。いや、でも……箒は凄く似合いそうだ。今日の昼頃に、セリフを紙に書いて音読させてみようかな。想像するだけで、もう既に面白い。俺、疲れてるのかな?
「……一夏から何か話したい事ある?」
こちらから提供するネタが切れだ。というか、お腹と胸が一杯一杯。もう十分だ。満足したぜ……。お前、消えるのか?
「弾達の様子はどうだ? 忙しくてメールをあまり返せなくってさ」
「嫉妬一つ」
「そうだと思った」
端から見れば環境ハーレムだもんな。
だから俺は弾達に言った。お前達はたくさんの女の子を目の前にして、水着みたいなスーツ姿をじろじろ見ずに、しっかりと目を見て話せるか? とね。無理だって言って、首を横に振ったよ。そこは冷静だった。
ここに入るなら悟りを開かないと。俺は心中でブツブツ言ったりハイテンションにして、意識を抑えている。これは悟りに含めてもいいの……?
「年頃の男の子だもんね。あいつらには乙女プラグインは無理」
ギャルゲーや乙女ゲーやってない奴が悪い。特に乙女ゲー。俺様系だけは苦手だわ。でも、一夏なら許せる許される不思議。これが恋は網膜というのか。一つ勉強出来た。盲目や!
「俺も結構キツいんだが……」
「やめて! 聞きたくない! 一夏君は強くあってほしいの!」
おうおう、自分の理想像を勝手に押し付けといて冷めたとか、寝言は寝て言うべきそうするべき。
「その言葉を昔言われたなぁ」
「恋に恋してる人が多いからね。見えなくなっちゃうんだよ」
恋愛って難しいな。ここが一目惚れの不利な所。だから幼なじみは有利。でも、負けちゃう事が多いのは、きっと刺激がないからだ。知らんけど。
「そうか。そういえばだけど、夕が好きだって人に、俺は何回も相談持ちかけられたぞ」
ジャンジャジャーン! 今明かされる衝撃の真実ゥ!
「さっき鈴から、それらしき事を耳にした」
「あ、しまった。言ってから気付いたけど、これ告げ口じゃん……」
「私が聞かなかった事にするからへーきへーき」
でも、一夏の言葉は一字一句ハートに刻むぞ。ビート!
「夕。楽しい楽しい男同士の話はここまでだ。ここが更衣室という名の地獄に続く門」
俺と一夏の目の前に、何の変哲もない扉がある。男子用更衣室と書かれたプレートがあり、それ以上の特徴はないみたいだ。
「つまり、セーブポイントか」
更衣室を出た先には、色香というサキュバス達がごろごろと待っている。行きたくねぇなぁ。
足を動かそうとするが、動かない。動けっ! このポンコツが! 動けってんだよっ! 昔、膝カックンされてしまってな……。
「ほら、覚悟を決めて行くんだ!」
「お、おう」
一夏に背中をぐいぐい押されて、更衣室へと踏み入った。俺の背中を押すと同時に、地味だけどちょっとマッサージしてきやがった。
どこ押してんのよ! ちょっと気持ちよくて笑っちゃったじゃない! 背中に緊張を解すツボでもあるのかな?
「別に変わった所はない普通の室内だな」
ただのロッカールームみたい。
「さて、好きな所使えよ。どこでも空いてるから」
そう言って一夏は、自分のロッカーで制服を脱いで着替えを開始した。スーツは下に着てるのか。俺はスーツがないから、代わりにジャージを下に着てる。制服は冬用なので、モコモコにはならない。
「ちょっと疑問があるんだけど、一夏はこの部屋を調べたか?」
「ん? いや、どこに何があるか把握はしてるが、それ以上は何も見てないな」
「そうか。実はな、政府の人にこんな物を持たされたんだ」
ポケットから、携帯に似た小型の機器を取り出す。
「何だそれ」
「これね……いや、よそう。俺の勝手な行動で、問題は起こしたくはない」
「自己問答はいいから、早く教えてくれ」
「最新式の電磁波感知器」
「あー……あれだろ? 咄嗟に出てこないけど、あれするやつ」
「そうそう。あれするやつ」
つまり、盗聴器や盗撮機を発見するための機械だ。プライベートを確保するため、持たせてくれた。心身の安全は大事だよね。
「ちょっと調べるから、先に行って千冬さんに伝えてくれ。もう少し遅くなるって」
「いや、俺もいるぞ。男に関係する事なんだからな」
「一夏がそう言っちゃうなら、わかったよ。俺の負けだ。じゃあ、後で一緒に謝ろうか」
理由を話せば、千冬さんはわかってくれる人だ。
「おう!」
本当に心強い味方だなぁ。
「携帯とか電波発生しそうな物は持ってる?」
「携帯は寮にあって、他は多分ないな」
「わかった」
俺も携帯や色々な荷物は、まだ見た事ないな。寮に届けられるらしいが、相部屋とか聞いた。
でも、そんな事はどうでもいいんだ。後々重要だけど今は重要な事じゃない。
「じゃ、始めるぞ」
