IS 一夏がいない   作:稲穂焼き

27 / 87
二十六話

 あの後、俺はしばらく心が沈んだままだった。鈴は笑顔で俺を後ろから抱きしめてくれていた。俺は暗い気持ちを抱いたまま、鈴と一緒に夕方まで過ごした。二回目の腹パンはキツい。

 

 

 

 

 学園の寮に戻り、自室のベッドにふらふらと倒れ込む。うおー……考えたくねぇ。こんなに苦しいのなら……悲しいのなら……愛などいらぬ! って言っちゃう聖帝の気持ちを少し理解した。いや、俺とケースが全く違うし、重みも全然だけどさ。

 

「どうしたの夕君?」

 

「私が思い出を貰った」

 

「?」

 楯無さんには気付きにくい事だろうな。俺も言われたら、きっと悩む。

 

「おいしょ」

 体を起こして座り、二人が座っているテーブルに体を向けた。

 

「ちょっと自販機で飲み物買ってきます」

 二人の返事をもらい、俺は部屋を出た。思考を巡らす訳じゃなくて、とりあえず落ち着きたい。

 

 

 いつものポジションでマッカンを飲む。やっぱりこの場所は心が安らぐ。糖分にはリラックス効果も含まれているし。今回はいつもより一本多く買った。マジで厳しいなぁ。

 

 一本目はゆっくりだったが、二本目は素早く喉の奥へと流し込んで飲み干した。たまにはこんな飲み方も悪くないかな。さて、部屋に戻ろう。

 

 

 部屋に戻ってきて、二人を横目に教科書を読む。しかし、いっつも人のベッドで横になってんな。そんなにベッドが好きかぁーっ!

 

「今日はどうだった?」

 

「楽しかったよ。凄く幸せ」

 おい、ちょっと待って。

 

「映画は?」

 

「ジャンルはアクション。そして昔夕達と一緒に行ったのを思い出した」

 何を話すんだ。隠せよ。

 

「へぇ、思い出か。鈴ちゃんはいいね」

 

「まぁね。会長もこれから作ってけばいいよ。まだまだ時間はあるし」

 やめてくれ。俺死んじゃう。

 

「うん。頑張るね」

 おい、ライバル同士争えよ。バトルを推奨したいんじゃなくて、一般的なら情報を教えないだろ。うん、これ状況自体普通じゃなかったわ。

 

 

 

 

 今日は部屋で晩飯を食べる。ただ今日は、俺達三人だけじゃなくて二人追加された。セシリアさん……。

 

「今日デートだったんだろ?」

 台所で食事をしながら、俺の隣に立つ一夏が尋ねてきた。え? 何で知ってるの?

 

「そうだが」

 

「どこ行ったんだ?」

 

「映画と俺の家」

 素直に答える。

 

「映画と夕の家か。俺も最近行ってないなぁ」

 

「映画は弾がポップコーンむしゃむしゃして、うるさかったのを思い出したよ」

 そういえばと思い、一夏にも話す事にした。

 

「あれか。普段なら気にならないんだけど、映画館だとどうしてもな」

 あれ? お前平然としてたじゃん。

 

「でも、目くじら立てるほどじゃなかった」

 

「耐性凄い」

 

「何か聞こえるって感じで」

 

「その領域まで到達するのは、俺には無理そう」

 

「修行がなってないな」

 

「どこで鍛えるんだよ」

 

「精神を」

 

「いや、だからどこで」

 

「篠ノ之道場」

 

「それかなり昔じゃん」

 

「その時既に、俺は難聴を会得していた」

 

「どうせ都合のいい言葉だけしか聞かないんだろ?」

 

「え? なんだって?」

 

「今発動させなくていいよ」

 

「え? 聞こえない」

 

「お前腹立つ」

 

「悪いな、夕太。これアクティブスキルなんだ」

 

「やっぱり都合のいい耳じゃないか。まぁ、パッシブじゃないだけマシか」

 パッシブならかなり鬱陶しい。常時発動だから。いや、アクティブでもやれるか。

 

「おまけに鈍感も修得した」

 

「お前ガードがっちがちやな」

 

「でも視覚が弱点」

 

「チョキとかの目潰しに弱いのか」

 

