新しい朝になりました。今日は授業がある日。つまり登校日! 一夏達がいるからいつもよりわくわくする! だからいつもより早く目が覚めてしまった。
一夏は一人、テーブルのあった場所に布団を敷いて寝ている。
箒は楯無さんのベッドで、鈴と楯無さんはいつもと変わらず俺のベッド。
服を着替えてクローゼットを少し開く。よし。誰も起きてない。
部屋から移動して自販機でマッカンを買い、今日は自販機の正面にある壁に凭れる。たまにはいいかなって。
「おはよー」
「おはようございます」
通り過ぎる女子生徒に挨拶される。朝早いッスね。部活?
「今日は挟まってないんだ」
「今回はたまたまですよ」
「そっか。またねー」
「はい。頑張って下さい」
まぁ、言われるわな。
その後も自販機の間に挟まっていない事を、通る人通る人に何度も驚かれた。順調に俺のイメージが植え付けられている。計画通りっ!
二本目に突入していると袴姿の箒が通る。
「おは箒」
「おは夕」
「朝練?」
「朝練」
「頑張れー」
「お前もな」
短いやり取りをして箒は廊下の奥へと消えていった。ステルスだと!?
マッカンを飲み干してゴミ箱にぽい。さて、部屋に戻りますか。
自室に帰ってきたら三人共既に起きていて、制服姿だった。一夏起きるの早くね?
「おはようございます!」
「おはよう夕君」
「おはよー」
「おはよう」
三人に挨拶を返された。
「いやぁ、何かこう胸がざわっとするんだよ」
何も言ってないのに、一夏が急に起きた理由を話し始めた。
「気のせいじゃない?」
立ちっぱの俺じゃなく、ベッドに腰掛けている鈴が答えた。
「だといいけど」
「何か不安そうだな。だったら、俺が抱きしめてやろう!」
座っている一夏に倒れ込むように、俺は膝立ちで抱きついた。よーしよしよし。
「おっと」
一夏がしっかり受け止めてくれた。何か久しぶりな気がする。
「私も!」
「お姉さんも」
鈴と楯無さんも抱きついてきた。俺に。そして左右分かれて腰辺りに。一夏じゃないんかい。
「重い重い!」
一夏がうるさい。俺もやられたけど、何とも無かったんだから大丈夫だ。後レディに対してヘビーはアウト! 俺はいいんだよ。
「はい。離れて下さい」
『はーい』
鈴と楯無さんは俺から離れ、俺は立ち上がって一夏を解放した。
「少しはマシになったか?」
「ああ。何か吹っ飛んだ気がする」
「そいつはよかった」
うん。何かあったらまた抱きしめてやる!
「また頼む。鈴と楯無さんも」
「欲張りさんめっ!」
一夏の頭をぐりぐり撫でた。お前も禿げにしてやろうか。
この後しばらく四人で会話していたら、制服姿で箒が帰ってきたので朝食の時間になった。
ただ料理はこれから。だから俺と一夏は手伝おうとしたが、三人で一杯なので台所から弾かれた。
「やっぱりお泊まり会みたいで楽しいなぁ」
俺はテーブルに手を置いて呟く。
「そうだな。普通の学校に通っていたら、なかなか出来る事じゃないよな」
「その点はIS学園のいいポイントだ。後は慣れてきたし」
流石に慣れる。皆がいるし、勉強もISも追い付いてきた。
「うん。そういえば、今日ってまた合同だよな?」
「そうだった。つまり! ユニコーンとバンシィが揃う!」
ガタッと一夏は勢いよく立ち、天井に向かって叫ぶ。実はカメラがあって、カメラに目線を向けてるの? ゴールデンレジェンド? だとしたら、視聴者いるの?
「そうか。俺はそろそろ武器に触るかな? 機体の動かし方は大体わかってきたし、今度は基本装備の練習。ま、俺は自主練出来たらだが」
それでも皆より遅れているから、今日も一人でやれそうな気がする。クラスメイトの人達も、武器の扱いにも慣れてきたっぽいし。やはり俺だけ武器が未使用だ。やーい! おっくれってるー!
