IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

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二十三話

 気付いたら深く落ちていた意識が浮上してきた。そして同時にいい香りを感じる。

 瞼を開くと隣には誰もいない。背中に重みも感じられない。寂しいなぁ。

 俯せの体を起こしてベッドに座り直す。

 

「起きた?」

 鈴がエプロンドレス姿でテーブルに料理を並べていた。新妻かな?

 

「うん」

 

「もう少し待ってて。すぐに支度しちゃうから」

 

「急がなくてもいい。まだ大丈夫だ」

 

「それでもよ」

 鈴は台所に向かった。後ろから超抱きしめたいな、ガンダムぅ。彼女は……ガンダムではない。ナストラルさん腹パンやめて。

 

 台所で横並びに立って調理している鈴と楯無さん二人に、俺は自販機で飲み物を買ってくると伝えて部屋を出た。

 

 廊下で会う人会う人に、今日の試合の感想を頂いた。ISが綺麗だったとか、ISが凄かったとか、主に機体の話だった。

効果はグンバツやで! 束はん!

 

 

 そして自販機の前で、飲み物を選んでいる一夏に出会った。

 

「サンキュ。運んでくれて」

 

「気にするな。好きでやった事だから」

 俺に横顔を見せたままの一夏。はよ、選べ。

 

「ありがとう。俺の動きどうだった?」

 バンシィの事を知ってるし、聞かないとな。

 

「初めての空中戦なのに、あそこまで動けるなんて凄かったぞ!」

 一夏が勢いよくこちらに向いた。いや、先に選べって。

 しかし、照れるじゃない。

 

「それに金の光が綺麗だった! NT-Dもかっこよかった!」

 結局そこに辿り着くのか。知ってた。

 

「どうも」

 

「あー……夕のバンシィみたいに、俺のISもユニコーンにしてもらいたいなぁ。難しいだろうけど……」

 羨ましさと残念さをミックスした、一夏の呟き。

 そして一夏は俯いた。

 

「今からでも出来るんじゃない? どんなISだろうと、データ収集のやり方は変わらんだろうし。わからんけどな、うん」

 ここは束さんの出番だろう。便利道具みたいに扱ってすみません。でも束さんはやってのける人だから、どうしても頼ってしまうんだ。まぁ、ユニコーン風にすれば宣伝効果は抜群だろうから、束さんは喜んで引き受けそう。

 

「その話は本当かっ!?」

 興奮した一夏が俺の肩を掴んで、ガクガクと激しく揺さぶる。痛い痛い、爪が食い込んでる! コンドル! 爪切れよ!

 

「ぐ、兎さんに頼んでみたら?」

 

「そうしたいのは山々なんだが……今どこにいるのかわからないんだ。メールも届かないし……」

 一夏は俺から手を離した。やだ……激しかったから超痛い。これは傷物ですわ。

 

「じゃあ、今度の休みにでも会いに行くか?」

 

「夕は居場所を知ってるのか!?」

 また一夏に肩を掴まれた。第二ラウンドか。ワンパターンだな。

 

「そのまま同じ場所にいたらな。今度の休みにでも行くか?」

 ふむ……鈴ちゃんとのデートは一夏の次になるか? 後で相談してみるか。楯無さんはまた今度。

 

「おうっ! 行く行くっ! ぜったぁいに行くっ!」

 力入ってんな。ま、興奮しちゃうのもわかる。

 あのアニメで見た機体が! 自分の目の前で! 動いてるっ!? ドルベェェェェェェ! ってな感じ。後、一夏のセリフが危ない。

 

「わかった。予定は大丈夫?」

 

「あいてるあいてる!」

 何か嘘っぽいぽい。

 

「誰かと出掛ける予定は、本当に無いんだな?」

 

「大丈夫だ! 問題ない!」

 

「ま、そこまで言うなら信じるよ」

 俺は何があっても知らんぞ。再三確認したぞ?

 

「じゃ、今度の休みに」

 

「わかった! またな!」

 一夏は廊下を走って、この場を去っていった。犬みたいだな。かわいい。所で一夏って飲み物買った? 手ぶらに見えたが。

 

 

 俺はマッカンを購入して、飲まずに部屋に戻ってきた。

 

「おかえりなさい!」

「おかえり夕君!」

 

「はい。ただいまです」

 二人が出迎えてくれて、俺はテーブルに座る。

 二人もテーブルに座った。料理が出揃ったらしい。

 

『いただきます』

 三人で晩飯を食べ始めた。なにこれ超美味しい。

 

 

 

 

 食事を終えて全員風呂に入って、二人はパジャマ姿で俺はジャージ姿だ。皆一休み中。二人は俺のベッドに寝っ転がっている。が、俺はテーブルの前で教科書を読む。あんたも好きねぇ。