「物理じゃない」

 俺と一夏は立ち食いしながら、軽い掛け合いをした。これでストレス発散出来たな。

 

 

 

 

 食事を終えて片付けを済ましたら、皆がゲームを始めた。俺は参加せずに一人読者。

 

『たけのこ、たけのこ、ニョッキッキ!』

 

「1ニョキ!」

 

『………………』

 随分懐かしいゲームじゃないか。

 

『2ニョキ!』

 

「はい、アウトー!」

 

「箒お前……」

 

「一夏こそもっと別のタイミングで!」

 仲良いですね。

 

 

 

 

 たけのこニョッキが終わり、他のゲームもやり終わった。

 楯無さん達三人は大浴場に行ったから、俺と一夏は部屋で二人で残る事に。

 

「そういえば一夏よ」

 

「ん? 何だ?」

 俺と背中合わせで座る一夏に、重要な事を聞く。

 

「千冬さんにお前のISの事伝えた?」

 

「…………ハッ!?」

 あ、やっぱり。一応報せた方が問題無く、事が済むだろう。問題あるけど。

 

「お前、今からでもいいから絶対に言ってこい」

 下手したら授業を中断する可能性がある。一夏だけお説教という意味で。

 

「すっかり忘れてた! 夕も一緒に来てくれ!」

 背中合わせだった一夏が反転して、俺の肩を後ろから掴む。だから爪が痛いって!

 

「さて何故に?」

 

「怒られるかも知れない!」

 

「わかってるって。俺が原因だからちゃんと行くぞ」

 

「助かった! ありがとう夕!」

 後ろから抱きしめられた。oh……温かいなりぃ。

 

「ほれ、離せ。立てんだろうが」

 

「お、おう! 悪い!」

 一夏のホールドから解放されて、俺は腰を上げた。

 

「よしいくぞー!」

「がぁっ!」

 え? 東京?

 

 

 

 

 俺は一夏に連れられて、千冬さんの部屋の前に来た。

 

「き、緊張してきた……」

 扉の前に立つ一夏が、ガクブルし始めた。

 

「俺がやろう」

 一夏を横に退かして俺は扉をノックした。

 

「ちーいーちゃん! あーそーぼ!」

 

「おいバカやめろ!」

 一夏に止められたがもう遅い。時は戻らないんだ。何もかも全てな。外で遊んでいる時に、皆でポテチを食おうと袋を開いたら、袋が予想以上に破けてしまい、チップスがバラバラと地面に降り注いだ。ポテトレイン!

 

「何だ?」

 ガチャリと扉が開き、ジャージ姿の千冬さんが部屋から現れた。

 

「こんばんは! 千冬さん!」

 俺は頭を深く下げた。ガルウィング!

 

「夕に一夏か。何かあったか?」

 

「はい! お部屋に上がっても?」

 俺は頭を上げて千冬さんと、近距離で視線を交わす。やっぱかっこいいなぁ。

 

「わかった。入れ」

 千冬さんが背中を見せて、部屋の奥に入ってく。

 一夏を後ろにやって、俺は部屋に踏み込んだ。

 

「わお。散らかってますねぇ」

 ゴミだらけじゃないか! ゴミ袋がそこらに固めて積んである。細かいゴミが落ちてないだけいい方だろう。

 

「どうしてもゴミ捨てを後回しにしてしまうんだ。面倒だろう?」

 細かいゴミを袋に入れる方が、面倒な気がしないでもない。

 

「はい。分けたりするのも面倒ですよねー」

 

「千冬姉……汚い」

 おい! 小声だろうと今発言すんな!

 

「誰が汚いって……?」

 背中を見せていた千冬さんが、こちらに振り返る。これはいけない!

 

「千冬さんは汚れていると、あなたの弟さんが!」

 だったら油を注ぐまでっ! 燃えるんだぁ! 熱血だぁーっ!