「ビームマグナムを撃ちたい!」
「気持ちは理解出来るが、多分的が吹っ飛ぶからやるなら最後だ。的を撃つんじゃなくて、的を消すから」
きっと威力が高いはず。クレーター出来ちゃう。
「わかってる!」
一夏はよくわからない構えをしながら、首だけ俺に向けて返事する。興奮しすぎ。
「そろそろ台所に行こう。料理が完成してるかもだし」
一夏の手を勝手に掴んで立ち上がる。
そして二人で台所に向かった。
「まだだぞ」
俺達が何を言う前に箒が先回り。そうか。
五人で朝食を済ませる。また台所が俺と一夏。鈴に箒に楯無さんはテーブル。俺達はそろそろ立ち食いにも慣れてきた。意外と悪くない。
五人で登校し、途中でセシリアさんと合流。楯無さんと一番最初に別れてから、俺と鈴は、一組の三人と別れた。お達者でー。
教室に入ると、いつもよりクラスが騒がしい。何かあったんかな?
「おはよう! 凰さんに白雪君!」
「おはよう」
「おはよー」
クラスメイトからの元気な挨拶に、俺達も挨拶した。
「何かあったの? 皆噂話してるみたいだけど」
鈴がこの状況について尋ねる。他のグループを見てみると、顔を寄せ合って小声で会話する人が多い。だが、グループが単純に多いから普通にうるさい。内容までは聞こえないんだが。
「今日、一組に転校生が来るらしいよ!」
何と。
「しかも織斑君と白雪君に続いて、三人目の男の子だって!」
「う、嘘でしょ……い、一夏が盗られちゃう……!」
何てこった! 一夏が遠くに行ってしまう! 待たれよ!
「私がいるから大丈夫よ」
鈴が体を寄せてきて俺に抱きつく。
「そうだな。俺には鈴ちゃんいるし、一夏なんてくれてやるよォ」
「白雪君はいつも見事な掌返しっぷりだね」
「俺はお好み焼き屋目指してるからね。上手く返せないと、ぐちゃーってなるし。店名はお好み焼きクルーテオ卿」
意外と難しいんだよなぁ。普段から作らないし。もんじゃ焼きなら心配無い。
「三人目かぁ……夕はどんな人と予想する?」
「さぁ? でも風紀を乱す輩なら、俺は陰湿な嫌がらせをしてやる。スーツにガムとかそば殻仕込む」
「地味ね。風紀に関しては、私達も言えないわよ?」
「ゑ?」
「ふっつーにアウトでしょ。この距離感」
そういえば鈴に密着されてたな。
「だったら三人目の転校生も道連れにしてやる! 一夏だけは守るんだ!」
転校生! お前もその仲間に入れてやるって言ってんだよ!
「あんたは一夏大好き人間ね」
「おい……今、あいつの名を呼んだか……?」
「何で一夏の名を呼んだら、急に鬱陶しがってんのよ」
「名前を呼んではいけないあの人なんだ」
「わかった。とりあえず、席に行こう」
「はい」
話掛けてきたクラスメイトに手を振って、俺達は自分の席に座った。
「夕っ!」
名を叫ばれたので入口に首だけを向けると、箒がいた。
「このままでは一夏が盗られてしまう!」
カツカツと早歩きで俺の元へやってきた。
「あいつ優しいからな! わからない所があったら手取り足取り教えるし、常に笑顔で接する! だからその内、一夏に惚れてしまうんじゃないかと心配で!」
俺の前で立ち止まった箒は、片手で机をドゴォと殴った。音的に机がへこんでそう。というか、物に当たるんじゃない。人をぶん殴るよりは遥かにいいけどさ。
「大丈夫。発想を逆転させるんだ。盗られるなら盗ってしまえばいいんだ、と」
「つまり! 私が三人目の転校生を誘惑すればいいんだな!? サンキュー! いい考えだ! さらば!」
こうして箒は去っていった。
「対象が違う」
箒と俺のやり取りを見ていた鈴が、箒の背中をみながらポツリと呟いた。
「テンパってるな」
ライバル出現だもんな。仕方が無い。
「所で鈴ちゃん。ここおせーて」
教科書を開いて、わからない部分を見せながら聞く。
「どれどれ」
鈴ちゃんが体を横に傾けて、俺の教科書を覗き込む。
俺は先生が来るまで、鈴ちゃんに勉強を教えてもらった。
今日は最初の授業からISだって。という訳で、鈴ちゃんに一時的に涙ながらのお別れの挨拶をして、廊下に出た。
「よう! 夕!」
一夏が一組の教室から出てきて、片手を上げて俺を呼ぶ。俺も片手を上げて近付く。そして気付く。もしかして、一夏の隣に立つ金髪の美少年が三人目のチルドレンか。
「紹介しよう。おフランスの代表候補生、シャルル・デュノア。俺達と同じISマイスターの一人だ」
更衣室に向かって歩きながら、一夏がお隣の少年に紹介。
ほうほう。かなりお綺麗なお顔立ち。多分お坊ちゃんかな? だとしたら、俺よりお坊ちゃんお坊ちゃんしてる。
「へぇ……君もシャルルって言うんだ。奇遇だね。俺もネットではシャネルって名乗ってるんだ」
手を差し出して握手を求める。
「え? ええ!?」
何をそんなに驚いてるのかね? というか、声高いな。変声期来てないの? 変声機でも使ってごまかしてる? くそ! このままじゃ一夏さんは、この声を聞き続けたらきっと落ちてしまう!
