IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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十九話

 眠りから覚めて起き上がり、何気なく外を見たら月明かりが部屋を明るくしている。夜になったみたいだ。部屋の電気は点いておらず、二人もいない。どこに行ったのだろうか? 気にしなくていいか。さっきの仕打ちは、心と記憶が忘れてない。

 ベッドから抜け出し伸びをする。時計は暗くて見にくいが多分十九時ぐらいか。食堂に行こうか。

 俺は部屋を出てから廊下を歩いて、食堂へ向かった。

 

 

 食堂に着いたのはいいんだが、見渡すと席が空いてない。これは時間帯が悪かった。もう少し後かな。

 引き返していつもの場所で時間を潰そう。

 

 

 自販機の間に挟まっていると、女子生徒が何人も通っていく。

 

「こんばんは!」

 

「っ!? こんばんは……」

 声を大にして挨拶。女子生徒達は若干引き気味に通り過ぎていった。これは驚かすのが楽しい訳じゃない。俺がいる場所が悪いだけだ。こんなアホみたいな所に普通いると思わないだろう。

 

 ポケットに入れていた携帯のディスプレイをチラリと覗くと、二十分経っていた。意外と時間潰せたなぁ。

 どうせまだ時間が掛かりそうだし、部屋に戻るか。俺は何しに来たんだろうな。

 

 

 部屋に戻るとエプロン姿で楯無さんと鈴がいた。

 

「あ、夕君。どこに行ったか心配したよ」

 

「食堂行ったんですが、席が埋まっていたので自販機に挟まってました」

 改めて言葉にしてみると頭おかしいわ。奇人変人レベル……の片足突っ込んでるぐらいか?

 

「そっか。鈴ちゃんの部屋で一緒に唐揚げを揚げてたの。色々と味付けを考えながらね」

 

「そッスか」

 仲良くなってんじゃん。

 

「少ししたら出来るから待っててね」

 

「はい」

 俺はベッドで教科書を再読した。

 

 

「よう! おかず持ってきたぞ!」

 エプロンした一夏が登場。手に持つ器を見ると、ラップがしてある。そして唐揚げだった。どっから嗅ぎ付けてきたし。

 

「いらっしゃい。そしてありがとう。で、どこで唐揚げだと知った?」

 

「匂いで」

 お前ストーカーかよォ! 楯無さんよりちょっと危ない。

 

「冗談冗談。さっき鈴とかい……楯無さんに偶然会って、これから夕に作るって言ってたから俺も作ってみた」

 びっくりしたわ。でも、もっと怖いのが偶然って所だ。本当に偶然か? その偶然という言葉は、実は必然だったりしない? いやいや、考えすぎか……?

 

「そうか。一夏も食べる?」

 

「おう。たべり……ご馳走になるぞ」

 おい、今何を言おうとした?

 

「じゃ、ゆっくりしていってね」

 俺は手を振りながら台所に向かう一夏の背中に見送った。

 

 

 そんな訳で一夏も交えて、四人で晩御飯を食べた。唐揚げはどれも美味しくて俺は選べん。強いて言うなら一夏かな? マジかよ……。一夏と結婚しよ。

 

 

 食後の休憩としてさっきのゲームを三人がやり始めた。俺は不参加だ。絶対にいじめられるもん。

 

「おい!」

 俺はゲーム画面をぼーっと見ていたら、結構ヤバい事があった。数時間前とは違う別の異常だ。

 

「何だ?」

 勝利した一夏が俺に振り返る。

 

「お前のハート様がはぁと様になってんだけど!?」

 作品越えるなよ!

 

「かわいいだろ?」

 

「どっちがかわいいのかわからねぇ……」

 俺は頭を抱えた。ツッコミ楽しい。

 

「そして楯無さん!」

 

「どうしたの?」

 

「あなたのアンジェに石油のアルカナがいるんですが!」

 カナラズーって鳴ってる! そもそもアンジェがいる時点で、ゲームが違う! PCから出力というか何かしてるの?

 

「かわいいでしょ?」

 はい。

 

 

 俺は教科書に目を落とした。形だけでも読んでるんだ。出来れば頭に入れたいが。

 

「しかし、夕が来てから助かったよ」

 俺は耳だけを傾ける。

 

「あんた一人で窮屈だっだもんね」

 

「本当にな。暴走してハーレム築く所だった」

 

「一夏君なら、まず嫌がる女の子はいないでしょうね」

 

「壁ドン」

 

「なぁ、俺の零落白夜を食らってみないか?」

 

「私のシールドエネルギーが――――」

 

「――――そこから先は言うんじゃねぇ!」

 俺はベッドから立ち上がって叫んだ。一夏はまだいい。だが、鈴と楯無さんが変な方向に続けた。壁ドンしている時点で近距離すぎる。

 

「せめて俺がいない場所でやって下さい」

 

『はーい』

 三人が仲良く返事したのを聞いて、俺はどっかり座った。

 

「一夏君はこの学園で困った事はある?」

 

「沢山ありますよ。例えば女子のISスーツとか、トイレが遠いとか色々です」

 

