あれから日数が経過した。勉強はほぼ追い付いたし、ここでの生活も慣れてきた。
ISの動作も結構問題無い。武器はまだサーベルしか使ってない。凡人だもん。これぐらい普通だと思う。でも不安になってきた……。
そして今日はクラスリーグマッチ当日。何故かお偉いさんっぽい人達が集まり、アリーナの観客席がぎっちぎち。トッポのチョコが溢れているレベルだ。全部くっついちゃうからやめて。ポッキーが溶けて一本掴んだら、全部付いてきちゃうのはやめて。冷やそう。しかし何でお偉いさんがいるん? 今日は学生だけじゃ?
俺の現在地はピットで、鈴ちゃんが出撃準備をしている場所だ。何故か俺がそわそわしちゃう。
「夕! 私は一夏に勝ってみせるよ!」
「あ、うん」
ISスーツ姿の鈴ちゃんが、片腕を天に掲げて宣言する。かわいい。
「何よ、その気の無い返事は」
ぷくー、とマンボウみたいに膨れっ面をしている。フグか。
「いや、鈴ちゃんなら余裕っしょ? 一夏をボッコボコにして、地面に跪かせて女王様って言わせてやるんしょ?」
「そ、そこまでは……」
両手を突き出して振りながら慌てている。かわいい。
「ま、勝っても負けてもデートしようか」
「ホント!?」
前のめりなって、鈴ちゃんは俺に近付く。楯無さんは次回に。
「ウン。ウソジャナイヨ」
「片言で怪しくなってるじゃない!」
「本当にやるから安心して」
「じゃあ、約束」
片手を前に出して、指切りを迫る。
「はい」
俺も小指を出して鈴と指切りをした。きゃっ。
「二人共仲良いね。最近べったりしてるから、もしかして付き合ってる?」
鈴のISを整備する人に、整備しながら背を向けられて声を掛けられた。
「まだだね。だから私はアタック中よ」
鈴がその人に向き直り、返事をした。
「俺はディフェンス中」
俺も鈴と同様に首を向けた。
「へぇ」
恋のお話なんだから食い付かないの? 整備が私の恋人です? 集中してるんです?
「こいつ鉄壁でね。なかなか苦労してんのよ……」
「へぇ」
もう興味無さそう。他に整備する人が数人いるけど、皆黙ってISを調整中。雰囲気が話掛けんじゃねぇよっ! となっていた。
「……うん。この話題はまた今度ね」
鈴が話を切り上げモニターを見る。俺も一緒に見た。
「頑張ってくれ。悔いの無いようにな」
鈴の頭をポンポン撫でる。かわいい。
「うん!」
「元気のいい返事だぁ!」
そして一夏対鈴の試合が始まった。
異次元過ぎて全く参考にならんだろうな。しゅんごーい。まだ見てないけど。
試合開始時の二人は中距離で相対していた。
最初は鈴が高速で後退して、見えない何かを一夏に向けて撃つ。
一夏は鈴の射撃を見事に回避して、上下左右に機体を操り高速で詰め寄る。
鈴も引き撃ちしていくが、射撃のラグがあり、射撃戦を止めた。
そして一夏と鈴は接近戦に突入。
一夏は一本のブレード。鈴は二本の青竜刀。
鍔迫り合いが一瞬あったが、鈴の攻めに一夏は後退を選択した。
逃がさないと鈴が離れず青竜刀を巧みに操り、一夏は回避出来ずに諦めて防御に回った。
鈴の二本の青竜刀が一夏のブレードに、蛇のように絡み付いている。
一夏が鈴の猛攻を捌くには、少し技量が足りないみたいだ。
少しずつシールドエネルギーが削られていき、一夏は焦りで動きが雑になってくる。
それを好機と見た鈴が、今度は一夏のブレードを弾き飛ばそうと、青竜刀を内から外へと動かす。
ブレードの柄を両手でしっかり握り、一夏は武器を飛ばされないよう耐えていく。
一夏は防御しながら後退して、鈴は攻撃しながら前進。
このままの状況で試合が進めば、一夏は敗北して鈴は勝利を掴む。
劣勢な一夏は勝ちを諦めなかった。
一夏がブレードを投げ捨てて、空いた両手で鈴の青竜刀二本を掴んだ。
一夏の奇策に鈴は驚愕で動きが一瞬だけ停止した。
刹那の隙をつき、一夏が青竜刀から手を離してから、鈴をヤクザキックで蹴り飛ばす。
吹き飛ばされた鈴を一夏は高速で追っていき、体勢が整わない鈴に追いついて、力を込めたストレートを腹部に叩き込む。
鈴は背中から地面に激突してクレーターの中に倒れる。
一夏は鈴に目掛けてライダーキック。
鈴は射撃を再開して、回避不可能な一夏を吹き飛ばした。