 

「俺はそこまで言ってないだろっ!」

 

「私にはそう聞こえたんだ。受け取った本人からすれば事実だろう……?」

 ベッドに腰掛けて足を組み、冷めた瞳で一夏を睨む。一部の人が喜びそうな目ですね。

 

「一夏君の白式が変形……いや、変身しました! あれは……ガンダムだっ! おっ! あーああー!」

 俺は切り込む。

 

「ん? 誰がそんな事を?」

 

「俺がやった……っ!」

 

「どうせ束だろ?」

 

「はい! 一夏と束さんのためにィ!」

 

「そうか。詳しく聞かせろ」

 

「おらっ! 早く話せってんだよォッ!」

 一夏の背後に立って肩を掴み、千冬さんの目の前まで押してから、正座で座らせる。

 

「………………」

 両手を膝に乗せ、俯き黙る一夏。仕方無いなぁ。

 

「そう……あれは……俺のバンシィが始まりでした。あの光超綺麗! キャーステキー! 俺も……ガンダムになりたいっ! だったらお前も……ガンダムだっ!」

 わかるかな?

 

「ふむ…………つまり、夕のバンシィを気に入った一夏がユニコーンにしたいと言った。そしてあいつに頼んだ……か?」

 千冬さんは腕を組んで目を閉じてから、俺の要約を確認しながら口に出す。

 

「はい」

 俺も一夏の隣に座る。

 

「そうか。別に構わないだろう。一夏とお前は貴重な情報源だ。精神的に追い詰めて自殺でもされてみろ。そんな事態になるぐらいなら、限度はあるが多少の事は好きにさせるだろうな。後は、あいつの最新技術が使われたんだ。それも情報として提供すれば向こうも嫌がりはしない」

 なるほどなるほど。反抗的じゃなければ、少しのわがままは許されるって事か。千冬さんが今の俺を贔屓するのって、きっとこういう事なんだろう。ケアとか言ってたよな?

 

「束さん側も何とかするって言ってました」

 

「そうか。元気にしてたか?」

 千冬さんが目を開き、口元に笑みを湛える。

 

「はい。一人で喋り続けそうでした」

 あの尋常じゃない会話の飢え方は、俺は嫌いじゃない。寧ろ大好き。

 

「生きているならそれでいい。また会えるだろう」

 

「居場所は聞かないんですか?」

 まぁ、返答は決まっているだろうが、一応ね。

 

「会いたくないと言えば嘘になるが、あいつも色々面倒な事をしているだろうからな。落ち着いた頃に顔を出すだろ」

 なるほど。やっぱり配慮しているんだろう。

 

「束さんの事大好きなんですね」

 

「少なくとも、昔の束よりはな」

 らしいですよ! 束さん! やったね!

 

「喜びますよ」

 しかし、一夏黙ったままだな。

 

「所で一夏。何か言えよ」

 俺は一夏を肘で小突く。

 

「…………ゴミ片付けてきます」

 

「それでチャラだ」

 一夏がゆっくり立ち上がり、ふらふらと廊下に続く扉に移動した。

 

「怒られるのが超怖がってますね」

 

「そこは苦手意識だろうな。誰だって怒られるのは嫌だろ?」

 

「そうですね」

 俺も嫌。

 

「そういう事だ」

 俺と千冬さんは、ゴミを捨てにいく一夏を見つめる。あいつ、外に出る時だけ体が軽やかだ。

 

「所でどうだ? 更識と鈴との生活は?」

 

「気になります?」

 俺と千冬さんは再び向かい合う。

 

「お前も私の弟みたいなもんだ。話ぐらい聞かせろ」

 ベッドから腰を上げた千冬さんが、俺の首に腕を回して立たせる。そして千冬さんにベッドまで引っ張られて座らされた。

 

「何ですかこれ?」

 どういう事なの……?

 

「一夏相手だと出来ない事を実践しているだけだ」

 千冬さんに肩を組まれたまま話掛けられる。

 

「お前は兄弟がいない一人っ子だろ?」

 

「はい」

 

「姉弟の私と一夏がべったりしてみろ? それは外側から見たら異常になるんだ。別に私も一夏も気にしないがな。でも、面倒事になるくらいなら弟分のお前って選択になる」

 

「いや、あの、教師と教え子なんですが」

 

「仕事中はそうだが、今は勤務外だ」

 

「いや、アウトでしょ」

 

「お前は変な所で真面目だな」

 

「普通だと思いますが」

 

「ま、今は重要な事じゃない。鈴達の話をしろ」

 見事に話題を変えられた。話すか。

 

「超楽しくて超幸せですよ。毎日がお泊まり会。毎日が修学旅行。一夏に箒に千冬さんとすぐ会えますし」

 寮って便利。もし大学行くなら寮がある大学がいいな。実在するかわからんが。

 

「そうか」

 千冬さんが俺の頭に手を置く。皆が頭を撫でてくるな。摩擦で禿げさせる魂胆じゃ?

