気付いたら深く落ちていた意識が浮上してきた。そして同時にいい香りを感じる。
瞼を開くと隣には誰もいない。背中に重みも感じられない。寂しいなぁ。
俯せの体を起こしてベッドに座り直す。
「起きた?」
鈴がエプロンドレス姿でテーブルに料理を並べていた。新妻かな?
「うん」
「もう少し待ってて。すぐに支度しちゃうから」
「急がなくてもいい。まだ大丈夫だ」
「それでもよ」
鈴は台所に向かった。後ろから超抱きしめたいな、ガンダムぅ。彼女は……ガンダムではない。ナストラルさん腹パンやめて。
台所で横並びに立って調理している鈴と楯無さん二人に、俺は自販機で飲み物を買ってくると伝えて部屋を出た。
廊下で会う人会う人に、今日の試合の感想を頂いた。ISが綺麗だったとか、ISが凄かったとか、主に機体の話だった。
効果はグンバツやで! 束はん!
そして自販機の前で、飲み物を選んでいる一夏に出会った。
「サンキュ。運んでくれて」
「気にするな。好きでやった事だから」
俺に横顔を見せたままの一夏。はよ、選べ。
「ありがとう。俺の動きどうだった?」
バンシィの事を知ってるし、聞かないとな。
「初めての空中戦なのに、あそこまで動けるなんて凄かったぞ!」
一夏が勢いよくこちらに向いた。いや、先に選べって。
しかし、照れるじゃない。
「それに金の光が綺麗だった! NT-Dもかっこよかった!」
結局そこに辿り着くのか。知ってた。
「どうも」
「あー……夕のバンシィみたいに、俺のISもユニコーンにしてもらいたいなぁ。難しいだろうけど……」
羨ましさと残念さをミックスした、一夏の呟き。
そして一夏は俯いた。
「今からでも出来るんじゃない? どんなISだろうと、データ収集のやり方は変わらんだろうし。わからんけどな、うん」
ここは束さんの出番だろう。便利道具みたいに扱ってすみません。でも束さんはやってのける人だから、どうしても頼ってしまうんだ。まぁ、ユニコーン風にすれば宣伝効果は抜群だろうから、束さんは喜んで引き受けそう。
「その話は本当かっ!?」
興奮した一夏が俺の肩を掴んで、ガクガクと激しく揺さぶる。痛い痛い、爪が食い込んでる! コンドル! 爪切れよ!
「ぐ、兎さんに頼んでみたら?」
「そうしたいのは山々なんだが……今どこにいるのかわからないんだ。メールも届かないし……」
一夏は俺から手を離した。やだ……激しかったから超痛い。これは傷物ですわ。
「じゃあ、今度の休みにでも会いに行くか?」
「夕は居場所を知ってるのか!?」
また一夏に肩を掴まれた。第二ラウンドか。ワンパターンだな。
「そのまま同じ場所にいたらな。今度の休みにでも行くか?」
ふむ……鈴ちゃんとのデートは一夏の次になるか? 後で相談してみるか。楯無さんはまた今度。
「おうっ! 行く行くっ! ぜったぁいに行くっ!」
力入ってんな。ま、興奮しちゃうのもわかる。
あのアニメで見た機体が! 自分の目の前で! 動いてるっ!? ドルベェェェェェェ! ってな感じ。後、一夏のセリフが危ない。
「わかった。予定は大丈夫?」
「あいてるあいてる!」
何か嘘っぽいぽい。
「誰かと出掛ける予定は、本当に無いんだな?」
「大丈夫だ! 問題ない!」
「ま、そこまで言うなら信じるよ」
俺は何があっても知らんぞ。再三確認したぞ?
