眠りから覚めて起き上がり、何気なく外を見たら月明かりが部屋を明るくしている。夜になったみたいだ。部屋の電気は点いておらず、二人もいない。どこに行ったのだろうか? 気にしなくていいか。さっきの仕打ちは、心と記憶が忘れてない。
ベッドから抜け出し伸びをする。時計は暗くて見にくいが多分十九時ぐらいか。食堂に行こうか。
俺は部屋を出てから廊下を歩いて、食堂へ向かった。
食堂に着いたのはいいんだが、見渡すと席が空いてない。これは時間帯が悪かった。もう少し後かな。
引き返していつもの場所で時間を潰そう。
自販機の間に挟まっていると、女子生徒が何人も通っていく。
「こんばんは!」
「っ!? こんばんは……」
声を大にして挨拶。女子生徒達は若干引き気味に通り過ぎていった。これは驚かすのが楽しい訳じゃない。俺がいる場所が悪いだけだ。こんなアホみたいな所に普通いると思わないだろう。
ポケットに入れていた携帯のディスプレイをチラリと覗くと、二十分経っていた。意外と時間潰せたなぁ。
どうせまだ時間が掛かりそうだし、部屋に戻るか。俺は何しに来たんだろうな。
部屋に戻るとエプロン姿で楯無さんと鈴がいた。
「あ、夕君。どこに行ったか心配したよ」
「食堂行ったんですが、席が埋まっていたので自販機に挟まってました」
改めて言葉にしてみると頭おかしいわ。奇人変人レベル……の片足突っ込んでるぐらいか?
「そっか。鈴ちゃんの部屋で一緒に唐揚げを揚げてたの。色々と味付けを考えながらね」
「そッスか」
仲良くなってんじゃん。
「少ししたら出来るから待っててね」
「はい」
俺はベッドで教科書を再読した。
「よう! おかず持ってきたぞ!」
エプロンした一夏が登場。手に持つ器を見ると、ラップがしてある。そして唐揚げだった。どっから嗅ぎ付けてきたし。
「いらっしゃい。そしてありがとう。で、どこで唐揚げだと知った?」
「匂いで」
お前ストーカーかよォ! 楯無さんよりちょっと危ない。
「冗談冗談。さっき鈴とかい……楯無さんに偶然会って、これから夕に作るって言ってたから俺も作ってみた」
びっくりしたわ。でも、もっと怖いのが偶然って所だ。本当に偶然か? その偶然という言葉は、実は必然だったりしない? いやいや、考えすぎか……?
「そうか。一夏も食べる?」
「おう。たべり……ご馳走になるぞ」
おい、今何を言おうとした?
「じゃ、ゆっくりしていってね」
俺は手を振りながら台所に向かう一夏の背中に見送った。
そんな訳で一夏も交えて、四人で晩御飯を食べた。唐揚げはどれも美味しくて俺は選べん。強いて言うなら一夏かな? マジかよ……。一夏と結婚しよ。
食後の休憩としてさっきのゲームを三人がやり始めた。俺は不参加だ。絶対にいじめられるもん。
「おい!」
俺はゲーム画面をぼーっと見ていたら、結構ヤバい事があった。数時間前とは違う別の異常だ。
「何だ?」
勝利した一夏が俺に振り返る。
「お前のハート様がはぁと様になってんだけど!?」
作品越えるなよ!
「かわいいだろ?」
「どっちがかわいいのかわからねぇ……」
俺は頭を抱えた。ツッコミ楽しい。
「そして楯無さん!」
「どうしたの?」
「あなたのアンジェに石油のアルカナがいるんですが!」
カナラズーって鳴ってる! そもそもアンジェがいる時点で、ゲームが違う! PCから出力というか何かしてるの?