今度は鈴が青竜刀を手放してから高速で接近し、吹っ飛ぶ一夏に回し蹴りをお見舞い。
一夏が横に飛んでる最中に、鈴が急下降して置いてきた青竜刀を回収してから、一夏のブレードも回収。
ブレードをブーメランのように回転させて投げる。
回転しながら接近してきたブレードを、一夏はタイミングよく柄を蹴って、慣性を止めた。
そして落ちゆくブレードをキャッチ。
お互いにダメージを受けているが、これで試合は振り出しに。
鈴は一夏を見上げ、一夏は鈴を見下ろす。
お互いが一気に踏み込んで、再び鍔迫り合いから二人は切り結ぶ。
剣戟で激しく打ち鳴る戦いの声。
アリーナ中に響く鉄の音は心地よく耳に入ってくる。
俺はただ見取れて聞き入った感じた。
この戦いに勝利者と敗北者はいない。
つまり引き分けだった。
一夏のブレードが展開して光り輝き鈴に命中。
鈴の二本の青竜刀が命中して、お互いのシールドエネルギーは同時ゼロになった。
「ごめん……勝ちも負けも取れなかった……」
試合を終えて帰ってきた鈴が、俺に抱きつきながら謝ってきた。
「鈴は頑張ったさ。勝利も敗北も必要ない。約束なんか速攻ぽいぽいして、デートしよう」
破棄して新たな提案をする。これでデートしないとか無理です。可哀想だからじゃなく、頑張ったからだ。
「ホント……?」
涙目の鈴が俺を見上げた。
「凄い試合を見せてくれたんだ。だから頑張った鈴にご褒美。実力は鈴が遥か上だから、上から目線になるけどね」
実際に鈴を見下ろしてたんだ。別にかまへんよね。
「うん! ありがとう! 大好き!」
俺の胸に顔を埋めた。飼ってもいいかな? あ、もう部屋にいるわ。
「よーしよしよしっ!」
鈴の頭を撫で回した。
他の試合は遠目に観戦して、俺はスーツ姿の鈴をお姫様だっこでベンチまで運ぶと、周囲の生徒が騒いだ。ま、そうなるな。かまへんかまへん。
「そういえば篠ノ之さんと手を繋いでいたのは何だったの?」
「一夏に告白するための勇気の充電。家族だから恋愛感情無いよ」
あの時の事を目撃していた生徒が身近にいた。何で今聞くの?
「珍しいね。この年頃だと、どうしても異性を意識しちゃうから」
「姉に恋愛感情を向けろと? つまりそういう事だ」
「珍しいんだね」
「うん」
俺達みたいな人って、他にいるんかな?
こうして一組二組は優勝せず、クラスリーグマッチは幕を閉じた。どこの誰が優勝したのか見てなかった。すみません。
これで終了……と思っていたのか?
急遽出場命令が下った。なんでやっ! 確かに今は陸も空もいい感じだけど、武器はビームトンファーだけなんやっ! アームド・アーマーDEにもビームがあるけど未使用だ。シールドファンネルもその他ビット類もまだなんだよ!
ま、お偉方がいるからお披露目って事だ。この機会を逃すと、次は結構先になるんじゃないかな? わからなくもない。
「夕! 頑張って!」
「白雪君頑張って!」
「かっこいい所を見せてー!」
俺はピット内の人達に声援を受けた。
「やるしかないんでしょ! だったらやってやりますよ! 行くぞ、バンシィ!」
カタパルトで俺は空へと飛び出す。
お相手はセシリアさんだ。俺が避けてセシリアさんが当てる。ただそれだけ。
装備はアームド・アーマーと、現在サーベルが二つ。
『よろしくお願いしますわ。夕さん』
『はい。よろしくお願いします』
俺はセシリアさんと同じ高度で対面し、通信で挨拶を交わした。
『頑張って回避なさって下さい』
『はい。すぐに当たったらすいません』
『気を楽に。今日はわたくしがエスコートして差し上げますわ』
『足を踏んでしまったらすみません』
『淑女の足は大切に』
『はい』
『それでは舞台の幕開けを! さぁ、わたくしの掌で舞いなさい!』
『ダンスは……苦手だな』
ロンドとかワルツじゃないんだ。
俺はセシリアさんの先制攻撃、レーザーライフルを避けた。やった!
それから次々に繰り出されるビットやミサイル。狙いが徐々に定まり、手足に掠り始めた。死ぬ死ぬ。
現在の俺のスピードに慣れてきたらしい。だからNT-Dを発動。
これで一応いいんじゃない? 約十分しか動いてないが、ごっそり体力が持っていかれるし。これはNT-Dが原因か。
そして最後にビットのレーザーに挟まれて終わった。逃げ切れる訳ないだろ!