 そういえば聞かなきゃならん事を思い出した。

 

「そうだ、鈴。今度の休みにデートしよう。あいてる?」

 教科書から目を離して、俺は鈴の方に首だけを向ける。

 

『あいてるっ!』

 楯無さんはまた今度。

 

「今回は会長は下がって。私と夕の約束なんだから」

 二人が横になりながら、向かい合った。

 

「お姉さんも仲間に入れて」

 

「ダメ。また次の機会を待って」

 

「夕君は断らないよね?」

 

「また今度にしましょう。先約があるんで」

 ま、当然俺に聞くわな。

 

「えー……」

 不満そうな顔ですね。

 

「今回は二人だけのデートよ。残念ね、会長」

 勝ち誇った顔の鈴が、楯無さんを見下す。

 

「またデートしましょうね。楯無さん」

 

「うん!」

 単純かわいい。

 

 

 俺は再び教科書に目を通す。

 

「会長ってさ、スタイルいいよね。羨ましい妬ましい……ぐぎぎ」

 

「そう? 私は鈴ちゃんみたいになりたいよ?」

 

「このちんちくりんでぺったんな私に?」

 

「うん。だって、夕君に抱きしめられた時の事を考えると、あの腕がより逞しく感じられそうだから。今も十分だろうけど」

 

「あー……確かにすっぽりハマるかな。そう考えると、この容姿も捨てたもんじゃないわね。実は知ってたけど」

 

「でしょ?」

 男がいるのに、持つ者持たざる者の会話が飛び交っていた。俺を話題にするのはやめろぉ。

 

「でも、やっぱりその胸は羨ましい。てい」

 

「あんっ……こら、勝手に触っちゃダメでしょ?」

 

「大きい物があったら、触りたくなるのは自然な事でしょ?」

 あなた方は何をやっているの? 俺がいない場所で頼む。でも無理だから俺は空気になるんだ。ニンジャバリアー!

 

「確かによく触られるけど」

 

「それだけ魅力的って事よ」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 やっぱり仲良いな。微笑ましくて俺は大好きだー。キシマダワー。大炎上ー。

 

「じゃあ、これはお返しに」

 

「わっ」

 

「気持ちいい?」

 

「うん。落ち着く」

 いいBGMをありがとう。耳が癒される。耳だけ傾けずに、俺が実際にこの目で見ても、猫同士のじゃれ合いみたいでほっこりする。一夏なら悶々とする。だから箒は頑張れよ。色仕掛けならきっと奴に効くから。でも箒側が照れて実行しないんだろうな。どうしてそこで諦めるんだ!そのタイミングで告白すれば落とせるぞ! 次の日に冷めてるかもだが。

 

「会長に抱かれるの気持ちいいよ。夕もされてみたら?」

 

「やめとく。マンネリの回避よ」

 慣れてしまったら俺には効かなそう。多分だが、何かで泣いた時にされたらヤバいだろうな。泣きたい時は笑え!

 

「そう……」

 何故に楯無さんじゃなく、鈴が残念がっているの?

 

「言われちゃったね」

 

「うん。でも、今なら私が会長の胸を独占出来る!」

 わっほーい! 閣下は戻りましょうねー。

 

「ふふ。いい子ね。よしよし」

 今気付いたんだが、妹さんにそれをやってやれよ。実践したら成功率は意外と高そうだし。ま、関係悪化もありえるから慎重にね。やるかやらないかどっちだよ……。

 

 

「夕ってさ、どうして恥ずかしがらないの?」

 

「ん?」

 教科書を閉じて休憩していた所に、鈴が尋ねてきた。

 

「うん。私達が抱きついたりしても、拒否したり照れずにニコニコしてるから。ホモなの?」

 誰がホモや。君らは好きになった人が、ホモだったら見る目無かったって事になるんだぞ? 一夏との接触? あれは親友だったり兄弟だったりするからよ。恋愛対象では無い。

 

「さぁ? 家族と思ってるから、恥ずかしくないんじゃない? 後ホモじゃない」

 

「ホモじゃないのね。じゃあ、何したら恥ずかしがるの?」

 もし俺がホモだったらこんな環境楽勝よ。初日みたいにアホな事を絶対にやらんかった。

 

「うーん……特に浮かばんな。触られると惚れそうになったり、幸せを感じたり、楽しかったりするな。恥ずかしくないけど」

 全裸は確実に恥ずかしい。後は何だろう? 何かあったか?

