今日は気持ちのいい朝を迎えた。別に何かあった訳じゃない……と思う。いや、何もしてないな。うん。楯無さんは隣のベッドにいるし。
色々と支度して今日の授業に備える。本当に勉強を覚えるのが大変だ。タスケテー。
今日も一日が終わった。どんな苦労があろうとも、過去になれば何て事はない。もう少しやってもええんやで? これは終了したから言える言葉だ。実際にやる事になったら死ぬ。
「ありがとう、鈴。色々教えてくれて」
「どういたしまして。少しでも助けになれたのならよかった」
俺の隣で食事をする鈴に、今日のお礼を告げる。本当に助かったからな。
今、俺達は食堂で晩御飯を食べていた。楯無さんと一夏と箒とセシリアさん達も一緒だ。
「お姉さんに感謝の言葉は?」
鈴の反対に座る楯無さんが催促してきた。
ちなみに一夏達は近くの別の席だ。
「昨日言いましたよね? ありがとうございますって」
「まだ足りないぃぃぃ」
「会長は強欲ですね。少しは謙虚さを持ったらどうなの?」
「ガンガンいこうぜ! という命令なの。私のゴーストがそう囁くの」
「この中にゴーストバスターズはいらっしゃいませんか!?」
勢いよく立ち上がった鈴が、食堂内で叫んだ。凄い度胸だな。転校初日の時の俺が言えないか。
「幽霊は錬鉄か塩に弱いが、退治までは出来ない。物に霊が宿るならそれを焼く。遺体があるならそれを焼く」
一夏がぶつぶつと呟く。お前食事中に遺体とか言うな。俺は問題ないが他の人達に迷惑だろ。
そういえば、最近EMFを封印してたなと思い出した。まぁ、使うタイミングが無いからしゃーないね。
「この塩胡椒はどう!?」
鈴が調味料の容器を掲げた。塩だって言っとるがな。胡椒は対人兵器としては有効でも、霊に対して意味無いだろ。
「IS用の塩の弾丸作らないと」
箒がテーブルに塩を撒いてから集め始めた。動作不良とか起こしそう。
皆の奇行にセシリアさんが困惑している。俺は黙々と食事を進めた。
「もし私が幽霊なら、夕君に取り憑いて身も心も一つになりたい」
あ、そうですか。変態嗜好だなぁ。
食事を済ませて皆解散と、俺は思っていたが違うらしい。
鈴が俺達の部屋にいるんだ。ま、それぐらいは大丈夫か。
「夕は知りたい事ある?」
テーブルに座って教科書を開いてる俺に、俺のベッドでごろごろとくつろいでいる鈴に問われた。マーキングかな? かわいい。
「いや、特には」
「そう……」
残念そうな声を出しやがって。
「わかったわかった。じゃあ、鈴はクラス代表なんだよね?」
「うん」
「同じクラス代表の一夏と戦ったら勝てる?」
「んー……勝ててもギリギリかな。一夏は伸びしろがある部分は怖いけど、インファイターだからまだ対策はしやすい方ね。私も近距離気味なんだけど」
「なるほど」
ま、近付かせないように、立ち回ればいいだけの話だな。簡単に出来たら苦労しないけどさ。
「うん。所で夕って、ビットはまだ一回も使ってないよね?」
「うん。触りたいけど基本動作をまずね」
バンシィを自由に扱えた暁には、操ってみたい。オーライッ!
「へぇ。お利口さん」
「まぁな」
頭使うらしいから、使用したら絶対ダウンする。だからマッカンを沢山用意しとかないと。糖分の重要性!