「スーツは水着みたいで露出が高いもんね。男の一夏は目のやり場に困るのもわかるわ」

 

「緊張を和らげる方法で、皆をかぼちゃにして見るような感じで、夕君の顔で想像したら?」

 

「逆に興奮しますね」

 

(きめぇ……)

 俺の小さな呟き。お前は一体どんな目で俺を見てんだよ……。

 

「誰だってそうなる。私も興奮しちゃう」

 

「夕君可愛いからね」

 この人達の話の転がり方がおかしい。

 

「鈴ぐらい身長が低かったらなぁ」

 

「私と同じサイズとか超お似合いじゃん」

 

「おねショタもありね」

 やめてくれよ……話を広げるな。

 

「やめて楯無さん! 僕は……僕は……」

 俺じゃなく、一夏のセリフだ。

 

「げへへへ、逃げ場は無いよ」

 

「私どんなイメージよ……」

 

『変態』

 一夏と鈴の声が合わさる。俺も同感。

 

「失礼ね。乙女は好きな人の事は全て知りたいの」

 

「楯無さんのは異常すぎませんか?」

 

「そういえば私は、会長の理由をまだ聞いてなかったわね」

 

「悲しそうな雰囲気というか、陰がある感じがグッとくる?」

 

「俺の話はやめろ! もっと別の話題で」

 

「怒られちゃったからまた今度ね」

 

「楽しみにしてるよ」

 俺がいない場所なら構わん。今更だが。

 

「一夏君はもうこの学園には慣れた?」

 

「はい。一カ月経てばそこそこ楽になりました」

 

「それは箒や千冬さんのお陰?」

 

「そうだな。同居人が気が知れない相手だと、どうしてもキツくなると思う。だから箒と同じ部屋でよかった」

 

「大変ね。男の子も」

 

「はい」

 

『………………』

 おい、皆黙るとかもう終わりかよ。

 

「ISを動かせたなら、もしかして一夏は女の子……?」

 鈴が突然アホな事を言い出した。

 

「あ、そういう事ね」

 楯無さんが何かに気付いた。

 

「俺は男だ! 何かあるのか?」

 

「弟だと思っていたら、実は妹だったって話は結構聞くわ」

 楯無さんが一夏の疑問に答えた。そんなような話を俺も耳にした事がある。

 

「マジですか」

 

「うん。この女尊男卑の世界なら有利になれるよ。病院行ってみたら?」

 

「ちょっと検査してきます!」

 

「待ちなさい! あんたはもう男なの! だから世間が騒いでる」

 

「女かも知れないだろ!」

 

「あんたはどこからどう見ても男よ!」

 

「今の俺の裸見た事無いだろ!」

 

「夕君は一夏君の裸は見たの?」

 ここで俺かよ。

 

「じっくりとは見てないですが、プールとかで上半身裸だったから男だと思いますよ」

 俺は教科書から目を離さずに答えた。

 

「ほらね。夕の証言があるよ」

 

「裏切ったな……!」

 どういう事だよ。

 

「なーに一夏君ぅ。もしかして女の子になりたいの?」

 

「いえ、たまにそうだったら悩まなくて済むなー……と」

 

「一夏は浮きまくりよね……」

 

「夕が来たから少しは分散したと思う」

 

「夕は一夏よりは馴染んでる方よ? 女の子の話題に入れるし」

 クラスメイトと会話した事あまりないがな。

 

「そうなのか。だったら俺も勉強しないと。これでいいかしら?」

 

「口調を真似てもイケメン具合は隠せないよ?」

 

「お姉さんが一夏君の女装を手伝ってあげようか? ウィッグを付ければ織斑先生みたいになるかも」

 

「本当ですか!? 俺も千冬姉みたいになれるんですか!?」

 

「顔は千冬さんとそこそこ似てるから、スーツ姿でビシッとやればきっと」

 

「いやいや、一夏が女装とか今より更に浮くだろ……」

 教科書を見ながら、黙っていた俺が割り込んだ。

 

「千冬姉になれるとかご褒美じゃん!」

 どういう意味だ。

 

「一夏君は織斑先生が大好きなんだね」

 

「はい! 大好きです!」

 

「そっか。織斑先生が羨ましいな。私にも妹がいるんだけどね。嫌われてて」

 妹さんいるんだ。

 

「へー、会長に妹……想像出来ないわね……」

 

「意外?」

 

「意外というより、会長の妹はどんな妹なのかって事」

 

「もう、目に入れても痛くないレベルで、かわいくてかわいくて……」

 それは子や孫に対して使われる言葉じゃ……。

 

「へぇ。妹の好きな物は?」

 楯無さんの妹自慢の流れをカットし、鈴は狙いをズラした。

 

「アニメが好きと把握しているわ。熱くてかっこいいヒーロー物や、バトル物が特に大好き。もしかしたら、特撮とかも見てるんじゃないかしら?」

 

「よし! 夕! ヒーロー物のコスプレ出来るやつないか!?」

 いきなり何だよ。

 

「ある訳ないだろ。俺に聞くな」

 

「お前の会社は?」

 

「IS専門だから置いてないよ」

 

