IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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二十二話

 あれから日数が経過した。勉強はほぼ追い付いたし、ここでの生活も慣れてきた。

 ISの動作も結構問題無い。武器はまだサーベルしか使ってない。凡人だもん。これぐらい普通だと思う。でも不安になってきた……。

 

 そして今日はクラスリーグマッチ当日。何故かお偉いさんっぽい人達が集まり、アリーナの観客席がぎっちぎち。トッポのチョコが溢れているレベルだ。全部くっついちゃうからやめて。ポッキーが溶けて一本掴んだら、全部付いてきちゃうのはやめて。冷やそう。しかし何でお偉いさんがいるん? 今日は学生だけじゃ?

 

 俺の現在地はピットで、鈴ちゃんが出撃準備をしている場所だ。何故か俺がそわそわしちゃう。

 

「夕! 私は一夏に勝ってみせるよ!」

 

「あ、うん」

 ISスーツ姿の鈴ちゃんが、片腕を天に掲げて宣言する。かわいい。

 

「何よ、その気の無い返事は」

 ぷくー、とマンボウみたいに膨れっ面をしている。フグか。

 

「いや、鈴ちゃんなら余裕っしょ? 一夏をボッコボコにして、地面に跪かせて女王様って言わせてやるんしょ?」

 

「そ、そこまでは……」

 両手を突き出して振りながら慌てている。かわいい。

 

「ま、勝っても負けてもデートしようか」

 

「ホント!?」

 前のめりなって、鈴ちゃんは俺に近付く。楯無さんは次回に。

 

「ウン。ウソジャナイヨ」

 

「片言で怪しくなってるじゃない!」

 

「本当にやるから安心して」

 

「じゃあ、約束」

 片手を前に出して、指切りを迫る。

 

「はい」

 俺も小指を出して鈴と指切りをした。きゃっ。

 

「二人共仲良いね。最近べったりしてるから、もしかして付き合ってる?」

 鈴のISを整備する人に、整備しながら背を向けられて声を掛けられた。

 

「まだだね。だから私はアタック中よ」

 鈴がその人に向き直り、返事をした。

 

「俺はディフェンス中」

 俺も鈴と同様に首を向けた。

 

「へぇ」

 恋のお話なんだから食い付かないの? 整備が私の恋人です? 集中してるんです?

 

「こいつ鉄壁でね。なかなか苦労してんのよ……」

 

「へぇ」

 もう興味無さそう。他に整備する人が数人いるけど、皆黙ってISを調整中。雰囲気が話掛けんじゃねぇよっ! となっていた。

 

「……うん。この話題はまた今度ね」

 鈴が話を切り上げモニターを見る。俺も一緒に見た。

 

「頑張ってくれ。悔いの無いようにな」

 鈴の頭をポンポン撫でる。かわいい。

 

「うん!」

 

「元気のいい返事だぁ!」

 

 

 

 

 そして一夏対鈴の試合が始まった。

 異次元過ぎて全く参考にならんだろうな。しゅんごーい。まだ見てないけど。

 

 試合開始時の二人は中距離で相対していた。

 

 最初は鈴が高速で後退して、見えない何かを一夏に向けて撃つ。

 

 一夏は鈴の射撃を見事に回避して、上下左右に機体を操り高速で詰め寄る。

 

 鈴も引き撃ちしていくが、射撃のラグがあり、射撃戦を止めた。

 

 そして一夏と鈴は接近戦に突入。

 

 一夏は一本のブレード。鈴は二本の青竜刀。

 

 鍔迫り合いが一瞬あったが、鈴の攻めに一夏は後退を選択した。

 

 逃がさないと鈴が離れず青竜刀を巧みに操り、一夏は回避出来ずに諦めて防御に回った。

 

 鈴の二本の青竜刀が一夏のブレードに、蛇のように絡み付いている。

 

 一夏が鈴の猛攻を捌くには、少し技量が足りないみたいだ。

 