 

「そっか。じゃあ、べたべたしたら惚れる?」

 

「確実とは言えんな」

 俺ってちょろいから、親しい人なら確実に懐くが。

 

「だが、割と有効なんじゃね?」

 

「わかった!」

 ベッドから二人が飛び出してくる。楯無さんは黙っていたけど、今の会話をちゃんと聞いていたらしい。

 

「待て待て!」

 楯無さんが背後から抱きつき、俺を後ろへと引きずる。

 正面のテーブルが遠ざかっていき、俺の足が真っ直ぐ伸びた状態になり、その足の上に乗っかる鈴。

 腰に鈴が抱きつき、背中から楯無さんが抱きしめてくる。

 

「夕はこうされるのが好きなんでしょ?」

 超大好き。

 

「好きだけど、少しは弁えよう」

 

『はい』

 二人は俺から離れて、すごすごとベッドに戻っていった。また俺のベッドか。

 

 

「ねぇ、夕君」

 

「何ですか?」

 俺はテーブルの上で伸びてる時に、楯無さんが声を掛けてきた。

 俺は首だけを二人に向ける。

 

「夕君は楽しい?」

 

「楽しいですよ。楯無さんと鈴が近くにいて、俺を構ってくれる。これで楽しくなかったら、ハードル高すぎですよ」

 バンシィも一夏も箒も千冬さんもセシリアさんもいる。確かに辛い部分があるけど、それを上回る楽しさに幸せだ。

 

「そっか。でも、夕君の心のハードルはかなり高いよね?」

 

「そうですね。それを飛び越える事が出来なければ、俺は恋に落ちる事は無いでしょう」

 

「高い場所から、夕君を落とせばどうなる?」

 

「恋には落ちず、俺の体が落ちます」

 

「吊り橋だったら?」

 

「何でそんなに落下死を狙うんですか。やめて下さい」

 落ちたくない。受験や面接に落ちたくない!

 

「それだけ欲しいのよ」

 

「わかるわ」

 何やこの二人。俺を落としたいほど好きって。いや、好きになってほしいんじゃないの?

 

「俺に何かあったら、色々と召喚されますよ? ちびきみたいに」

 

「ならば、殺さずに催眠術で夕君を……」

 

「手段が異常すぎます。もっと普通にして下さい」

 

「夕は正攻法じゃ落ちないくせに」

 

「そりゃ楯無さんと鈴ちゃんの間を、俺が毎回ふらふらしてたらアウトでしょ? それとも二人同時に好きになれと?」

 

「ありね」

「ありだね」

 認めちゃうのかよ。

 

「それなら俺はどちらも選ばないです。悲しむなら全員一緒に」

 

「夕のその思考、かなり危ないと思うよ……?」

 鈴の顔が若干強張った。

 

「あ、集団自殺がいいかも知れません。三人仲良く……ね? そうしたら、全員幸せになりますよね」

 にっこりと笑って見せる。

 

「私今、夕の笑顔に背筋がぞっとした……」

 

「私達より夕君の方が、本気で一番ヤバいかもね……」

 青ざめた表情で、鈴と楯無さんが身を寄せ合う。

 

「冗談ですよ。片隅に置いときますが」

 

「解決してないじゃない!」

 

「冗談冗談。わざわざ痛苦を味わおうとは思ってないって。ただ、気を付けて」

 

『何を……?』

 怯えて抱き合う二人がかわいい。

 

「俺が好きになった人が、途中で他の男を好きになったら、好きな人もその相手も……きっと刺します。殺さない程度に」

 

『!?』

 驚愕で二人が布団の中に潜った。掛け布団を頭まで被り、少し透かしてこちらを窺う。かわいい。

 

『夕君の愛が一番重いみたいね……』

 

『私……夕を愛せるのか不安になってきた……』

 俺がそんな事する訳ないだろ!

 

「全て冗談だ。ま、その時が来なければいいですね」

 俺は飛びっきりの笑顔を見せた。

 

『…………』

 二人は布団に深く潜って震えていた。たまにはこんな話もいいだろう。

 

「それでは、おやすみなさい」

 俺はクローゼットの中に入った。二人に殺されるのも、いいかも知れないなぁ。嘘だよ! ごめんなさい!

 

 

 

 

 朝を迎えた。俺はクローゼットから出ずに、その場で制服に着替える。今更だけど脱衣所に移動せずに、最初からこうすればよかった。二人共ここを開けてこないだろうし。

 

 着替えが完了し、クローゼットを慎重に開ける。二人はまだ寝ているらしい。

 クローゼットから移動して、二人の寝顔を拝見。二人は抱き合ってすやすやと、穏やかな表情で眠っていた。こうしていると、まるで姉妹みたいだ。かわいい。けど、楯無さんは早めに妹さんと仲直りして下さい。

 

 俺はベランダに近付いて日の光を浴びた。今日も一日頑張ろー!

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