「そうか。こうなったら自作するか」

 

「デリケートな話なんだし、家庭の事情に首突っ込むのはよくないわよ?」

 

「いや! 同じ姉を持つ者としてほっとける訳ないだろ! 姉がいる事の魅力を伝えるんだ!」

 

「でもあの子、私に対しての嗅覚が鋭いからバレるかも。姉から差し向けられたって」

 

「大丈夫ですよ! 俺が何とかします!」

 一夏はやる気満々だなぁ。しかも楯無さんは満更でもないご様子。

 

「あ、妹さんにガンダム布教してくる!」

 

「おいバカやめろ! もしかしたら俺のISヤバいじゃん!」

 俺は一夏を見た。こいつ何かやる気だ。

 

「大丈夫だ! バンシィは基本悪役側だし、UC以外でも何とかなる! いや、先にUCを見せてから、似てると言われる俺の声を利用して……」

 こいつまさか。

 

「そんな想いを抱いても、君の心は救われない! 憎しみや悲しみだけが君に存在するなんて、そんな事あっちゃいけないんだ……! こんなの寂しすぎるだろ……! だから、俺と一緒に来てくれ! 俺は君の役に立ちたいんだ!」

 一夏の奴、やりやがったな。そして演技凄いな。うん、凄い。

 

「……どうだ?」

 

「言葉選びや結果はともかく、お前のやり方汚すぎるわ……」

 ここまで最低な手段を、俺は今まで生きてきた中で見た事ない。似てるから思わず、俺はグッときてしまう。俺なら落ちる。だから超腹立つ。悲しいね……。後、バンシィを地味にディスるな。

 

「よくわかんないけど、胸に染みるね」

 

「一夏君が何か凄い……」

 

「やめろォ! リップサービスは必要無い! 一夏が調子に乗るから!」

 

「冗談だって。でもなんとかしたいのは本当だ」

 まぁ、その部分が嘘じゃないのはわかるが。

 

「気持ちだけ受け取っておくね。たまたま会ってしまったら、そこは一夏君に任せるけど……くれぐれも私の事は全部秘密ね」

 それ楯無さんの許可があるようなもんじゃん。

 

「はい!」

 いい笑顔にいい返事だ。

 

「さ、今日はこれぐらいにしてお開きにしましょう」

 楯無さんの一言で、一夏と鈴は自分の部屋に帰っていった。

 俺と楯無さんは食器を一緒に片付ける。一夏と鈴の皿はこちらで洗う事となった。楯無さんがお礼としてだって。

 

 

「ここまで楽しめたのは久しぶりかな」

 ベッドに座る楯無さんが、俺に微笑みながら呟いた。

 

「それはよかったです。生徒会長は大変そうです」

 俺は楯無さんと向かい合って会話している。

 

「そうなのよ。夕君にも手伝ってほしいな」

 甘い雰囲気でおねだりされる。

 

「俺はまだ無理です。余裕無いですから。もう少し後なら考えますが」

 

「うん。いつでも待ってるね」

 入るとは言ってない。

 

「はい」

 

 

 楯無さんと俺は、お風呂を交代で入った。先に入れと言われたが、楯無さんは上級者レベルの事をやりそうだから、遠慮しますと言った俺。正直怖いもん。

 風呂から上がった俺は、ベッドに腰掛けた。コーヒー牛乳の代用として、マッカンを買いに行きたかったが、俺の隣にいるパジャマ姿の楯無さんに止められた。何ですか。

 

「ねぇ、夕君」

 

「はい」

 

「夕君はこの学園に来てよかったと思う?」

 

「半々……ですかね。一夏と箒と鈴と千冬さん。四人に会えたし、バンシィもいる。ただ色々と勉強のレベルが違うんで、そこがなぁ……と」

 覚える事と女の子だらけの環境。たったそれだけで相殺されてしまう。

 

「そっか。私は楽しいよ。好きな人に会えたし、あまり皆でワイワイ騒ぐ事が無かったからね」

 言葉とは裏腹に、俯いて少しだけ暗くなった。

 

「人の上に立つ者として、人の期待を受ける者として、たまに辛い事もあるんだ」

 

「それはそうでしょうね。機械ではなく人間ですから」

 この人は自分で周囲を引っ張っていく人だ。皆に支えられてやっていく人じゃない。ほんの少しだけの時間だけど、振る舞いでちょっとわかってしまう。まぁ、間違っているかも知れないけど。

 

「だから君にだけ私の弱味を見せたい。きっと受け止めてくれるから」

 あれ? 俺の事受け止めたいとか言ってなかった?

 

「やめて下さいよ。泣き落としみたいじゃないですか」

 

「そうかな」

 俺の肩に楯無さんが寄りかかる。

 

「そうですよ」

 

「そうかな」

 

「そうですよ」

 この人、このままいいムードにしようとしてない? 何という策士。唇ガードしなきゃ。

 

「うん。今日はこのぐらいにしておくね」

 そう言って彼女は俺から離れた。こっわ。

 

 一旦離れた後、ちょっとしてから楯無さんに勉強を教えてもらった。天才すげー。わかりやすい。

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