 少しずつシールドエネルギーが削られていき、一夏は焦りで動きが雑になってくる。

 

 それを好機と見た鈴が、今度は一夏のブレードを弾き飛ばそうと、青竜刀を内から外へと動かす。

 

 ブレードの柄を両手でしっかり握り、一夏は武器を飛ばされないよう耐えていく。

 

 一夏は防御しながら後退して、鈴は攻撃しながら前進。

 

 このままの状況で試合が進めば、一夏は敗北して鈴は勝利を掴む。

 

 劣勢な一夏は勝ちを諦めなかった。

 

 一夏がブレードを投げ捨てて、空いた両手で鈴の青竜刀二本を掴んだ。

 

 一夏の奇策に鈴は驚愕で動きが一瞬だけ停止した。

 

 刹那の隙をつき、一夏が青竜刀から手を離してから、鈴をヤクザキックで蹴り飛ばす。

 

 吹き飛ばされた鈴を一夏は高速で追っていき、体勢が整わない鈴に追いついて、力を込めたストレートを腹部に叩き込む。

 

 鈴は背中から地面に激突してクレーターの中に倒れる。

 

 一夏は鈴に目掛けてライダーキック。

 

 鈴は射撃を再開して、回避不可能な一夏を吹き飛ばした。

 

 今度は鈴が青竜刀を手放してから高速で接近し、吹っ飛ぶ一夏に回し蹴りをお見舞い。

 

 一夏が横に飛んでる最中に、鈴が急下降して置いてきた青竜刀を回収してから、一夏のブレードも回収。

 

 ブレードをブーメランのように回転させて投げる。

 

 回転しながら接近してきたブレードを、一夏はタイミングよく柄を蹴って、慣性を止めた。

 

 そして落ちゆくブレードをキャッチ。

 

 お互いにダメージを受けているが、これで試合は振り出しに。

 

 鈴は一夏を見上げ、一夏は鈴を見下ろす。

 

 お互いが一気に踏み込んで、再び鍔迫り合いから二人は切り結ぶ。

 

 剣戟で激しく打ち鳴る戦いの声。

 

 アリーナ中に響く鉄の音は心地よく耳に入ってくる。

 

 俺はただ見取れて聞き入った感じた。

 

 

 

 

 この戦いに勝利者と敗北者はいない。

 

 つまり引き分けだった。

 一夏のブレードが展開して光り輝き鈴に命中。

 鈴の二本の青竜刀が命中して、お互いのシールドエネルギーは同時ゼロになった。

 

 

「ごめん……勝ちも負けも取れなかった……」

 試合を終えて帰ってきた鈴が、俺に抱きつきながら謝ってきた。

 

「鈴は頑張ったさ。勝利も敗北も必要ない。約束なんか速攻ぽいぽいして、デートしよう」

 破棄して新たな提案をする。これでデートしないとか無理です。可哀想だからじゃなく、頑張ったからだ。

 

「ホント……?」

 涙目の鈴が俺を見上げた。

 

「凄い試合を見せてくれたんだ。だから頑張った鈴にご褒美。実力は鈴が遥か上だから、上から目線になるけどね」

 実際に鈴を見下ろしてたんだ。別にかまへんよね。

 

「うん! ありがとう! 大好き!」

 俺の胸に顔を埋めた。飼ってもいいかな? あ、もう部屋にいるわ。

 

「よーしよしよしっ!」

 鈴の頭を撫で回した。

 

 

 

 

 他の試合は遠目に観戦して、俺はスーツ姿の鈴をお姫様だっこでベンチまで運ぶと、周囲の生徒が騒いだ。ま、そうなるな。かまへんかまへん。

 

「そういえば篠ノ之さんと手を繋いでいたのは何だったの?」

 

「一夏に告白するための勇気の充電。家族だから恋愛感情無いよ」

 あの時の事を目撃していた生徒が身近にいた。何で今聞くの?