「じゃ、今度の休みに」
「わかった! またな!」
一夏は廊下を走って、この場を去っていった。犬みたいだな。かわいい。所で一夏って飲み物買った? 手ぶらに見えたが。
俺はマッカンを購入して、飲まずに部屋に戻ってきた。
「おかえりなさい!」
「おかえり夕君!」
「はい。ただいまです」
二人が出迎えてくれて、俺はテーブルに座る。
二人もテーブルに座った。料理が出揃ったらしい。
『いただきます』
三人で晩飯を食べ始めた。なにこれ超美味しい。
食事を終えて全員風呂に入って、二人はパジャマ姿で俺はジャージ姿だ。皆一休み中。二人は俺のベッドに寝っ転がっている。が、俺はテーブルの前で教科書を読む。あんたも好きねぇ。
そういえば聞かなきゃならん事を思い出した。
「そうだ、鈴。今度の休みにデートしよう。あいてる?」
教科書から目を離して、俺は鈴の方に首だけを向ける。
『あいてるっ!』
楯無さんはまた今度。
「今回は会長は下がって。私と夕の約束なんだから」
二人が横になりながら、向かい合った。
「お姉さんも仲間に入れて」
「ダメ。また次の機会を待って」
「夕君は断らないよね?」
「また今度にしましょう。先約があるんで」
ま、当然俺に聞くわな。
「えー……」
不満そうな顔ですね。
「今回は二人だけのデートよ。残念ね、会長」
勝ち誇った顔の鈴が、楯無さんを見下す。
「またデートしましょうね。楯無さん」
「うん!」
単純かわいい。
俺は再び教科書に目を通す。
「会長ってさ、スタイルいいよね。羨ましい妬ましい……ぐぎぎ」
「そう? 私は鈴ちゃんみたいになりたいよ?」
「このちんちくりんでぺったんな私に?」
「うん。だって、夕君に抱きしめられた時の事を考えると、あの腕がより逞しく感じられそうだから。今も十分だろうけど」
「あー……確かにすっぽりハマるかな。そう考えると、この容姿も捨てたもんじゃないわね。実は知ってたけど」
「でしょ?」
男がいるのに、持つ者持たざる者の会話が飛び交っていた。俺を話題にするのはやめろぉ。
「でも、やっぱりその胸は羨ましい。てい」
「あんっ……こら、勝手に触っちゃダメでしょ?」
「大きい物があったら、触りたくなるのは自然な事でしょ?」
あなた方は何をやっているの? 俺がいない場所で頼む。でも無理だから俺は空気になるんだ。ニンジャバリアー!
「確かによく触られるけど」
「それだけ魅力的って事よ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
やっぱり仲良いな。微笑ましくて俺は大好きだー。キシマダワー。大炎上ー。
「じゃあ、これはお返しに」
「わっ」
「気持ちいい?」
「うん。落ち着く」
いいBGMをありがとう。耳が癒される。耳だけ傾けずに、俺が実際にこの目で見ても、猫同士のじゃれ合いみたいでほっこりする。一夏なら悶々とする。だから箒は頑張れよ。色仕掛けならきっと奴に効くから。でも箒側が照れて実行しないんだろうな。どうしてそこで諦めるんだ!そのタイミングで告白すれば落とせるぞ! 次の日に冷めてるかもだが。
「会長に抱かれるの気持ちいいよ。夕もされてみたら?」
「やめとく。マンネリの回避よ」
慣れてしまったら俺には効かなそう。多分だが、何かで泣いた時にされたらヤバいだろうな。泣きたい時は笑え!
「そう……」
何故に楯無さんじゃなく、鈴が残念がっているの?
「言われちゃったね」
「うん。でも、今なら私が会長の胸を独占出来る!」
わっほーい! 閣下は戻りましょうねー。
「ふふ。いい子ね。よしよし」
今気付いたんだが、妹さんにそれをやってやれよ。実践したら成功率は意外と高そうだし。ま、関係悪化もありえるから慎重にね。やるかやらないかどっちだよ……。
「夕ってさ、どうして恥ずかしがらないの?」
「ん?」
教科書を閉じて休憩していた所に、鈴が尋ねてきた。
「うん。私達が抱きついたりしても、拒否したり照れずにニコニコしてるから。ホモなの?」
誰がホモや。君らは好きになった人が、ホモだったら見る目無かったって事になるんだぞ? 一夏との接触? あれは親友だったり兄弟だったりするからよ。恋愛対象では無い。
「さぁ? 家族と思ってるから、恥ずかしくないんじゃない? 後ホモじゃない」
「ホモじゃないのね。じゃあ、何したら恥ずかしがるの?」
もし俺がホモだったらこんな環境楽勝よ。初日みたいにアホな事を絶対にやらんかった。
「うーん……特に浮かばんな。触られると惚れそうになったり、幸せを感じたり、楽しかったりするな。恥ずかしくないけど」
全裸は確実に恥ずかしい。後は何だろう? 何かあったか?