「それならタッグだったら、夕は誰とでも相性よさそうね」
「味方にシールド張って援護したり、俺が一緒に突っ込んでよしだからな。基本装備で遠中近に対応出来るぞ」
終わらないディフェンスが出来ちゃう。が、相当の腕前がないと無理だから、大分先になりそう。
「そっかぁ。あーあ……クラス対抗戦で一緒に出られたらなぁ」
「それっていつだっけ?」
「もうそろそろ」
「あっ……無理だわ。絶対間に合わん」
誰かの足を引っ張るのは嫌だ。そもそも出れないけどさ。
「別に気にしなくていいのに」
「嫌だよ」
「何の話?」
俺と鈴の会話中に風呂から出てきて、タオルを巻いた楯無さんが混ざってきた。頬がほんのり赤い。水色のパジャマかわいい。
「クラス対抗戦で、夕と一緒にタッグで戦えたらって話してたのよ」
「あー、そうねぇ。私はそもそもの学年が違うから、一緒に組む事自体不可能なんだよね。可能性がある鈴ちゃんが羨ましい」
俺の隣に座って、楯無さんは溜め息を吐いた。
「私もよ。組むとしたら授業か自主練ぐらいだし」
『はぁ……』
やっぱりこの二人仲良くなったねぇ。ま、いがみ合うより一番だ。俺が大変だけど。
「夕君は組むとしたら、誰と組みたい?」
これは危険が危ない話題だけど、もう最初から決まっている。
「一夏ですかね。同じ動きが出来そうですし、一夏の援護に徹するのがやりやすそうです」
俺は固定砲台でよさそう。回避行動のために多少は動くけど。
「芋砂」
楯無さんが小声で呟く。しっつれいな。遮蔽物が無くて体晒しておきながら、じっと狙い続けるのは無理だわ。セシリアさんなら出来そう。
「そうだ! じゃあ、私と会長だったらどっちがいい!?」
嫌ぁ……一番デリケートな質問ぅ。
「ふむ……」
俺は腕を組みながら視線を天井にやった。
「鈴と楯無さんのどちらだろうと、俺のやる事はそんな変わらんぞ?」
視線を戻す。
「ISの部分は排除して、個人としてよ? つまり! 会長と私を選べって話!」
逃げ道を塞がれた。というか、IS抜きとか何だよ……。
「……鈴かな」
「よっしゃー!」
「知ってた」
鈴は喜び、楯無さんは残念がってない。鈴を選ぶのは当たり前じゃない? 今の時点なら。
「あ、気付いたんだけど、私達三人と一夏君達三人で組んで戦えば、夕君と組めるよ? アリーナ借りた時の話だけど」
楯無さんは名案が浮かんだと思っているらしいが、俺は全く思わない。俺だけレベル低いじゃん……。BFよりCODじゃん……。暴言吐かれちゃう。
「それいいね。私と会長が夕に付きっ切りで教えれば、実現しそうな話だし」
現実にならなくていい。
「うん。じゃあ、二人で今から知識だけを叩き込もう!」
「了解しました、会長!」
楯無さんの言葉に、鈴が同意。
俺はこの部屋から脱出しようとしたが、座ったままの楯無さんに腰に抱きつかれてしまった。
そして床にビタンと倒れた俺の背中に鈴が乗る。俺は乗り物勢じゃない!
「助けて一夏……バンシィ……」
俺の声は一夏に届かず、バンシィは楽しそうに俺の頭上をくるくる回っていた。
あー、マッカン最高やわー。
俺はいつもの場所にいた。二人が左右の耳に呪詛を唱えたから、しばらくしてギブし、ここに避難している。糖分糖分。
「あれ? 夕じゃないか。何やってるんだ? そんな狭い所で」
「この声は!? 一夏か!?」
ジャージ姿の一夏が飲み物を買いに来たらしい。
「いちかぁ……」
自販機の間から抜け出し、俺は膝立ちで一夏の腰辺りに巻き付いた。風呂上がりか。俺、変態じゃねぇか! いや、匂いが漂うから仕方が無い。好んで嗅ごうとは思わん。
「鈴と楯無さんが俺をいぢめるぅ……」
「ど、どうした!? 俺に詳細を言ってみろ!」
これが救世主か! 一夏教に入信します!
「二人が左右の耳元で、同時にIS用語を囁くんだ。しかもバラバラ」
せめて同じ単語をお願い。俺は聖徳太子じゃなくて、まだ普通の人なんだ。
「なるほど。頑張れよ。応援してる」
「はい」
俺が一夏から離れたら、自販機で飲み物を購入して去っていく一夏。俺は一夏の後ろ姿を見続けた。さようなら。もう明日の俺は違う人になっているでしょう。
マッカンをゆっくり飲み終えたら、廊下で会う女子生徒に挨拶しながら、自室に帰って参りました。あれ? 鈴がいない。
「楯無さん。鈴ちゃんは?」
俺のベッドに寝転がる楯無さんに尋ねた。これはもうマーキング確定か。
「入浴中」
「風呂? え? ここで?」
「うん。そうだよ」
「そうですか」
どこで入ってんだよ。自分の部屋があるじゃん。それか大浴場? それと便座カバー。
ま、どこで入ろうが俺には関係無いね。
「ちょっと出掛けてきます」
俺はくるりと半回転して、部屋のドアへ向かう。
「織斑先生の許可あるよ? 今日から一緒に住むの」
「マジっっっすか!? 許可とか住むとかいつの間に……」
今から行く場所バレてる。なんなのなの……? 鈴も何故……?
「ま、君の特権ね。専用機持ちが夕君の背後にいれば、護衛になるし。自殺されても困るから」
背後ってそれヒットマンや。グサーかターンかぁ。せめて苦しまないようにお願いします。
「基本鈴ちゃんは朝から夕方まで、そして私が夜って事」
「一応理に適っている……のか? 」
「ま、四六時中警護しておいて損は無いの。何かあってからではもう手遅れ。死亡しなくてもね」
物騒だなぁ、オイオイヨ。お、俺に手を出したら世界が黙ってないぞ! ええんか!?