 

「それなら心配はいらないな。頑張れよ」

 

「はい」

 一夏の作業が終わるまで、俺は千冬さんに頭を撫でられまくった。カッパになっちゃう!

 

 

 

 

 一夏のゴミ捨てが終わり、俺達は千冬さんの部屋を出た。

 

「サンキュー。助かった」

 一夏と一緒に廊下を歩いていたら、お礼を言われた。

 

「千冬姉は俺に対して厳しくてなぁ……」

 

「そりゃお前さんが悪い。黙ってたらよかったのに」

 一夏が何も言わないなら、俺が説明していたが……いや、結局説明してたの俺じゃん。

 

「つい反射的に口にしちまって……」

 お前反射と思考の融合出来ないの? 俺は無理。

 

「家族だから余計にだろ。俺が注意するのと一夏の注意するのとは違う」

 一夏は千冬さんにドストレート投げちゃうのもある。それも相俟って、きっと怒りやすいんだろう。

 

「それにだ。もう少し言葉を選べ。あれじゃ、大体の人ならイラッとくるぞ」

 

「今度からもう少し考えて発言するよ」

 

「頑張れ」

 

「おう。ちなみに参考にしたいんだが、夕ならどう言った?」

 

「デメリットを言うんだ。ゴミを放置しておくと虫が発生。部屋が異臭に包まれる。先生の服生ゴミ臭いみたいな?」

 

「うへぇ……生ゴミ臭いはキツいな……」

 隣を歩く一夏の表情を確認すると、青ざめている。どれだけ嫌なんだ。

 

「そう言ったら、千冬さんだって動くさ。出来ない人じゃない。やらない人だ」

 ゴミ自体はまとめてたんだし。

 

「ただ、言い方には気を付けろよ? 言葉というのは、ボールみたいに跳ね返ってくる。だから高圧的な態度や荒々しい言葉にはイラッとする。やんわり注意されるのと、怒鳴られて注意されるのどっちがいい?」

 

「やんわりだな」

 

「そういう事だ」

 

「へぇ。勉強になるなぁ。夕って教師に向いてるんじゃ?」

 

「俺が? 無理無理。勉強の教え方。一人一人の生徒の性格を把握とか難易度高い」

 言葉だけなら何とでもなるが、それ以外は無理だ。

 

「夕の言葉って、何か正しいと思える感じがするから」

 

「俺をわっしょいしても何も出んぞ?」

 

「言葉は出てくるだろ?」

 

「ポンプかよ」

 一夏と色々な話をしながら俺の部屋に戻った。

 

 

 

 

 一夏と一緒に俺の部屋に戻ると、三人が先に戻っていた。

 

「二人でどこに行ってたんだ?」

 ジャージ姿でクッションの上に座る箒が、疑問に思ったようだ。

 

「まさか二人で……?」

 俺のベッドで横になる楯無さんが、口元に手を当てながら変な事を口走りそうになっている。

 

「何が言いたいか理解したくありませんが、それを言ってしまえば魅力が無いって事になりますよ?」

 

「取り消すね」

 お早いご判断で。

 

「千冬姉の所にちょっとな」

 一夏が箒の問いに返した。

 

「そうか。ま、そんな事より私は今日ここに泊まるぞ」

 箒は決意したらしい。今から帰るのも面倒そうだしな。

 

「じゃあ、俺も一緒にいいですか?」

 楯無さんの方を向き、一夏はお願いした。

 

「私と鈴ちゃんは問題無いわ。後は一夏君の隣の夕君だね」

 

「そんなの最初から決まってますよ。ようこそ箒と一夏。ゆっくりしていってね」

 

「ありがとう」

 こうして箒と一夏はこの部屋に泊まる事になった。やっほー! マジでお泊まり会だ!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。