 

「珍しいね。この年頃だと、どうしても異性を意識しちゃうから」

 

「姉に恋愛感情を向けろと? つまりそういう事だ」

 

「珍しいんだね」

 

「うん」

 俺達みたいな人って、他にいるんかな?

 

 

 

 

 こうして一組二組は優勝せず、クラスリーグマッチは幕を閉じた。どこの誰が優勝したのか見てなかった。すみません。

 

 これで終了……と思っていたのか?

 急遽出場命令が下った。なんでやっ! 確かに今は陸も空もいい感じだけど、武器はビームトンファーだけなんやっ! アームド・アーマーDEにもビームがあるけど未使用だ。シールドファンネルもその他ビット類もまだなんだよ!

 ま、お偉方がいるからお披露目って事だ。この機会を逃すと、次は結構先になるんじゃないかな? わからなくもない。

 

 

「夕! 頑張って!」

「白雪君頑張って!」

「かっこいい所を見せてー!」

 

 俺はピット内の人達に声援を受けた。

 

「やるしかないんでしょ! だったらやってやりますよ! 行くぞ、バンシィ!」

 カタパルトで俺は空へと飛び出す。

 お相手はセシリアさんだ。俺が避けてセシリアさんが当てる。ただそれだけ。

 装備はアームド・アーマーと、現在サーベルが二つ。

 

『よろしくお願いしますわ。夕さん』

 

『はい。よろしくお願いします』

 俺はセシリアさんと同じ高度で対面し、通信で挨拶を交わした。

 

『頑張って回避なさって下さい』

 

『はい。すぐに当たったらすいません』

 

『気を楽に。今日はわたくしがエスコートして差し上げますわ』

 

『足を踏んでしまったらすみません』

 

『淑女の足は大切に』

 

『はい』

 

『それでは舞台の幕開けを! さぁ、わたくしの掌で舞いなさい!』

 

『ダンスは……苦手だな』

 ロンドとかワルツじゃないんだ。

 

 俺はセシリアさんの先制攻撃、レーザーライフルを避けた。やった!

 

 

 それから次々に繰り出されるビットやミサイル。狙いが徐々に定まり、手足に掠り始めた。死ぬ死ぬ。

 

 現在の俺のスピードに慣れてきたらしい。だからNT-Dを発動。

 

 これで一応いいんじゃない? 約十分しか動いてないが、ごっそり体力が持っていかれるし。これはNT-Dが原因か。

 

 そして最後にビットのレーザーに挟まれて終わった。逃げ切れる訳ないだろ!

 

 セシリアさんにお礼を言ってから、ピットに戻ってきた。ISを解除と同時に鈴に受け止められた。かわいい。

 

「すぐ負けた。悪い。おやすみ」

 

「よく頑張ったわ。おやすみなさい」

 ここで意識は途切れた。俺、いっつも寝てる。体力ないなぁ。

 

 

 

 

 ぼんやりした視界で、赤めの色をした天井が目に入る。この場所がどこかわからないが、どうやら誰かに運ばれたらしい。後でお礼を言わなくちゃ。

 体を起こすと、窓にある白のカーテンが赤く染まっているのが目に映った。辺りを見回すと隣にベッドがある。この部屋は保健室らしい。夕日が眩しくて、目を細めて腕で遮る。

 自分の姿を確認すると、ISスーツを着用したままだった。誰にも裸を見られずに済んで、胸を撫で下ろす。羞恥で自殺する所だったわ。

 

 ベッドから這い出て床に立つ。視界が少し揺れるが今まで休んでいたんだ。直によくなるはず。

 そしてさっきからバンシィが、俺の周りをうろうろしている。

 

「ありがとう、バンシィ。お前のお陰で何とか出来たよ。結果は負けちゃったけどさ」

 俺がセシリアさんに敵うはずが無いだろ! 能力が一般人な俺を舐めるな!