「なるほど。わかりました」
「あら、意外とお早い納得ね。渋らないの?」
「だって! お泊まり会みたいで楽しそうじゃないですか! おほー! あ、皆呼びたいな。無理だけど」
この部屋に全員で寝るのは不可能。いる事は可能なんだが。一夏と箒とセシリアさん、またね。
「そっか。嫌がらなくてよかった」
ホッとした表情と声色だ。
しかし、IS学園に来て、まだ一週間も経ってないんだよなぁ。どれだけ俺の非日常は濃いのか。世界はスロウリィだぜ。
「ふぅ……気持ちよかった」
いつものツインテじゃなく、ストレートの髪型をした鈴が、脱衣所から出てきた。
「鈴ちゃーん!」
「な、何!?」
俺は湯上がりで、ジャージ姿の鈴を持ち上げ、高い高いした。
「ちょちょちょ!? え!? 夕!?」
奇襲された事を理解出来ない鈴は慌てた。
「今日からよろしくぅ!」
「え? あ、うん」
だらんと力を抜いた鈴が、俺を見下ろして頷いた。かわいい。抱きしめたいな。ガンダムッ! エクシアってセクシー。
「はい」
鈴を下ろして俺は風呂に向かう。
「さらばだ。俺も入ってきますねー」
脱衣所の扉を開いて、二人のお別れの挨拶をしてから踏み込んだ。
テンション上がる!
俺は悩んだ。脱いだ服をどっちのかごに入れればいいのかと。二つのかごに空きがないのだ。くそったれ! もう皆混ぜれば解決だ!
俺は空の洗濯機に服を投げ込む。あ、でもパンツがよくないよね。先ほど放った自分の服を回収して綺麗に畳んで床に置いた。明日新しいかごを用意しよう。
風呂から上がり、脱衣所の鏡を覗く。イケメンがいる……いや、可愛い顔がある。この入浴後の疑似フォトショマジック凄い。
脱衣所から出て俺は冷蔵庫の中を拝見。マッカンが無い……。いや、買って置いてないだけだ。
「ねぇ。前から気になって凄く今更なんだけど、夕って髪を伸ばしてる理由って何?」
「俺は長い物が好きなんだ。コートとかマフラーとかひらひらしたやつ」
冷蔵庫を閉めてから、横に立つ楯無さんと鈴に向き直る。楯無さんも一緒にいたのか。
俺の好みに鈴はガッツポーズ。楯無さんはうなだれた。
「そっかそっか。夕は長いのが好きなんだ」
頷きながら満面な笑みを浮かべて、鈴は台所を出ていった。
俺は立ち尽くす楯無さんの横を通り過ぎる。
(好きになる人って、好みと違ったりしますよ)
楯無さんに魔法の言葉を耳打ちしてから、俺は台所から移動してテーブルに座った。
「そういえば寝る場所どうします?」
重要な事が頭から抜け落ちていた。仕方無いでしょ。鈴が寝泊まりするなんて、俺は知らされてなかったんだから。
『え?』
俺のベッドに寝転がる鈴と、自分のベッドに移動して座った楯無さんが同時に反応した。ファイッ! カーン!
「ここはお姉さんに任せなさい。必ず夕君を守ってみせるわ。夕君のご両親に依頼されたんだから」
「いやいや、ここは私の出番ね。気心が知れた者が傍にいるべき。私だって何回も夕の両親に会ってるし」
二人が睨み合い、それぞれの主張をぶつけている。
「あなたに夕君が守れるの?」
「守るって……見知らぬ人が隣に寝て、夕が落ち着いて気が休まるとでも?」
「私は初日から一緒に寝てるよ?」
「どうせ勝手に潜り込んだんでしょ? 夕の意志は無いわ」
「拒まなかったよ?」
「寝てるからでしょ」
二人は争っている。俺はもう寝る場所は決定済み。前から試してみたかったんだ。
「文句言われなかったよ?」
「夕の性格知ってるでしょ?」
これは楯無さんが不利かな。
「ぐぐぐ……」
楯無さんが悔しそうに鈴を見つめた。
「まだまだだね。そんなんじゃ甘いよ」
ドヤ顔。
「俺はクローゼットで寝るんで」
『は?』
俺の発言に首をこちらに向ける二人。俺がわざわざ一緒に寝るとでも? まぁ、鈴なら抱き枕にちょうどよさそうだ。あっ……誘惑に負けそう。
「広さは十分だし、畳んであるダンボール床に敷いて、その上に持ってきた布団一式を使うから、二人は俺のベッドで寝てていいですよ」
「今までの会長と私との競争は何だったの!?」
「俺は一言も一緒に寝ると言ってない」
二人には残念だが、またの機会に。もう少ししたらね。嘘です。そんな日は来ない。
「鈴ちゃん……一緒に寝ましょ?」
「……うん」
二人が俺の布団に入り込み、体を寄せ合って横になった。間に挟まれたい。温かそうだから。やらんけど。バンシィと一緒だから大丈夫。
しかし二人共今から寝るのか。まぁ、早寝は得らしいよ。