「そっか。じゃあ、べたべたしたら惚れる?」
「確実とは言えんな」
俺ってちょろいから、親しい人なら確実に懐くが。
「だが、割と有効なんじゃね?」
「わかった!」
ベッドから二人が飛び出してくる。楯無さんは黙っていたけど、今の会話をちゃんと聞いていたらしい。
「待て待て!」
楯無さんが背後から抱きつき、俺を後ろへと引きずる。
正面のテーブルが遠ざかっていき、俺の足が真っ直ぐ伸びた状態になり、その足の上に乗っかる鈴。
腰に鈴が抱きつき、背中から楯無さんが抱きしめてくる。
「夕はこうされるのが好きなんでしょ?」
超大好き。
「好きだけど、少しは弁えよう」
『はい』
二人は俺から離れて、すごすごとベッドに戻っていった。また俺のベッドか。
「ねぇ、夕君」
「何ですか?」
俺はテーブルの上で伸びてる時に、楯無さんが声を掛けてきた。
俺は首だけを二人に向ける。
「夕君は楽しい?」
「楽しいですよ。楯無さんと鈴が近くにいて、俺を構ってくれる。これで楽しくなかったら、ハードル高すぎですよ」
バンシィも一夏も箒も千冬さんもセシリアさんもいる。確かに辛い部分があるけど、それを上回る楽しさに幸せだ。
「そっか。でも、夕君の心のハードルはかなり高いよね?」
「そうですね。それを飛び越える事が出来なければ、俺は恋に落ちる事は無いでしょう」
「高い場所から、夕君を落とせばどうなる?」
「恋には落ちず、俺の体が落ちます」
「吊り橋だったら?」
「何でそんなに落下死を狙うんですか。やめて下さい」
落ちたくない。受験や面接に落ちたくない!
「それだけ欲しいのよ」
「わかるわ」
何やこの二人。俺を落としたいほど好きって。いや、好きになってほしいんじゃないの?
「俺に何かあったら、色々と召喚されますよ? ちびきみたいに」
「ならば、殺さずに催眠術で夕君を……」
「手段が異常すぎます。もっと普通にして下さい」
「夕は正攻法じゃ落ちないくせに」
「そりゃ楯無さんと鈴ちゃんの間を、俺が毎回ふらふらしてたらアウトでしょ? それとも二人同時に好きになれと?」
「ありね」
「ありだね」
認めちゃうのかよ。
「それなら俺はどちらも選ばないです。悲しむなら全員一緒に」
「夕のその思考、かなり危ないと思うよ……?」
鈴の顔が若干強張った。
「あ、集団自殺がいいかも知れません。三人仲良く……ね? そうしたら、全員幸せになりますよね」
にっこりと笑って見せる。
「私今、夕の笑顔に背筋がぞっとした……」
「私達より夕君の方が、本気で一番ヤバいかもね……」
青ざめた表情で、鈴と楯無さんが身を寄せ合う。
「冗談ですよ。片隅に置いときますが」
「解決してないじゃない!」
「冗談冗談。わざわざ痛苦を味わおうとは思ってないって。ただ、気を付けて」
『何を……?』
怯えて抱き合う二人がかわいい。
「俺が好きになった人が、途中で他の男を好きになったら、好きな人もその相手も……きっと刺します。殺さない程度に」
『!?』
驚愕で二人が布団の中に潜った。掛け布団を頭まで被り、少し透かしてこちらを窺う。かわいい。
『夕君の愛が一番重いみたいね……』
『私……夕を愛せるのか不安になってきた……』
俺がそんな事する訳ないだろ!
「全て冗談だ。ま、その時が来なければいいですね」
俺は飛びっきりの笑顔を見せた。
『…………』
二人は布団に深く潜って震えていた。たまにはこんな話もいいだろう。
「それでは、おやすみなさい」
俺はクローゼットの中に入った。二人に殺されるのも、いいかも知れないなぁ。嘘だよ! ごめんなさい!
朝を迎えた。俺はクローゼットから出ずに、その場で制服に着替える。今更だけど脱衣所に移動せずに、最初からこうすればよかった。二人共ここを開けてこないだろうし。
着替えが完了し、クローゼットを慎重に開ける。二人はまだ寝ているらしい。
クローゼットから移動して、二人の寝顔を拝見。二人は抱き合ってすやすやと、穏やかな表情で眠っていた。こうしていると、まるで姉妹みたいだ。かわいい。けど、楯無さんは早めに妹さんと仲直りして下さい。
俺はベランダに近付いて日の光を浴びた。今日も一日頑張ろー!