「おいおい、いじめるなよ」
一夏がシャルルさんを庇う。お前もラフランスとかマイスター言うたやんけ。
「わかったわかった。初めまして! 俺は二組の白雪姫! よろしくシャルルさん! 同じ存在として助け合おう!」
今度はしっかり対応。
「あ、う、うん。ボクはシャルル・デュノアです。こちらこそよろしく、姫。後シャルルでいいよ」
シャルルが手を握る。何だこの肌のきめ細やかさは!? くそ! どんな化粧水を使っているんだ!?
しかし、姫って言ってくれた。そのセリフ似合いますな。
「シャルル。こいつの名前は夕だ。姫じゃない」
「ええっ!?」
一夏の指摘にシャルルが驚愕しながら、一夏の方を向いた。この人余裕無いな。わかってても訂正してもいいかどうか、迷っているのかも知れない。
「ごめんよ、シャルル。でも緊張は少し無くなったでしょ?」
「え、あ、うん。ありがとう」
シャルルの笑顔がかわいい。抱きしめてもいいかな?
俺とシャルルは手を離した。
「よし。じゃあ早く更衣室に行こう。きっと来る」
何が来るん? 貞子? あの人液晶とかプラズマでも、三次元に来れるの?
「ん?」
一夏がシャルルの手を引いて走り出した。
「ちょ、ちょっと一夏!」
突然の出来事に、シャルルが大声を上げながら一夏に引っ張られていく。
「おお? シンデレラストーリー的な?」
俺は一人取り残された。しかし、一夏の頬が片方だけ赤かったなぁ。何かあった?
そして気付く。俺の背後から土石流みたいに振動して音がする事に。俺の後ろに立つな!
振り向いたら大量の女子生徒が、廊下を走ってきていた。左右の壁に隙間が無い。
「あらよっと」
廊下の開いていた窓から身を乗り出し外に。窓枠より手前の出っ張りを掴んでぶら下がる。どうせ俺には来ないだろうと余裕ぶっこいていた。
来なかった。いや、ゾンビから逃げようとしたのに、腕を掴まれ引きずり込まれるのも嫌だがな。あの映画とかでよく見掛ける光景だ。されたらヤバい。
俺は上ろうとすると、窓から知らない顔が出てきた。眼帯しててかこいい。
「掴まれ」
手を差し出されたので遠慮無く掴んだ。そして引っ張り上げられて廊下に着地。
「ありがとう。助かった。俺は白雪夕。君は?」
全く見た事ない人なので自己紹介。手は繋いだままだ。
「既に知っている。私はラウラ・ボーデヴィッヒ。今日一組に転入した、ドイツの代表候補生。そして軍人だ」
へぇ、軍人さんか。
「よろしく」
掴んだ手を一旦離し、普通に握手。
「ああ、よろしく」
鈴とほぼ同じ身長だが、軍人さんみたいで立ち振る舞いがキリッとしている。
「所で白雪」
俺達は手を離し、近距離で立ち合う。鈴ちゃんみたいにちっこくてかわいい。抱きしめたい。
「ちょっと顔を寄せろ」
人差し指でカモンカモンされたので、ラウラの顔に自分の顔を近付けた。
「歯を食いしばれ」
わお、物騒なセリフ。
ラウラが片腕を動かしたのが見えた。だから後退しようとしたら、先ほどカモンカモンしていた手で首を掴まれた。
「っ!」
これは何されてもヤバいと思ったので、敢えて前進して抱きしめる。相手の攻撃の威力を抑えるために、距離を詰めた。
「いい反応だ」
そして脇腹にパンチをいただいた。顔面を殴られるよりはいい。女の顔に傷は禁物なの。顔はやめな、ボディボディって言葉もあるし。
「うぐぅ……」
しかし何故修正されねばならんのだ。俺は命令に従ったぞ!