 嬉しいのかわからないが、バンシィが俺の頭に乗っかった。かわいい。

 制服が掛け布団の上にあった事に気付いて、スーツの上に制服を着た。スーツを脱ぐなら、脱衣所がいいな。

 

 部屋から出ようと扉に手を掛けようとしたら、触れる前に開いた。

 

「何だ。起きたか」

 千冬さんだった。

 

「はい」

 俺は数歩下がる。

 

「悪かったな。今日は無理矢理出場させてしまって」

 

「いえ、気にしないで下さい。こうなる予感があった気がしますし。誰かが悪い訳じゃないです」

 

「そう言ってくれると助かる」

 千冬さんは眉間に皺を寄せ険しい目つきから、柔らかい表情へと変化した。

 

「はい。あ、俺をここに運んでくれた人って、誰か知っていますか?」

 忘れちゃいけない事を尋ねた。

 

「一夏と私だ」

 

「ありがとうございます!」

 俺は千冬さんに頭を深く下げた。

 

「私達が引き起こした問題だからな。当然の事だ」

 

「それでもですよ」

 顔を上げて千冬さんを見る。

 これって普通の事だろ?

 

「わかった。ありがたく受け取ろう」

 

「はい。一夏はどこに?」

 

「多分だが、寮じゃないか?」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「気にするな」

 

「はい。では、失礼します」

 俺は退いてくれた千冬さんの横を通る。

 走りたい所だが、怒られるから早足で寮に向かった。

 移動する途中、結構な人数の女生徒達に声を掛けられた。綺麗でかっこよかったってさ。綺麗でかっこいい、自慢のISだよ。

 

 

 

 

 寮に着き一夏の部屋に向かう。途中でマッカンも買った。そして飲んだ。

 

 

 一夏と箒の部屋の前で立ち、ノックする。

 

「はーい」

 扉が開くと箒だった。

 

「お、夕じゃないか。頑張ったじゃないか。一夏はいないぞ」

 箒に頭を撫でられる。言いたい事を一つにまとめるなよ。わかりやすくていいけど。

 

「そっか。ありがとう。またね」

 

「じゃあな」

 頭から手を退けて扉を閉めた。

 さて、探すのは難しそうだし、一旦部屋に戻ろう。

 俺は自室に足を向けた。

 

 

 部屋に戻ると鈴と楯無さんが待っていた。

 

「夕!」

「夕君!」

 二人に名を呼ばれて抱きつかれた。俺の癖移ってない?

 

「ただの疲労ですから平気ですよ」

 

「ISの戦闘後に倒れたら、些細な事でも気にするの!」

「私は特別心配はしてないわ。でもおかえり」

 一緒に喋らないで。難聴が強制発動しちゃう。

 

「うん。ただいまです」

 二人に挨拶してから、クローゼットから服を出して、脱衣所で着替えようとする。

 

「何で一緒に来てるんスかね?」

 

『着替えを手伝おうと』

 いらんよ! 変態か! 一人変態だったわ。じゃあ、今の鈴ちゃんは何なんだ? 過保護なだけ?

 

「とりあえず出てって下さい。わざわざ見る物でもないでしょう?」

 そう答えを返したら、二人は肩を落として脱衣所を出た。鈴ちゃんが少しだけ危ない道を歩き始めた気がする。

 

 

 服を着替えて部屋に戻ると、二人は俺のベッドで並んで横になっていた。どれだけ匂いを擦り付けたいのか。

 

「夕君もこっちに来て」

 楯無さんが素早く起き上がり、突っ立ている俺に接近して手を掴んだ。

 

「あ、はい」

 されるがまま手を引かれた俺は、自分のベッドの前まで連れてこられた。

 そして背後に回った楯無さんに、後ろから押し倒された。

 

「ぐっ……」

 俯せ状態の俺の隣には鈴がいて、楯無さんは俺の背中に乗っかる。何やこの幸福感。温かいなりぃ。

 鈴は俺の頭を撫で撫でした。ファービーかよ。

 楯無さんは背中で丸くなる。猫缶買ってこなきゃ。

 さぁ、思う存分好きにしなはれ。俺もされたいから。受け身は楽だ。

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