セシリアさんにお礼を言ってから、ピットに戻ってきた。ISを解除と同時に鈴に受け止められた。かわいい。
「すぐ負けた。悪い。おやすみ」
「よく頑張ったわ。おやすみなさい」
ここで意識は途切れた。俺、いっつも寝てる。体力ないなぁ。
ぼんやりした視界で、赤めの色をした天井が目に入る。この場所がどこかわからないが、どうやら誰かに運ばれたらしい。後でお礼を言わなくちゃ。
体を起こすと、窓にある白のカーテンが赤く染まっているのが目に映った。辺りを見回すと隣にベッドがある。この部屋は保健室らしい。夕日が眩しくて、目を細めて腕で遮る。
自分の姿を確認すると、ISスーツを着用したままだった。誰にも裸を見られずに済んで、胸を撫で下ろす。羞恥で自殺する所だったわ。
ベッドから這い出て床に立つ。視界が少し揺れるが今まで休んでいたんだ。直によくなるはず。
そしてさっきからバンシィが、俺の周りをうろうろしている。
「ありがとう、バンシィ。お前のお陰で何とか出来たよ。結果は負けちゃったけどさ」
俺がセシリアさんに敵うはずが無いだろ! 能力が一般人な俺を舐めるな!
嬉しいのかわからないが、バンシィが俺の頭に乗っかった。かわいい。
制服が掛け布団の上にあった事に気付いて、スーツの上に制服を着た。スーツを脱ぐなら、脱衣所がいいな。
部屋から出ようと扉に手を掛けようとしたら、触れる前に開いた。
「何だ。起きたか」
千冬さんだった。
「はい」
俺は数歩下がる。
「悪かったな。今日は無理矢理出場させてしまって」
「いえ、気にしないで下さい。こうなる予感があった気がしますし。誰かが悪い訳じゃないです」
「そう言ってくれると助かる」
千冬さんは眉間に皺を寄せ険しい目つきから、柔らかい表情へと変化した。
「はい。あ、俺をここに運んでくれた人って、誰か知っていますか?」
忘れちゃいけない事を尋ねた。
「一夏と私だ」
「ありがとうございます!」
俺は千冬さんに頭を深く下げた。
「私達が引き起こした問題だからな。当然の事だ」
「それでもですよ」
顔を上げて千冬さんを見る。
これって普通の事だろ?
「わかった。ありがたく受け取ろう」
「はい。一夏はどこに?」
「多分だが、寮じゃないか?」
「わかりました。ありがとうございます」
「気にするな」
「はい。では、失礼します」
俺は退いてくれた千冬さんの横を通る。
走りたい所だが、怒られるから早足で寮に向かった。
移動する途中、結構な人数の女生徒達に声を掛けられた。綺麗でかっこよかったってさ。綺麗でかっこいい、自慢のISだよ。
寮に着き一夏の部屋に向かう。途中でマッカンも買った。そして飲んだ。
一夏と箒の部屋の前で立ち、ノックする。
「はーい」
扉が開くと箒だった。
「お、夕じゃないか。頑張ったじゃないか。一夏はいないぞ」
箒に頭を撫でられる。言いたい事を一つにまとめるなよ。わかりやすくていいけど。
「そっか。ありがとう。またね」
「じゃあな」
頭から手を退けて扉を閉めた。
さて、探すのは難しそうだし、一旦部屋に戻ろう。
俺は自室に足を向けた。
部屋に戻ると鈴と楯無さんが待っていた。
「夕!」
「夕君!」
二人に名を呼ばれて抱きつかれた。俺の癖移ってない?
「ただの疲労ですから平気ですよ」
「ISの戦闘後に倒れたら、些細な事でも気にするの!」
「私は特別心配はしてないわ。でもおかえり」
一緒に喋らないで。難聴が強制発動しちゃう。
「うん。ただいまです」
二人に挨拶してから、クローゼットから服を出して、脱衣所で着替えようとする。
「何で一緒に来てるんスかね?」
『着替えを手伝おうと』
いらんよ! 変態か! 一人変態だったわ。じゃあ、今の鈴ちゃんは何なんだ? 過保護なだけ?
「とりあえず出てって下さい。わざわざ見る物でもないでしょう?」
そう答えを返したら、二人は肩を落として脱衣所を出た。鈴ちゃんが少しだけ危ない道を歩き始めた気がする。
服を着替えて部屋に戻ると、二人は俺のベッドで並んで横になっていた。どれだけ匂いを擦り付けたいのか。
「夕君もこっちに来て」
楯無さんが素早く起き上がり、突っ立ている俺に接近して手を掴んだ。
「あ、はい」
されるがまま手を引かれた俺は、自分のベッドの前まで連れてこられた。
そして背後に回った楯無さんに、後ろから押し倒された。
「ぐっ……」
俯せ状態の俺の隣には鈴がいて、楯無さんは俺の背中に乗っかる。何やこの幸福感。温かいなりぃ。
鈴は俺の頭を撫で撫でした。ファービーかよ。
楯無さんは背中で丸くなる。猫缶買ってこなきゃ。
さぁ、思う存分好きにしなはれ。俺もされたいから。受け身は楽だ。