一夏が無言で頷き、俺は感知器のスイッチを入れる。液晶が心電図みたいな一本線のグラフを描き準備完了。表示を色々と変更する事が出来るらしいが、使い方を教えてくれた人はそのまま使えると言っていたので、デフォルトでいいだろう。変更する操作方法を、そもそも知らないし。
まずは入口からぐるっと部屋を回ってみる。壁に沿って天井から床へと、上下に大きくゆっくり動かして反応がないか探った。
「どこで使い方を習った?」
「説明書を読んだのよ」
『…………』
ネタセリフを言った以降、俺と一夏は黙った。
更衣室中を探してロッカー内も細かく調べたが、何も見つからなかった。正直、ちょっぴり残念だ。見つかったら見つかったで嫌だけど、なかったらなかったでちょっとな。台風や雷、雪が降ったりするとわくわくしちゃうのと一緒だ。
「何もなくてよかったぁ……」
どうやら一夏は安心したらしく、長く息を吐いた。
「まぁ、何もない事が一番だよね」
俺と一夏は共に頷きあう。ついでに、役目を終えた感知器のスイッチを切っておいた。
「しかし、これ見てるとEMFを思い出すよな」
俺が制服を脱ぐ間、一夏は俺を待ちながら感知器を待っている。そして、一夏が話しかけてきた。
「何だっけ?」
どこかで聞いた事はあるけど、全く思い出せない。
「外国のドラマの道具だよ。タイトルは出てこないけど、サムとディーンの二人の兄弟が、父親を探しながら悪霊とかを退治する話」
「あー、あれか。確かにEMFかも」
一夏からキーワードを貰って、すぐに思い……出した……!
一夏が手に持つ感知器を、俺は見つめた。確かに電磁波という部分では、EMFかも知れない。あっちは幽霊の見えない痕跡を、こっちは盗聴器などの見えてる物体を。
「もし幽霊が存在したら、これって同じ感じに反応するのか?」
「どうだろうなぁ……ドラマと現実が一緒の設定なら、反応すると思うよ」
喋りながら、一夏から感知器を受け取り一旦ロッカーに感知器を置いてから、腕を組んで考えてみる。うん、同じ電磁波ならきっと反応するはず。後でネットで確認しとこうかな。大した収穫はなさそうだが。
「そっか。なら、肝試しの時にでも使ってみようぜ!」
「おいおい……場所を弁えないと洒落にならないぞ」
神社とか墓場とか、見えざる者や静かに眠る者達に関わりたくねぇよ。実際に反応したら、本当にやばいだろうが。
「どこかの学園祭の出し物や、遊園地のホラーハウスだから大丈夫だって」
「まぁ、それぐらいなら……」
そういう場所なら、ちょっとぐらい使用する事を許して下さい。
そんな下らない事を話しながら俺はジャージになり、脱ぎ終えた制服を畳んでいると突然キュイーンと何かが聞こえた。
「な……何の音だ……?」
一夏が腰を低くして構え、発生源を突き止めるためにきょろきょろと辺りを見渡す。
そんな一夏の様子を俺は横目で確認して、ロッカーの中に先ほど置いたある物に視線を向ける。
モスキート音か歯医者のドリルの音という、超高周波と表せばいいだろう。個人的には全然不快じゃなく寧ろ心地いいが、先ほどの会話の後でだ。タイミング的に鳴っちゃあいけない状況だ。
「一夏一夏」
俺は一夏の名を呼び、首をクイッとロッカーの方向へと動かし、見せやすいようにロッカーから退いた。
「……えっ?」
俺から少し離れていた一夏が、意図を理解してロッカー内を覗く。そこにはスイッチを切ったはずの感知器が、何故か電源が入った状態だった。
液晶が暗いロッカー内を照らして、異常さを物語らせる。
「こ、これってどういう事だ……?」
一夏は若干強張った口調で、疑問を呟いた。
「……そういう事だろうさ」
太陽が出ている時間帯なのに、正直超怖い。だが、一夏がびびっている様子で、俺は何とか耐えられる。しかし、悟られないレベルで体全体の震えが始まった。
「……スイッチを切ってくれ」
やばい。声が震えそうでハートが震える。刻むぞ! 血液のビート! それってなんなのなの?
「……切ったぞ」
「次に、そのEMFを返してくれ」
こんな事になってしまったんだ。名前は富士山だ! うん、EMFにしよう。
「お、おう」
一夏からEMFを受け取り、下のジャージのポケットに仕舞う。
「準備が終わったから行こう。伝説って?」
一夏の両肩を両手で掴んで、方向転換させてから手を離す。
「ああ!」
「よしよし」
一夏の頭をポンポン撫でながら、俺達は更衣室を後にした。
ちょっとした個人的な軽い考察だが、本物なら引き寄せられたんだろう。よくある、怪談話で呼び寄せるやつだ。偽物なら、あんな芸当をやってのける人物は一人しかいない。
真相は闇の那珂ちゃんだよー!
那珂ちゃんの心に、俺の熱いファンサービスを届けてやるぜ!! ナッカチャーン!
そうして俺達はどっちがサムでスカリーか、どっちがディーンでモルダーかを話し合った。
授業には十数分遅れただけで、何事もなかったように参加した。