「かわいいでしょ?」
はい。
俺は教科書に目を落とした。形だけでも読んでるんだ。出来れば頭に入れたいが。
「しかし、夕が来てから助かったよ」
俺は耳だけを傾ける。
「あんた一人で窮屈だっだもんね」
「本当にな。暴走してハーレム築く所だった」
「一夏君なら、まず嫌がる女の子はいないでしょうね」
「壁ドン」
「なぁ、俺の零落白夜を食らってみないか?」
「私のシールドエネルギーが――――」
「――――そこから先は言うんじゃねぇ!」
俺はベッドから立ち上がって叫んだ。一夏はまだいい。だが、鈴と楯無さんが変な方向に続けた。壁ドンしている時点で近距離すぎる。
「せめて俺がいない場所でやって下さい」
『はーい』
三人が仲良く返事したのを聞いて、俺はどっかり座った。
「一夏君はこの学園で困った事はある?」
「沢山ありますよ。例えば女子のISスーツとか、トイレが遠いとか色々です」
「スーツは水着みたいで露出が高いもんね。男の一夏は目のやり場に困るのもわかるわ」
「緊張を和らげる方法で、皆をかぼちゃにして見るような感じで、夕君の顔で想像したら?」
「逆に興奮しますね」
(きめぇ……)
俺の小さな呟き。お前は一体どんな目で俺を見てんだよ……。
「誰だってそうなる。私も興奮しちゃう」
「夕君可愛いからね」
この人達の話の転がり方がおかしい。
「鈴ぐらい身長が低かったらなぁ」
「私と同じサイズとか超お似合いじゃん」
「おねショタもありね」
やめてくれよ……話を広げるな。
「やめて楯無さん! 僕は……僕は……」
俺じゃなく、一夏のセリフだ。
「げへへへ、逃げ場は無いよ」
「私どんなイメージよ……」
『変態』
一夏と鈴の声が合わさる。俺も同感。
「失礼ね。乙女は好きな人の事は全て知りたいの」
「楯無さんのは異常すぎませんか?」
「そういえば私は、会長の理由をまだ聞いてなかったわね」
「悲しそうな雰囲気というか、陰がある感じがグッとくる?」
「俺の話はやめろ! もっと別の話題で」
「怒られちゃったからまた今度ね」
「楽しみにしてるよ」
俺がいない場所なら構わん。今更だが。
「一夏君はもうこの学園には慣れた?」
「はい。一カ月経てばそこそこ楽になりました」
「それは箒や千冬さんのお陰?」
「そうだな。同居人が気が知れない相手だと、どうしてもキツくなると思う。だから箒と同じ部屋でよかった」
「大変ね。男の子も」
「はい」
『………………』
おい、皆黙るとかもう終わりかよ。
「ISを動かせたなら、もしかして一夏は女の子……?」
鈴が突然アホな事を言い出した。
「あ、そういう事ね」
楯無さんが何かに気付いた。
「俺は男だ! 何かあるのか?」
「弟だと思っていたら、実は妹だったって話は結構聞くわ」
楯無さんが一夏の疑問に答えた。そんなような話を俺も耳にした事がある。
「マジですか」
「うん。この女尊男卑の世界なら有利になれるよ。病院行ってみたら?」
「ちょっと検査してきます!」
「待ちなさい! あんたはもう男なの! だから世間が騒いでる」
「女かも知れないだろ!」
「あんたはどこからどう見ても男よ!」
「今の俺の裸見た事無いだろ!」
「夕君は一夏君の裸は見たの?」
ここで俺かよ。
「じっくりとは見てないですが、プールとかで上半身裸だったから男だと思いますよ」
俺は教科書から目を離さずに答えた。
「ほらね。夕の証言があるよ」
「裏切ったな……!」
どういう事だよ。
「なーに一夏君ぅ。もしかして女の子になりたいの?」
「いえ、たまにそうだったら悩まなくて済むなー……と」
「一夏は浮きまくりよね……」
「夕が来たから少しは分散したと思う」
「夕は一夏よりは馴染んでる方よ? 女の子の話題に入れるし」
クラスメイトと会話した事あまりないがな。
「そうなのか。だったら俺も勉強しないと。これでいいかしら?」
「口調を真似てもイケメン具合は隠せないよ?」
「お姉さんが一夏君の女装を手伝ってあげようか? ウィッグを付ければ織斑先生みたいになるかも」
「本当ですか!? 俺も千冬姉みたいになれるんですか!?」
「顔は千冬さんとそこそこ似てるから、スーツ姿でビシッとやればきっと」
「いやいや、一夏が女装とか今より更に浮くだろ……」
教科書を見ながら、黙っていた俺が割り込んだ。
「千冬姉になれるとかご褒美じゃん!」
どういう意味だ。
「一夏君は織斑先生が大好きなんだね」
「はい! 大好きです!」
「そっか。織斑先生が羨ましいな。私にも妹がいるんだけどね。嫌われてて」
妹さんいるんだ。
「へー、会長に妹……想像出来ないわね……」
「意外?」
「意外というより、会長の妹はどんな妹なのかって事」
「もう、目に入れても痛くないレベルで、かわいくてかわいくて……」
それは子や孫に対して使われる言葉じゃ……。
「へぇ。妹の好きな物は?」