「何、お前は悪くない。悪いのは……悪いとしたら……この世界の闇を生んだ者だ」
「……厨二病?」
「この私に厨二病とは褒め言葉だ。軍人としてもありがたく受け取ろう」
真っ直ぐに受け止められた。凄いな軍人さん。
「所で、そろそろ離してくれはしないだろうか? 私はこのままでも構わんが?」
「俺も構わん」
色々と構うけど。
「……次の授業は何だろうな? そうそう。確か一組と二組の合同練習か。遅れてしまってもいいのか? 私は少し迷ったと言えば許されるだろう。だが、お前はどうだ? ここに慣れて今更迷う事なんてないだろう?」
確か強かというのか? これって。
「大丈夫だ。ラウラを案内していたと言えば許される」
「ここから急いで走ればどちらが有利だろうか? ああ、私だな。そして私は確実にお前より先に着く。私は教官……織斑先生を知っており、織斑先生も私が真面目だと知っている。そして先に着いた者の言葉が基本的に優先される。これが理解出来るか?」
ひぇー。
「あんた達、何やってんの?」
こ、この声は!?
「鈴ちゃんたすけてー」
声がした方へ援護要請。そして首を向けたら鈴ちゃんの顔が呆れている。
「お前の男が私を抱擁したまま離さんのだ。何とかしてくれ」
俺に抱かれたままのラウラが、鈴の方に顔を向けた。というか、ラウラが俺に身を任せてるから、一方的に俺が悪く見えていそう。知るか! 道連れにしてやる!
「残念ね。夕が何の理由も無く、他人を抱きしめる事はしない。あんたが何かしたって事よ」
鈴ちゃん……俺信用されてる!
「ほう……察しがいいな。男が見知らぬ女に抱きついているにも関わらず、嫉妬で狂わないとは。私もまだまだ甘いな。見誤っていた。悪いな、中国の代表候補生凰鈴音。お前の事を舐めていた。許せ」
上から目線凄いな。でも似合っている不思議。
「で、夕。何があったの?」
ラウラの言葉全て無視か。こっちも凄い。
「頭突きか腹パンされそうになったから、突っ込んだらこうなった」
「素人にしてはいい判断だった。褒めてやれ」
「見てないけど凄かったわよ、夕。で、ここからどうすんのよ? あんた達は?」
俺とラウラは動けない。特に俺だ。俺が離して更衣室に向かった瞬間、ラウラの追撃の可能性があるし。
「どうしよう?」
悩むなぁ。
「しかし、お前の男の体は温かいな。なるほど、確かにこれは魅力がある。凰鈴音。ぼやぼやしてると、私はこいつを奪うぞ?」
煽りよる煽りよる。
「見知らぬ他人に、そこまで夕の事を褒められるのは悪くない気分ね」
何で腕組んで冷静に頷いているの? 普通なら俺が悪いのに。
「ふむ。降参しよう。チキンレースは私の負けだ。離せ白雪」
ラウラが敗北を認めてから、警戒しながらゆっくり離した。
「決めた。私はこの白雪夕と、あの織斑一夏の両方を手に入れる。覚えておけ、凰鈴音」
ラウラが鈴の横を通り過ぎながら、宣言していく。
そのまま何も無かったように、しっかりとした足取りでラウラは廊下の奥へと歩いていった。
「逆ハーを選択って……またレベルの高い……」
鈴がラウラの進んだ方向へ振り返る。
「ライバルがまた一人増えたね」
鈴が笑顔で俺に振り返った。
「なにわろてんねん」