楯無さんの妹自慢の流れをカットし、鈴は狙いをズラした。
「アニメが好きと把握しているわ。熱くてかっこいいヒーロー物や、バトル物が特に大好き。もしかしたら、特撮とかも見てるんじゃないかしら?」
「よし! 夕! ヒーロー物のコスプレ出来るやつないか!?」
いきなり何だよ。
「ある訳ないだろ。俺に聞くな」
「お前の会社は?」
「IS専門だから置いてないよ」
「そうか。こうなったら自作するか」
「デリケートな話なんだし、家庭の事情に首突っ込むのはよくないわよ?」
「いや! 同じ姉を持つ者としてほっとける訳ないだろ! 姉がいる事の魅力を伝えるんだ!」
「でもあの子、私に対しての嗅覚が鋭いからバレるかも。姉から差し向けられたって」
「大丈夫ですよ! 俺が何とかします!」
一夏はやる気満々だなぁ。しかも楯無さんは満更でもないご様子。
「あ、妹さんにガンダム布教してくる!」
「おいバカやめろ! もしかしたら俺のISヤバいじゃん!」
俺は一夏を見た。こいつ何かやる気だ。
「大丈夫だ! バンシィは基本悪役側だし、UC以外でも何とかなる! いや、先にUCを見せてから、似てると言われる俺の声を利用して……」
こいつまさか。
「そんな想いを抱いても、君の心は救われない! 憎しみや悲しみだけが君に存在するなんて、そんな事あっちゃいけないんだ……! こんなの寂しすぎるだろ……! だから、俺と一緒に来てくれ! 俺は君の役に立ちたいんだ!」
一夏の奴、やりやがったな。そして演技凄いな。うん、凄い。
「……どうだ?」
「言葉選びや結果はともかく、お前のやり方汚すぎるわ……」
ここまで最低な手段を、俺は今まで生きてきた中で見た事ない。似てるから思わず、俺はグッときてしまう。俺なら落ちる。だから超腹立つ。悲しいね……。後、バンシィを地味にディスるな。
「よくわかんないけど、胸に染みるね」
「一夏君が何か凄い……」
「やめろォ! リップサービスは必要無い! 一夏が調子に乗るから!」
「冗談だって。でもなんとかしたいのは本当だ」
まぁ、その部分が嘘じゃないのはわかるが。
「気持ちだけ受け取っておくね。たまたま会ってしまったら、そこは一夏君に任せるけど……くれぐれも私の事は全部秘密ね」
それ楯無さんの許可があるようなもんじゃん。
「はい!」
いい笑顔にいい返事だ。
「さ、今日はこれぐらいにしてお開きにしましょう」
楯無さんの一言で、一夏と鈴は自分の部屋に帰っていった。
俺と楯無さんは食器を一緒に片付ける。一夏と鈴の皿はこちらで洗う事となった。楯無さんがお礼としてだって。
「ここまで楽しめたのは久しぶりかな」
ベッドに座る楯無さんが、俺に微笑みながら呟いた。
「それはよかったです。生徒会長は大変そうです」
俺は楯無さんと向かい合って会話している。
「そうなのよ。夕君にも手伝ってほしいな」
甘い雰囲気でおねだりされる。
「俺はまだ無理です。余裕無いですから。もう少し後なら考えますが」
「うん。いつでも待ってるね」
入るとは言ってない。
「はい」
楯無さんと俺は、お風呂を交代で入った。先に入れと言われたが、楯無さんは上級者レベルの事をやりそうだから、遠慮しますと言った俺。正直怖いもん。
風呂から上がった俺は、ベッドに腰掛けた。コーヒー牛乳の代用として、マッカンを買いに行きたかったが、俺の隣にいるパジャマ姿の楯無さんに止められた。何ですか。
「ねぇ、夕君」
「はい」
「夕君はこの学園に来てよかったと思う?」
「半々……ですかね。一夏と箒と鈴と千冬さん。四人に会えたし、バンシィもいる。ただ色々と勉強のレベルが違うんで、そこがなぁ……と」
覚える事と女の子だらけの環境。たったそれだけで相殺されてしまう。
「そっか。私は楽しいよ。好きな人に会えたし、あまり皆でワイワイ騒ぐ事が無かったからね」
言葉とは裏腹に、俯いて少しだけ暗くなった。
「人の上に立つ者として、人の期待を受ける者として、たまに辛い事もあるんだ」
「それはそうでしょうね。機械ではなく人間ですから」
この人は自分で周囲を引っ張っていく人だ。皆に支えられてやっていく人じゃない。ほんの少しだけの時間だけど、振る舞いでちょっとわかってしまう。まぁ、間違っているかも知れないけど。
「だから君にだけ私の弱味を見せたい。きっと受け止めてくれるから」
あれ? 俺の事受け止めたいとか言ってなかった?
「やめて下さいよ。泣き落としみたいじゃないですか」
「そうかな」
俺の肩に楯無さんが寄りかかる。
「そうですよ」
「そうかな」
「そうですよ」
この人、このままいいムードにしようとしてない? 何という策士。唇ガードしなきゃ。
「うん。今日はこのぐらいにしておくね」
そう言って彼女は俺から離れた。こっわ。
一旦離れた後、ちょっとしてから楯無さんに勉強を教えてもらった。天才すげー。わかりやすい。